Kokushikan Magazines Feature

指導者の共鳴~-箱根路復活へ-陸上競技部(駅伝)が歩む新たな道のり~

陸上競技部(駅伝)監督 小川 博之
陸上競技部(駅伝)コーチ 遠藤 司
陸上競技部(駅伝)コーチ 福田 穣

大学スポーツの花形、駅伝競技。年始に行われる東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)には日本中から熱い視点が注がれます。

本学陸上競技部(駅伝)は、箱根駅伝に52度出場した経歴がある伝統校ですが、ここ2年間は惜しくも本戦出場を逃しています。

令和8年度、3年ぶりの箱根路復活を成し遂げるべく新体制がスタートしました。
新たに就任したのは遠藤司コーチと福田穣コーチの2人。そしてチーム全体を統率するのは2022年から指揮をとる小川博之監督。
箱根路復活を目指して奮闘する指導者の思いと哲学に迫ります。

話を聞いた指導者陣
氏名 小川 博之(おがわ・ひろゆき) 遠藤 司(えんどう・つかさ) 福田 穣(ふくだ・じょう)
役職 監督 コーチ コーチ
主な経歴 国士舘大学出身
在学中は、関東インカレ優勝やユニバーシアード競技大会優勝などの実績がある。
卒業後は実業団選手として活躍。
実業団での監督・コーチ経験を経て2022年に監督に就任
早稲田大学出身
在学中は、箱根駅伝10区の区間記録樹立、卒業後はソウルオリンピック出場などの輝かしい経歴を持つ。
母校・早稲田大学や実業団チームでの指導を経て2026年4月にコーチ就任。
国士舘大学出身
在学中は、主将を務めチームをけん引。2年時に全日本大学駅伝、3・4年次に箱根駅伝に出場した。
卒業後は、実業団選手として活躍した後に、2020年から「NNランニングチーム」に日本人として初めて加入し、今なお走り続けている現役ランナー。
2026年5月にコーチ就任。

熱い思いのもとに就任 個性あふれる指導者たち

まず、コーチ就任を引き受けた理由を教えてください

遠藤コーチ

私は、陸上競技部の岡田雅次スペシャルアドバイザーと旧知の仲で、「2年連続で箱根駅伝出場を逃しているチームの再建に手助けしてほしい」とお声がけいただいたのがきっかけです。
また、私自身もこれまで選手やスタッフとして活動する中で、多くの方々から応援され、バックアップしていただいていました。その経験から、自分自身を成長させてくれた陸上競技に恩返ししたいという強い思いがあり、就任を決意しました。

福田コーチ

私は、学生選手時代に小川監督(当時:コーチ)から指導していただいていました。そんな小川監督から「自分にしか伝えられないことを学生に伝えてほしい」お声がけがあったことがきっかけです。
また、私自身も一人のOBとして2年連続で箱根駅伝出場を逃している悔しさを強く感じていました。
母校の復活のために貢献できるのならという思いで引き受けました。

お二人が就任されてからの雰囲気はいかがでしょうか

小川監督

よい雰囲気であると感じます。今回就任したコーチ陣は、私にない視点を持っている指導者です。
遠藤コーチは、名門・早稲田大学出身であり、社会人時代にはオリンピックも経験している豊富な実績と視点をもっています。
福田コーチは、本学で大きく競技力を伸ばして卒業し、今もなお走り続けている現役選手です。だからこそ、より選手に近しい目線からの指導、そして自ら走ることで選手を引っ張ってくれています。私は、それらを統括してチームの向かうべき方向を指揮する立場ですが、二人の就任で今までとは違う指導のバリエーションが増えています。

福田コーチは、今でも走られている現役ランナーでもあるのですね

福田コーチ

はい、2013年に本学を卒業してからは実業団選手として走っていましたが、2020年からはケニアのプロランニングチーム「NNランニングチーム」に所属しています。そこでは、世界のトップランナーたちがしのぎを削っており、私も彼らの練習内容や準備、マインドセットに至るまでその全てに刺激を受けながら走っています。

海外での経験は、どのように学生へ還元していますか

福田コーチ

選手たちは、世界トップランナーと関わる機会が少なく、どうしても遠い存在に感じてしまいます。そんな選手たちにトップランナーのノウハウを直接届けることができるのは、彼らと一緒に走っている自分だからこそできる役割だと考えています。伝えるときは、選手の視点に落とし込んでリアルな声を届けるよう意識しています。とくに、重要視しているのは走りに対する精神性。彼らは、経済や練習環境がどんな過酷な状況でも前だけをみてストイックに走り続けています。その姿をみると自分自身も伸びしろを感じますし、選手たちにも視野を広げて走りに向き合う大切さを伝えています。

今年度から低酸素システムも導入されるなど科学的な取り組みも注目されています

小川監督

はい。低酸素システムは、現在週1回利用しています。標高2,500m~3,000mを目安とし、ユーフォリア株式会社(トレーニングプログラムをマネジメントする企業)と連携しながら、選手の心肺機能向上を目的としたトレーニングを実施しています。まだ、試験的な段階ではありますが、例年夏に行っている高地トレーニングをこの時期から行えていることはメリットを感じていますし、選手からもよい声が聞かれています。

また、昨年度から本格的な血液検査を導入しました。株式会社KYBメディカルサービスさまにご協力いただき、選手の血液データを血液65項目・尿8項目の計73項目に及ぶ多角的な検査をしていただいています。それらのデータをもとに、サプリメントの摂取タイミングや選手個々の特徴なども明確にフィードバックしていただき、競技力向上に役立てています。フィードバックの際には私たち指導陣も同席しておりますが、学びが多く、選手の競技力向上はもちろんのこと、私たち指導陣にとっても勉強になっています。

多摩キャンパスに設置された低酸素システム
多摩キャンパスに設置された低酸素システム
低酸素トレーニングに励む選手ら
低酸素トレーニングに励む選手ら

0から上へ~100人で刻む箱根までの軌跡~ 大所帯のチームで問われる統率力

今年度のチームスローガンは「0から上へ~100人で刻む箱根までの軌跡~」ですね。印象はいかがでしょうか。

小川監督

スローガンは毎年学生幹部を中心に選手たちが決めてくれます。私たちも箱根駅伝を2年連続で逃してしまい、まさに後がない0の状態だと感じています。学生にもその意識があり、かつ部員全員で箱根を目指していくという意思が詰まっているよいスローガンなのではないでしょうか。

スローガンは学生が決めるのですね

小川監督

基本的には、指導者はかかわらずに学生幹部が中心となって決めています。全員で意見を出し合ったうえで指導者のもとに説明しにくるのですが、そのときに選手たちの思いや目標を聞き、我々指導者も気を引き締めて新チームでの目標を新たにするイメージです。

大所帯のチームの印象はいかがでしょうか

遠藤コーチ

はじめは、100人の部員数には圧倒されました。全員に目を配る大変さを感じましたが、それと同時に全員が同じ方向を向けばとてつもないパワーが生まれると確信しました。例えるなら、でしょうか。「100人が同じ方向を向いてオールを漕げば、凄まじい推進力になる」ように、組織力が備わればとてつもない可能性を秘めているチームだと感じています。しかし、誰かが手を抜いたり違う方向を向いたりすれば船が進まなくなります。その難しさを感じつつ、それを正しい方向に導くのが我々指導者の役割だと考えています。

小川監督

100人いれば100通りの考え方があります。それらを同じ方向に向かせることは容易ではありません。しかし、遠藤コーチが言うように、100人が同じ方向を向ければとてつもないパワーを発揮できますし、調子の有無による選手の起用方法や練習の組み合わせなどあらゆる面でバリエーションが増えることは大きなメリットだと感じています。

ご自身の在学時を振り返るといかがでしょうか

福田コーチ

私たちのころから部員数は多かったですが、今と比較しても一人一人の自我が強かった印象です。その中でも、私はとくに「周囲の誰にも負けないくらい練習する」ことを心がけていました。4年次には、主将を務めていましたが、自分自身がスタンダードを高く持っていたことでチーム力が底上げされていたように感じます。

やはり、国士舘の伝統はあるのでしょうか

小川監督

たたき上げの選手が多いという点ではないでしょうか。本学の選手たちは、高校時代にスーパースターではなかった選手たちばかりです。しかし、実業団の関係者からは、「国士舘で伸びた選手は実業団でも必ず伸びる」と評価されています。藤本拓選手(平成24年体育学部卒)や綱島辰弥選手(令和5年体育学部卒)、福田コーチもその最たる例です。彼らは、学生のころから自ら考えて貪欲に努力ができる選手でした。結果がすぐに残せなくても、あきらめずに考えて努力する、そのプロセスで養われる自立心たたき上げの精神こそ本学一番の伝統かもしれません。

福田コーチ

私が学生のころは、とにかく学生間の意見交換を活発に行っていました。寮内でもコミュニケーションを欠かさずとっていましたし、よい意味で忖度なく意見交換できる環境であったように感じます。今は、時代背景もあり当時のようなコミュニケーションはとれませんが、学生たちと接していると「強くなりたい」という気持ちはそれぞれが心の中に秘めているように感じます。そのハングリー精神は今も昔も変わっていないですね。

現状の課題はありますか

小川監督

現状のままだと、正直予選会突破が当落線上のレベルといえます。これらのレベルを引き上げるためには、選手一人一人がより能動的に競技に打ち込み、考えられる選手になる必要があります。そうすれば自ずと予選突破に近づいていきます。

遠藤コーチ

まさに、小川監督の言う通り選手たちの意識改革が必要です。指導者としても、選手とのコミュニケーションはやはり難しいと感じます。指導者からの一方通行にならず、選手から主体的に意見が出てきたらより成長すると思いますし、時間を経て少しずつそれに近づいている実感はあります。

福田コーチ

スピードなど選手個々のポテンシャルは私が学生時代よりも高いです。しかし、現在はそのポテンシャルが生かされていないように感じています。彼らが自分たちのポテンシャルを最大限に伸ばし、自信をもって走れるようになれば予選突破はもちろん、シード権獲得も難しい話ではないと思います。私はそれができるチームだと信じています。

全体ミーティングでの小川監督
全体ミーティングでの小川監督
福田コーチは練習に参加しながら選手と切磋琢磨している
福田コーチは練習に参加しながら選手と切磋琢磨している

ブレない指導の哲学・自らも学び続ける姿勢で選手と向き合う

指導での心構えと大切にしていることを教えてください

小川監督

根底にあるのは、選手一人ひとりが主役だということです。
そのために、指導者が意見を押し付けるのではなく、選手たちがどのような思いで目標を語り、その達成のために何をすべきかを共に考えることを大切にしています。
また、部としての目標は同じでも選手のレベルや目標は個々によって違います。100人の選手がいますので、それぞれのレベルや技術に合わせた指導が求められます。
その指導のために必要なことは目標設定です。駅伝は記録競技のため、数字をもとにした目標設定がしやすいです。
選手の現在の記録や数値を客観的な指標としつつ、高すぎる目標を持つ選手には意識づけを行い、逆に自信がない選手には寄り添いながら、どう目標に向かわせるかを常に考えています。私自身も悩みながらですが、その気持ちを忘れずに指導しています。

遠藤コーチ

一番は、人間性の成長です。私は、人間性なくして、陸上競技での成長はないと考えています。選手たちが、競技生活の4年間で目標を考え、努力できる人間になってほしいという思いです。選手たちが社会にでた後も、「駅伝の経験があるから今の自分がある」と思い、豊かな人生を送ってくれることを願っています。
そして、人間性の向上に必要なことはブレないことです。これは、選手たちが自分たちで掲げたスローガンや目標に対して、「逃げることやブレることを許さない」という意味です。選手たちが、自分たちが決めたことや走ることに対して責任をもち、最後までやり遂げる。駅伝競技を通してそれを経験し、人間性の向上につなげてほしいです。

福田コーチ

選手の自立心を養うことです。決められたメニューを「ただやらされる」だけでは、選手として伸びしろがありません。自ら考えて行動し、積極的に駅伝へ向き合うことが競技レベルを引き上げてくれます。
そのために必要なことは、想像力の醸成と圧倒的な練習量です。心が折れそうなとき、「箱根駅伝常連校の大学に追いつけるだけの練習をできているのか」、「自分たちが勝つためには何が必要か」と自問自答し、努力するための前向きな想像ができる選手は強くなります。また、圧倒的練習量は裏切りません。近年は、質が大事という言葉をよく耳にしますが、私の中では「量を稼げない選手は質を語れない」という考えがあります。まずは、土台をつくるための圧倒的な練習量をこなす。その中で自立心は必ず養われていきます。

それらの指導をするうえで工夫していることはありますか

小川監督

私は、2020年度まで大学院に通いスポーツ心理学を学んでいました。そこで学んだ「客観的思考を大切に指導する」は今でも役立っています。
また、現在は縦割り班を作って練習を行っています。4年生をリーダーとし、学年関係なく班をつくって練習を行っています。選手たちには、最低でも週1回のミーティングを課し、リーダーが選手それぞれの状態や班ごとの目標を伝えてくれます。徐々に、リーダー陣の視野も広がってきましたし、チームとしての団結力が上がってきていますね。

遠藤コーチ

私は読書を通して自分の引き出しを増やしています。聖書から小説まで多くの書物から学びを得るため、ジャンルは問いません。それを選手に伝わりやすいよう言葉にするためにも、現代風の本に手を伸ばすことも多いです。選手たちにも、授業はもちろんのこと書物から学びを得てほしいですね。

福田コーチ

選手との徹底したコミュニケーションです。
私は、学生や選手に近しい存在だからこそ、指導陣の考えをかみ砕いて選手が分かりやすいように伝えています。先日のレース後には、食事をしながら2時間以上意見交換しました。私自身も、選手の考えを理解する貴重な機会となりますし、選手から勉強することも多いです。コミュニケーションの中で選手の思いと指導者陣の求めているレベルをあわせ、選手のモチベーションを引き上げるように意識しています。

箱根路復活へ 目標を信じて前へ進む

10月の箱根駅伝予選会に向けたスケジュールを教えてください

小川監督

駅伝競技は、例年7月まではトラックレースがメインとなる個人での練習、夏に入る7月中旬から8月上旬ごろから集団走が中心となる駅伝の練習へと移り変わっていきます。今年は、箱根駅伝予選会を見越してすでに駅伝の練習にも取り組み始めています。選手たちも少しずつ自覚が芽生え、チームワークも深まるよい練習が積めています。
そして、夏ごろには事前強化合宿が始まります。長野県菅平、新潟県妙高など合計4回の合宿を通して距離を走る力集団の団結力をあげていきます。高地でのトレーニングはハードですが、それを乗り越えて箱根で走るチームへと成長していきますので踏ん張り時ですね。

距離を走る力、福田コーチが課題としてあげていましたね。

小川監督

陸上競技の中でも、走る距離が長くなればなるほど、性格や考え方が結果に影響する部分が非常に大きいと感じます。長距離は地味で過酷な運動ですので、地道に練習を積み重ねていかないと20㎞以上の距離はなかなかものにできません。箱根駅伝予選会は、20km以上を走るハーフマラソンですのでまさにそこが問われます。だからこそ、我々指導者は距離を走る力=どれだけ距離を走ったかを一つの評価基準にしています。

選手に一番近い目線から指導する福田コーチにはどう映っていますか

福田コーチ

私も、距離を走ることを一番に求めています。
先ほどもお伝えしましたが、私も学生のとき、圧倒的に距離を走っていました。距離を走る大切さに気がついたのは、2年生の時です。その年にチームは全日本大学駅伝には出場しましたが、箱根駅伝予選会でまさかの予選会敗退となりました。そこから、当時コーチをされていた小川監督から圧倒的に距離を走るメニューが課されたことで距離を走る土台がつくられました。そのメニューで力をつけていった自覚はありましたし、何よりもう悔しい思いはしたくないという気持ちで走っていました。これらの経験を選手に伝え続けており、以前は自主的に走る選手は多くなかったですが、今では自主練のメニューでも選手自らが積極的に走る距離を伸ばしています。

予選会を控える選手たちにメッセージをお願いします

小川監督

一番大切なことは目標を見失わないことです。これは、選手も指導者も同じです。我々指導者と選手が同じ目標を掲げ、共に高みを目指していく。その中で挫折や困難なことは多々ありますが、目標を見失わなければ乗り越えることができます。共に乗り越え、成長していけるように頑張りましょう!

遠藤コーチ

目標意識と問題意識をしっかり持てる選手になってほしいです。与えられたものではなく、自ら目標を設定し、それに対して何が問題なのかを考える力を養ってほしいです。また、その直面した課題を自ら解決する「問題解決能力」も身につけてほしいと考えています。駅伝競技を通じて得られるこの力は社会に出た後も役立つ力ですし、人間力を成長させ人生を豊かにしてくれるはずです。今は気がつかなくても、いつか社会に出たあとに、「こういうことだったのか」と気がついてくれたらこれに勝る喜びはありません。そのためにも、今を全力で努力してほしいです。

福田コーチ

自分たちのポテンシャルを信じてください。これは忖度ではなく、選手一人一人がもっているものは素晴らしいものがあります。
しかし、そのポテンシャルを生かすためには、それ相応の努力が必要になります。その努力をするうえでは、自分が当たり前だと思っていることを疑う覚悟が必要です。競技面では、練習内容を自分だけのものさしで図るのではなく、他大学と比較した目標設定をするだけで変わってきます。競技外の面でも、サポートや応援していただけることを当たり前と思わず、感謝できる人間になってほしいと思います。レベルの高い当たり前を当たり前にこなしていく、そんな人間になってほしいですね。

最後に今後の意気込みをお願いします

小川監督

10月の箱根駅伝予選会では、必ず突破して箱根路復活を成し遂げます。
主役は、頑張っている選手や学生たちです。彼らが最大限力を発揮できるように努めますので温かいご声援をよろしくお願いいたします。

インタビューから感じられたのは、指導者一人一人からの選手たちを思う気持ちと駅伝に懸ける熱い思い。
それら情熱と選手たちの努力が交わった先には、必ず栄光の箱根路が広がっています。
箱根駅伝予選会は、10月17日に東京・立川市で開催予定です。陸上競技部(駅伝)への熱いご声援をお願いいたします。

次回は、学生幹部のインタビューから選手たちの思いをお届けします!

2026年7月取材


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