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2023年07月25日

犠牲者ゼロを目指して【理工学部・横内基教授】

線状降水帯の頻発など、近年激甚化する自然災害に対し、国はさまざまな施策を講じています。国家プロジェクトである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で進められた「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の研究開発のひとつとして、国士舘大学、群馬大学、小山工業高等専門学校の合同研究チームが令和3年度から2年間、「地方・中都市を対象とする災害時最適オペレーションの開発」に取り組みました。研究代表の本学理工学部横内基教授に、研究開発について、そして防災と大学のこれからについて聞きました。(国士舘大学新聞編集部)

<令和5年6月14日取材>
本学防災・救急救助総合研究所の研究員でもある横内教授。専門は建築耐震構造、地域防災本学防災・救急救助総合研究所の研究員でもある横内教授。専門は建築耐震構造、地域防災
災害犠牲者ゼロの地域づくり

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、科学技術イノベーションを実現するために平成26年に創設された国家プロジェクトです。内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり、社会的に不可欠で、日本の経済・産業競争力にとって重要な課題を選定し、プログラムディレクター、予算配分を決定。そして、府省および産学官連携の下、基礎研究から実用化・事業化までの道筋、すなわち出口戦略を明確にして研究開発を推進することがこのプロジェクトの大きな特徴です。

 

私が研究代表となり、群馬大学・金井昌信教授、小山工業高等専門学校・飯島洋祐准教授の3名で組まれた合同研究チームは、平成30年度~令和5年度に推進された「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の中の「市町村災害対応」に参画し、令和3年度から2年間研究を推進しました。
洪水・土砂災害など、発生前に避難可能な災害において、地域ごとのリスクに合わせて避難エリアを判断し、自治体の的確な意思決定を支援する「市町村災害対応統合システム(IDR4M)」を活用し、災害時の市町村による状況把握から意思決定、伝達に加えて、それを受けた住民等の避難行動に至るまでの一連のオペレーションを円滑に発動できる社会システムの実装を目指しました。


国士舘チームが取り組んだ課題は以下の3つ。
①市町村の状況判断・避難支援対応のための庁内プロセスの構築
②意思決定・状況判断に必要な具体的情報を蓄積するプロセスの構築
③確実に住民等の避難行動につなぐリスクコミュニケーションプロセスの構築

 

そして今回研究の地として選出した栃木市は、豪雨や台風により近年に平成27年と令和元年、2度の被害を受けた地であり、私が以前から歴史的建築物の耐震研究や歴史的町並み・集落の防災研究に携わっている地でもあります。本研究の目標は、自治体の円滑な避難オペレーションにより「犠牲者ゼロ」を実現することにありました。そこで、IDR4Mを活用した自治体での初動対応体制の検証と並行して、河川や避難路の様子を確認できる地域コミュティ単位で導入しやすい価格のカメラと、それによる地域のリアルタイム情報を確認できるシステムを開発し仮実装しました。

  • 地域で監視したい地点の状況変化をリアルタイムで確認できるローカム地域で監視したい地点の状況変化をリアルタイムで確認できるローカム

また、自治体や自治会のリスクコミュニケーションプロセスの確立にも重きを置き、ワークショップやアンケートを通して地域特性に合わせた避難促進策を提案しました。自治体では水害時の避難と要支援者の支援方法について、リーフレットや説明会、研修会を通じて実効性のあるものに落とし込みました。住民の避難行動に重点を置いた理由として、優れたシステムがあっても住民が行動しなければ地域の災害予防力は向上しない、という考えがあったからです。

  • 市役所でのワークショップの様子市役所でのワークショップの様子
  • 自治会でのワークショップの様子自治会でのワークショップの様子
  • 自治会と作成したリーフレット(制作:群馬大学金井研究室)自治会と作成したリーフレット(制作:群馬大学金井研究室)
一体で取り組む地域防災

行政や住民などそれぞれの立場において、災害に対する意識改革の地盤固めができたのはひとつの成果です。

防災に関心を持ち主体的に動ける人がいる地域は、とても結束力が高く、災害時にも有効に機能します。災害頻発地域であれば防災意識が高く自発的に行動できる人も多いですが、水害や土砂災害が頻発する地域は国土の一部にすぎません。災害が稀にしか発生しない多くの地域において、水害時の避難を確実に成し遂げようとするのは極めて難しいというのが現実です。その土地それぞれの浸水想定や周辺の状況により避難の方法やタイミングが異なる中で、災害経験が少ない人々に対して、いざという時に理想的な避難行動を期待できないと考えています。

そのような地域で期待されるのが地域活動に積極的に関わるキーパーソンの存在です。キーパーソンは抽出するのではなく、自発的に活動できる人でなければ持続が難しいものです。キーパーソンがいない場合は、地元の防災士が担うことが理想ですが、それも不在の場合は研究者が地道に寄り添いながら機運を醸成して、リーダーを育み、パッシブ(受け身)からアクティブ(自発的)な地域にしていきます。地域社会がすぐに変わるものではないので、いかに持続していくかが大きな課題となります。防災の研究者として、地域の課題解決に向けて継続してサポートすることが使命だと感じています。

防災を謳う本学の役割

防災研究は極めて学際的な性質をもっています。人命救助、生活再建、コミュニティ維持のために文化を守ることなど、予防も含めすべての時間軸にわたるもので、防災対策に対応できる多様な学問分野が揃っているのが総合大学である本学の強みであり役割だと考えます。
また、私はゼミ生に実際のフィールドでの研究を推奨しており、外部から要請を受けた調査にも積極的な参加を促しています。専門分野の学修のほか災害ボランティア活動への参加など、大学時代の多様な経験を通して「自分はできる」という気持ちを高めることが、率先して人を助ける行動や勇気、研究への動機付けにつながります。

災害の危険性がある中で、正常性バイアスが働くことはごく自然なことであり、安全を考えて早期に水平避難を決断・実行することは難しいことです。
しかし、空振りを恐れず、不安を感じたら率先して避難する、高齢者に寄り添って避難を誘導するなど、その時々の状況を的確に判断して率先して行動できることが大切です。
そのためには、日頃から状況を判断できる知識、人を敬う心、いざという時のためのトレーニング、さまざまな人とのコミュニケーション、それらを備えることによって自己効力感が高まり、いざという時に行動できる勇気につながると信じています。「誠意・勤労・見識・気魄」のもと、専門分野+αとして防災を学ぶ本学の学生に期待しています。

今後災害に対する備えとして重要なこと

まず何よりも自分事として捉えることです。「対岸の火事」では決してないということです。単に災害といっても災害ごとに備えや対応行動は異なります。身の回りの環境で起こり得る災害を想像し、必要な備えを考えて欲しいと思います。
そして災害が迫っている場合、命を守ることをまず考えていただきたいです。そこで重要になってくるのが日々の心構えです。「普段やりもしないことをいざという時にできるわけがない」という自覚を持ち、心構えを怠らずに、時には訓練することも重要です。さらにいえば、日々の生活がすべて防災に資する知恵につながっています。防災と日々の行動とを紐づけて考えながら生活していただければと思います。

プロフィール

横内 基(よこうち・はじめ)教授

専門分野:建築耐震構造、地域防災、文化遺産の保存活用

理工学部建築学系/工学研究科建設工学専攻

日本大学 博士(工学)

 

 

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