2025年7月25日から30日にかけて、21世紀アジア学部イラク古代文化研究所の小口和美教授と常木麻衣講師は、約25年ぶりに国士舘大学の発掘拠点があるイラクのキシュ遺跡を訪問した。キシュは首都バグダードの南方約80㎞に位置する。ここは、前3千年紀にシュメールとアッカドの地として記録され、後世には両者を含めてバビロニアと呼ばれた南メソポタミアの広大な平野にふさわしい大都市遺跡である。なお、別のプロジェクトでイラクを訪問していた長谷川均名誉教授もこの訪問に同行した。
2001年9月11日にイスラム過激派組織アルカイダが起こしたアメリカ同時多発テロ事件では、4機の旅客機がハイジャックされ、うち2機がニューヨークの世界貿易センタービルに、1機がワシントンの国防総省(ペンタゴン)に突入し、残る1機はペンシルベニア州で墜落した。この事件では日本人を含む約3,000人が犠牲となった。実はこの事件がきっかけとなって、国士舘大学の発掘は長らく中断されている。
当時、国士舘大学は第3次キシュ遺跡調査(隊長:松本健教授・当時)を実施中であったが、緊急事態を受けて日本大使館から帰国要請が出され、遺跡を埋め戻した上で、隣国ヨルダンへ続く高速道路をアクセル全開で走り切って脱出したという。その後のイラク戦争により、長期間にわたり渡航が不可能な状況が続いた。しかし、この間にもヨーロッパ諸国を中心とした他国は発掘を継続しており、国士舘大学が発掘権を持つキシュのコアゾーンについても、欧米各国から発掘権譲渡を迫られる事態に直面している。
2025年1月、国士舘大学を訪れたイラク考古・遺産庁のアリ長官は、発掘の早期再開を大学に要請した。こうした経緯を踏まえ、今回の訪問は国士舘大学が発掘権を有するキシュ遺跡の現状視察を目的としたものである。
25年間の空白の影響は大きく、拠点施設は著しく荒廃していた。しかし、遺跡そのものは25年前の姿を保ち、静かに発掘の時を待っているようであった。

.webp)