国士舘大学経営学部経営学科を卒業した佐藤湧さんは、昨年の夏に受験した公認会計士の試験に合格し、超難関の国家資格を取得しました。ゼミの先生と仲間のサポートに支えられ、夢を実現することができたという佐藤さん。大学の学びと公認会計士の勉強を両立させた4年間が、自分を大きく成長させてくれたと語ります。恩師である三谷先生との対談で、少人数制ならではの経営学部の学びについてご紹介します。
大学での学びについて
- 編集部
- まず、三谷先生にお伺いします。先生はどのような分野の研究をなさっているのですか?
- 三谷
- 経営学部での私の専門分野は管理会計です。会社の中で使われている会計情報に関することを研究する学問ですね。会社を経営する上で、業績を評価する指標など、さまざまな数字や情報が使われています。そういうものがどのように経営の意思決定に関与しているかといったことを主に研究しています。
- 編集部
- 学生たちは、ゼミで管理会計のことを学んでいるのですか?
- 三谷
- いえ、ゼミでは管理会計まではやりません。ゼミでやっているのは企業分析です。一般に公開されている有価証券報告書を見ながら、その会社の売り上げがどうなっているかとか、貸借対照表の科目がどうなっているかとか、学生には会計の数字を追いかけてもらっています。
- 編集部
- ゼミの授業は、何人ぐらいでやっているのですか?
- 三谷
- 学生の人数は年によって違いますが、だいたい10人ぐらいですかね。それを3〜4人のグループに分けて、毎週発表してもらっています。たとえば、この企業の売り上げは何でこうなっているんだろうとか、先輩が残してくれたものを参照しながら、学生たちが自ら考え、会計の数字を分析して、その結果をゼミで発表します。佐藤さんのときはちょっと少なくて5人だったよね。
- 佐藤
- はい、5人でした。
- 三谷
- 5人を2グループに分けたので、佐藤さんはもう1人の学生とペアでした。
- 編集部
- 佐藤さんに伺いますが、なぜ国士舘大学の経営学部に入ろうと思ったのですか?
- 佐藤
- もともと大学を受験するときに、経営学部に入りたいと思っていました。卒業後、みんなどこかの会社に就職するわけでしょう。そのとき、いちばん役に立つのが経営学だと思ったんです。その中で、自分の力で行ける大学はどこだろうと探して、国士舘大学を受けることになりました。
- 編集部
- 佐藤さんは高校ではどんな生徒でした。猛烈に勉強するタイプだった?
- 佐藤
- いえ。どちらかというと、毎日遊びほうけていた方ですね。部活も中学・高校の6年間、ずっと帰宅部でした。勉強も含めて、何かに真剣に打ち込んだことはなかったですね。
- 編集部
- でも、佐藤さんは昨年、公認会計士の試験に合格されましたよね。公認会計士といえば、超難関資格のひとつです。それほど勉強に打ち込んでいなかった佐藤さんが、なぜ公認会計士の試験にチャレンジしようと思ったのですか?
- 佐藤
- 僕の上にも兄弟がいますが、大学に行ったのは自分が初めてだったので、大学に行って、資格も何も取らずに4年間遊んで暮らすという選択肢は、僕の中にはなかったですね。何か絶対に将来に役立つ資格を取らなきゃという覚悟はありました。で、調べてみたら、経営学部で目指せる資格のうち、いちばん難しいのが公認会計士だった。それで、時間の余裕がある大学生のうちにチャレンジしてみようと思ったんです。
公認会計士を目指して
- 編集部
- そうはいっても公認会計士の試験は、難関中の難関といわれています。しかも、佐藤さんは卒業した年に合格したんですよね。すごいことだと思います。どうやって勉強されたんですか?
- 佐藤
- 実は、卒業までに資格を取るという思いはあったんですが、大学に入った時点では、絶対に公認会計士になるぞっていう気持ちはなかったんです。なんとなく取れたらいいなぐらいに思っていたし、そんなに難しい試験だということも正直いって知りませんでした(笑)。
- 編集部
- で、どうやって勉強したんですか。確か、大学3年生のときに一次試験に合格したと聞いていますが。
- 佐藤
- 公認会計士の試験に受かるためには、予備校に入る必要があるという情報は得ていたので、大学1年生のときにがむしゃらにバイトしました。学費がだいたい百万円だったので、1年間で百万円貯めようと思って。もう寝る間も惜しみましたね。それで大学2年の6月から予備校に通い、ダブルスクールになりました。
- 編集部
- ダブルスクールとは?
- 佐藤
- 大学に通いながら、資格取得のために別の学校なり予備校にダブルで通うという意味です。
- 編集部
- で、大学の3年生のときに一次試験に合格されたのですよね。
- 佐藤
- はい。公認会計士の試験は、一次と二次があって、一次は短答式の問題が出題されます。短答式というのは、マークシートの選択方式の試験ですね。二次は論文式の試験です。
- 三谷
- 短答式の一次試験の難易度はとても高いんですよ。それを在学中の、しかも3年生のときに受かっちゃうんだから。しかも、二次の論文式の試験は年に1回しか受けられなくて、何回か落ちちゃうと、また短答式の試験からやり直さなくちゃいけないんだよね。
- 佐藤
- そうなんです。短答式の次は二次の論文式の試験があるんですけど、大学4年生のときに受けた二次は不合格でした。短答式の試験は年に2回チャンスがありますが、論文式は年に1回なんですね。しかも、3回続けて不合格になると、また一次の短答式の試験からやり直さなければならないんです。だから、なんとしても3度目までには合格しなくちゃと、プレッシャーを感じました。
- 三谷
- 本当にすごいですよ。私も大学が会計系の学科だったので、周囲には公認会計士を目指している子がいたし、私自身も公認会計士の試験にトライしたことがあって、挫折しているんです(笑)。会計士になるという強い気持ちとそのための習慣作りが必要だったと学びましたね。
- 編集部
- ダブルスクールをやっていて、大変だったことはありますか?
- 佐藤
- 大変だったことはいっぱいありますね。まず、普通に体力的にしんどかったです。いちばん大変だったのは、2年生になって予備校に通いはじめた頃です。自分の中で、勉強することがあまり習慣づいてなかったので。公認会計士の試験勉強があまりにもハードなので、びっくりしました。
- 編集部
- どんな感じの毎日だったんですか?
- 佐藤
- 当時はちょうどコロナ禍だったんですね。で、大学のオンラインの授業が昼間にあって、夕方から予備校に通って終電ぐらいの時間まで勉強していました。そこから居酒屋に行って始発の時間までアルバイトをして、家に帰って一瞬だけ寝て、またオンラインの授業を受ける、みたいな生活が続きました。めちゃくちゃしんどかったですね。予備校の授業で思わずうたた寝しちゃったり。若いうちにしかできないなと思います。今じゃもう無理ですね。
- 三谷
- そういえば、蕁麻疹が出たって言ってたよね。
- 佐藤
- そう、全身に蕁麻疹が出ちゃって、不眠症みたいにもなって、眠れなくなりました。会計士の勉強って、本当にすごいんですよ。受験生仲間でも、1日8〜10時間ぐらいの勉強は当たり前だよねって感じで。僕は勉強することに慣れてなかったので、体に出ちゃったんですね。幸いにも、薬を飲んだらすぐに治りましたけど。そのくらいがむしゃらにやってましたね。
- 編集部
- 大学で学んだことで、公認会計士の試験に役立ったことはありますか?
- 佐藤
- めちゃくちゃ役立ちました。特に三谷先生のゼミでやっていたことですね。公認会計士の試験科目に管理会計論というのがあって、まさにゼミでやっていた財務情報分析みたいなのが、短答式の試験にも出ました。上場企業の決算書を読み解いて分析するみたいな。ここはけっこう苦手にしている受験生が多いので、自分は先生のゼミでやっていたので、アドバンテージになったと思います。
- 編集部
- 他には何かありますか。大学の学びでよかったことや、楽しかったことなど。
- 佐藤
- 印象に残っているのは、会計史の授業ですね。自分の興味がある分野ですから。公認会計士の勉強は受験のためのものなので、どうしても無駄を省いた効率的なものになってしまいます。でも、会計史の授業はもっと深くて広い学びを提供してくれて、大昔、そもそも会計はどういうものだったのかとか、公認会計士が社会で果たしている役割とか、受験勉強では学べない知識が得られて面白かったです。
- 編集部
- 佐藤さんは、卒業論文は書かれましたか。
- 佐藤
- はい、4年生のときですね、ゼミでやっていた企業分析をテーマにして書きました。僕は大学4年間、ずっとアルバイトをしてきたので、アルバイト先の上場企業を研究のテーマに取り上げました。ちょうどコロナ禍で飲食業界がダメージを受けていた時期で、会社の財務情報を決算書から読み取って、売上や利益率などを出して、分析していくという感じでした。
- 三谷
- 3年のゼミでやっていたことを、アルバイト先の会社でやったという感じですよね。ただ、論文となるとただの発表と違って、結論みたいなものが必要になってきます。一貫性を持って結論に導いていくという形ですね。で、どんな結論だった?
- 佐藤
- どんな結論でしたっけ。確か飲食業界全般がコロナ禍で落ち込んでいた時期に、その会社だけあまり落ち込んでいなかった、その理由を探るみたいな論旨だったと思います。その会社はM&Aをたくさんして多角経営をしていたので、落ち込みが少なかった、みたいな感じですかね。
- 三谷
- そう、確かそんな感じの結論だったね。
- 編集部
- 三谷先生は、頑張っている佐藤さんをどんなふうに見ていましたか?
- 三谷
- 公認会計士の勉強は本当に大変なので、相当の覚悟と根性が必要だろうなと感じていました。四六時中連絡取っているわけじゃないですけど、傍から見ていて大変そうだし、本気度は伝わってきましたね。さっきもいいましたが、佐藤さんのときはゼミ生が5人しかいなかったので、彼ともう1人の学生の2人でゼミの発表をやっていました。彼が佐藤さんにすごく協力的で、2人でしっかり取り組んでいるなという感じでした。
- 編集部
- 佐藤さんから見て、三谷先生はどんな先生でしたか?
- 佐藤
- 先生とは年齢が近くて、距離も近く感じました。僕が公認会計士を目指しているということで、いろいろサポートをしてくださいました。それはすごくありがたかったです。ゼミの企業分析のときもいろいろ丁寧に指導してくださって、そこが公認会計士の試験に役立ったと思います。管理会計のことでも、いま研究している話などが聞けて、すごく勉強になりました。そういう方が身近にいて、いつでも話せる環境があったのはありがたかったです。
- 三谷
- すごくきれいにまとめてくれて、ありがとう(笑)。
受験に生きた大学の学び
- 三谷
- そういえば、ゼミの最初のときに、佐藤さんに喋ってもらったよね。今週はどんな勉強をしたのとか。
- 佐藤
- ああ、短答式の試験の直前ですよね。僕がなかなかゼミの活動ができないという話を先生にしたら、分かった、発表する代わりに、公認会計士の試験勉強をどんなふうにやってるのかゼミで話してって言ってくれたんです。サボってるわけじゃないから、それを発表してくれたらいいよって。
- 三谷
- どれだけ大変な一週間を過ごしたのかっていうのを発表してもらったよね。頑張ったね、みたいな。
- 佐藤
- 今週はこの勉強をしました、みたいなことを報告して。先生には本当に優しくしていただきました(笑)。
- 編集部
- 先生の研究室に、相談に行ったりすることはあったのですか?
- 三谷
- 研究室には来なかったけど、一緒にご飯に行ったことはありますね。コロナが明けてからですけど。
- 佐藤
- あれ、僕、一回、ゼミを辞めたいみたいな話をしませんでしたか?
- 三谷
- ああ、大学3年の秋期のことね。
- 編集部
- なぜゼミを辞めようと思ったんですか?
ゼミの仲間に支えられて
- 佐藤
- ゼミで僕はもう1人の学生と2人でグループを組んでいたんですね。で、僕はいつも試験勉強で忙しいから、もう1人の子に迷惑をかけていたんですよ。彼はいいよ、全部やってあげるよって言ってくれてたんですが、相当負担になっていたんじゃないかって。それでゼミを辞めた方がいいのかなと思ったんです。それでラインで先生に、長文の相談を送ったんです。
- 三谷
- そうそう。いま言ったようなことがラインで来ました。
- 編集部
- で、先生は何と返したんですか。
- 三谷
- 何て返したんだっけ?
- 佐藤
- 僕はよく覚えてますよ。先生は、いろいろ大変だという気持ちは分かるって共感してくれた上で、でも佐藤くんが卒業した後に、このゼミに入っていてよかったって思ってほしい。そんな感じでしたっけ。
- 三谷
- たぶん、大学を卒業した後に、いま一緒に学んでいるメンバーとの関係がずっと続くと思うから。みたいなことを言ったように記憶している。
- 佐藤
- そうですね。もうちょっと踏みとどまってほしいって。当時は僕もパニックみたいになっていて、長文を送りつけちゃったんですけど。先生は冷静な文章で返してくださって、ちょっと考え直そうと思いました。先生も協力するよ、みたいに言ってくれたので。じゃ、そこは甘えさせていただこうかなと思い、辞めるのをやめました。
- 編集部
- いま思うとどうですか? 辞めなくてよかったと思いますか?
- 佐藤
- いまとなっては、本当に辞めなくてよかったと思います。同じグループの子とはいまだに一緒に飲みに行ったりしますから。大学時代に最高の友達ができたので、それはゼミを続けたおかげです。
- 三谷
- 佐藤くんが頑張れたのは、彼のおかげみたいなところもあるよね。
- 佐藤
- 本当にそうですね。彼がゼミの活動をやってくれたおかげで、公認会計士の勉強に打ち込めました。いつも、いづるが勉強やっているんだからいいよって言ってくれて。その変わり試験頑張ってねって。そこで友情が生まれましたね。
- 三谷
- お互いに支え合っているって感じだったよね。
- 佐藤
- いろいろ相談に乗ってもくれたし、すごいいい奴、いい友達です。
- 編集部
- 佐藤さんは、公認会計士として就職が決まっているんですよね。
- 佐藤
- はい、2024年の2月から監査法人で働くことになっています。来月から研修が始まります。
- 編集部
- どんな心境ですか?
- 佐藤
- 期待は大きいですね。今後、自分がどんな公認会計士になれるか分かっていないので、楽しみです。まさか試験に合格するとは思っていなかったので、夢みたいです(笑)。
- 編集部
- この記事は、大学受験をする高校生の方も読むと思うんですけど、彼らに何かメッセージはありますか?
- 佐藤
- そうですね。僕は大学の4年間で、自分の価値観というか、考え方がまったく変わったんですね。それはいま、すごく感じています。
- 編集部
- 価値観が変わった? どういうことですか?
- 佐藤
- 公認会計士になるぞって決めて、がむしゃらに勉強して、大学でも予備校でも勉強したり、バイトもめいっぱいやって、それで自分が成長したのか分からないんですけど、18歳のときと比べて、まったく変わりました。
- 編集部
- 何かに全力で打ち込んだことで、人間として成長したということですか?
- 佐藤
- そうですね。僕には下に兄弟がいるんですけど、もし彼が大学に行くとしたら、何かひとつ、目的意識を持った方がいいと伝えたいですね。別に公認会計士じゃなくてもいいけど、4年間のうちに何か頑張るものがひとつ。それがないと大学4年間がブレブレになっちゃうので。それはそれでいいのかもしれないけど、でも、僕としては何か軸になるものをひとつ持って学ぶ、それが専門性につながったり、自分に希少価値を生んだり、社会に出る上での武器になると思うので。何か軸を作って、目的意識を持って大学生活を送ってほしいなと思います。資格でもいいし、部活でもいいけど、何かひとつ打ち込むものがあった方がいいと思いますね。
- 編集部
- それが人間としての成長につながるということですね。今日はありがとうございました。
三谷 華代(MITANI Kayo)
国士舘大学 経営学部 経営学科 講師
●修士(経営学)/明治大学 経営学研究科 博士後期課程 単位取得満期退学
●専門/経営学
佐藤 湧(さとう いづる)
2022年度卒業
監査法人勤務
掲載情報は、2024年のものです。