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2022年04月05日

【目指せ!国士舘から世界へ⑯】熊川大介教授インタビュー(スピードスケート日本代表 科学スタッフ)

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2月20日に閉幕した北京冬季五輪で、金・銀・銅5つのメダルを獲得したスピードスケート日本代表。選手らの活躍をテレビで応援した人も多いかと思いますが、その選手団の一員として北京へ帯同し活躍に貢献したのが、本学体育学部の熊川大介教授です。

熊川教授のポジションは、コンマ数秒の世界を競うスピードスケートのトップアスリートを後方からサポートする「科学スタッフ」。

このコーナーでは、これまで世界へ羽ばたく国士舘アスリートや指導者を中心に紹介してきましたが、今回はアスリートを支え、ともに世界で戦うスタッフの役割にフォーカスします。

<2022年3月11日取材・世田谷キャンパス>
北京五輪会場での試合前の様子(毎日新聞社提供)北京五輪会場での試合前の様子(毎日新聞社提供)

──科学スタッフという仕事について教えてください。

私はバンクーバー冬季五輪後の2011年度から日本スケート連盟スピードスケート科学スタッフとして活動を開始し、2018平昌五輪以降は科学部門の責任者として携わっています。

連盟が指定するノービス(小学生)、ジュニア、シニアまでの強化選手、日本代表選手に対して、年間計画に沿いながら科学的な手法を用いたサポートを行っています。シーズンによって内容は変わりますが、選手のフィットネス測定や試合会場でのレース分析などがメインです。

──フィットネス測定やレース分析とはどういったものですか。

フィットネス測定は、さまざまな体力項目における各選手のレベルを評価するとともに、トレーニングで用いる運動強度を調べます。年齢や性別・体力レベルによってトレーニングでかけるべき負荷は変わってきますので、まずフィットネス測定によって選手の体力を確認しながら、個人に合ったトレーニング強度を定めていきます。これは、それぞれの選手に応じた最適なトレーニング計画を提供することが目的です。

レース分析では、実際の試合で選手が滑った映像、コース取りや滑走スピードと、生理学的な測定結果(身体の反応)を合わせてレースを振り返ります。公式に発表される結果よりもう少し詳しい区間ごとのスピードの変化や、どれだけ強いパワーを出し切れたかを客観的に評価してフィードバックするサポートですね。

他にも、管理栄養士が合宿や遠征に同行して行う栄養指導なども、科学スタッフの役割のひとつです。

──五輪などの大会の時だけでなく通年でのサポートが必要なのですね。

選手のトレーニングは長期的に計画されます。もともと科学サポートは選手のトレーニングを充実させることにこそ意味があるので、試合の時だけではなく年間を通じたサポート計画を立てて、その年間計画に沿って複数の科学スタッフがサポートにあたります。

これまでは、それぞれの所属大学や企業のチームごとに強化指定された選手をサポートしてきましたが、2014年のソチ冬季五輪以降、各所属の指定選手を日本スケート連盟主導で集中的に強化するナショナルチームが発足しました。こうして、選手を科学・医学・情報などの各部門が包括的にサポートするようになりました。

日本のスピードスケート競技は、これまでもスポーツ科学の研究者がサポートしてきた長い歴史があります。そのため、現在の指導者もスポーツ科学の重要性やデータの見方に対しての理解度が非常に高かった。

それらに加えて、ジュニアの頃から科学サポートを取り入れた強化を行ってきた世代が選手として適齢期を迎えたのが、ちょうど前回の平昌冬季五輪のタイミングだったと考えています。

──北京冬季五輪にも同行されたそうですが、現地ではどう過ごされましたか。

五輪の現地に帯同したのは今回が初めてでしたが、体調も仕事の質も非常に高いレベルで過ごすことができました。

というのも、今回は感染症対策などで制限も厳しく、当たり前にできるはずのことが難しい環境なのは事前に想定できました。その中で五輪に臨むメンタルタフネスをどう身につけるか考え、自分自身を「選手の結果だけにエネルギーを100%注ぐ」というモチベーションに仕上げて現地入りしました。私の場合、他人のために使うエネルギーにはストレスを感じないことは経験的に分かっていたからです。

これは本学の理念に通じる部分もありますが、これだけ頑張ったから自分が認められたい、評価されたい、そういう考えを一切なくし、日の丸のため、選手のためだけに集中するようにしたのです。

そうすることで、毎日のPCR検査やこまめな消毒、すべてオンラインのミーティングや人との接触を避ける行動など、徹底した感染症対策にもまったくストレスを感じませんでしたし、分析作業が忙しく睡眠時間が短い日でも絶好調で過ごせました。

 

──メダルやレース結果など、大会が終わってみていかがですか。

結果にはやはり悔しい思いが残りました。大会前の目標は「金メダル複数個を含むメダル総数7、入賞数12」でしたが、最終的に金メダル1、メダル総数5、入賞数12でした。入賞数はクリアできましたが、喜びよりも悔しさの方が大きかったですね。

──目標に届かなかった要因は、ご自身ではどう捉えていますか。

入賞数が多かったという結果は、日本の国際競技力が向上している証拠だと思います。私の立場からすれば強化に対してのサポートは実を結んだと言えると思います。

しかし惜しくもメダルに届かなかった、メダルの色をもうひとついい色にできなかった結果に対しては科学サポートの力不足だったと感じています。

世界のトップアスリートが集まる国際競技会では、ほんのわずかな差によって結果が左右されます。そのわずかな気付きや変化を与えるために、科学的な情報とそれに基づいた調整が必要です。したがって「本番で100%のパフォーマンスを発揮させるためのサポート」がまだまだ不足していたと感じています。

たとえば、高木美帆選手が銀メダルとなった女子1500mですが、五輪前に開催されたW杯では高木選手がすべて勝っていました。しかしW杯で結果を出せなかった海外選手が、五輪に向けた最終調整をして非常に高いレベルの結果を出してきました。こういったケースが他種目でも多々ありましたね。

──テレビでの印象としては、スピードスケート代表はとてもいいチームに見えました。

チームの雰囲気はとてもよかったです。選手やコーチ、スタッフがお互いを信頼しているからこそ出てくるようなアイディアもありましたし、各スタッフの役割分担も明確で情報共有も密に行うことができました。

科学スタッフは客観的なデータを提供する役割を担っていますが、私自身はデータがすべてではないと思っています。今回は、チームパシュートの戦術や個人種目のペース設定などに関して多くのデータ提供をしてきましたが、それに加えて、選手が得ている感覚、コンディション、コーチの考え、積み重ねてきたトレーニングの方向性、今トレーニングのどの段階にいるかなどさまざまな要素を考慮して、適切な戦術を作り上げていきます。

ですからコミュニケーションは欠かせませんし、最終的にはデータに偏重するのではなく選手の感覚を重要視することもとても大切だと考えています。

──選手と直接やりとりする場面も多いのですね。

そうですね、合宿の時などは私に選手が自身の考えを長く語ることもありますし、レース後には分析結果について詳しい意見を聞きにくる選手が多いです。「私はこうしたほうが今はいいと思っている。熊川さんはどう思いますか」という内容が主です。

選手たちが私に求めるものはあくまで「客観性」だと思いますので、主観的な話ではなくデータに基づいた会話を心がけています。チーム全体としてもオープンに対話ができる関係性ができていたと思います。

今回出場した中には中学生のころからサポートしてきた選手もいましたが、競技後にはメダルを持ってお礼に来てくれました。人間的にも素晴らしい、だからこそ私たちも全力で支えたいと心から思わせてくれる選手たちでした。

──4年後のミラノ・コルティナ冬季五輪に向けての目標は。

スピードスケート日本代表としては、今まで成績がいいときもあればよくない時もあって、現状では、強い日本が戻ってきた状態と言えるかもしれません。でも、私個人の夢としては、スピードスケート全種目で日本人選手が表彰台に立ってほしい。現実的ではないかもしれませんが、それくらい日本の総合力を上げていきたいですね。

そのためには、飛び抜けたスター選手が出てくるのではなく、強い選手を多く安定して育成する必要があると思っています。

──長期的な若手選手の育成は先生の研究分野にもつながりますね。

まずはスケートを競技として始める子どもたちを増やしながら、彼らを長期的にサポートして育てていく。それが10年、20年後に競技成績として結実すると考えています。次の大会、4年後の五輪というよりは、現在進めている長期育成型のサポートをこれからも継続・拡大していくことが今の目標ですね。

熊川教授の出身地でありスピードスケート選手を多数輩出する群馬県嬬恋村でジュニア選手の測定を行ってきた熊川教授の出身地でありスピードスケート選手を多数輩出する群馬県嬬恋村でジュニア選手の測定を行ってきた

──本学での研究活動についてもお聞かせください。

私個人としては現在、アスリートの競技力と体力に関する研究活動を進めています。これは、日本人が世界で勝つための新しい体力水準を構築するものです。

──「世界で勝つための新しい体力水準」とは、どのようにして求められるのでしょうか。

競技によっても変わりますが、世界でメダルを獲るために、持久力は、筋肉量は、ジャンプ力はどれくらい必要か、と体力項目を細分化し、競技種目ごとに男女に分けて研究していきます。

世界で戦う上でクリアするべき目標体力は時代によって変化しますし、子どもたちがトレーニングを積む明確な目標ともなります。膨大なデータが必要ですが、そのデータを整理しながら作っています。

──本学体育学部の学生らの教育・研究環境はいかがですか。

学生らも研究室で測定法を学びながら学内アスリートを対象にフィットネス測定評価を行っています。体育学部に関しては競技レベルの高いアスリートが学内に多くいるため、多種多様な選手のデータも蓄積できています。

またアスリートだけでなく、学内には選手や指導者、スタッフなどで世界と戦ってきた先生方も多いですから、そういった貴重な経験を学生が吸収できるチャンスを増やしていきたいと思っています。

私のゼミには、勉強したい、自分を高めたいという意欲が強い学生、自分から情報をつかみに行くエネルギーのある学生が多いと感じます。本学だからこそ学べるチャンスを最大限生かして、自分の力にしていってほしいですね。

──科学の側面からアスリートをサポートする人材は今後さらに必要とされてくるのではないでしょうか。

スポーツにおける科学サポートスタッフという職種は、まだ資格も少なくマイナーな面もありますが、最近は大学などにもアスリートをサポートするための科学部門を設けるところも増えてきました。

私自身は競技経験も指導経験もないまま、今スピードスケートの世界にいますが、国士舘に入学してスポーツ科学の勉強を始めたことがすべての始まりでした。選手やコーチでなくとも、日の丸を背負って世界と戦うことができる、そういう戦い方もあるということを、学生らにもぜひ伝えていきたいですね。

プロフィール

名前:熊川 大介(くまがわ・だいすけ)

国士舘大学体育学部/大学院スポーツ・システム研究科 教授

生年月日:1979年2月1日生まれ(43歳)
出身地:群馬県

 

教員情報:体育学部 熊川大介 教授

◆経歴 

 

2008年 国士舘大学大学院スポーツ・システム研究科博士課程修了 博士(体育科学)

2011年 日本スピードスケート連盟 スピードスケート科学スタッフ

     国立スポーツ科学センター スポーツ科学研究部研究員

     日本オリンピック委員会 強化スタッフ

2014年 日本スピードスケート連盟 スピードスケート育成スタッフ

2017年 国士舘大学体育学部/大学院スポーツ・システム研究科 准教授

2018年 日本スケート連盟スピードスケート 強化部委員/科学部門責任者

2022年 北京冬季五輪 スピードスケート日本代表(技術スタッフ)

2022年 国士舘大学体育学部/大学院スポーツ・システム研究科 教授

 

◆過去のインタビュー記事はこちらから

「目指せ!国士舘から世界へ」バックナンバー:
https://www.kokushikan.ac.jp/spokon/news/details_13190.html

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