
「学園祭」とは何か【転】
学園祭の“Newold”
“F祭”の実行委員会の動きを通して学園祭の価値に迫る※この物語は事実を参考にしたフィクションであり、「序」「転」「新」の3部構成で描かれています
最初から読む ◀◀学園祭とは何か【序】
(前回までのあらすじ)
大学院生のアイコは、ゼミ研究で祭りについて調べることに。友人でF祭実行委員長のタケルに話を聞くと、もはや会社の組織といえる体制で祭りが作り上げられていたことを知り、、、、。
FUMON festival(F祭)実行委員会組織図

オオマエさんの話 …K大学総務部所属の職員で入職3年目。タケルが1年生の時のF祭実行委員長
自分が委員長をやっていたのは、4年前。卒業して3年が過ぎた。母校の職員に採用されると同時に総務部に配属。総務の仕事はその名のとおり、とにかく業務範囲が広い。各部署に属さない仕事はたいてい総務に回ってくる。付属校も含めた学内のさまざまな対応に追われる毎日だけど、実行委員会での活動を通して社会のしくみや仕事の緊張感を入職前に少しでも体感できたことは今でも感謝している。
当時の委員たちとは今でも仲が良く、少なくとも半年に一回は飲み会を開いている。まあ、副委員長を除いて、ではあるが。副委員長は、なかなか難しいヤツだった。どちらかといえば、すべてを俯瞰しながら最小最低限のヒントだけを与え、みんなを動かすことを好んだ。人当たりが良く、すべての責任を自分で取って回ったのなら比類なき人気者になれたのだろうが、「それは委員長の仕事だ」とバッサリ。心地よい言葉が発せられることはあまりなかったように思う。だが、仕事はよくできた。
F祭の委員長は立候補で決める。しかし、副委員長は委員長が1名を指名する決まりだ。つまり、僕が彼を決めたのだった。当時のメンバーには、今でも、なぜタイプの異なる彼を選んだのかと言われるが、だからこそ適任だと思った。実際、我々の代は過去に成し得なかったことをいくつも成し遂げている。当時最高の人気を誇った大御所芸人コンビを呼び、アスリートたちの新しいトークショーを実施し、全国的に議論が沸き起っていたミスコン・ミスターコンの継続を決定したりもした。自分の実績のように表されることがあるが、副委員長の功績が大きい。実際、部長たちは副委員長に小言を言われる前に仕事を片付け、一致団結してすごいパフォーマンスを発揮していたのである。僕の役割としては、副委員長の暴走を止め、全体の調整役に徹することができた。結果的に僕らの代のF祭は高い評価をいただいた。
F祭の委員会は年次ごとに全く異なる個性をもっている。ちなみに、僕の上の代では、むしろ委員長が嫌われ副委員長が人気者だった。さらにその上の代では、委員長は本当に人格者であり副委員長とセットで”仏の長たち”と呼ばれていたほどだ。それぞれイベントは成功しているものの、やはり実行できていること=実現力には違いがある。
さて、こんなことを考えているのもタケルから久しぶりに連絡が来たからだ。彼は、自分が4年の時の1年生である。気だるそうに委員会活動をやっていた印象しかないが、今年は委員長だという。待ち合わせは、明日の夜、僕の仕事が終わってから呑みたいということだ。場所は梅ヶ丘駅の目の前にあるがっつり食べられるラーメン屋でいいかと考えている。その後で、駅構内のスタバかな。
アイコの話 …大学3年生。所属ゼミの「祭り」をテーマにした調査に取り組む

タケルにお願いして、以前の委員長・オオマエさんにもお会いできたことで、F祭の輪郭がけっこうはっきりしてきた気がする。ここまでおおよそ1ヶ月半、ゼミでの報告も行っているけれど先生の評価も上々だと思う。取材をしていて特にユニークなのは9つもの部署の存在とその部長たちだ。(もはや私の心の中では9神将とか言ってたりする。だって200人のトップ9人だし)。
さて最初は「施設部」。たとえば、ゼミやサークルが催し物をやりたいとなると、教室を押さえたり必要な場所を探して大学と折衝する必要がある。これを一手に行う部署だ。現在の部長は、ヤマシタさんで、穏やかな人柄かつ細かなところをしっかり見てる人。取材した時、私が朝ごはん食べてないのをばっちり見抜かれた。
次に「宣伝広告部」。部長はサチコさん。キレッキレの発言をする人で、ヤマシタさんが私に言った一言に”それは言う必要ない”ってバシって話してた。主に、企業や商店街の広告をまとめる役割なので外部の人たちとのコミュニケーションも多くなるチーム。施設部の情報と整合性をとることが多く、ヤマシタさんとは仲が良さそうだった。
3つめは「企画部」。基本的なものは過去から継承しつつも、流行を取り入れた新しい企画や芸人さんとの折衝を行うチーム。イベント屋的なものかしら。明るく、楽しげなスギヤマさんが部長。背が高くシュッとしてるキャラクターで、ムードメーカー的存在に見えた。
4つめは「装飾部」。部長はエハラさん。学園祭といえば、キャンパスを彩るさまざまな装飾ですよね!と私が興奮して言ったら、うれしそうだった。大人の女性って感じで、デザイナーっぽい。クールな印象が輝いている。雑然となりがちな空間を統一感のあるデコを散りばめてまとめるところなんか、センスを感じるな。
取材中に、印刷会社とのミーティングがあるといって離席したのが「編集部」のムロカゲさん。ちょっともう社会人なの?というような悠然とした佇まいで、言葉数は少なくも包容力を感じる。ビジネスができそうな感じと、安易に迎合しないような印象だった。印刷会社って外のビジネスマンとニュウコウデータ?のやりとりするんだとか。来場者が手にするパンフやポスターづくりを一手に引き受けている。
6人目が「総務部」のユカリさん。懐が深く“清濁あわせ呑む”って感じ。他の人が「ユカリさんには頭上がらない」って言ってるのをニコニコ聞いてたけれど、お金まわりの話をし出したらいろいろ止まらない感じだった。仕事のテリトリーが幅広いから、ストレスは半端ないかもって思う。
7つめの「参加団体部」は、その名のとおり、各クラブや学外機関などF祭参加に関する各団体との交渉やとりまとめの役目を担う。学園祭が盛り上がるかどうかは、出展数と参加団体の種類の豊富さだといっても過言ではない。シモダさんは、参加団体の要望を聞きつつ場所の手配やら火器取り扱いの注意などを各団体に呼び掛ける。人懐こい表情で相手を油断させ、さらっと厳しいことも言い切る硬軟織り交ぜ臨機応変な仕事ぶりは後輩からの信頼も厚い。
取材中、やたらとスマホを気にしていたのは、8人目、「渉外部」のエンドウさん。なんでも毎年協賛金をいただいている企業さんから電話が入ることになっているらしい。キャンパス周辺にも長年お世話になっている個人・団体は数多い。F祭を資金的に支える大事な任務を背負う渉外部の情報は代々、重要フォルダに格納され引き継がれる。
オオトリの9人目は実行委員会の財務大臣、「会計部」のリカさん。F祭が終わって、達成感と脱力感と解放感に満たされている他の部局を横目でにらみながら、これからが本番とばかり、領収証やら請求書の突き合わせ作業に没頭する。みんながうらやましくもあるが、最後のシメはわが会計部でしょ、と言わんばかりのすっと伸びた背中に彼女の自負が感じられる。

そこに執行部があって、執行部は委員長と副委員長、そして各部長をひっくるめたもの。実質的には副委員長が執行部のトップで、委員長は全体を見てるといった感じかな。委員長はタケルだけど、副委員長はサクライさん。タケルの無二の親友のスーパーハンサムくん。メガネの奥の目が優しげだけど、冷静沈着でいつでも誰に対してもフラットな感じを崩さない。見た目は大学生なんだけど、一瞬年齢がわからなくなるような老成感がある。
こんな個性的なメンバーの下にそれぞれ20人くらいのチームが9つもあるって、もう会社じゃんね。と思いながらタケルに話したら、会社を経験してないからよくわからんけれど、みんなちょー優秀とボソッと話してた。いやいや、F祭の実行委員会ってこんな巨大な組織なの!?って驚きのほうが圧倒的に勝ってたけれども。
ヤスイの話 …実行委員会の企画部員
正直、辞めようかなと思ったのはこれが初めてのことだった。企画部部長のスギヤマさんが介入してくれなかったら気持ちが切れてたかもしれない。発端は委員長の一言にあった。「22時以降の部内におけるLINEのやりとり禁止」である。これが全体LINEに流れた時、部内では少なからぬ反応がそこかしこから上がった。概ね反対が大多数であった。が、自分は賛成だった。メリハリがある方が、活動している時に集中できる。逆に、夜遅くの時間も使えると思えばいろんなことを後回しにしてしまうだろう。実際、2年生の多くにはその傾向が見てとれた。1年間、荒波にもまれ、大体の流れも把握してきて、3年生の執行部から信頼されて、活動そのものが面白くてしかたなくなる者も多数現れている。この活動に全力を注ぐあまり、周りに強要するようなことが起きていないかどうか執行部は目を光らせているものの、友人関係ともなればやはりギクシャクすることもあった。
「そんなことを実行したら仕事に支障が出てくる」という発言をしたのは2年生のオオタだった。全体のLINEにメッセージを放り投げたのだ。ブワッと同調意見が出た。同時に「仕事量が多くて終わらない」という愚痴がLINEに溢れ出たのだ。それは違うだろ、と。自分はカッとなってそのまま「仕事ができないからだろ」というメッセージを送ってしまった。これで全体メッセージは荒れに荒れた。辞めてやるぞ、と強く思った。
執行部のメンバーはそんな様子を見守っていたのか、予想していたのか、特に誰も発言しないままメッセージ数が積み上がっていく。少々落ち着いてきたかという頃に、部長のスギヤマさんから自分だけに個別のメッセージが届いた。「よく書いてくれた。あれで状況がはっきりわかったよ。スマッシュヒットだった。執行部のみんながヤスイに感謝してる」。続けてすぐにもう一通。「タケルがちょっと俺らだけで話がしたいってことだから、今週どこか時間ある?」。夜は空いていた。今日でも明日でもと返事したら、じゃあ、今日の20時に下北沢でどう?と連絡が来た。タケルさんと飯食べるのなんて初めてだわ。メッセージは相変わらずちらほら荒れていたけれど、もう自分はあまり気にならなくなっていた。
-to be continued-
(文中のイラストはすべてオリジナルプロンプトを使ったChatGPTによる創作です)
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