Kokushikan Magazines Feature

誰もが自分らしく、心地よく過ごせる居場所を。

新棟の共有スペースを学生たちの手で描く、インクルーシブデザインプロジェクト

国士舘キャンパス環境整備事業では、約10年をかけて世田谷キャンパスの校舎建て替えを実施する構想です。そのスタートとして、2028年4月の供用開始を目指し、現在梅ヶ丘エリアに建設中なのが「(仮称)梅棟」です。
梅棟では、教室外の共有スペースを、学びの幅を広げ主体的な学修を促進する場として位置付け、「ナレッジコア」という名称で空間をデザインします。ナレッジコアは、授業前後の予習復習やプレゼンテーションなどに活用し、新たな出会いや学びを生み出す場として、1階から3階の共有スペースに点在させます。

ナレッジコアのイメージ図
運用のイメージ

「ナレッジコア」を対象としたインクルーシブデザインプロジェクト

梅棟の共有スペースである「ナレッジコア」を、あらゆる学生が安心して自分らしく過ごせる空間にするため、6月からプロジェクトが始動しました。

このプロジェクトでは、これまで見過ごされがちだった固有の特性を持つ当事者(リード学生)が参画して、共にアイデアを出し合う『インクルーシブデザイン』(※1)の手法を用いて、理想の学びの場を模索しました。

障がい学生支援室の池田仁コーディネーターのサポートのもと、ユニバーサルデザイン(※2)や特別支援教育を学ぶ理工および文学部の学生ら、さらには学内の施設管理を担う部署、そして梅棟の設計、施工を手がける企業、デザイン提案を担う企業などが一堂に会し、「誰もが自分の居場所を見つけられるキャンパス」を目指し、複数日にわたりワークショップと座談会を行いました。

※1 インクルーシブデザインとは
多様な人々(障がい者、高齢者、外国人等)を企画・設計の初期段階から当事者として巻き込み、ともに考えながら課題を解決していく設計手法。
※2 ユニバーサルデザインとは 
年齢・性別・障がいの有無等にかかわらず、あらかじめ全ての人が使いやすいことを目指して作られた設計手法。

ワークショップのコーディネートはパナソニック エレクトリックワークス株式会社の専門家が担当しました。障がいのあるリード学生2人の行動観察から考えるワークショップと、外国人留学生に意見を聞く座談会を設定。ワークショップには理工学部寺内義典研究室で学ぶ学生1人と、文学部で特別支援教育を学ぶ本間貴子ゼミの学生ら3人が参加し、リード学生の思いを可視化する作業を通じて居心地の良いキャンパスとは何かを模索しました。

■ 6月23日:ワークショップ① グループB
神経多様性のあるBさんと。1階アトリウムの「刺激」と「居心地」

最初のセッションは、ADHDや双極性障がいの特性(ニューロダイバージェント)のあるリード学生Bさんを迎えてスタートしました。Bさんは音や光、におい、他人の視線といった周囲の刺激に非常に敏感で、集中して過ごすためには落ち着いた環境が不可欠です。

池田コーディネーターが見守る中、学生とパナソニックの専門家らが1つのチームとなり、Bさんとともに34号館1階アトリウムへと向かいました。「授業の空き時間に課題を仕上げるため、初めて利用する施設で席を探す」というシナリオに沿って、Bさんの動線や視線を20分間追跡します。

観察後のヒアリングでは、リード学生Bさんから「周囲の目が気になり、集中を妨げられないようバッグを壁のように置いて視線を遮っていた」「イヤホンをつけ、カフェのような適度なBGMを流して雑音をシャットアウトしていた」など、私たちが日常あまり意識しない空間のバリアがあることが、リアルな言葉を通して浮き彫りになりました。この言葉は障がいのない大多数の学生が「おしゃれで天井が高くて開放的」と当たり前に思い込んでいる空間そのものが、実は感覚の過敏な学生にとっては過剰な視線や雑音にさらされ続ける「居づらさ」になっていたという、思いもよらない気づきとなりました。

行動観察の様子(手前右テーブルにリード学生)。観察者は空間内に点在
観察者は、細かな行動や気づきを記入し共有した

■ 6月25日:ワークショップ① グループA
白杖を持たない弱視のAさんとともに。見えづらさの先にある「心のバリア」

続くワークショップでは、視覚障がい(弱視)の特性を持つリード学生Aさんが参加しました。Aさんは「障がい者として特別に見られたくない」という強い想いから、普段は白杖を使用していません。しかし、光の影響(まぶしさや逆光)で見え方が極端に変わるため、iPadやスマホを右目に近づけて文字を視認するなど、細かな工夫を重ねることで視野を確保しています。

この観察には、本間ゼミの学生2人と寺内研究室の学生1人が参加しました。

ワークショップBと同じシナリオで「空いている席を探して自習する」という行動の中で、Aさんが空間を見回した後、すぐに入口近くの空いている席に座る場面がありました。振り返りの中で、Aさんからは「入口近くは人の出入りがあり落ち着かないので本当は奥の隅の席に行きたかったが、障害物があって空席を認識できなかった。でも、手前の空席の前でウロウロしすぎると周りから不自然に見えるのではないかと不安だったので、それも避けたかった」という本音が明かされました。

また、視覚障がいの見え方にもさまざまな特徴があり、Aさんの場合は床と什器が同系色だと、段差が見えづらく空間把握が難しいといいます。このような物理的な課題に加えて、「周りからどう見えているか」という心理的なハードルもあり、1つの行動を決定するのに、空間的物理的な要素だけでなく心理的な要素が絡んでいることが観察を通して浮き彫りになりました。

リード学生Aさん。スマホを近づけて視野を確保している
梅棟の模型を眺めるゼミ生
どんな細かい事でも付箋にメモして貼る
観察後に意見を出し合うゼミ生ら(7/10)

■ 6月30日:外国人留学生座談会
文化・宗教の違いを超えて。誰もが迷わず、孤立しない空間へ

ナレッジコアのさらなる国際化対応を見据え、中国、台湾、モンゴル出身の留学生3人を招いた座談会を開催しました。

座談会では、言葉の壁以上に、日本のキャンパスに潜む「暗黙のルール」が留学生たちに不安を与えている実態が語られました。「この席で飲食をしてもいいのか」「会話をしても怒られないか」といった暗黙の空気が読めないことへの不安です。

また、キャリア情報や日本語学習といった重要情報が学内に分散していることへの課題感や、礼拝や静養ができるスペース、ハラル対応といった文化・宗教への配慮についても本音の議論が交わされました。留学生を「特別扱い」するのではなく、ピクトグラムや多言語表示、利用ルールの明示を通して、誰もが「選べる選択肢」として環境を整備することの重要性が共通認識される機会となりました。

座談会の様子
意見を述べる留学生

■ 7月10日:ワークショップ②(まとめ)
当事者の体験を可視化する「カスタマージャーニーマップ」とアイデア

リード学生2人の行動観察から得られた膨大な気づきを持ち寄り、2回目のワークショップが開催されました。

このワークショップには、リード学生に加え1回目のワークショップに参加した4人の学生が参加しました。さらに、梅棟の設計・施工を担う株式会社久米設計および株式会社淺沼組、学園の施設管理を担当する職員、キャンパス整備事業の担当職員が一堂に会する機会となりました。

全員がまず取り組んだのは、行動と感情の変化を時系列で可視化する「カスタマージャーニーマップ(CJM)」の作成です。当日の行動観察動画を何度も見返しながら、「なぜあそこで立ち止まったのか」「この時、どんな表情をしていたか」を全員で徹底的に分析しました。

壁に貼られた大きな模造紙には、「集中したいときは壁際がいい」「カフェのような適度な音なら落ち着く」「逆光は画面が見づらい」といった、学生たちのリアルな発見が書かれたカラフルな付箋がびっしりと貼られていきました。

さらに、設計・施工を担う技術者たちからは、出てきた課題を解決するための技術的な提案が出されるなど、より具体的な「ナレッジコア」のイメージが共有されました。
学生からは「リード学生の心地よさは、すべての学生にもいえること。個々のニーズに合わせて選択できることが大切なのかも」といった、ワークショップ通して感じた、等身大の言葉が聞かれました。

最後にワークショップを見守った教員らが全体を総括しました。
本間准教授からは「あるニーズへの配慮が、別のバリアを生んでしまうことがあり、全部を1つに盛り込むのが難しいからこそ、多様な環境から自ら選べる『選択肢』が重要なのではないでしょうか。そして、特別なニーズを持つ学生にとって居心地の良い空間は、きっとすべての学生にとっても、最高に快適な居場所になるはずです」と述べました。池田コーディネーターからは「『個に応じた対応』と言っても、その学生の今日の気分と来週の気分は常に変化するものです。当事者のニーズを一つに固定化するのではなく、特徴の異なる多様な環境を用意すること。そして、その利用状況を可視化し、フレキシブルに動かせるようにすることこそが、限られた空間を最も有効に、そして心地よく使いこなす鍵になるのではないでしょうか」と締めくくりました。

観察や意見を集約したカスタマージャーニーマップ
意見を出すゼミ生
文学部 本間准教授
障がい学生支援室の池田コーディネーター


プロジェクトのまとめと今後の展開

■ 8月3日:報告会

この報告会ではこれまでワークショップや座談会に関わった学生や先生そのほか、企業の方々ができる限り多く参加できるよう、対面とオンラインのハイブリッド形式で行われました。

パナソニックエレクトリックワークス株式会社の担当者は、これまでの議論をふまえ、1階は「開放的な交流とイベントの場」、2階は静かに過ごせる「低刺激なエリア(壁向き席や低い仕切りを設けた席)」、3階は「短時間でも集中できる個人学習エリア」といったゾーニングを明確にし、さらに仮眠、礼拝、カームダウンにマルチに使える多目的ブースや、音のストレスを和らげる空間づくりなどを提案しました。

今回のワークショップと座談会では、固有のニーズを持つ当事者の意見を聞くことの大切さを知ることができました。また、出てきた課題の解決策を考えることが、「利用者全員にとっての使いやすさ」の向上へとつながる有意義なプロジェクトとなりました。

今回の空間・運用提案が実現可能かを精査し、設備設計におとしこんでいきます。

ワークショップに参加した学生からは、「当事者の生の声を聞くことで、自分の先入観に気づかされた」「新校舎が完成したら、絶対に卒業生として戻ってきたい」という言葉が寄せられ、新校舎への愛着が芽生える学びの機会となりました。多様な学生の「居心地の良さ」を徹底的に考え抜いたナレッジコアは、国士舘大学の新しいインクルーシブキャンパスの象徴となるはずです。

ワークショップの様子
ゼミ生と意見を交換するリード学生(右)

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