指導者の叫び~陸上競技部(監督)~
今回の指導者の叫びは、陸上十種競技の日本記録をもち、自身も現役アスリートとして奮闘しながら学生の指導にあたる陸上競技部の右代啓祐監督にお話を伺いました。アスリートとしての在り方を自らの人生で体現する右代監督、その指導の真髄に迫ります。
指導者の叫びとは…
本学には学業とスポーツに打ち込み夢を追い続けるアスリートがいます。そのアスリートを支えるのは、熱い想いで向き合う指導者たち。その指導者たちの「叫ばずにいられない」本音や裏側をお届けします。
プロフィール
.webp)
右代 啓祐(うしろ けいすけ)
北海道江別町出身。高校2年から混成種目を専門とする。2011年の日本選手権で日本人初の8000点越えをマークし、日本新記録を樹立。日本選手権最多8回の優勝を誇り、2012ロンドン・2016リオデジャネイロのオリンピック2大会に出場したほか、2014広州・2018ジャカルタでアジア大会連覇を果たすなど国内外で活躍する「キングオブアスリート」。2024年より本学陸上競技部の監督に就任し、現役アスリートでありながら指導に熱量を注いでいる。
■関連記事
現役アスリート兼指導者として新たなスタート
ー現役アスリートとして活動しながら指導者としてスタートを切られました。現在の役割を教えてください
現在の陸上競技部は長距離種目を含めると総勢200人を超える大所帯のチームです。練習は、種目ごとのブロックに分かれて行い、それぞれの指導者が指導に当たっています。私は長距離種目と投てき種目を除いた種目を中心に指導しながら部全体を統括しています。
ー一年間の指導をふりかえるといかがでしょうか
この一年間は「努力する土台をつくりあげる年」でした。努力を継続するには、はじめに努力への耐性を身につけることが大切です。最初からあきらめるのではなく、まずは挑戦する、努力する。手探りな部分がありながらも、その点は一貫して伝え続けた一年でした。
ーそれは努力を継続することの難しさを感じているからなのでしょうか
強くなるためには、必ずやらなければいけないことがあります。そして、そのやらなければいけないことをないがしろにしてしまうと絶対に競技力は伸びません。皮肉なことに、そのやらなければいけないことこそ、地味でつらい練習なのです。この基礎となる部分の大切さは私が一番感じているからこそ常に選手に伝え続けています。
.webp)
.webp)
主体性を育む指導、それが陸上競技部のモットー
ー指導の中で、選手に一番に求めることを教えてください
主体性のある選手を育てていきたいです。ただ、ここではき違えていけないのは、自由にやることが主体性ではないということです。指導者が求めていることをしっかりと考えて自ら率先して動いていく真の主体性を育みたいですね。
ー主体性を育むために取り組んでいることはありますか
陸上競技部では、指導者のみで練習メニューを決めるのではなく選手とともにメニューを考えます。選手自らが必要なことと、そこへのアプローチを多角的な視点で考えることで競技への視野を広げるねらいです。
また、もう一つの例として、陸上競技部が主催する「国士舘大学競技会」があります。この競技会では、エントリーの受付から試合の運営までを部員が主体となって行います。数百人の選手が参加する競技会の運営はとても大変ですが、運営に携わる部員たちは主体的に何が必要かを考え真摯に出場選手のためを思って行動します。このような柔軟な思考に加えて、競技の裏を知ることでいかに支えられて競技ができているか実感して欲しいという思いも込められています。
ー指導の中で難しいと感じることはありますか
正直、自分が求めているものと学生が目指すレベルが合わないことはあります。これは、他競技の指導者でも同じ悩みをもつ方が多いのではないでしょうか。どうしても求めるレベルが高くなってしまいがちですが、そこで指導者が妥協しては意味がない。ここの塩梅は難しいですね。
.webp)
ーその難しさはどのように克服するのでしょうか
大事になってくるのが、強弱をつけることです。自分が求めるレベルに挑戦させる機会と学生が頑張れる機会を同じにするイメージです。自分の意図を共通項としながら、個々に応じた指導を行うなどそこにバリエーションをつけることが指導者に求められているのではないでしょうか。
また、大切なのはチームで軸となる中心選手の存在です。指導陣の意図をかみ砕いてチームメートへ伝えられる選手を育成することも重要です。そのようなリーダシップをもつ選手の存在は、必ずチームをよい方向へと導きます。
世界を舞台に数々の偉業を成し遂げてきた右代監督だからこそ口にできる裏付けされた指導の信念。
そしてその信念の裏には、右代監督のアスリートとしての哲学がありました。
その哲学から競技力向上のヒントをひも解きます。
競技力向上の軸は"太く・長く"
ー競技力向上に対して大切にしている心構えを教えてください
私の中でのキーワードは、"太く・長く"です。これは、太い努力を長く継続するという意味で、私が学生選手のときからの部の伝統でもあります。正直、細く・長くだけでしたら誰でもできるように感じますが、この太くがポイントです。
ー"太く"とは具体的にどのような状態でしょうか
幹をイメージするとわかりやすいです。細い幹はいくら長くても自分で立てませんが、太い幹があれば自分を支えられますよね。毎日限界を突破するぐらい頑張れているかを常に問い続け、継続することで幹は太くなります。陸上競技部では、休日の練習日に6時間以上練習する選手たちがいます。現代の科学でそれが正しいかはわかりませんが、真剣に限界突破を目指している選手をみていると「幹は着実に太くなっている」と目に見えてわかります。
ー太く努力を継続することは簡単ではないように思えます。継続する秘訣のようなものがあれば教えてください
自ら限界を決めないことです。どうしても、「もう限界かもしれない」と感じるときは誰しもに訪れます。しかし、そこであきらめるか挑戦するかでその選手の価値は決まります。それらを乗り超えるまで限界に挑戦していく、限界の先にさらに限界がある、つまり限界をつくらない体力を持ち合わせていくことが重要です。
これは、選手たちが競技を引退したあとにも必ず生かせます。競技を引退し、社会に出たあとも"限界"を感じてあきらめるのではなく、がむしゃらに食らいつける人間になってほしい。また、一年生の入学時から強い選手であることはありません。私も四年生で全日本インカレを初優勝しましたし、今は結果がでなくても太く・長く努力を続ければ実を結ぶ日が訪れます。
.webp)
ーどうしたら限界を決めないことができるのでしょうか
自分の世界から飛び出して視野を広げることです。
私は、間近で世界記録が塗り替えられる瞬間を見ました。そのときの「歴史は塗り替えられる・自分でもやればできる」という武者震いは今でも鮮明に覚えています。自分のものさしで限界を決めずに、視野を広げて多くの選手たちから刺激を受けることが大切です。そうすれば、自分の限界なんてちっぽけだなと思う日が来るはずです。
ーお話を聞いていても右代監督は鋼のメンタルのイメージです。やはり、心・技・体の中では「心」を重要視されているのでしょうか
どれが一番ということは明確には言えませんが、アスリートにとって心がストッパーになってしまうことはよくあるのではないでしょうか。
しかし、私は心は鍛えるものではないと考えています。
ー心は鍛えるものではない。その意図を詳しくお聞かせください
心は意識して鍛えるものではなく、努力を重ねて鍛えられているものだと思います。
まずは、とにかくがむしゃらに技術と体力を磨き続ける。その努力の中で、「ライバルに対して負けたくない」や「もっと成長したい」と感じる時が必ず訪れます。その感情こそ、心が成長している、鍛えられているサインだと思います。
このように、技術と体力を追い求めていく中で知らぬ間に心も成長しています。
これは、私の競技経験からの考えなので、選手たちには、まずはがむしゃらに技・体を追い求める価値を伝えていきたいです。
アスリートとして感じたことを次世代へと"継承"していく
歴戦の競技経験をもつ右代監督。そんな右代監督も、今シーズンで40歳を迎えます。
年齢、体力、コンディション、過去の自分、そこには私たちが計り知れないプレッシャーがあるはずです。
しかし、右代監督はそのプレッシャーを周囲に感じさせないぐらいに前向きに努力を重ねており、その姿は周囲にとてつもない影響を与えています。なぜそこまで挑戦ができるのか、その根底には右代監督ならではの卓越した思考がありました。
ーなぜ、前向きに挑戦を続けることができるのでしょうか
「今の自分を受け入れること」だと思います。
私は、競技者の中では大ベテランの域になります。昨年の全日本選手権で、投てき種目でトップに立ちましたが、点数でみると過去の自分が8300点を出していたのにもかかわらず、今は8000点はおろか7200点になっています。結果は残酷なまでに現実を突きつけてきますね(苦笑)。
結果や数字を追い求めることはアスリートとしては当たり前です。ただ、今の自分を受け入れることができれば、終えてからの結果のみならずその過程で得た小さな成長を感じることができ、挑戦の真の価値に気がつくことができます。
ー今の自分を受け入れることは難しいことだと思います。どうすれば受け入れられるのでしょうか
常に+αを求めることです。競技のみならず、栄養や睡眠などあらゆるジャンルの知識を身につけることもその一つです。ただし、ここで注意したいのは、目的意識や軸をぶらさないこと。今何が必要かを考え、ゴールの軸はぶらさずに、多くの知識を身につけてアプローチを変えていく。
そうすることにより、自分の引き出しが増えていき、たとえうまくいかなくても別の引き出しから自分を受け入れることができると思います。
ーアスリートとしてスポーツから学んだことは何でしょうか
挑戦の素晴らしさです。私は、日本記録樹立や日本人48年ぶりとなったロンドンオリンピックへの出場など、「人に笑われるようなこと・無理だと思われること」に挑み続けてきました。もちろん、そこには困難なことが多くありましたが、限界を決めずに常に新しいことに挑戦し続けることで見えてきた景色がありました。これからも、前人未踏なことに挑戦してワクワクするような人生にしていきたいです。
また、スポーツを通じて得たこれらの経験を、単なる個人の達成感で終わらせるのではなく、学生選手の可能性を広げることへと昇華させていきたいですね。
.webp)
.webp)
"可能性を広げる指導者"として陸上部の伝統を次世代へ
ー陸上競技部をどのようなチームにしていきたいですか
陸上部は、伝統的に「礼儀・礼節」を重んじるチームであると自負しています。あいさつはもちろんのこと、競技場での気配りなど細かい点まで自主的に動いている選手ばかりです。私は、この主体的に動ける伝統とともに、自分が学生の頃から変わっていないハードワークを継承していきたいです。国士舘の練習はとてもハードですが、仲間とともに打ち勝つことで身に着けられるタフな精神力は何物にも代えられません。
ー競技者として選手と向き合う中で大切にしていることはありますか
競技者として実践的に体現し、選手の可能性を広げられる指導者でいたいと考えています。
選手たちが限界を超える最後の一押しを私自身が行うことができ、ただ指示を出すだけでなく、行動でしめすことができるのは私にしかない強みですね。
また、本学の陸上競技場には多くの卒業生が練習に来ます。卒業生はもちろんのこと、東京2025デフリンピックに出場した岡部選手の姿は学生に良い刺激を与えています。その選手たちとともに、全員で陸上競技部の価値をあげていきたいです。
ー部の目標を教えてください
目標は、「関東インカレ優勝」です。関東インカレを制するものは全日本を制するといわれるほどに関東のレベルは熾烈です。関東一部でずっと戦ってきたプライドがありますし、この舞台で活躍することは必ず選手たちの自信になります。だからこそ、全ブロック・全部員が一丸となって戦える関東インカレで結果を残すことが答えの一つだと思います。
ー指導者としての今後の目標を教えてください
大学まで競技を継続している選手は、覚悟をもって入学してきています。私も指導するうえで、その覚悟を上回る熱量をもって指導しています。だからこそ、何より一番は、「全員がベストを更新して卒業する」ことを達成したいです。十種競技をやっているとどうしても欲張ってしまいがちですので(笑)。「国士舘にいけば人間的にも記録的にも必ず成長できる」誰が見てもそう思われるようなチームをつくりあげていきたいです。
.jpg.webp)
.webp)
ー読者の方々へメッセージをお願いします
何事でも、目の前の山に挑戦し続けてください。その山の途中には苦しいことやつらいことがたくさんあると思います。しかし、その経験があるからこそ山を越えた時には自分が想像もしないような成長が待っています。私の挑戦する姿を見て、多くの方々が挑戦する人生を送ってくださったらこれ以上の喜びはありません。一緒に挑戦をし続ける人生を歩んでいきましょう!
.webp)
限界に挑戦し続けてきた右代監督だからこその一言一句の重み。その言葉をひも解いていくと、アスリートのみならず多くの方々に共通しうる人生を充実させられるヒントが隠されていました。
そんなスーパースターの右代監督が率いる陸上競技部がどのような挑戦をするのか、その活躍から今後も目が離せません。
2025年11月取材
