ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
理工学部の創発

編集部:国士舘大学の理工学部では、どのようなことを学ぶのでしょうか?

 国士舘大学の理工学部は2007年に改革を行い、これまでの学部・学科という考え方をやめ、「1学科6学系」という新しい教育システムを採用しました。理工学という広大な教育分野のうち、「機械工学系」「電子情報学系」「建築学系」「まちづくり学系」「人間情報学系」「基礎理学系」の6学系を有機的に結びつけ、各自が自分の将来を考えて学べるようになっています。
 また、受験の段階で、入学後に進みたい学系を指定する「セレクティブタイプ」と、1年次秋期までに進みたい学系を決める「フレキシブルタイプ」のいずれかを選ぶことができます。自分の夢が決まっている人は「セレクティブ」で、まだ決まっていない人は「フレキシブル」でという自由度の高いシステムを採用しています。理工学の幅広い教養と知識を身に付け、広い視野と判断力を養いながら、自らの夢を実現できる専門性を高める学びを行っています。

編集部:「機械工学系」ではどんな学びを行っているのですか?

 機械工学は、ものづくりの全般に関係している学問です。たとえば、ボールペンを作るにしても、スマホを作るにしても、ものが関わっていればそこには必ず機械工学が関係しています。そいう意味で、機械工学の学びをしっかり修めれば、将来、幅広い分野で活躍することができるのです。
 ところが最近、なぜか「機械工学」という名称を付けたがらない大学が増えてきています。「システム工学」とか「ロボティクス」とか、人気の分野の名前を付けたがる。でも、国士舘大学はあえて「機械工学系」という名にこだわっています。そこには機械工学の基礎をしっかり学んでほしいという我々の願いが込められています。
 基礎をしっかり身に付ければ、応用がききます。応用がきけば、将来幅広い分野に進むことができます。そして、時代の流行に左右されることもない。だからこそ、多少地味には聞こえますが、「機械工学」という名にこだわり、すぐれたエンジニアを育成したいと考えています。

編集部:機械工学の基礎とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

 一つは力学の基礎ですね。一般的に「4力」と呼ばれている、「熱力学」「流体力学」「機械力学」「材料力学」について、しっかり学んでもらいます。そして、もう一つ、本学が力を入れているのは、機械の設計製図です。最近の大学ではあまりやらなくなりましたが、うちは1年から3年の春期まで、機械設計製図の授業があります。製図台を使って手書きで図面を作るところから、2次元のCAD、3次元のCADなど、最新の技術までをみっちり学びます。これが非常に重要だと考えています。
 おそらく、今の会社で、手で図面を書いているところは少ないと思います。3DのCADが主流になっていますから。それでも、私は手で書くことが重要だと思っています。コンピュータの画面上では、小さなものから巨大なものまで、なんでも簡単にできてしまいます。でも、それがどのくらいのスケールなのかは、画面上では分かりません。バーチャルばかりでやっていると、なかなか実際の感覚がつかめません。手で図面を書くと、それが体得できるんです。だから、あえてアナログにこだわり、製図の基礎を学んでもらいます。その方がエンジニアとしての基礎がしっかり身に付くのです。

編集部:基礎を身に付けた後は、どのように学びを発展させていくのですか?

ひと通り力学の基礎を学び、設計図が書けるようになったら、次は演習形式のプロジェクト学習に入っていきます。「機械設計製作プロジェクト」「研究開発プロジェクト基礎」「基礎ロボット工学」といった授業科目になります。
 座学の授業では、学生は受け身の立場で講義を聴いたり、課題を与えられたりします。それはそれで大切ですが、でも、課題というものは必ずしも世の中から与えられるとは限りません。自分で課題を見つけ、それを解決するということの方が、実社会に出てからは多いのです。それを体験するのが、プロジェクト型の学習です。
 「機械設計製作プロジェクト」の授業はAからCまであって、徐々に難易度が上がっていきます。たとえば去年のプロジェクトAは、「よく回るコマを設計し、それを撮影するためのカメラの雲台を設計しなさい」というテーマでした。コマがよく回るためには何が必要か。どういうコマがよく回るかを考えて、それを実現するための方法を探っていきます。単なる思いつきだけではだめで、理由や根拠を明示して、理論的に説明することが求められます。そして、もちろん理論だけでモノはできません。実際に製作していく過程では、工作機械を使って金属を削ったり、3Dプリンターを使って加工したりすることも体験します。
 さらに、3年次の秋期からは「研究開発プロジェクト基礎」という授業が始まります。こちらは「基礎」とはいうものの、そのまま卒業研究に結び付くような専門的なテーマを扱います。この段階で、どの先生のもとで卒業研究をやるか、所属する研究室がほぼ決まります。
 このようなプロジェクト学習は数名のグループに分かれて行います。チームワークを知り、協調性を養う上で、これはたいへんいい学びになります。チームの中でいかに自分の意見を主張するか。言われたことだけをやるのではなく、どういう形で自分がチームの一員として貢献できるかなど。実社会に出て役立つさまざまな学びの要素が、プロジェクト学習には詰まっているのです。

編集部:先生のご専門の「基礎ロボット工学」では、どのような授業を行うのですか?

 2年次までに基礎を身に付けた学生は、3年次から自分が興味のある専門分野に進んでいきます。たとえば「4力」の中で、自分は材料力学をやりたいとか、機械力学をやりたいとか。その中で、ロボットなどのメカトロ関係に進みたい人が、私が担当する「基礎ロボット工学」を選択します。
 この授業の目的はロボットを設計するために必要な知識を修得することです。授業の最初の方ではロボットの歴史や設計の流れなどについて概観していきますが、特に私は企業にいてロボット開発に従事していましたので、そういう実体験に基づいた話を紹介して、「あ、ロボットの開発ってこういうものなんだ」というだいたいのイメージを学生につかんでもらいます。
 次のステップでは、ロボットは実際にどういう部品から構成されているかというメカニズムを見ていきます。どんな部品があって、どういう機能があるか。機械だけではなく、駆動させるためのモーターやシリンダー、センサーのこと。あるいは関節の構造や動き方、作業をさせるためにそれらをどう動かしていけばいいかなどについて幅広く学んでいきます。全15回の授業ですが、ひと通り終えると、だいたい機械工学系のエンジニアとしてロボットを設計する上での基礎知識は身に付くと思っています。

編集部:ゼミではどんなことを学ぶのですか?

 ゼミは、学生の希望に合わせて学びのメニューを変えていきます。最初にどんなことに興味があるのかをアンケートで把握して、希望が多いものをテーマとして取り上げていきます。簡単な実験をする実習型のテーマもあれば、専門家が書いた図面と自分が書いた図面を比べてみたり、機械を一度ばらしてまた組み立てたりといったこともやります。なぜここにネジがあるのか、なぜここに配線されているのかなどを、自分の手で分解し、組み立てることによって理解していくのです。
 それから、技術動向調査のようなものにも取り組んでもらいます。ドローンでもいいし、ヒューマノイドロボットでもいい。自分の興味のある分野を見つけて、学会誌や論文集、ネットなどを使って調査をし、そこにどういう課題やニーズがあるか、将来どんなものが必要かを自分なりに考えて提案してもらいます。自分で調べて、自分で考え、自分でプレゼンする、そういう主体的な力をゼミの学びを通して培っていきます。

編集部:ゼミでは工場見学にも行くそうですね。どのような場所を見学するのですか?

 かつて私が勤務していた東芝という企業の「東芝未来科学館」という施設を見学します。ここには、ロボットのルーツともいうべき「からくり人形」や昔の「万年時計」から、最新のインフラ技術まで、幅広く展示されています。
 そこを見た後は、大田区の「大志工業」という町工場を見学に行きます。大田区には世界に誇れる素晴らしい技術を持った町工場があり、大志工業もその一つです。医療ロボットの先端の機構の部分を作っている工場ですが、とにかく機械加工の技術が高くて、学生を連れて行くとみんな目をキラキラさせて見ています。作った部品が設計通りにできているかを検査する工程なども見せていただけるので、部品づくりの難しさや重要性などを理解することができます。 

編集部:2020年春期は、コロナウィルスの影響で、対面授業がなくなりました。この事態には、どのような対応をされたのですか?

 その期間中は、リモート授業に切り替えることで対応しました。「基礎ロボット工学」などの講義科目は、国士舘大学の「manaba」というサイトに、パワーポイントにナレーションを入れた講義ファイルをアップして、学生自身がダウンロードして視聴できるようにしました。宿題やレポートの提出なども「manaba」で行い、講義3〜4回に1度ぐらいのペースで、Zoomというビデオ会議システムを使って講義の補足をしたり、学生からの質問を受け付けたりしました。
 一方、プロジェクトのような演習科目は、各自の作業時間を確保するとともに、Zoomを使ってメンバーの全員に課題内容・知識や技術の説明や共有を行ったり、個別に指導したりしました。ゼミの場合も同様ですね。毎週、定例のZoomミーティングを行い、報告やプレゼンを行ってもらい、それに対して私の方からヒントを与えたり、アドバイスをしたりしました。
 リモート授業で難しかったのは、学生の反応が分かりにくいことですね。対面授業では態度や表情が直に伝わってくるので、それに合わせて話す内容や速さを変えていましたが、リモート授業では学生が画面やマイクを切ったりしていて、人数が多いと顔も小さくなるので、表情がよく分かりませんでした。
 最近になって、プロジェクトや卒業研究など、一部の授業で対面形式の授業を再開しました。それで思うのは、機械や装置・部品に触れたり、ホワイトボードに書きながら議論したりすることは、やっぱり大切だなということ。すべてを対面にする必要はないと思いますが、実際に学生に会って、顔を見ながら教えることの重要性を改めて認識しました。

編集部:先生ご自身は、どのような経緯でロボット開発に携わるようになったのですか?

 私は大学で機械工学系の修士課程を終えた後、東芝に就職し、総合研究所(現研究開発センター)で開発の仕事をしました。それがエンジニアとしての最初のキャリアですね。
 当時は、どの会社も産業ロボットの開発を競っていて、私も産業ロボのメカニズムの高速化を研究したり、モノを削ったり磨いたりするロボットの開発などに携わりました。その後は、宇宙や原子力などの分野で役立つ新しい技術の開発を手がけました。
 ところが企業の方針で、宇宙や原子力の分野のロボットの研究開発は縮小するということになり、新しい研究のテーマを探していたところ、たまたまある大学の医学部の先生と知り合って、それがきっかけで腹腔鏡下手術に使う医療ロボットの共同研究を始めることになりました。
 ただ、東芝は当時、主にX線やMRIなどの人の体に触れない医療機器の開発に力を入れていて、研究開発から製品開発の目途が立った段階で私から会社に製品化の提案したところ、「今は手術に使うような医療ロボットのビジネスはやらない」という判断が下されました。まぁ、そこで諦めるという選択もあったのですが、でも、私としてはどうしてもその技術を事業化まで持っていきたかったので、その研究を引き継いでくれる会社を自分で探しました。その中でテルモという会社が興味を持ってくれたので、極めて珍しい形なんですが、テルモと契約を交わし東芝に籍を置いたままテルモに技術移管するという形で研究開発を続けることができるようになりました。その後は東芝を円満退職し、テルモに転籍して開発を続行し、2011年にヨーロッパで、念願の腹腔鏡下手術用ロボット鉗子を発売することができました。

編集部:その後、国士舘大学の理工学部に移られたわけですね。

 はい。実はその後、テルモの事業戦略上の理由で、ヨーロッパのビジネスにストップがかかりまして。私としてはそのままテルモに残って、自分の技術を生かす道を模索してもよかったのですが、年齢的にも上になってきたので、そろそろ自分が得たものを人に伝えるという意味で、教育にも携わりたいなと思っていたのです。そんなときに大学教員の公募が目に留まり、これがすべて私の望み、やりたいことができる道かなと考えて、国士舘大学の公募に応募し、移ることができました。
 現在は大学で教鞭をとりながら、再生医療の分野でテルモと共同研究をしています。重症心不全の治療に使う「ハートシート」の細胞を培養するためのロボットの開発ですね。フラスコの中の培養液を入れ替える作業は、人がずっと手作業でやってきましたが、それを効率化できないかというのが研究テーマでした。産業ロボットでやることは可能なのですが、狭いところで作業するため大型のロボットは入りません。そこでコンパクトで、かつ効率よく作業できる高性能なロボットを開発しました。ちょうど試作機が完成したところで、先日「化学工業日報」という専門誌で紹介されました。

編集部:先生ご自身は、子どもの頃からロボットに興味をお持ちだったんですか?

 そうですね、子どもの頃から機械をいじるのは好きでした。他にも、意匠デザインや工業デザインなどにも興味がありました。たぶん、イメージを形にすることに興味があったんだと思います。
 ロボットって何かというと、私にとって、それは夢を実現するための手段なんだと思うんですね。技術を通して、自分の夢を形にして、世の中に貢献していきたい。それができるのであれば、作るものは別にロボットの形をしていなくてもいいんです。
 国士舘大学に来る前に、私はいくつかの企業に籍を置いて研究をしてきました。大学で教える上で、私は企業人としてのこのキャリアを大切にしたいと考えています。企業にいて経験してきたこと、その重要さとか問題点、面白さを知っている、それが私の強味だと思っています。今もいろんな企業と付き合いがあるので、そういう最新の情報も学生には伝えていきたいと思っています。

編集部:最後になりますが、機械工学の学びを通して、どのような人材を育成したいとお考えですか?

 まず、機械技術者としてしっかり基礎を身に付けてほしいですね。それから自分で課題を見つけ、解決していける人間になってほしいと思います。これができれば、どんな仕事に就いてもちゃんとやっていけますから。
 機械工学で修めるのは、エンジニアになるための学びですが、でも、コンセプトを創造し、アイディアを形にし、試行錯誤を繰り返しながらよりよいものを創りあげていく過程は、エンジニアに限ったものではなく、どんな仕事にも共通するものです。
 もし仮に、機械工学とはまったく別の分野に進んだとしても、ここで学んだことは必ず役に立つと思います。なぜなら、プロジェクト学習で培ったリーダーシップや協調性、チームワークの作り方などは、どの分野の仕事でも必要とされるものだからです。また、技術や機械の学びで培ったロジカルな思考も応用できます。技術や機械を学んだ人間は、他の人とは違った視点で物事が見られるので、新しいアイディアが提案できるかもしれません。
 「ロボットとは何か」という問いは非常に難しいのですが、私自身は「夢を形に」ということをよく学生に言っています。国士舘大学の理工学部でしっかり基礎を学び、ぜひ、自分の夢を形にできる人間になってほしいと思います。エンジニアになることは、その夢を実現するための一つの道だと思っています。

神野 誠(JINNO Makoto)教授プロフィール

●博士(工学)/東京工業大学
●専門/知能機械学・機械システム

掲載情報は、2020年のものです。
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