理工学部の理路"

編集部: 国士舘大学理工学部の基礎理学系では、どのようなことを学ぶのですか?

 国士舘大学の理工学部は「理工学科」という1学科の中に、「機械工学系」「電子情報学系」「建築学系」「まちづくり学系」「人間情報学系」「基礎理学系」の6つの学系があります。この6学系の学びを有機的に結びつけ、一人ひとりが自分の将来を考えて、履修計画に沿って幅広く学べるようになっています。私はこの中で「基礎理学系」の学びを担当しています。
 「基礎理学系」は、これまで高校生の皆さんが学んできた数学、物理学、化学などの理数系科目を、より深く学んでいくところです。学びたい分野が決まっている学生は、その分野を中心に学ぶことができるし、もし途中で考えが変わっても、学びの分野を変えられるようになっています。幅広く学ぶもよし、1分野を中心にじっくり学ぶもよし、本人の希望に沿って柔軟に対応していきます。
 このような学びの方針から、「基礎理学系」には、理科や数学の教員を目指して入ってくる学生が多いように思います。そういう学生のために、たとえば1〜3年次にかけて、物理、化学、生物、地学すべての実験や演習科目が用意されています。3年次の科目は理科の4つある研究室のすべての学生が履修することになっています。卒業研究の前に、実際に手を動かす作業を経験してもらうことが目的ですね。4研究室の先生方が交代して、半年間、みっちり実験をやって、計器の使い方から数値の読み方まで、教員になるためには必須の基礎知識を身に付けていきます。こういう授業も含めて教員免許取得にもふさわしいカリキュラム構成になっています。

編集部: 先生はどのような授業をご担当されているのですか?

 私は専門が「岩石学」なので、授業は「地球科学A」「固体地球物質科学」「地学実験」といった科目を受け持っています。それと、3年生のゼミと4年生の卒業研究ですね。
 一般的に高校では、理系を目指す学生で「地学」を学んで来た人は少ないんです。大学で初めて学ぶ人が多いため、授業では高校の地学で習うような基礎的なことから学び直していきます。
 たとえば、地球の中がどうなっているかとか、科学者たちはどうやって目に見えない地球の内部構造を調べてきたのかとか。地球は完全な球体ではなく、重力も均一ではないことなど。それから地中の様子を調べるのに地震波を使うのですが、地震波は地中のどういう場所を通って、どういう場所は通らないかとか、こういう基礎的なことです。高校の物理や化学の授業で習ってきた内容が、どう地学と結びついているかということから学んでいきます。

編集部: 「岩石学」がご専門とのことですが、これはどのような学問なのでしょうか?

 ひとことで言えば、地球上にある岩石がどうやってできてきたかを解明する学問です。岩石学には大きく分けると「火成岩」と「変成岩」を対象にする分野があって、私は変成岩を専門に研究しています。
 変成岩というのは、岩石が地中に長いこと置かれた結果、再結晶したものなんですね。岩石はさまざまな鉱物が集まってできています。それが地中にあるうちに、温度や圧力の影響を受けると、結晶がより安定な形に変わったりするのです。だから、岩石の形を見ていくと、日本の地下でどのようなことが起きてきたかが分かるのです。どのくらいの温度だったとか、水がそこにあったかなかったかとか、岩石の履歴を見ていくといろんなことが解明できるのです。
 いま、人類は最新の機器を用いても、せいぜい10㎞ぐらいの深さまでしか掘ることができません。地中の奥深くにあるマントル層を見た人は誰もいないのです。でも、変成岩は地下深く、20㎞とか30㎞にあったもので、何千万年も前の情報を宿しています。地中深くから地表に出てくるまでの間、力を受けて変形したり、水にやられたりという事件がいろいろあって、それで今の石の形や模様になっている。石の中に、過去に地中深くで起きたさまざまな出来事の記憶が刻み込まれているのですね。一つひとつの石をコツコツ調べていけば、日本の地面の下で過去に何が起きたかを推理していくことができるのです。

編集部: なるほど、面白そうな学問ですね。でも、そんなに地下深くにあった石が、
なぜ地表に出てくるのですか?

 実は、そこのところはいろいろな仮説があるのですが、まだはっきりとは解明されていません。普通、地下50㎞も深いところにあるものは、よっぽどのことがないかぎり地上まで出てきませんよね。それがなぜ出てきたのか。マントルが対流することによってプレートが動き、その流れに乗って上がってくるという説もあれば、あるいは何億年も前に地下が過熱される大事件があって、その浮力で、そのへんにあったものが一気に地上に浮上してきたとか。いろんな研究者が調べ、シミュレーションしていますが、はっきりしたことはまだ分かっていません。
 でも、そこがある意味、岩石学の面白いところでもあるのです。数学とか物理学の分野にももちろん未解明の領域はありますが、少なくとも大学の学部生レベルの研究で、新しい理論を提案するところまで行くのはなかなか難しいことです。でも、岩石学などの地球科学は違います。本当にまだ分かっていないことが多いのですね。だから、学部生が半年ぐらい観察するだけで、新しいことが見つかることもあります。去年学んでいた学生も、新しい発見をしました。「先生、この石、こんなになっていますけど」って。「あ、これすごいじゃない」というように、まだまだ新発見の余地があります。そこがこの学びの楽しいところですね。

編集部: 学生たちは、普段どんなふうにして地学を学ぶのですか?

 たとえば、大学2年生を対象にした「地学実験」という授業があります。理科の先生になるための必修科目ですが、今年はこの授業の前半では石の観察を、後半では古環境の復元をやります。
 石の観察は、火山によってできた「火成岩」という石を使います。まずは肉眼やルーペで石をよく見て、どんな色をしているか、石の中に入っている模様やツブツブの大きさなどを観察してスケッチします。それから次に石を薄くスライスして、その表面を紙ヤスリで研磨して、ひたすら薄くしていきます。なかなか根気のいる手作業ですが、科学の研究にはこうした地道な作業も必要になってきます。
 ちょうどいい薄さまで磨けたら、今度は顕微鏡を使ってそれを観察します。地上に流れ出た溶岩が固まってできた石と、地表には出ずに地下でゆっくり冷えた石とではどう違うのか。組織とか、粒の大きさとか、並び方とかを細かく比較して、両者の間にどういう差異があるのかを見ていきます。
 また、学期の後半には多摩川に野外実習に行きます。関東平野には、約100万年前には海の底だったような地層が多く分布しています。だから、貝の化石がたくさん見つかるのですね。そこから観察できた貝の化石を図鑑で調べて、どの種類の貝が何個あったとか、どういう深さにいる貝なのか、現在だとどこの海にいるものなのかなどを調べていき、グラフにしていきます。また、その部分の地層を作っている砂等の粒子もよく観察します。水は流れが速いほど大きな粒子を運べます。ですから、粒子の大きさの分布から、そこが海の中でもどのような場所だったか、たとえば波や水流の影響が大きい場所だったとか、静かな深い海底だったとかを推定することができます。
 石の観察も、古環境の復元も、一つひとつ証拠を積み重ねて事実を明らかにしていく地道な作業ですが、科学的なアプローチには欠かせない大切な手順です。毎年「この授業が面白かった」といって、地学のゼミに来てくれる学生が結構います。

編集部: そこから3、4年生のゼミの学びや、卒業研究へと進んでいくのですね。

 そうですね。私のゼミの3、4年生は、毎年春になると埼玉県の長瀞に巡検(地質見学)にいきます。また、研究に使う岩石試料を薄片にする技術も身につけていきます。機械を使って薄くスライスし、ガラスのプレートに貼り付けます。それをさらに研磨機にかけて、もっともっと薄くしていきます。最終的な厚みは30ミクロン程度です。そこまで薄くしていくと、石でも透過光を使って顕微鏡で組織を眺めることができるようになります。
 そこで我々が何を見ていくかというと、変成岩の中にどんな結晶ができているかです。たとえば、ザクロ石はある程度温度が高かったことの証明になる鉱物で、変成岩の中にザクロ石が見つかると、そこはかつて少なくても500℃近くになったことがあると考えるわけです。群馬県から埼玉県の秩父あたりの一帯を見ていくと、ザクロ石の出るエリアと出ないエリアがあり、ちょうど私たちが調査している荒川の川岸あたりがその境目に位置しています。
 そこを詳しく調べていくために、この一帯の岩石が露出している部分の地図に、採集したサンプルの位置をプロットしていきます。たとえばどこでザクロ石が出て、どこで出なくなるかなど、精度を上げて科学的に調査するためです。ここ何年かの卒業研究で、毎年一人ぐらいはこのテーマに取り組んでくれています。ですから、データも1回の卒業研究のものではなく、6人分ぐらいの集積になっています。この春も採集に行きましたが、今回はいままでより少し範囲を広げて採ってみました。
※長瀞渓谷は国指定の名勝・天然記念物になっているので、許可なく採集できません。
 採集するエリアは保護区域に指定された区域外です。

編集部: 地学のような基礎理学の学びは、どのようなことの役に立つのでしょうか?

 役に立つというのは、社会にとってという意味でしょうか? それでいうなら、地学の場合は災害の面で役に立つことがあると思います。変成岩を調べていくと割れた跡が見られることがあって、それが大きくずれれば断層になります。岩石が地中で力を受けたときに、どういうふうに割れるかということは、地震や火山の研究につながっていきますね。ただ、直接何に役立つかということよりも、「知りたい」ということの方が研究の理由としては大きいと思います。なぜこの石はここにあるんだろう、なぜこんな形をしているんだろう、こういう分からないことを知ろうとする思い、好奇心が科学をここまで発展させてきたのだと思います。
 もう一つ、学生にとっては、論理的な思考が培われるという面で役立つように思います。科学は一つひとつの現象をよく観察し、事実に基づいて何が起きたのか、その裏にはどんな原理が働いているのかを調べていく学問です。謎を解明するためには、サンプルをひたすら採集して調べるような地道な作業も必要です。仮説を立て、観察や実験をし、検証した結果をフィードバックして仮説を立て直す、この繰り返しが科学的思考です。こういった事実を着実に積み上げていく物事の考え方を身に付けておけば、社会に出て必ず役に立つと思います。

編集部: 最後になりますが、基礎理学系の学びを通して、
どのような人材を育成したいとお考えですか?

 今まで話してきたことと重なりますが、たとえば理科の教科書に載っているようなことを明らかにするためには、ものすごく面倒くさい研究をみんながやってきているんですね。石をスライスして、薄くなるまで研磨して、顕微鏡で一つひとつ観察して、記録して。その同じことを何回も何回も積み重ねていくわけです。しかも、せっかく苦労して測ってみたのに、すでに測っていた人が前にいたりして、努力が水の泡になることもしばしばあります。また、そのように苦労して研究した結果、分かったことはほんの些細なことだったりもするのです。研究をするのは本当に面倒くさくて大変なことです。でも、そういう大変なことの積み重ねの上に、少しずつ進歩してきて、今の科学があるわけです。ここで学んだ学生には、ぜひ“科学の正しい手続き”や“本当の知識”をリスペクトできる人になってもらいたいと思っています。
 理科の先生になる人にとって重要なのは、例えば将来理科の教科書に書かれている理論が変わるかもしれない、それをまた勉強し直して理解し、きちんと教えることができなければならない、ということです。学びは生涯続きますし、一度科学的な考え方を身につけておくと、理論がなぜ変わったかも自分で調べることができる、深い理解ができる人になれると思います。理科の先生になる人はもちろんですが、公務員になるにしても、企業人になるにしても、基礎理学系の学びを通して科学の正しい手続きの思考を身に付け、物事の真偽をきちんと見分けられる人になってほしい。その物事を見極める力は、社会に出てからいろいろな面で、必ず役に立つと思います。

乾 睦子(いぬい むつこ)教授プロフィール

●博士(理学)/東京大学大学院 理学系研究科 地質学専攻 博士課程修了
●専門/岩石学