世田谷区シニアスクールは 2005年に発足し、60歳以上を対象とした世田谷区生涯大学(2年間)の修了後、更に2年間の自主研究会に参加した方、および会員から紹介された方で構成されています。
会員数は 約350名、大学などの施設を利用して年間約30回の講演会を実施しています。
国士舘大学では2006年度以降、地域連携の一環として講師派遣と施設貸出を行っています。
2025年度、本学会場では全7回の講演を予定しています。
吉原裕一准教授「明治という時代 ―文明開化と「国民」の誕生―」
11月18日は、文学部 吉原裕一准教授が「明治という時代 ―文明開化と「国民」の誕生―」をテーマに講演を行いました。
講演では、わが国の近代は徳川時代の否定から始まりましたが、いわゆる「明治人の気骨」は、実は近世の儒学道徳に培われた精神に基づくものだと説明されました。わが国では、外来文化を取り入れる際、自由にアレンジを加える「和魂漢才」の伝統がありましたが、それが明治時代には「和魂洋才」となりました。
しかし、夏目漱石が批判したように、明治の文明開化は皮相的に西洋文化を取り入れても十分に消化できず、いわば置いてけぼりとなった精神が、後に国粋主義などの不幸な結果を招きます。現代の日本は、そうした歴史を振り返り、あらためて「和魂」すなわち日本人が大切にしてきた「誠」などの心を見つめ直す必要があるのではと提言されました。
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池元有一教授「災害復旧時の企業行動〜阪神・淡路大震災と電力・鉄道・電話〜」
10月28日は、経営学部 池元有一教授が「災害復旧時の企業行動〜阪神・淡路大震災と電力・鉄道・電話〜」をテーマに講演を行いました。
講演では、阪神・淡路大震災でのインフラ復旧時に「同業他社」(関西電力と電力各社、JR西日本とJR各社)が大きく貢献したことについて、「協力の動機」「協力可能な理由」「協力の有効性」を考察する形で進められました。
まず「協力の動機」は、電力各社やJR各社は地域独占企業であり、直接的な競争関係にないこと、また、JRはネットワーク産業であり一部が欠けると効率や利益が大きく損なわれること、次に「協力可能な理由」は、電力業界やJRグループは歴史的経緯から技術的・組織的な共通性が高いため協力が容易だったこと、そして、能登半島地震の際にも電力各社が復旧に大きく貢献したことから、「協力の有効性」が改めて明らかになったことが、豊富な資料や写真を用いながら分かりやすく解説されました。
質疑応答では、「協力要請に対し、同業他社が自社のプライドをかけて最高の人材を送り出した」という、阪神・淡路大震災での協力経験者から貴重な体験談も伺うことができ、「日本は経済成長と福祉のバランスが良い国である」という講師からの総括がより鮮明になった講演でした。
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佐藤雄哉講師「武道の美学と品格~柔道は武道かスポーツか~
10月7日の講演は、体育学部 佐藤雄哉講師が「武道の美学と品格~柔道は武道かスポーツか~」をテーマに講演を行いました。
講演では「柔道でのガッツポーズ」を考察するため、前半は「スポーツとは、そして武道とは何か」を検証し、スポーツの語源は「仕事ではない活動(=遊び)」であるのに対し、武道の起源は「武士が習得するべき技術や作法(=教育)」であるが、日本では遊びである「スポーツ」と教育である「武道」の教えが融合し、新たな文化(例:部活動や野球)が形成されている、との説明がありました。
後半では、様々なスポーツシーンで「ガッツポーズ」は自分と他者との関係性によって持つ意味合いが変わり、一概にその是非が問えるものではなく、だからこそ柔道においても感情の表出を「自分で考えて選ぶこと」が大事であり、「身につけた技術や心構えでより良い社会を創り出す、それが柔道である」との解説がありました。
活発な質疑応答の中、「スポーツ的な強さだけでも、武道的な凛とした佇まいだけでもない。『強くて、美しい』柔道を目指している」という講師の言葉に、傍聴者が深く頷く姿が印象的な講演でした。
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関口宗男教授「宇宙は何からできているのか?」
9月16日の講演は、理工学部 関口宗男教授による「宇宙は何からできているのか」がテーマでした。
講演でははじめに、物理学の基本的な考え方を日常的な自然現象を通して解説がありました。その際、空気抵抗と速度との関係については、2つの物体の重さ(重力)が異なっていても、空気抵抗が無視できるような形にすると物体は同時に床面に落ちる(=速度が同じ)実証実験や、ほとんど大気のない月面上での実験映像が用いられ、会場からは大きな歓声が上がりました。その後、物質を構成する最小要素である素粒子が宇宙誕生とどのように関係しているか、私たちが宇宙をどの程度理解しているかを物理学の視点から説明がありました。
「光のドップラー効果」がGPSや航空管制、超音波検査に、また、「反物質」がガン検査に使われている等、これまでの研究が現代社会にどのように活用されているかを、実例を挙げながら分かりやすく紹介された講演でした。
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大淵知直教授「明治期のグリム童話」
6月24日の講演は、法学部 ⼤淵知直教授が「明治期のグリム童話」をテーマに講演を行いました。
講演では、はじめに『八ツ山羊』(原題:おおかみと七ひきの子山羊)は英語経由の翻訳が主流だった明治時代において、ドイツ語から直接日本語に翻訳された初めてのグリム・メルヘンの可能性が高いが、当時の人々が受け容れやすいよう、内容や文体の「日本化」が顕著であり、「日本の昔話」として再生されているのが特徴である、との説明がありました。
そしてこの『八ツ山羊』は「異文化を紹介する日本の昔話」として、自国化されることなく後にポルトガルで出版され、僅か50年ほどでドイツ→日本→ポルトガルへとわたった文化の移動と受容の速さは目覚ましいものである、との解説がありました。
当時の挿絵や仕掛け絵本、講談のような七五調のリズムなど、『八ツ山羊』が持つユーモラスな部分も多く紹介され、終始笑いと活気に満ちた講演となりました。
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織田健志教授「革命・近代・文明―明治維新再考―」
5月13日の講演は、政経学部 織田健志教授が「革命・近代・文明―明治維新再考―」をテーマに講演を行いました。
冒頭に、「明治『維新』とは?」「明治時代=近代/江戸時代=近世?」という2つの問いが提起され、それらを検証する形で講演は進行しました。
徳川政権の瓦解、その後の版籍奉還から廃藩置県を経て、封建制から中央集権国家へ三年で変貌する当時の日本は、実際に英訳されるthe Meiji “Restoration(復古、復旧)”よりも“Revolution(革命)”が相応しい一方で、下級武士の立身出世への願望や町人の経済競争の概念は、江戸時代から一貫してあったものである、との解説がありました。
そして、「明治維新とは、江戸時代からの『連続性』と『断絶』、その両面を持つ明治『革命』である」と締めくくられ、質疑応答も活発に交わされた講演は大変盛況の中、終了しました。
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