自分の足で歩き、確かめてこそ、見えてくるものがあることを、この地理実習は教えてくれた。

 沖縄本島のはるか南方、宮古島の西に、多良間島はある。東西6㎞、南北4.5㎞の小さな島で、人口は1500人にも満たない。この島で8月21日から26日までの6日間、私たち文学部史学地理学科「地理・環境専攻」の学生は、地形や土地利用などの現況調査を行った。参加者は4年生が2名と、3年生が2名。4年生は、この調査に基づいて卒業論文を作成することになっている。今回のフィールドワークでは、多良間の豊かな海に広がるサンゴ礁と、島の土地利用の現況を調査した。村営のコテージを宿舎とし、4年生を中心に海と陸の2班に分かれて作業に出発した。


 海ではサンゴの調査を行った。訪れる観光客の少ない多良間の海には、手つかずのサンゴ礁が残っている。その状況を調べるために、4年生がリーダーとなり、先生の指導のもとに海に入った。まず、先生が先頭に立って観察ポイントを見つける。そこに測深ポールを立てて水深を測り、次のポイントまでの距離をメジャーで測定する。同時に海の中に潜って、海底のサンゴの様子を観察する。観察し測定したデータはすべてメモに書き取り、記録に残していく。1回の観察で進む距離はおよそ10メートル。それを沖合のサンゴ礁が終わる地点まで続けていく。巾1キロメートルのサンゴ礁であればおよそ100回、同じ観測作業を繰りかえす。地点によっては足が立たない場所もあり、その場合は立ち泳ぎをして調査を続けなければならない。現況調査は体力勝負だということをあらためて思い知った。



 一方、陸の調査もラクなものではない。自転車に乗って島を巡り、区画ごとに土地利用の状況を調べていく。サトウキビ畑の1年もの、2年もの、牧草地、放牧場、何もない裸地など、つぶさに記録に残していく。調査の目的は、琉球諸島の大正期から平成期にかけての土地利用の変化を明らかにすることだ。多良間島のような山のない低島と、石垣島のような山のある高島で、土地利用の変化にどのような差違があるのか。比較するさまざまな資料の一部として、今回の調査を役立てようと考えている。真夏の陽射しを浴び、汗だくになりながら、自転車で走り回るのは、思いのほか体力を消耗する。調査を終え、宿舎に戻る頃には、心地よい疲労感に包まれていた。

 地理学と聞くと机上の学問のように思われがちだが、私たちが専攻する長谷川ゼミでは、現場でのフィールドワークを重んじている。地理学の基本的な素養を、身をもって体得するためにだ。現況の調査など、地理学的な訓練を積んでこそ、はじめて見えてくる現象があるという。


 また、自分の足で情報を集め、解析し、「そこで何が起きているか」「背景に何があるか」を考え、結論を導きだす、このような経験が活かせるのは、地理の分野だけではない。社会に出れば多くの企業が、自分の力で情報を集め、問題を解決できる人材を求めている。このフィールドワークの貴重な体験を通して、私たちは人生に役立つ大切なスキルを学ぶことができたと思う。

 いま、二酸化炭素の増加による地球温暖化など、環境問題に世界の注目が集まっている。環境問題は単なる自然の問題ではなく、社会全体の仕組みの問題でもある。現況調査などの地道な活動に基づき、現場で何が起きているかを知り、身近な問題として環境問題に取り組んでいくことが、私たち「地理・環境専攻」を学んだ者の使命だと感じている。将来は国士舘での学びを活かし、環境関連の企業や団体に入って、社会に貢献できればと願っている。


文学部地理・環境専攻4年 伊藤 恵里子 (東京都/都立国分寺高等学校)
大学に進むとき、将来人の役に立つことがしたいと考え、それで環境を学びたいと思って史学地理学科を選びました。長谷川先生のゼミに入ったのは、先生の人柄にひかれたことと、自分の一番やりたい分野だったからです。いま、卒論を書くために、琉球諸島の土地利用の変化を調べています。山のある高島と多良間のような低島では、土地利用の変化に違いがあるはずだという仮説を立てて、それをさまざまな資料や調査から実証しようとしています。こういうフィールドワークは学生では滅多に経験できないので、非常に役に立つ力が身につきます。卒業後は、北海道の地図会社に就職が内定しています。自分の専門が生かせる仕事に就けたので、これからも自分を磨き上げていきたいです。
文学部地理・環境専攻4年 柳沢 康二 (山梨県/県立北杜高等学校)
小さい頃から地理が得意で、将来は地理か社会科の先生になりたいと思っていました。中学のときに、素晴らしい先生に出会い、高校でもいい地理の先生に恵まれて、それで教員への思いを強くし、教員免許が取れるこの学科を選びました。長谷川先生のゼミを選んだ理由の一つは、やはり人柄ですね。教授なのに人間味があって、親しみやすく、僕にとっては、「大学のお父さん」のような存在です。また、山梨県でずっと山に囲まれて育ってきたので、海への思いもありました。長谷川先生はサンゴ礁を専門になさっているので、それでこのゼミを選択しました。自分の好きな分野を学び、将来、その知識を子どもたちに教えられたらいいなと思っています。
文学部地理・環境専攻3年 根岸 暢 (東京都/都立砧工業高等学校)
小さい頃からボーイスカウトの活動をやっていました。中学3年とのきにその活動でグアムに行き、初めてサンゴ礁というものを目にしました。そして、あまりの美しさに感動し、環境問題に興味を持つようになったのです。進学のときも、サンゴ礁の研究ができる大学を探しました。で、長谷川先生のことを知って、国士舘の「地理・環境専攻」に進むことになりました。今回参加してみて、フィールドワークは体力勝負だなということを実感しました。これからも、できる限り多く海に入っていきたいですね。地球温暖化の影響で水温が上昇し、各地でサンゴ礁が大きなダメージを受けています。将来は、サンゴ礁の保全活動を仕事にしたいと思っています。
文学部地理・環境専攻3年 松本 奈津美 (北海道/北海高等学校)
高校のときに地理出身の先生に教わって、授業がすごく面白かったんです。それで将来は地理を学べる大学に進みたいと思いました。先生に相談したら、地理の何がやりたいんだと言われ、「地形がやりたい」と答えたら、だったら国士舘がいいぞと勧めてくれました。それでオープンキャンパスに来て、長谷川先生にお話をうかがい、国士舘に入ろうと決意しました。今回、初めて本格的なフィールドワークに参加しました。卒論のためにどんなことをやるのか、見学のつもりで来たのですが、あまりの海の美しさに感動しました。私は泳ぐのが苦手で、卒論は北海道をやろうと思っていたのですが、真剣に泳ぎを練習しようかなと思いました。将来は、出版社で編集の仕事をしたいと思っています。
(学年は2009年9月時点 学年・名前50音順)