グローバルな視野をもつ教員へ-こどもスポーツ教育学科・国際大学交流セミナー-
教員 三小田 美稲子 教授/五十嵐 浩子 教授/後藤 正彦 教授
学生 4年 岩本 吉平/加藤 舞琴人
9月8日から13日にかけて、こどもスポーツ教育学科で初の試みとなる「国際大学交流セミナー」が実施されました。
本セミナーの狙い、多様な経験、そしてそれらをどう糧にしていくのか。
引率した教員および学生の視点からその真髄に迫ります。
お話を伺った方々
体育学部 こどもスポーツ教育学科
教員 三小田 美稲子 教授/五十嵐 浩子 教授
学生 4年 岩本 吉平さん/加藤 舞琴人さん
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本セミナー実現の狙いとは
ー本セミナー実現に至るまでの過程を教えてください
三小田教授
近年、小学校教育ではより一層グローバルな視点が求められています。そのような背景のもと、本学科では海外研修の機会を設けたいと考えていました。実は、以前に開催直前まで進められましたが、新型コロナウイルスの影響で中止となってしまいました。それが落ち着いてきたタイミングで、現学長である田原淳子教授がドイツに留学していたことから縁があり、約7年越しの想いで実現に至りました。
海外に対する並々ならぬ思いがあったのですね
三小田教授
はい。コロナで中止となってしまった後は、オーストラリアやロンドンの子どもたちとオンライン上でつながる取り組みを始めました。本学科の学生らがZoomで海外の子どもたちに日本文化を伝えるというものです。現地にいけないもどかしさはありましたが、オンライン上でも繋がれることが発見できたのはよかったですね。
そこまでのご苦労があったのですね。本セミナーの狙いはどこにあるのでしょうか
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三小田教授
海外に興味を持ってほしいことと時代の流れを知り視野を広げるという点にあります。
最近、「海外には興味がありません」という学生が多いように感じていました。
また、本学科の学生は"スポーツが得意"な学生は多いですがそれ以外の部分は苦手意識を持っている学生が多いです。
今回のセミナーでは、それらの苦手意識を少しでもなくすためのチャレンジの場にしたいと考えていました。
教育現場および教員養成まで幅広く学び濃密なスケジュール
本セミナーにおける目的は、「教員として視野を広げること」と三小田教授は語ります。
それでは、視野を広げるために実際にどのようなプログラムが実施されたのでしょうか。
そこには、教育現場における指導の工夫や教員養成の実態、そしてその国民性まで多角的に学べるプログラムが展開されていました。
本セミナーのプログラムについて教えてください
三小田教授
本セミナーのポイントは、多彩なプログラムにあります。
滞在は3日間ですが、その間に小学校での授業参観・児童との交流、大学見学、歴史的建造物の見学などを行います。
小学校で交流を深めるだけでなく、その国の文化を学ぶことができるプログラムです。
3日間でここまで学べるプログラムは貴重だと思います。
五十嵐教授
海外に出向いてその土地の文化を学ぶことによって、はじめて海外を理解することができます。
ドイツは移民の国なので、さまざまな人種の方と接することができるなど人生においても大切な体験ができます。
三小田教授
小学校では、子どもに対して学生が日本文化を伝えるプレゼンテーションを行いました。文化が異なる子どもに対して、何をすれば喜ぶかを考えること、そしてその準備も貴重な機会になります。
また、大学見学では教員養成課程についてのお話を聞き、どのようなバックボーンの方が教育に携わっているかを学びます。
このように、プログラム一つ一つが教員になるために必要な思考へとつながっています。
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学生にとって唯一無二の体験に
ここからは、参加した学生のお二人を中心にお伺いします。 まず、本セミナーに参加を決めたきっかけを教えてください
加藤さん
私は、教員になる前に海外にいきたいという考えがあり、今回このセミナーの存在を教えていただいたときにはすぐに参加を決めました。初の海外渡航でしたが決断まで迷いは一切なかったです。
岩本さん
実は私も今回が初めての海外渡航でした。私は入学直後から、"教員になるためにできることは全て挑戦する"と決めていました。このセミナーの話を聞いた時、挑戦する選択肢以外はなかったです。実際にいってよかったと心から感じています。
ー文化の違いなどを感じる瞬間はありましたか?
加藤さん
私は電車が来ないことですね。日本では遅れることのない電車がドイツではダイヤ通りに来ないことが当たり前でした。予定を立てていても思い通りにいかず、やはり一筋縄ではいかないなと感じました。
五十嵐教授
補足です。海外だとそのようなことは日常茶飯事です。ただ、ドイツでは遅れること自体をアナウンスしてくれます。
ほかの国々だとそのようなアナウンスすらないことが現状ですので、そのような真面目なところは日本と似ている点なのかもしれませんね。
岩本さん
私は、海外の方々の対応についてです。日本では、おもてなしの精神からどこでもにこやかに対応されますが、海外は違いました。自分の意思をはっきりと伝えられないと相手にされない。最初は怒られているのかと思いましたが、これが海外のスタンダードなのかと...(笑)
加藤さん
あとはやっぱり食事じゃない...?
岩本さん
確かに(笑)
ドイツの食事はすごく美味しかったですが、量がとても多かったです(苦笑)。
日本と異なる点でいえば、街中や大学の学食にまでビーガン向けの食事が充実していることも印象的でした。ビーガンには、動物性のものを一切摂らない方もいれば、平日のみビーガン食にしている方などさまざまな方がいらっしゃいましたが、多様性の文化が育まれている国ならではと感じました。
加藤さん
ドイツといえばやはりソーセージをよく食べる国というイメージですよね。ソーセージは動物性なのにどうするのかなって思っていたら「大豆ミート」を使用していました。これは、日本の給食でもアレルギー対策として生かしていけるのではないかと感じました。
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現場で感じた日本とドイツの教育の違いとは
小学校での体験はいかがでしたか
岩本さん
まずはじめに教室のつくりが日本と大きく違いました。
机が日本のようにピシッと並んでおらず、教室の後方には遊べるスペースなどが設置されていました。
子どもの集中が続かない場合、後方の席で休憩したり、自由に席を行き来できる環境でした。
学童や幼稚園の教室のような遊び心がある教室をイメージしてもらえるとわかりやすいです。
五十嵐教授
これは、一人一人に目が行き届きやすい環境であったように感じました。
学校には集中できる子どもだけがいるわけではありません。特別な配慮が必要な場合などにも対応できるようにつくられた教室でしたね。
そのほか、ドイツ語を母国語としない子どもへのサポートなど多様性社会ならではの文化が感じられました。
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授業の印象はいかがでしたか
加藤さん
授業では、基本的には教科書を使用せず、子どもとの密な対話を軸としていました。
私が特に面白いと感じたことは、算数の授業です。そこでは、誕生日の友達向けのマフィンづくりをイメージさせながらそれに必要な材料や値段から計算を行っていました。教科書にとらわれず、興味関心がそそられやすい内容から導入していたことが印象的でした。
岩本さん
日本では、"回答を求めてその中で思考力を養う印象"なのに対して、ドイツは"結果ではなく、まずはとにかく考えさせる"という印象でした。
だからこそ、日本では教科書を用いて答えを基に授業を展開していく、ドイツはまずはアクティブラーニングで思考を養うといった違いがある印象でした。
知識を詰め込むだけでなく、子どもたちが主体的に学習していくというものではないかなと感じました。
子どもの雰囲気に違いはありましたか?
加藤さん
日本の子どもよりも積極的だったという印象です。これには、基本的に挙手制で進んでいく授業スタイルが関係しているのではないかと思います。
グループワークも多く、子どもたちが手を上げやすく積極的に参加できる環境ができていました。
岩本さん
本当に積極的でしたね。
私たちは、2つの小学校に訪問して書道と折り紙などの日本文化を伝えました。
海外で教えることは初めての経験で不安でしたが、子どもたちが積極的に取り組んでくれてとてもうれしかったです。
加藤さん
1つの小学校では、終了後に校歌斉唱のサプライズをしてくれました。
また、子どもたちが作成した絵をプレゼントしてもらいました(写真中央の額縁の絵)。
国境を超えてもつながることができると実感できました。
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現地大学での体験についてお話を聞かせてください
岩本さん
コブレンツ大学では、現地のシャンツ先生にドイツの教員養成について講義していただきましたが、衝撃を受けました。
まず、教員免許を取得するまでの過程が7年と非常に長いことが大きな特徴です。
学部3年、院2年、現場での実習が1年半(18ヶ月)、修士に進学することが教員採用試験の1次試験、現場訓練終了が2次試験とみなされています。日本で例えるなら医学部の課程のイメージですね。
加藤さん
私は、その中でも現場での実習が1年半の期間を設けていることがユニークな部分だと感じました。
日本では、3~4週間の短期間での実習のみですぐに現場にいきます。正直、不安な部分を抱えてしまっているように感じます。
ドイツでは、実習期間が長いことにより、さまざまなスキルが身についたプロフェッショナルの状態で現場に出られるので先生方の専門性が高いです。
とくに、発達や心理についての知識に長けていて、そのスキルの高さは私も見習いたい点でした。
海外の地で学んだことを指導観へと生かす
セミナーでの一番の学びは何でしたか
加藤さん
私にとって、海外文化、子どもたちの違いや授業のつくりかた、こスポの仲間たちと経験ができたこと、全ての経験が大きな学びでした。
その中で、今回の研修を通じて学んだ一番の収穫は、"選択肢が広がった"ことだと思います。
もちろん、日本にいるだけでも工夫することはできると思いますが、海外の文化や教育体制などを現地で見て感じたからこそできる工夫の引き出しが増えました。これらの経験を生かすためにも、両国の教育の良さを見極め、自分のスキルに生かしていきたいです。
岩本さん
私は視野が広がったことだと思います。今までも教員になるために多くのことにチャレンジしてきましたが、"まだまだ成長できる"、"勉強すべきことがある"と実際に感じることができました。この経験は、今後に生かそうと意識しなくても勝手に生きてくるくらい財産となる濃密なものでした。
先生方の視点からはいかがでしょうか
五十嵐教授
本セミナーでは、気がつくことが大事だと考えていました。海外では、言語・文化で大きな違いがあり学生はそれらを実際に体験したと思います。このように、海を超えて違いがあることに気がつくことにより、子ども一人一人の色を尊重できる教員になれると考えています。
三小田教授
教員はこの激しく変化する時代に常にアンテナを張る必要があります。
今回のセミナーを通じて、海外に対して興味をもつ経験ができたと思います。
この体験をきっかけに、より多くのことに興味をもつことができる人間になれると思います。
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今後の夢を教えてください
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加藤さん
私は、"子どもがありのままでいられる"教員になりたいです。
これはドイツに渡航する前からずっと思っていたことですが、今回の研修で多様性の文化に触れてより一層その感情が強まりました。
どんな子どもでも私の前でありのままでいてくれ、私もまっすぐその子どもたちと向き合うそんな関係性をつくれる教員になりたいです。
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岩本さん
私は、"学びの楽しさを伝えられる"教員になりたいです。
教員側が強制するかたちではなく、子どもたちが自ら学びたい・勉強したいと思えるような教育をしていきたいです。
そのためにも、自分自身が学び続ける姿勢を忘れずにいたいですね。
最後に、本セミナーの今後の展望をお聞かせください
三小田教授
今回は第一回として無事に終了することができました。正直に申し上げると、全学生に本セミナーを体験してほしいところではあります。しかし、人数には限度があるので、まずはこのセミナーを次の世代へと継承しながら"海外文化に触れる"体験の機会を増やしていきたいです。
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編集後記
取材を通して感じていたこどもスポーツ教育学科のアットホームな雰囲気。それを表現する加藤さんの印象的な言葉がありました。
「こスポの先生方は、一人一人が学校担任の先生のように思える」
この言葉に本学科の教員と学生の関係性の良さが表れているのではないでしょうか。この関係性があるからこそ、学生も教員を目指すうえで大切なことを大学教員から学べるのだと感じました。
本セミナーを体験した学生はもちろんのこと、本学科から"子ども・児童・生徒のことを心から思える"教員が羽ばたいていくことを祈っています。
2025年11月25日取材
