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2017年11月29日

地理学を学ぶ私が見るサンゴ礁(史学地理学科・長谷川均)

私が学部生から大学院生になりたての頃(1977、8年頃)の話です。大型計算機でプログラムを走らせる不自由さから何とか解放されたいと思っていたとき、アメリカからパソコン(当時はマイコンとよんでいた)がやってきました。タンディのTRSとかコモドールのPETというブランド・・・・。日本でもNECやSHARPが相次いで販売を開始します。奨学金やアルバイト代のほとんどすべてをつぎ込んで、本体やオプションを買い集めました。その頃私は先生方から、おもちゃ集めは止めろとか、もう少し真面目に本業に打ち込めとか、さかんに小言を言われたものでした。人の言うことを聞く方ではないので、すべて無視です。この頃から、私の研究にコンピュータは欠かせなくなりました。

 

当時、研究者の世界では、ひとつのテーマを長年にわたって取り組むひとが多かったような気がします。いまでもそういう人が評価されていると思います。私は新しもの好きで、目についたものにすぐに飛びつく癖があります。地形学を教えるということで国士館大学の地理に雇われたと思うのですが、コンピュータを使う「リモートセンシング(衛星データを使って地表環境の変化を探る技術)」や「GIS(地理・地図・空間情報を結び付けて分析する技術)」を覚えてからというもの、このような道具を地理学研究に使わない手はないと思いました。それに、落穂拾いのような研究は性に合わない、移り気で新しもの好きということもあり、私の研究テーマや対象は頻繁に変わりました。今でも、できれば新しいテーマで打って出たいと思っています。「私のライフワークはこれです」という世界とは対極にいたいのです。

 

サンゴ礁の研究は、30代になりたての頃から始めました。これに関しては飽きずに結構長く、いろいろなことやっているので、同業者は私のことをサンゴ礁地域に長くいるけれど、いったいあの人は何をやっているの というふうに言っているでしょう。サンゴ礁に目が移ったのは、ただひたすらに美しかったからです。サンゴ礁に通い始めたころ、周りには当時流行のローム層にまみれ、泥んこになりながら地道に調査している人が多かったせいか、自分は違うことで目立とうと思ったのかもしれません。

 

最近掲げているもう一つのテーマ「中東の自然地理」は、50代の半ばに目ざめました。この成果はそろそろと思っています。「いっこうに論文を書かないじゃないか」と、先輩研究者から嫌味を言われるたびに「あんたみたいに成果の安売りはしない主義だ」と言っているのですが、10年も経つとその言い訳も効かなくなってきました。あまりダラダラ書けないので、ここでは30年以上付き合っているサンゴ礁の話を少しだけしましょう。

 

「地球温暖化に伴う環境悪化」という話が出ると、たいてい被害者としてサンゴが登場します。サンゴが被害者だというのは当たっているのですが、温暖化と同じくらいの被害を、サンゴは人為による環境悪化から被っています。しかし、これはだいたい隠されてしまいます。地球温暖化の被害者としてサンゴを象徴的に使うことで、政治家や行政は温暖化を隠れ蓑に使うことができるからです。また、研究者は「地球温暖化」に付く研究費を獲得しようと躍起になっています。埋め立て、流域からサンゴ礁へ流れ出す土壌や汚水、農薬・・。これらの影響でサンゴ礁環境は悪化の一途をたどっているのですが、地球温暖化のせいにしてしまえば、当面の対策から逃げることができますし、悪事を隠すこともできるというわけです。理系の研究者にとっては、国や行政にたてつくより、目をつむって研究費をもらうほうが賢いやり方です。

 

ところで私は、生物としてのサンゴを扱う生物学者ではありませんし、サンゴ礁の生態系を対象に研究している生態学の専門家でもありません。しかし、サンゴ礁の中で何か不気味な変化が進行していることは直感で判っていました。同じ海に、長年にわたって通い続けていたからです。ここでは、私が少し前にまとめた、離島の事例を紹介しましょう。この研究では、リモートセンシングやGISを地理学の立ち位置で使い、ある学会の論文賞を受賞しました。ここでは、サンゴとサンゴ礁を使い分けていますが、サンゴは動物、その死骸・骨格が固結し累々と重なって形成された地形がサンゴ礁です。写真1はサンゴ礁の外側の写真ですが、これらの地形は造礁サンゴの骨格が積み重なって形成された、とても新しい地形です。

  • 写真1 サンゴ礁の外側の地形。方形枠を置いてサンゴの被度を計測する。この様な場所では、陸域の影響を受けにくいこともあり海草類は繁茂していない写真1 サンゴ礁の外側の地形。方形枠を置いてサンゴの被度を計測する。この様な場所では、陸域の影響を受けにくいこともあり海草類は繁茂していない
  • 写真2 干潮時をねらって海草の調査をする学生写真2 干潮時をねらって海草の調査をする学生

図1を見てください。1972年以降、サンゴ礁の浅海域で海草が生息域を広げていくのが判るでしょう。海草は成長が早いので、サンゴを上から覆います。サンゴは、生きるためのエネルギーを共生している藻類が行う光合成栄養物からもらっています。海草に覆われてしまうと、そのエネルギーが得られません。ですからサンゴは、とても不自由な生活を強いられることになります。それどころかしだいにサンゴの生息域が狭くなり、サンゴ礁では大きな環境変化が生じることになります。1972年を境に、なぜこの様な変化が起こったのか・・。おそらくそれは、沖縄県の本土復帰に伴う大規模な土地改良事業の影響と思われます。写真2は、海岸線のすぐ近くに繁茂している海草類の分布を調べている様子です。

図1 サンゴ礁浅海域で拡大する海草藻場図1 サンゴ礁浅海域で拡大する海草藻場

図2では、このサンゴ礁に流れ込む陸域の変化を示しています。土地利用が、1972年頃から急激に変わってしまったことが判ります。また、近年は肉牛の生産地として流域の牛舎から大量に排出される牛の糞尿がサンゴ礁を富栄養化している影響もあると考えられます。このような陸域の変化が、サンゴ礁の生態系を変えてしまったことを様々な証拠から明らかにしました。

図2 サンゴ礁に流れ込む河川流域の土地利用変化図2 サンゴ礁に流れ込む河川流域の土地利用変化

ところでみなさんは、サンゴの移植という話を聞いたことはありませんか。失われたサンゴ礁の景観を、水槽で育てたサンゴを海に移植することで再生しようという試みです。この研究や事業には莫大な税金が使われています。「環境タレント」や「環境保護に熱心な企業」を使った組織的な情宣も行われています。しかし、サンゴが復活することなど決してありません。サンゴ礁が再生すると信じて移植作業に参加する善意の人たちを欺くことをやっています。一見きれいな海に見えても、流域の環境から見直しをしなければ、移植したサンゴは死んでしまいます。

 

サンゴ礁を守るためには、海の中の養生だけを考えても意味がありません。流域を含めた対策が必要です。陸が変われば海も変わってしまうのです。行政の人たちは、このような見方をしてきませんでした。その結果、沖縄ではサンゴの海が死んでゆくことになってしまいました。

 

私は最近人工衛星のデータを使って、沖縄本島周辺海域の変化を追跡しています。地表から数百キロ上空を飛ぶ衛星から判るほどの大きな変化が起こっています。悪い方向への変化ですから、新しいことが判っても、気は重くなってしまいます。最期まで見届けなければなりませんが、その最期が、良い方向へ転換して終わることを願いつつ、自分の研究成果を利用できないかと考えています。

 

地理学の面白いところは、さまざまなツールを使って、他分野の研究者が気づかない現象を捉えることではないかと思っています。あるいは、他分野の人たちがまとめきれない現象を、知恵を使って紐づけしてゆくことができるのが地理学ではないかと思います。これを可能にするためには、専門バカではだめです。いつまでも好奇心を忘れずに、新しもの好きを続けていきたい。それが私の生きる道かな。

 

この文章を書いたまさに今日、知り合いが「世界」という雑誌(2017年12月号)に『サンゴの移植は環境保全措置となり得ない』を書いたよと言ってきました。さっそく帰宅途中に本屋で買い、いま読み終えたところです。この人は、私の教え子世代の若い女性生物学者です。理系人間なのに、社会のこと政治のことに好奇心があり発言を続けています。普段から「失うものなんかないよ」と言うだけあって、歯に衣着せぬすばらしい論考です。みなさんにも、ぜひ図書館で読んでほしいです。

<筆者略歴> 長谷川均(はせがわ ひとし)

 

1953年 新潟県生まれ。

文学部・地理・環境コース・教授。博士(理学)。

サンゴ礁地域の環境保全や中東地域の自然を専門とする。

主な著書

「リモートセンシングデータ解析の基礎」(1998年 古今書院)

「熱い自然(共編著 1990年 古今書院 )」

ホームページ

http://bungakubu.kokushikan.ac.jp/chiri/Teacher/Hasegawa

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