指導者の共鳴(体操競技部×空手道部)
競技の垣根を越えて育む指導の哲学
体操競技部 尾西 奈美 部長空手道部 田中 理沙 コーチ
スポーツの世界では、それぞれの競技特性が生む独自の指導法があります。しかし、指導者としての本質には、選手に寄り添い人としての成長を支える共通の思いが込められています。
今回の対談は、体操競技部・尾西奈美部長と空手道部・田中理沙コーチによる、競技の垣根を越えて選手を育てる指導の真髄に迫る熱い議論となりました。
指導者の共鳴とは・・・
本学には夢を追い続けるアスリートを支える指導者たちがいます。その指導者たちの「叫ばずにいられない」本音や裏側などを対談形式でお届けします。
| 話を聞いた指導者 | ||
|---|---|---|
| 氏名 | 尾西 奈美 | 田中 理沙 |
| 所属クラブ | 体操競技部(男子)、(女子) | 空手道部(男子・女子) |
| 部内での 役職 |
部長 | コーチ |
| 実績 |
本学体操競技部の指導に携わり26年。 |
平成27年に空手道部のコーチとして着任。 |
競技特性から見える意外な共通点
体操と空手道、一見すると異なる競技ですが、そこには意外な共通点がありました。両者の話から見えてきたその共通点に迫ります。

ご自身の競技について教えてください
尾西部長 体操競技は男子は6種目・女子は4種目あり、技と美しさを競うスポーツです。男女で種目は違えど、演技をいかに美しく表現するかが評価の基準です。予定された演技を予定通りできるかがポイントで柔軟性や瞬発力、バランスなど、体の調整力が重要です。技を習得し、表現していくことが求められるため自己表現力が重要になりますね。

田中コーチ 空手は形と組手がありますが、どれだけ強い攻防ができるかが本質です。形は、その中で技の正確さや強さ、流れるような動きをどう表現するかがポイントです。また、組手では一瞬の判断力やキレのある技こそが勝負を決める。表現や体の芯の強さが大切なのは体操にも通じますね。
お互いの競技についてどう思いますか?
尾西部長 空手はとにかくかっこいい!動きのキレがすごいですし、芯が整っているからこそ体がブレずに、あれほど鋭い技が可能になるんですよね。
田中コーチ 体操選手の空中感覚には驚きます。繊細な技術を持つ選手たちは本当にすごいです。実は毎年形の選手たちが体操場で空中感覚を学ぶ練習をさせてもらっています。演技で投げ技や飛ぶことがあるので参考にしています。
尾西部長と田中コーチは、技術指導に留まらず、選手の感性を磨くことも重要だと語ります。体操競技の「感覚」と空手の「体の芯」、それぞれが持つ特徴を軸にして完成する「自己表現」。それらを引き出す工夫にも共通点がありました。
尾西部長 美しい景色を見たり、舞台を観に行ったり、本を読むことで選手の表現力を引き出す助けになります。競技だけでは得られない経験を通じて、感性を豊かにし、多くの刺激を受ける環境を整えることが大切だと思っています。
田中コーチ 空手でも感性を磨くのは重要ですね。同じ形でも、選手の感覚やセンスによって、見る側に伝わる技の印象が変わります。私は選手に本を読んで自分の言葉を探しなさいと伝えていて、読者や人との交流で、新しい自分と出会い、心を動かすものに触れてもらうよう意識しています。それらが、技だけでなく自己対話の幅を広げ成長のきっかけになると思っています。

指導の軸は対話:選手の意見に耳を傾ける姿勢
コーチングで心がけていることはありますか?
尾西部長 技にこだわりを持ち、成功率を追求しながら反復練習させることを意識しています。“できた”で終わりではなく、そこを起点としてさらにどう見せるか、どう評価されるかを考える。そのためには、指導者自身が根気強く本気で向き合うことが重要ですね。

田中コーチ 空手では技の正確性を高めることは重要ですが、その他にも“決めつけない姿勢”での指導が必要だと思っています。
たとえ同じ選手でも日々感覚や気分が変わるので、その選手の“今の状態”に合わせて指導するようにしています。言うべきことは言いますが、状況に応じて柔軟に対応することで、選手自身の変化を受け止められる指導を心がけています。

尾西部長 確かにそうだよね。「こうでなきゃだめ」みたいなものはない。私も聞く耳を持つことは大切にしています。選手が今どう思っているか、その答えに対し選手の心理を受け止めることは意識しています。こちらが教えるというスタンスではなく、選手の発言から発見もあるので"対話"しながら指導することが大切ですよね。
選手と意見が対立してしまう時はどうしていますか?
尾西部長 選手の気持ちを一度理解し、認めることをはじめにします。その次に、指導者としての意見を伝えるような感じで…
田中コーチ 結局話していくうちに、深堀っていくと目指しているところは似ていたり、近いことも多いんですよね。その入る角度が違うだけだと思うので、落ち着いて対話しながらすり合わせることが大切だと思いますね。
自身のコーチングスタイルについて教えてください
尾西部長 コーチと審判、両方の視点から選手にアドバイスをしています。審判の目線で見ると、選手の動きが意図した通りに伝わっていないことがあるため、そのズレを埋めるように冷静に分析しながら指導する感じですね。また、技術指導以外では学生の心の変化を察して、声をかけることも意識していますね。

田中コーチ 基礎練習や部内ルールを選手と一緒に考え、学生が主体的に取り組む環境を作ることを意識しています。選手が自分たちで考えながらできるような状態を目指している。そのうえで、気になったところで介入していくことを意識しています。
「指導者がいるからやる」という環境にしたくないので、学生の考えを生かしつつ、主体性・自主性を引き出すスタイルでやっています。

技術重視の指導だけでなく、選手がその瞬間、何を感じてどのように取り組もうとしているかを汲み取る丁寧な姿勢。それが結果として選手たちの潜在能力を引き出していくのです。
垣根を超えるスポーツ指導のあり方
スポーツ指導の現場では、性別や個々の特性を考慮し、「選手が心身ともに健やかに成長できる環境づくり」や「配慮の工夫」が重要です。これらについて、男女両方の指導にあたる両者に伺いました。
個々の特性を理解し、指導面で気を付けていることはありますか
田中コーチ 選手個人の特徴を理解し、介入するタイミングと介入方法を見極めることが大切だと感じています。今は私が出る場面ではないなと思ったときは、別の指導者から伝えてもらうようアプローチをし、選手の心と体のバランスを取り戻せるようにしています。
体操競技は体重のコントロールなども大変なイメージがあります
尾西部長 選手には体重よりも体脂肪を気にするように伝えています。これも選手自身が一番わかっていることですから、言い過ぎないよう気を付けています。食事も練習後に自炊してバランスの良い食事をすることはかなり大変なので、悩んでいる学生がいることは事実です。夜は学食でバランスの良い食事を提供していただいたり、有酸素運動を取り入れるなどしています。
現代の指導者に求められるスキルとは
時代の変化に伴い、指導方法も変化しています。現代の指導に求められるスキルとはどのようなものですか

田中コーチ やはり対話ですね。今は画面越しのコミュニケーションが増えていますが、直接顔を合わせて話すことで、相手の表情や心を感じ取ることができます。言葉にならない感情や心の動きなどもお互いに感じ取れるようになることで、より深い対話につながると感じています。さまざまな方法で選手とのより良い関係を作れるスキルが大切だと思っています。
尾西部長 自分で考えて話すことになかなか慣れていない子もいるからね。叱られた経験が少ない子もいますし、誰かにやってもらうことに慣れてしまっているところがあります。そこで、指導者がすべきことの一つが”選手の自立を促すこと”。自分の意見を持ち、それを表現する力を育てることが大切です。「自分がどうありたいか」を表現できる人になってほしいから、指導者自身もその方向でコミュニケーションをとるスキルが必要だと思います。
熱き指導者たちの思いを未来へ
今後の目標を教えてください。
田中コーチ 選手個人の掲げる大学4年間での目標を達成すること。ただ、それだけではなく選手たちが卒業後も豊かな人生を送れるよう、国士舘大学での4年間で人間力の部分でも力をつけてもらいたいです。
尾西部長 監督やコーチ、選手、学生みんなで良い関係を築き、関わる全員が国士舘大学での経験を通じて幸せを感じられる組織をつくりたいですね。

対談を通じて浮かび上がったのは、競技の枠を越えて選手に寄り添い、人としての成長を見据えた指導者の姿です。選手との信頼を深め、人としての成長まで見据えた指導法は、まさに教育者としてのありたい姿。
スポーツが与える影響の大きさ、指導者としての責任、そしてスポーツの未来への可能性。
この対談では、指導者のスポーツを通じて人を育てる使命を改めて感じました。
2025年12月18日 取材
