Kokushikan Magazines Feature

「学園祭」とは何か【序】

学園祭の“Newold”

“F祭”の実行委員会の動きを通して学園祭の価値に迫る

プロローグ

「学園祭実行委員」と聞いて、皆さんはどのような活動を思い浮かべるでしょうか。高校の文化祭実行委員を経験された方もいらっしゃるでしょうし、各サークルの幹事をやられている方もいらっしゃるでしょうから、なんとなくのイメージを思い描くことができるのかもしれません。しかし現実は、想像の少し斜め上をいくのではないかと思います。実は、どの大学でも”企業”に近い組織が形成されているのです。国士舘大学の楓門祭を例に取り上げてみましょう。

▲2024年開催の各キャンパス学園祭(左から多摩祭、鶴川祭、楓門祭)

国士舘大学楓門祭実行委員会は、トップを含めた執行部と実働部隊の総数200名近くが在籍しています。4年生は在籍していません。就職活動などで多忙を極めるためです。執行部は3年生で構成されており、代表、副代表が1名ずつ、実働を行う部が9つ。代表は立候補制であり、毎年3月に行われる委員会メンバー全員の投票によって選任されます。その後各部長が任命されます。執行部は基本的に1年次から活動している生え抜きで構成されます。業務内容が多岐にわたるため、経験者でなければ務まりません。各部には1年生〜3年生まで、それぞれ20〜30名ほどが配属され、多忙な日々を送っています。そこには無数のドラマがあります。ここでは、そうしたドラマのワンシーンを当事者の“語り”という設定で仕立ててみました。リアルな舞台裏に迫ります。ただし、フィクションであることをどうかお忘れなく。

※この物語は事実を参考にしたフィクションであり、「序」「転」「新」の3部構成で描かれています

FUMON festival(F祭)実行委員会 委員長 タケル
副委員長 サクライ
総務部長 ユカリ
会計部長 リカ
施設部長 ヤマシタ
編集部長 ムロカゲ
渉外部長 エンドウ
宣伝広告部長 サチコ
企画部長 スギヤマ
企画部員 ヤスイ
参加団体部長 シモダ
装飾部長 エハラ

【そのほかの登場人物】
アイコ …K大学生。所属ゼミの「祭り」をテーマの調査で友人のタケルに話を聞くことに。
オオマエさん …元F祭実行委員長で、母校・K大学職員として入職し総務部配属3年目。タケルが1年の時の実行委員長。タケルの紹介でアイコの取材に協力する。

FUMON festival(F祭)実行委員会組織図

※この物語は事実を参考にしたフィクションです

アイコの話  …K大学3年生。所属ゼミの「祭り」をテーマにした調査に取り組む

ゼミで「祭り」について調査することになった。共同体を活性化する手段として古来より存在する祭りのことを調べながら、コミュニティの構造を解き明かしていくことがテーマだ。社会学は面白い。正直、大学に入るまでは社会学なんてよく分かっていなかったけれど、将来ソーシャルマーケティングとかに関わるとカッコ良さそうかなと思って、ソーシャル=社会=社会学!と考えたのがきっかけ。唯一辛いのは、取り扱うテーマに沿って読まなきゃいけない本が難しすぎること。中には面白いものもある、ってレベルじゃない。読むのは時間がかかるし、寝落ちしちゃうこともあるけれど、何が書かれているのかわかってきた時に感じる“覚醒感”が病みつきになる。こないだ取り上げた、東浩紀著「存在論的、郵便的」なんかはすごかった。ジャック・デリダの思想をベースに、人間社会を決まったシステム=郵便的システムと設定しても、多様性に富んだ社会を説明するには「誤配」という機能があるのだ、と説明していて、社会を見る目がどんどん変化し深まっていくのがわかる。成長してる、はず。あまりにも難しくて、最初の1、2ヶ月はちんぷんかんぷんもいいところで、心が何度も折れかけたな。

ゼミの教授によれば、祭りは絆を強め、文化や伝統を祝う重要な行事だそう。正直、ただ楽しいとか、何かを発散するためにあるとか、神様とか仏様のためだとか考えていただけだったけれど、祭りって深い。人々が協力して準備を進めていく中で一体感を味わうことができるし、中学や高校の文化祭もワクワクし、それをきっかけに仲良くなった友だちもいた。うちの大学にも文化祭がある。「FUMON festival」、略して“F祭”だ。確か友だちのタケルが実行委員会に入っていたっけ。なんだかすごく忙しいと言っていたけれど、いったいどんなものか、ゼミの研究の一環として聞いてみようかな。

タケルの話  …F祭実行委員会の委員長。9部局を統括する

LINEの通知がきても朝まで目を覚まさないよう設定を変えたのが1ヶ月前。それまでは、できる限り委員会内の全部のやりとりに首を突っ込んでいたんだけど、先日1年生が辞めるという話が出た時に部長間でのケンカに発展しちゃって。つい自分も熱くなって、部長を諌めたLINEでのやりとりに没頭したことで徹夜になって、朝になって。バタバタと授業に行った時にいびきをかいて爆睡。さすがに教授に呼び出される始末。その時に、自分が実行委員会委員長なんです、それで委員会内のやりとりで、って話をしたら逆に同情された。なんでも教授はうちの大学卒業生で、F祭への思い入れもあるようだ。「応援するから」と言ってくださった。ラッキー!とかそんな感情は一切なく、純粋に感謝した。とはいえ、やっぱり深夜の委員会内のやりとりは、全体的に控えるべきだと考えるに至った。

さっそく23時以降は携帯の電源を切るようにした。が、1週間くらいは慣れなくて、ついついスマホを開いて連絡しちゃってたものの、2週間目くらいから深夜のやりとりが減ってきた。今では、なるべく夜は避けるという“文化”が浸透してきて、夜はぐっすり。毎日毎日、メッセージだけで1000件程度はやりとりがあり、グループも9つ。どれも他愛のないやりとりだけど、中には重要なこともあるので全部目を通さないと状況がわからなくなってしまうこともある。さてさて、あれ?アイコからメッセージが来てる。「F祭の実行委員がどんなことやってるか、ちょっと話を聞かせてくんない?」。んーなんかアイコはこういうのに興味ないって言ってなかったっけ?ま、興味持ってもらえるのなら、なんか手伝ってもらえるかもしれない。「OK! 学食でランチしよー」。

ヤスイの話  …実行委員会の企画部員

2年になってからの実行委員会は忙しすぎる。ってか、やることが多すぎる。高校生の時に文化祭の実行委員をやったあの高揚感が忘れられなくて、大学に入ったら文化祭の委員に入ると決めていた。周りにはそうやって入部した人間がけっこういる。が、正直、高校の文化祭とは違いすぎる。というか、もはや会社?としか思えない。(まだ、会社のことはわからないけれども。)こんなに「部署」が存在しているなんてイメージしてなかった。いわゆるオールラウンドサークルなどの場合は、サッカー部、バスケ部、といった具合に活動し、各部長がいるって聞いたことがあるけれど、この委員会ほどストイックで多忙な部はないんじゃないか? 現時点でF祭実行委員会内に委員長直下の総務部を含め9つ存在している。実行委員会の各部の部長は、基本もう完全に会社の部長。基本的に部長になるのは3年生。4年生は就活なんかもあるので引退しているけど、かなり強力なバックアップをくれる。部長は基本的に任命制で、委員長だけが立候補。だいたい一つの部署に20~30人くらいが所属していて、1年生、2年生、3年生で構成されているからなかなか大きいチーム。3年生の部員はガシガシ動き、2年生の有望株が3年生と一緒に動きながら仕事をこなし、1年生でスイッチが入る人間たちは汗をかく。それ以外はふわっと所属しながら、面白いことがあれば絡むし、基本的にはF祭開催の11月が近づいてこないと焦らないような部員たちって感じになる。それでも、常時10名くらいは動き回っている印象なので、委員会全体で言えば一日に何百件ものLINEメッセージが飛び交うことになる。

ちなみに自分は企画部に所属していて、いろんなイベントの設定などに取り組んでいる。年の半分は徹底的にリサーチしているからか、今はもうYoutube見てても、テレビ見てても、どんな芸人さんやタレントさんを見ていても、「この人たちならF祭に人を呼べるかな」「揉めごとは起こらないかな」などといった目線でしか見れなくなってしまった。こういうところがもはや会社っぽいというか、なんというか。今日も朝から出勤、じゃなかった、企画部ミーティングがあるので校舎1階のエントランスホールで部長と待ち合わせ。先に行って席取りしながら待っていたら、委員長を見かけた。女性と立ち話している。部内では見かけない人だけど、ひょっとしたら新しいメンバーかもしれない。委員会は辞める人間も新しく入る人間もけっこういるので、まあまたきっと、困りごとでも聞いてるんだろう。

-to be continued-
(文中のイラストはすべてオリジナルプロンプトを使ったChatGPTによる創作です)

つづきを読む ▶▶「学園祭」とは何か【転】

リファレンス ▶▶国士舘大学の学園祭のNewold


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