法学部の尊厳"

編集部: 国士舘大学法学部の現代ビジネス法学科で、学生たちは何を学ぶのですか?

 国士舘大学の法学部には、「法律学科」と「現代ビジネス法学科」という2つの学科があります。「法律学科」は憲法や刑法、民法といった法律を勉強する学科で、法律の基礎を学びながら論理的思考ができるバランスの取れた人材を育成していきます。一方、「現代ビジネス法学科」は、伝統的な法律の学びに加え、ビジネスに活きる法律を実践的に学び、法的素養を身に付けたビジネスパーソンを育成するという特徴があります。ビジネス関連の法律を詳しく学ぶことができ、また、他の法学部ではあまり開講されていない経済系・経営系の科目も開講しており、ビジネス全般に関わる知識が得られます。
 国士舘大学の法学部は今年、大幅なカリキュラム改訂をしました。「現代ビジネス法学科」には「企業法コース」「公共安全コース」「知財コース」「国際ビジネスコース」の4コースが設けられます。自分の将来の進路をより強く意識しながら、ビジネス関連の法律を幅広く学び、実社会で活躍できる即戦力となる人材を育成します。

編集部: 何年生から4つのコースに分かれて学ぶのですか?

 大学は専門的に学問を深めていく学びの場ですが、高校を出た子にすぐそれをやれといっても難しいところがあります。ですから、1年次には「教養教育ゼミ」が開講されており、大学生活で必要とされる基本的な学修スキルを身につけるために、レポート作成やキャリア形成などの導入教育をしています。その後、社会に出てやりたい仕事や職種をイメージし、学ぶために2年次から「コース制」を導入しています。学生は自分の進路を視野に入れて4つのコースから選択できます。2年次以降は、より専門的な科目を学びますが、1年次に専門に直結する「基幹科目」を学んでいるので戸惑うことなく深堀りする「応用科目」が理解出来るように工夫されています。このように段階的に無理なく一歩一歩着実に実力を付けられるようなカリキュラムになっているので、高校時代に法律のことをそれほど知らなくても大丈夫です。卒業する頃にはみんな、高度な専門知識を身に付けた立派なビジネスパーソンになっています。

編集部: 先生は4つのコースの中でどれをご担当されるのですか?

 私はコースでいえば「知財コース」を担当することになります。授業は「知的財産法」という科目を受け持っています。これは知財に関する法的な知識を幅広く概観する講義で、現代ビジネス法学科では選択必修(コース必修)科目になっていますが、現代ビジネス法学科「企業法コース」「公共安全コース」「国際ビジネスコース」の学生も選択できるようになっています。
 「知財」というのは、「知的財産」を略した言葉で、特許や著作権、商標権や意匠権などの権利を意味しています。そして、その権利を保護するための法律が「知的財産法」ですね。いまやビジネスの世界は、「知財」で成り立っているといっても過言ではありません。大企業には法務部や知財部がありますが、中小企業でも知財に関する専門知識を有した人間は必要とされています。
 知財関連の国家資格としては「弁理士」というものがあります。現代ビジネス法学科の学生でも、毎年何人かは大学院へ進み、この難関資格に挑む者が出ています。2006年に大学院が新設されて以来、国士舘大学はこれまでに総合知的財産法学研究科修了生で10名以上の弁理士合格者を輩出しています。

編集部: 「知的財産」について学ぶというのは、具体的にはどういうことでしょうか?

 「財産」というと、かつては土地や建物、宝石といった形のあるもの、つまり「有体物」のことを主に意味していました。ところが、世の中が変わって、今は形のないものが財産として価値を持つようになってきました。たとえば、商品の名前とかデザインとかプログラミングといったものですね。「モノ」から「知的財産」へと価値の対象が変わってきて、それに関連するビジネス需要が増大しているのです。特にアメリカなんかは「知財」でお金を稼ごうという動きが顕著ですね。GAFAと呼ばれているGoogle、Apple、Facebook、Amazonなどの巨大企業は、モノではなく「知的財産」で稼いでいるのではないでしょうか。 そして、インターネットによる情報化が、その流れを加速させています。情報化社会が高度化すればするほど、「知財」の重要性は高まってきています。だから、企業は「知財」のエキスパートを求めているのです。知財に詳しい人がいないと、これからはビジネスの世界で太刀打ちできませんからね。

編集部: 「知財」の重要性は分かりました。
でも、みんなが弁理士になれるわけではないですよね

 「弁理士」という国家資格は、弁護士と肩を並べる難関国家資格です。目指す学生もおりますが、もちろんすべての学生が弁理士を目指すわけではありません。ただ、知財関連でいえば、「知的財産管理技能検定」という国家資格があります。これの2級とか3級は、学生たちに取得するように勧めています。まじめにきちんと勉強していれば、2年生で2級に合格する学生も出ています。この資格を持っていると、就職のときに非常に有利になります。ですので、大学としても資格取得のためのバックアップ体制を整えています。
 たとえば、「知財研修室」というものを設けていて、毎年4月に、本気で学びたい学生を募集しています。この研修室には机があって、必要な書籍も揃っていて、いつでも勉強できる環境を整えています。また、年に1回、「知財アカデミー合宿」を実施して、その中で「知財検定のための試験対策講座」を開いています。この合宿は、学部と大学院が合同で行うもので、学生にとってはいい刺激になるようですね。合宿は毎年箱根で行われるのですが、2泊3日の最終日には、御殿場のアウトレットモールで実務研修をやります。名目はブランドについての実態調査ということになっていますが、まぁ、ショッピングを楽しむ学生も多いですね(笑)。ときには息抜きも必要なので、楽しむことも大切だと思っています。

編集部: 先生は知財の分野で、何を専門に研究なさっているのですか?

 私が専門的に研究しているのは、知的財産の中の「著作権法」という分野です。「知的財産権法」は、大きく2つに分けることができます。1つは私の研究分野である「著作権法」で、もう1つは「産業財産権法」です。「産業財産権法」は、産業の発展を目的としてできた法律で、特許法、意匠法、商標法、実用新案法などがこれに属しています。一方、「著作権法」は文化の発展を目的とするもので、文芸、学術、美術、音楽などの著作物に関する権利が対象となります。「産業財産権法」は資本主義経済の発展と密接に絡んできますが、「著作権法」は必ずしもそうではなく、著作物を創作した著作者の人格権保護などを扱うので、どちらかというと文化的、思想的な側面が強くなります。ただし、最近ではコンピュータのプログラムなども著作物として扱われるので、双方の境界は曖昧なものになってきています。実際、コンピュータの著作権をどちらの法律で保護するか、世界的な論争になったこともありました。

編集部: ネット社会の発展によって、
著作権に対する考え方も変わりつつあるということですね。

 そうですね。音楽などは、かつては生演奏で聞くのが本来のスタイルだったはずが、録音技術、複製技術の発達とともに、インターネットでダウンロードして簡単に聞けるようになりました。作品自体が商品化してきて、著作権でもさまざまなことが問題になってきています。
 ユーチューブやフェイスブックなどのSNSを生みだしてきたアメリカは、どちらかというと既存の著作権法の枠組みを崩すような動きをしてきました。これに対して近年、ヨーロッパが巻き返しを図っていて、ユーチューブをめぐっては欧米の間で対立が生まれています。アメリカはSNSの著作権に寛大な考え方を示していて、いまでこそ規制が進んできたものの、当初ユーチューブは上げ放題の状態でした。これに対して、ヨーロッパは「載せた以上は権利を侵害してはいけない」「使用した以上は対価を支払うべきだ」という論調です。これから大問題に発展するんじゃないかなと私は思っています。

編集部: 3年・4年のゼミでは、どのようなことを学生たちは学ぶのですか?

 私のゼミは「著作権」を中心に学ぶので、どちらかというと音楽や出版、メディアなどに興味を持っている学生が多いですね。ゼミの中では多くの時間を判例研究に割くことにしています。教材として使うのは、過去の事例を集めた判例集です。判例をあたって、自分なりに調べて、まとめて発表するということを授業ではやってもらっています。法律学のオーソドックスな学びですね。
 具体的にいうと、たとえば「キャンディキャンディ事件」という事例がありました。「キャンディキャンディ」という漫画作品は、ストーリーを書く原作者と、絵を描く漫画家が別の人物でした。2人でひとつの作品を作っていたのですね。ところが、あるとき漫画家の方が自分の美術館を建てて、そこで主人公の絵を描いたグッズを販売してしまったのです。そこで原作者の方が、「漫画の主人公は自分が作ったキャラクターなんだから無断で使ってはならぬ」と異を唱えてきたのです。そこで裁判になって、最後は最高裁まで行きました。判決は原作者の主張を認めたものになり、「無断で販売してはらなぬ」ということになりました。私の見解とはちょっと違うんですけどね(笑)。
 こうした事例を調べ、発表してもらって、そこから先は判決に対して「賛成」か「反対」かを述べてもらいます。ここで大切なのは、ただ「賛成」「反対」を言うだけではなく、しかるべき根拠を明示することです。感想を言うだけなら素人でもできますから。法律の専門家として主張する限りは「著作権法の第何条」に書いてあるから「賛成」もしくは「反対」と述べるべきなんです。こういう論理的なものの見方や発言の仕方を訓練していると、法律の専門家にならずとも、社会に出て必ず役に立つと思います。

編集部: 先生はいつごろ著作権に興味を持ち、研究したいと思うようになったのですか?

 高校生のときは漠然と法律を勉強したいなと思っていました。当時、法律といえば弁護士のイメージでしたね。ただ、私は個人的に法律上のトラブルというのがあまり好きではなかったんです。お金とか離婚の問題とか、人間関係がもろにぶつかってきますから。それよりも純粋に法理論を研究したいと思っていました。それで民法の中の「人格権」とか「肖像権」について研究するようになりました。
 「著作権」はもともと「財産権」と「人格権」によって構成されています。財産権はお金の権利で、人格権は心の権利ですね。ただ、財産権はお金の問題を扱うので、どうしても産業財産権の方に引っ張られてしまいます。
 著作権の伝統的な領域は、「人格権」なんです。作品は作者にとって我が子同然に大切なもの、人間の親子のように繋がりの濃いものとして、人格権が保護されています。ただ、このへんはアメリカ法とヨーロッパ法で大きく考え方の違うところです。アメリカは主にビジネスのための権利として著作権を捉える傾向にありますが、ヨーロッパの場合は人格権の保護にウエイトが置かれています。
 もともと近代市民革命以降、法律で保護されるようになったのは“お金の権利”なんですね。ただ、産業革命が進み、世の中が機械化されていったとき、人間性が疎外されてきて、それではいけないということで保護するようになったのが「人格権」なんです。19世紀後半のことです。今ふたたびインターネットの時代になり、個人情報や肖像権などの侵害されるケースが増えてきました。この流れの中でいかにして人格権を守っていくかは大きな問題だと思います。

編集部: 最後にお聞きしますが、現代ビジネス法学科の学びを通して、
どのような人材を育成したいとお考えですか?

 まず、せっかく法律を勉強しているのだから、それを社会に出て役立てられる人になってほしいと思っています。社会でトラブルに遭ったときに、法律の知識をもとにそれを解決できるような人という意味ですね。国士舘大学の場合は警察官志望の学生も多いのですが、最近は“サイバー警察”といって、インターネットを監視しているような警察官もいます。知財関連の専門知識を得て、そういう警察官になるのもいいと思います。
 それともうひとつ、法律のベースは“人間の尊厳”にあるのだと私は思っています。これからの社会では、情報化が進めば進むほど、人間の尊厳や権利を守ることが難しくなってきます。GPSの位置情報やビッグデータの利用、監視カメラの普及などは、個人のプライバシーを侵害する恐れがあります。一人ひとりが人権に対す意識を高めて、人間の尊厳が大切にされる社会を作っていってもらいたい。そのために、私のもとで学んだ知識や経験を活かしてもらえれば有り難く思います。

三浦 正広(みうら まさひろ)教授プロフィール

●修士(法学)/青山学院大学大学院法学研究科 博士後期課程満了退学
●専門/著作権法 著作者契約法