栃木県那須郡那珂川町、四方を美しい山並みに囲まれたこの土地で、私たち「考古・日本史学専攻」の学生はこの夏も考古学実習を行った。夏休みの30日間、宿舎に泊まり込んで調査したのは、国指定史跡「那須官衙遺跡」や「新屋敷古墳」などだ。那須は奈良から平安時代にかけて、関東以北への交通の要所として栄えた。この土地からは当時の役所跡や古墳など、貴重な遺跡が数多く出ている。

 「発掘調査」の面白さ、それは「発見」することの面白さに他ならない。たとえばいま発掘中の官衙遺跡から、ある大きな建造物の遺構が発見された。出土した瓦の裏に朱色の塗料跡があったことから、全体を朱に塗った見事な建物であることが分かった。初めは政庁などの施設かと思われていたが、調査が進むうちに、全国でも例を見ない大型の倉である可能性が高まってきた。郡の役所にある大きな倉庫、当時そこには穀物がぎっしり詰まっていたに違いない。飢饉を迎えた年、朝廷はその倉の扉を開き、人々に食糧を与えたことだろう。目抜き通りに建てられた立派な朱色の倉は、民の守護・安心の象徴として、朝廷の威信を見せつけるかのごとく、この地に建っていた。そんな壮大な歴史のロマンが、発掘調査の地道な作業から甦ってくるのだ。

 

 連日30℃を超える猛暑の中でのフィールドワークはかなり体力を消耗する。それでも皆目を輝かせ、ひたむきに作業に取り組むのは、まさにこういった歴史的事実との夢のような出会いを期待するからだ。いま掘っている土の数センチ下に、千年以上も昔の人々の暮らしが埋まっているかもしれない、そう思うだけで胸がドキドキする。実際に私たち学生が発掘している石室からも、昨年は二振りの太刀とガラス玉が、そして今年は須恵器の大瓶が出土した。詳しい分析はこれからだが、新しい歴史的な発見も期待されている。

 考古学専攻で、1年次から考古学実習に参加できる大学は少ない。生の遺跡に触れる感動、これこそが国士舘大学文学部の「考古・日本史学専攻」の醍醐味だと思う。また、炊事洗濯から掃除まで、すべて学生の手になる共同生活は人生の得がたい経験となっている。


 そして、近隣の人たちとの交流も、大切な勉強のひとつだ。地元の人々の協力があってこそ、発掘調査が続けられることを先生から何度も聞かされた。実際、OBが学芸員として活躍している「栃木県立なす風土記の丘資料館」が実習を支援してくれている。また、発掘現場で作業をする私たちのために、わざわざ採れたての野菜や果物を持ってきてくださる人もいる。挨拶をすること、感謝すること、礼儀を尽くすこと。人との付き合い、思いやりなど、社会人としての基礎もこの合宿でしっかり身についてくる。

 考古学の知識や技術を身につけるだけがこの実習の目的ではない。人間として成長するために必要なさまざまなことを、現場の体験を通してリアルに学ぶことができる。発掘調査を通して私たちが掘りおこしているもの、それは自分自身の可能性という宝物なのかもしれない。


文学部 史学地理学科 考古・日本史学専攻
2年生 安齋 貴子 (福島県/県立会津学鳳高等学校)
子供の頃から世界遺産が好きでした。母がパートで発掘の仕事を手伝っていたこともあり、身近な遺物に興味を持つようになりました。寺を見ることも好きで、よく京都に行きます。発掘調査をしているとき、その時代の地面に触れているのだと思うと、なんともいえない感慨があります。将来は学芸員になりたいと思っています。
2年生 石井 裕輔 (茨城県/水城高等学校)
小さい頃から化石が好きで、ぜひ発掘調査をやってみたいと思っていました。受験では、国士舘の文学部一本に絞りました。発掘調査の実習は、何も出ないことの方が多いのですが、出たときの喜びは大きいですね。将来は夢を追って、学芸員になるとか博物館に勤めるとか、そういう仕事につきたいと思っています。
2年生 杉山 貴文 (神奈川県/藤嶺学園藤沢高等学校)
日本史が好きで、考古・日本史学を専攻することにしました。とくに近現代史に興味があります。1年のときは先輩にいわれた通りにやっていただけですが、2年になって自分で考えながら発掘調査をやるようになりました。何か出たときは、やっぱりドキドキしますね。将来は公務員を目指しています。
1年生 五十嵐 香織 (茨城県/県立磯原高等学校)
高校1年生のときの世界史の授業が面白くて、考古学をやりたいと思うようになりました。オープンキャンパスで、1年生から実習で発掘調査ができると聞いたので、国士舘を選びました。いまちょうど穴を掘っているところですが、楽しいですよ。将来のことは分かりませんが、大学で4年間、いまやりたいことをやろうと思っています。
1年生 大塚 涼子 (茨城県/県立土浦第二高等学校)
昔から日本史が好きで、テレビの歴史番組などをよく見ていました。高校になってから考古学に興味を持ち、この道に進みたいと思って、考古学を勉強できる大学を探して、国士舘の文学部に入りました。集団生活はそれなりに大変ですけれど、でも大丈夫。地元の方の差し入れてくださったものを使って、先輩に教わりながらご飯を作っています。
1年生 小林 愛美 (埼玉県/県立越谷西高等学校)
子供のときからピラミッドなどが好きで、考古学に興味がありました。世界にもあるのだから、日本にもきっといい遺跡があると思って、いつか掘ってみたいなと考えていました。1年生から実習で発掘できるのが良かったので、国士舘の文学部を選びました。在学中に学芸員の資格を取って、将来は博物館で仕事がしたいと思っています。
1年生 原田 祥太郎 (東京都/杉並学院高等学校)
日本史は小学校の頃から好きでしたが、高校の授業でもっと好きになりました。国士舘は長期の合宿があって発掘調査できると聞いていたので、魅力を感じていました。実際にやってみて、すごく楽しいですね。これから知識を増やして、道具の使い方など勉強していたきいと思っています。初めて親元を離れての集団生活も、いい経験になりますね。
1年生 平川 友哉 (静岡県/磐田東高等学校)
昔から日本史が好きで、社会科の先生になりたいと思っていました。発掘実習はまだ始まったばかりですが、移植ごてを使って、古代の溝の跡をキレイにする作業をしています。自分たちで食事を作ったりするのが、結構たいへんですけど、いい経験になりますね。
(学年・五十音順/学年は2008年9月時点)