21世紀アジア学部の充実

編集部: 21世紀アジア学部で、学生はどんなことを学ぶのでしょうか。

 21世紀アジア学部は、2002年に新設され、2017年に15周年を迎える比較的新しい学部です。この学部のミッションは、「異文化理解を深め、現代アジアで活躍できる国際感覚を持った人材」を育てること。アジアというフィールドに軸足を置いて、言語、文化、政治、経済、ビジネスなどを幅広く学び、自分自身の問題意識を深掘りしていきます。
 学びは3つのコースに分かれていて、ひとつは「交流アジアコース」。これはアジアのさまざまな社会・文化を学び、アジアとの付き合い方を身につけるコースで、日本語教員になるための科目が充実しているという特長があります。
 2つめは「アジアビジネスコース」。アジア・ビジネスの基礎を学ぶコースですが、このコースで面白いのは、私も関わっている「グローバルビジネスプログラム(中国):BM5年一貫制」という独自の制度があることです。これについては、後ほど詳しくご説明します。
 3つめは「アジア探究コース」。アジア地域の社会・文化・歴史を深く理解していくコースですが、面白いのは文化遺産に関する科目が充実していること。世界遺産の保全に関わる資格などを目指すことができます。
 従来の政治学、経済学、経営学、文学といった枠組みを超えて、総合的にアジアについて学び、成長著しいアジアを舞台に国際的に活躍できる人材を育成することを、21世紀アジア学部は目標にしています。

編集部: 先生が関わられている「グローバルビジネスプログラム」とはどのようなものでしょうか。

 これは2006年に「アジアビジネスコース」の中に新設されたユニークな学びのプログラムで、通称「BM5(ビーエムファイブ)」と呼ばれています。なぜ「BM5」かというと、5年間で学士号(Bachelor)と修士号(Master)の両方が取れるからです。つまり、通常だと6年かかるところを、5年で大学院まで修了できるのです。さらにユニークなのは、最大2年半までの留学制度が含まれていること。「BM5」に進んだ学生は、1年生の春学期にほとんどの必修科目を終え、秋学期から中国の大連外国語大学漢学院に留学します。留学期間は最長2年半。現地に住んでしっかり語学を学び、さまざまな国の学生と交流したり、インターンシップで学んだりして、学生生活を送ります。留学先で取得した単位は国士舘大学の単位として認定されます。貴重な経験を得られるのでできれば2年半まで挑戦して欲しいですが、1年間で切り上げて日本に戻り、4年間で大学を卒業することも可能です。「BM5」は自分自身の夢や進路、やりたいことに合わせて留学期間を選び、卒業の仕方も選べる、極めて自由度の高いプログラムです。5年間で修士まで取得するには、それなりの頑張りが必要ですが、やればやっただけのことはある、価値ある学びのプログラムだと思います。

編集部: 「BM5」で中国に留学した学生は、やはり成長して帰ってきますか?

 それはもう、全然違いますね。「BM5」で中国に留学した学生は、精神的にも大きく成長し、逞しくなって帰ってきます。そして、中国語のスキルも驚くほど向上します。留学する前に、学生には中国語検定「HSK」の5級(中国語でスピーチできるレベル)を目指すようにいっています。中国語検定は英検と違って最高が6級なので、5級といえばかなりのハイレベルです。にもかかわらず、向こうに行った学生のほとんどが最高の6級(意見などを口頭や書面で表現できるレベル)を取って帰ってきます。
 また、留学先の大学は、21世紀アジア学部の町田キャンパスと衛星回線を使ったテレビ会議システムで直結しています。この回線を使って週に一度、ゼミの授業も行っています。この授業を通して教員は、毎週学生と顔を合わせて話せるので、現地での学生の状況を常時把握することができます。
 授業以外にも、留学先の現地には、生活面の相談や病気やケガなどの不測の事態に対応できるスタッフが常駐しています。私ども教員と現地スタッフが密に連携を取りあい、学生たちを常に見守っていますので、安心して留学していただけます。
 この「BM5」のプログラムは今年で記念すべき10年目ですが、年々人気が高まってきて、現在25名の学生が大連に留学して学んでいます。現地での留学の様子がどんなものかは、実際に「BM5」を選択した学生に聞くのがいちばんです。
興味のある方はこちらをご覧ください。

編集部: 21世紀アジア学部には、留学生に向けたユニークな研修があるとうかがいました。
これはどのようなものですか?

 それは外国人の留学生に向けて行う日本研修ですね。ここ5年ほどは温泉地の草津に泊まりがけで行って、日本の文化や風習を学んでもらっています。留学生たちは、湯もみや浴衣などを体験し、温泉街を自由に歩いてフィールドワークします。同時に、外国人の視点で草津を見て、観光地としての課題を抽出し、町の人に向けて提案するということもやっています。年ごとにインバウンドの観光客が増えているため、草津の町にとっても役立つ情報が提供できればと思っております。
 21世紀アジア学部は、とにかく外国人留学生が多く、キャンパスは国際色にあふれています。私のゼミにも留学生がいて、彼らと友だちになれば語学も教えてもらえます。日本から留学した学生と、外国から来た学生がお互いに学びあい、刺激しあい、良い相乗効果が生まれています。また、語学の授業も幅広く用意され、英語はもちろんのこと、第二外国語として、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語、ロシア語、アラビア語、ビルマ語、トルコ語が学べます。3年間、週3回みっちり学ぶので、しっかりと身につきます。語学は外国語大学なみに充実していると思います。

編集部: 先生は21世紀アジア学部で、どのようなことを研究されているのですか?

 私は経営戦略論が専門で、その中でも「事業撤退」という、ちょっと変わった分野の研究をしています。「撤退」というと普通はマイナスに捉えられがちですが、私が研究しているのは「創造的撤退」というものです。ある事業分野で失敗をするけれど、そこで培った知見を別の分野の市場に転用して、見事に成功を収めるケースがあります。それを「創造的撤退」という言葉で私は呼び、博士論文を書きました。
 事業を継続している企業にとって、撤退するのは非常に難しいことです。なぜなら成功体験が邪魔をしてしまうからです。ギャンブルも同じですが、一回大当たりを出すと、そのときの経験が忘れられずに、ズルズルのめり込んでしまい、引き際を失うことがあります。また、「サンク・コスト効果」といって、それまで注ぎ込んできた投資を無駄にしたくないという心理も働きます。「ここで撤退したら、いままでの投資が水の泡だ」となるのです。こういった要因が企業の撤退を難しいものにしているのです。
 しかし、中にはキラリと光る「創造的撤退」の事例もあります。たとえば、最近では,写真用のフィルムを作っていたメーカーのケースが近いです。デジタルカメラの急速な普及で、写真フィルムは一気に需要が落ちました。事業としてほぼ撤退に近い状態でしたが、この企業はその技術を他分野に応用して成功を収めました。それは化粧品の分野でした。実は写真フィルムの原料は、タンパク質のひとつであるコラーゲンだったのです。コラーゲンを主成分とする薄膜の中に、さまざまな有用成分の粒子が載せられているのが、写真フィルム。この企業はフィルム事業が縮小する中で、第二創業を宣言し、コラーゲンとナノ化技術を新分野である化粧品に投入して、大成功を収めたのです。
 事業がうまく行かないとき、ただ「赤字だ、失敗だ」と落胆し、落ちこんでしまうと、その先うまくいきません。そうではなく、たとえ失敗してもそこで頑張ったものは知識として残るはず。それを他分野に転用し、活かして行けば、活路が見いだせることもある。「創造的撤退」の考え方は、企業だけではなく、個人にも応用できると考えています。失敗をどのようにして次の成功につなげていくか。この視点があれば、失敗を恐れずに、さまざまなことに挑戦できると思います。

編集部: 先生はどのような授業を担当なさっていますか?

 私が担当しているのは、主に「経営戦略」や「ビジネスコミュニケーション1・2」などといった、経営学系の授業です。「経営戦略」では、具体的な企業を取り上げて、理論と事例を提示して講義を進めていきます。講義だけだと実感が湧かないので、最終的には学生のみなさんに、どこかひとつ実際の企業の経営者になったつもりで、講義で身につけた知識を使って経営戦略を策定することをやってもらっています。理論を事例で裏付け、それを実際に応用して、経営戦略を策定することで、科目で学んだ内容をしっかり身につけてもらいます。

編集部: 経営戦略のゼミで、学生はどのようなことを学ぶのですか?

 ゼミでは、経営戦略論を通じて各自が論理的思考を鍛えることを目的としています。テキスト形式の発表もやりますが、ケーススタディを重視して、実際にあった事例を取り上げ、それについて論理的に考察を深めていくことをやっています。たとえば、ある企業の業績が低迷したとして、なぜ業績が悪化したのかをチームに分かれて考えてもらいます。その際、問題意識、リサーチクエスチョン、仮説を導き出し、検証していくという段階を踏んでもらいます。高校生までなら“調べる”だけで十分でしょうが、大学は違います。調べたことをまとめた上で、自ら問いを見つけ、検証していく能力が求められます。「なぜ競争逆転を許したのか」「なぜ持続的成長を遂げているのか」、こういった「なぜ」や「どうして」という疑問を発見することで、論理的思考が磨かれます。これは社会に出て最も必要とされる能力なので、学生のうちにぜひとも身につけさせてあげたいと思っています。

編集部: 21世紀アジア学部の中で、経営戦略の学びを通して、
どのような人材を育成しようとお考えですか?

 21世紀アジア学部のミッションは、いうまでもなくアジアを舞台に活躍できる優れた人材の育成です。しかし、私はここにプラスアルファとして、「失敗を次の機会に活かせる人材」を加えたいと思います。撤退する市場で培った知識を次の市場で活かす「創造的撤退」の考えは、人にも当てはめることができるからです。失敗を糧にして、次に活かしていける人間を育てたいと思っています。
 21世紀アジア学部は、とにかくユニークな学部です。キャンパスを飛び出して見聞を広め、他国の人と交流して異文化を理解し、視野を広げるチャンスがたくさんあります。視野が広がれば、いろんなことに挑戦したくなるでしょう。ただし、挑戦には失敗がつきもの。やってみて、うまく行かなかったとき、「自分はダメだ」と落ち込んでしまっては意味がない。「創造的撤退」の考え方は、こんなときこそ役立つのです。
 たとえば「英語の教師になりたい」という夢を持った人が、失敗して挫折したとします。でも、英語の先生を目指したぐらいだから、その人の英語力は高いはず。その知識を別の方向に活かせばいいのです。たとえば英語力を活かして、ツアーコンダクターになれるかもしれない。翻訳家の道も開けるかもしれない。いや、もしかすると英語で落語をやって外国人を笑わせ、海外で大成功する可能性だってゼロではありません。こうやって失敗しても次に活かせるとなれば、そもそも「人生に失敗はない」といえるのかもしれない。どんどん新しいことに挑戦して、失敗してもへこたれず、次の挑戦へ向かっていける。そんなしなやかな強さを持った、逞しい人材を、21世紀アジア学部の学びを通して育てていきたいと思っています。

榊原 一也(SAKAKIBARA Kazuya)准教授プロフィール

●博士(経営学)/中央大学大学院 商学研究科博士課程後期課程修了
●専門/経営戦略論(キーワード:戦略的事業撤退、ダイナミック・ケイパビリティ、戦略形成プロセスなど)