
研究の背景
アタッチメントは、不安や恐怖を感じた際に、この人なら自分を守ってくれるだろうという大人に対して、子どもが近接する行動、または、そうした行動が起こりうるに十分信頼できる関係性のことを指します。日本語では、愛着と言われるものですが、2023年12月にこども家庭庁が、こども施策の基本方針として定めた「こども大綱」の中でも、乳幼児期から安定したアタッチメント(愛着)を形成することの重要性が強く押し出されています。
これまで、乳幼児期のアタッチメントに関する研究のほとんどは、母子関係を対象に行われてきました。しかし、父親の育児参加への社会的関心が高まってきたことに伴って、父子関係におけるアタッチメントについて、その個人差を分類し、それらと関連する要因を明らかにすることのニーズが高まってきました。そこで、本研究グループは、日本の父子を対象に、アタッチメントタイプを分類し、その関連要因を検証するための実験調査を行いました。
研究の内容
本研究は、ストレンジ・シチュエーション法※3を用いて日本人の父子関係におけるアタッチメントの分類について検証した初めての研究です。54組の父子を対象に実験を行い、アタッチメントタイプを分類し、育児の量、育児の質(敏感性)、育児に感じる喜びなどの要因との関連を検討しました。.webp)
まず、アタッチメントタイプを分類したところ、安定型が最も多く、回避型よりもアンビバレント型が多いという結果になりました。母子を対象にしたこれまでの日本や東アジアの研究で得られている分類の偏りと一致しており、アンビバレント型が多いという文化的な特徴が関係性に依らないものである可能性が示唆されました。
分類に関しては、これまでの父子アタッチメント研究では報告されていなかったユニークなケースが見られたことも本研究の重要な結果と言えます。一つは、実験中に、その場にいない母親を呼んでしまうケース、もう一つは、父親との分離場面で強く泣いているにも関わらず、再会する場面で、近接行動なく泣き止むケースです。この二つのケースからは、アタッチメントの伝統的な評定手法であるSSPを、従来の方法で、父子サンプルに適用することの難しさを示しています。
研究結果のまとめ
これまで、日本を含むアジア圏の母子におけるアタッチメント回避型と比べてアンビバレント型が多いことが報告されてきましたが、同じ傾向が父子関係においても示されました。アタッチメントの個人差に対しては、子どもへの敏感な関わり方と育児に感じる喜びのバランスが関連していること、また育児時間の関連はないことが示されました。本研究の結果は、父子関係におけるより安定したアタッチメントを形成するためには、育児参加の量は関連がなく、それよりも子どもに温かく敏感に関与できることや育児に喜びを感じることの方が重要であることを示唆するものです。
研究結果の意義
日本では近年、父親の育児参加時間を増やすための政策が推進されています。しかし、本研究の結果は、育児参加の量を増やすだけでは不十分であり、それよりも、子どもに温かく敏感に関与できることや育児への態度の向上を支援する介入・政策の重要性を示唆するものとなりました。本結果は、親子関係や子育ての文化差を理解する上で大きな意義があります。
論文情報
雑誌名:Early Child Development and Care
題 名:Attachment Classifications and their Correlates in Japanese Father–Infant Dyads
著者名:Keisuke Okubo*, Tomotaka Umemura, Kiriko Emi, Hanae Sanada, Azusa Nishimura, Yuri Hirata, Yuta Shinya (*責任著者)
DOI: 10.1080/03004430.2026.2686139
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用語解説
※1 アタッチメントタイプ
子どものアタッチメントタイプは、安定型(B タイプ:再会場面で親に対して近接行動を示し、ストレスを落ち着かせることができる)、回避型(Aタイプ:再会場面において、親子に対してほとんど近接行動の類を示さない、あるいは全体を通してストレスをほとんど表出しない)、アンビバレント型(Cタイプ:分離・再会場面を通して強く、持続的に泣き、攻撃的な行動も見られる)の3つに基本的に分類される。さらに、子どもの行動が組織化されているかどうかという基準で、無秩序・無方向型(Dタイプ:近接と回避が混同した行動が見られる、フリーズ、親への恐怖心、奇声・奇行などが見られる)かどうかにも分類される。
※2 敏感性
子どもが泣いたり、ぐずったり、笑ったりしたときに、親がその気持ちやシグナルに素早く、正確に気づき、温かい気持ちで応えることができる能力のことを指します。本研究では、フリープレイの様子から、Maternal Behavior Q-Sort法という指標を用いて、父親の敏感性を評定しました。
※3ストレンジ・シチュエーション法
実験室において、ストレンジャーと呼ばれる、親子と面識のない他者(本研究では成人女性)が入退室を繰り返す状況で、親子の分離と再会を行い、一連の様子からから子どものアタッチメントタイプを評定する実験手法。通称:SSP
※4ロジティック回帰分析
ある事象が起こる確率を,説明変数を用いて予測する分析方法です。本研究では,アタッチメントタイプが安定型になるかどうかを,複数の変数によって説明するモデルの解析を行いました。
※5多重比較
群間の平均値の差を比較する検定手法で,3群以上の比較において,どの群間に差があるかを調べることができます。本研究では,4つのアタッチメントタイプ間で,関連変数の平均値差があるかどうかを検定しています。
