テル・ジェッサリーの南南東約2kmの地点に、ワディ(涸川)によって河岸段丘の岩盤から切り離され、メサ状に残る岩山があった。その頂上には石積みの、建物の基礎部が残り、それが「カッスル・バナート」と呼ばれる遺跡である。岩山のふもとから頂上までは約80mの高さに達する。8.5m幅で27mの長さの頂上平坦部に、その場所を囲うように防御壁が築かれ、その細長い長方形を呈する囲い壁の片端に石膏張りの床をもつ小さな二三の部屋が設けられていた。遺跡のアラビア語名である「カッスル・バナート」は「女性たちの城」を意味するが、その名の如く、この遺跡はイスラム時代の、望楼的な役目を果たす小さな城塞であったと考えられる。
岩山の西側のふもとのワディの側面からは湧水がでていて、沢ガニが生息していた。このとき調査隊に参加していた吉川守先生がこの沢ガニを使い作ってくださったスープの味は今でも調査隊員の脳裏に深くきざまれている。ここにいたイスラム時代の兵士たちも、湧水を飲み水として利用するかたわら、沢ガニを食していたのだろうか。
カッスル・バナート全景
カッスル・バナート遺跡、主要参考文献
H. Fujii et al.,“Preliminary Report on the Excavations at Tell Thuwaiji, Tell Jessary and Qasr Banat”, Sumer 46(1989-90).