調査活動報告

テル・フィスナ遺跡

戻る
ニネヴェ5期の日乾煉瓦積みの墓壇ニネヴェ5期の日乾煉瓦積みの墓壇

国士舘大学隊が調査したエスキ・モスール地域の遺跡の中で、最初に調査したのが本遺跡である。発掘調査は1983年10月から84年7月まで実施された。遺跡はティグリス河の河畔にあり、大きさは210mx170mで高さは20mである。遺跡はティグリス河による侵食を受けており、中心部まで大きくえぐられている。遺跡の北側の侵食部の崖面を中心に発掘調査を行った結果、上層からイスラム時代、ヘレニズム時代、中期アッシリア時代、ミタンニ時代、古バビロニア時代、アッカド時代、ニネヴェ5期の生活層の堆積を確認した。

 

これらの生活層の中で最も注目されるのがニネヴェ5期の層で、この層からは日乾煉瓦積みの基壇を発見した。この基壇は遺跡の中心部の最も高い場所に築かれ東西長12.5m、南北は崩落しており、残長は5m、残高1.2mで、神殿の基壇と考えられる。ニネヴェ5期の神殿跡の発見例はまだなく、北メソポタミア地方の謎の時代とされている同時代の解明に向けて貴重な建築遺構の発見といえる。

ヘレニズム期の粘土版文書片ヘレニズム期の粘土版文書片

調査の最大の成果は、ヘレニズム時代の貯蔵穴から楔形文字が刻まれた粘土板文書の破片が出土したことだ。これが日本の調査隊による西アジアの調査における最初の楔形文字資料の発見である。この文書片は7.5x5cm、厚さ2cmで焼成されており、両面に楔形文字が刻まれている。これまでに約50万点の楔形文字資料が各地で発見されているが、ここに刻まれた楔形文字は他に全く類例がなく、内容は未だ解読されていない。楔形文字使用の最終末期の粘土板文書で、“テル・フィスナ、タブレット”と呼ばれている世界の楔形文字研究者が注目する世界で唯一の粘土板文書である。

テル・フィスナ遺跡、主要参考文献

沼本宏俊「テル・フィスナ遺跡の発掘調査」『ラーフィダーン』第9巻、他に掲載

ページの先頭へ