経営学部の才覚"

編集部: 経営学部の経営学科は、どのようなことを学ぶところですか?

 経営学部経営学科が目標に掲げるのは、学生一人ひとりに「ビジネス人基礎力」を身に付けてもらうことです。私たちが考える「ビジネス人基礎力」とは、「人間基礎力」「社会人基礎力」「経営学・会計学の専門知識」の3つです。これをまず1年次の「フレッシュマンゼミナール」などの必修科目でしっかり学んでもらいます。
 この1年次ゼミナールでは、身近な話題を取りあげて、グループに分かれて意見を出し合い、それをまとめて対戦形式で発表してもらうということをやります。たとえば医療事故が起きたら、それがなぜ起きたのか、病院はどう対処すればよかったのかといったことを討論するのです。また、チームに分かれてテーマに沿ってビジネスプランを作るということもやります。各チームを小さな会社に見立てて、将来ビジネス人として生きていくために必要となる資質を身に付けていくのです。これから始まる学びの基礎体力を付けるという意味合いを持っています。

編集部: フレッシュマンゼミナールでは、
「論語と算盤(そろばん)」という本を読むと聞きました。これはなぜでしょうか。

 「論語と算盤」は、国士舘大学の創立に深く関わった実業家、渋沢栄一先生が書かれた名著です。なぜこれを学ぶかというと、利益の追求だけではなく、世のため、人のために尽くせるようなビジネス人を育てたいという思いがあるからです。経営というと、どうしても利益の追求が先に立ち、どうやって利益を生むかという学びに偏りがちです。しかし、利益だけを求めて倫理や道徳をないがしろにする企業は、決して長続きしないことを歴史が証明しています。「論語」とは人格形成に欠かせない大切なことであり、「算盤」とは経営センスのこと。この両方に長けてこそ経営はうまくいくというのが、渋沢先生の「論語と算盤」の意味であり、フレッシュマンゼミナールの中で学生はこの精神を徹底的に学ぶのです。

編集部: 経営学部で、先生はどのような授業を担当されているのですか?

 私が担当しているのは、「簿記原理」「簿記演習」「応用簿記」などの簿記科目と、「財務会計論・制度会計論」などの会計科目の授業です。簿記原理の授業で簿記の仕組みを学び、演習科目で実際に検定試験対策の問題を解いてもらい、資格取得につなげていきます。
 経営学部では資格取得に力を入れていますが、それは単に就職に有利になるということだけではありません。資格を取ることで、大学以外の客観的な評価を得て、自分に自信をつけてもらいたいと思っています。自分で目標を立て、チャレンジして、それをクリアする。それによって得られた達成感が、次のチャレンジへと向かう勇気をくれます。だから、1・ 2年次でしっかり簿記の基礎を学び、自ら進んで簿記の試験に挑戦してもらう場を私たちは提供しています。

編集部: その挑戦というのは、「簿記大会」のことですね。

 はい。私のゼミでは3年次の6月に、専門学校が開催している「簿記大会」に全員参加してもらうことになっています。実は私自身の話で恐縮ですが、学生のときに「全国大学対抗簿記大会」に挑戦して、全国優勝できなかったという経験があります。会場校優勝はできたのですが、全国では5位でした。それがいまだに残念で、うちのゼミ生に私の代わりにぜひ全国優勝してほしいと思っています。いままでのゼミ生では、かつて2回ほど会場校優勝した者がいます。直近では昨年の6月、3年生のゼミ生が「簿記チャンピオン大会」2級の部で渋谷校優勝を果たしました。その前は写真にもある経営学部1期生が「全国大学対抗簿記大会」3級の部で池袋校優勝し、「簿記チャンピオン大会」では全国7位に入っています。まだ全国優勝を果たした者はいませんが、いつかは必ず成し遂げてくれる者が出てくると信じています。

編集部: ゼミではどのようなことを学ぶのでしょうか?

 「簿記大会」に挑戦した後は、徐々に経営・会計の学びに入っていきます。たとえば、食べ放題のお店やケーキ屋さん、美容院などがどうやって利益を獲得しているのか、その仕組みを解き明かした書物があるので、それを読みながら学んでいきます。自分が選んだ身近な題材ということもあって、学生たちは自分で描いたケーキの絵を貼って発表するなど、楽しみながら学んでいるようです。
 3年次の終わりごろになると卒業論文の作成に入ります。学生は自分の好きな業界を選んで、その現状と課題を調べていきます。業界地図を見たり、有価証券報告書を調べたりして、業界内の課題や問題をあぶり出し、どうやって改善すべきか、自分なりの提案をしていきます。これはとてもいい学びになりますね。
 あるゼミ生の話ですが、就職活動で大手コーヒーチェーンの説明会に行ったそうです。その場で彼は、「その企業の店舗が特定の地域に集中していること」を具体的な土地名を挙げて説明し、「なぜそうなっているのか?」と質問をしたそうです。そうしたら企業の人から「君はよく調べているね」と感心され、話が大いに盛りあがったそうです。卒論の研究が活かされたケースですね。

編集部: 先生は経営学部で、どのような分野を専門的に研究なさっているのですか?

 私は「財務会計」の中でも主に「無形資産会計」と呼ばれるものに注目して研究しています。「資産」というと、普通はビルや工場など、形あるものを思い浮かべますよね。ところが、企業には形はなくても利益をもたらすものがあるのです。たとえば、「研究開発」などはそのひとつですね。研究開発は成果が出るまで目に見えないものですが、将来的に価値を生みだす可能性を持っています。
 もっと分かりやすく単純化して説明しましょう。会計においては、お金を払って取得したものについて、将来も役立つものなら「資産」として計上し、そうでないなら「費用」として計上することになっています。では、開発費はどうなるんでしょう。企業に価値をもたらすと考えれば「資産」になりますが、確実に価値をもたらすかどうかは分かりません。そのため、その期限りの「費用」として処理することも考えられます。ここは専門家や会計ルールの間でも大きく考え方が分かれるところです。私はこういった問題を、歴史的な背景を踏まえながら、規範理論の観点から、あるいは実証研究や実務慣習なども取り入れて、さまざまな角度から研究しています。

編集部: なぜ先生は、経営学の研究の道に進まれたのですか?

 もともと父が税理士をしていたこともあって、経営や会計の世界には興味がありました。それで、大学1年生の6月に日商簿記3級を取り、11月には2級、2年生の6月には1級を取得しました。将来は父の跡を継いで、税理士か公認会計士になることを考えていました。
 研究者に興味を持ったのは、大学在学中に資格取得のために専門学校で会計を学んでいたときです。ある先生が、「ここまでは覚えてくださいね。これから先は研究者の考えることです」と言ったのです。自分は好奇心が旺盛な方なので、その先の内容を知ってみたいと強く思いました。ということは、つまり研究者になるということですね。
 で、大学卒業後は大学院に行きたいと思い、先生に相談したところ、「研究者になりたいのか」と聞かれたものだから、「はい、そうです」と即答しました。そうしたら、「ここの大学のこの先生に相談してみなさい」と言われ、気がついたら、その道にどっぷり浸かって後戻りできなくなっていました。後で知ったことですが、「研究者」になるというのは「大学教員」になるという意味だったんですね。私はてっきり「大学院生」になることだと勘違いしていました(笑)。そういうわけで、結果として会計実務の専門家ではなく、大学教員の道に進み、今の私がいるというわけです。

編集部: 経済学と経営学は近いように思えるのですが、どこが違うのでしょうか?

 経済と経営の違いについては、私もよく聞かれます。いつも説明しているのは、「経済は政府・企業・家計という社会全体のシステムや仕組みを考える学問」で、「経営はビジネス人としての企業経営を学ぶ学問」ということです。経済でも「ミクロ経済学」は家計や企業の活動などを扱うという点において経営に近いのですが、経営学はもっと実態に入っていって、実践的なことを学ぶ学問です。社会全体という大きな観点から勉強したい人は経済がいいし、企業人として生きていきたい人には経営の学びが合っていると思います。
 ただ、ひとつの学問を深く掘ろうとしても、なかなか深く掘れません。深い穴を掘りたければ、まずは広いところから掘っていく必要があります。私の場合も、まずは経済の分野から掘り始め、経済学の中のミクロ経済学、会計学というふうに深掘りしていきました。その方が最初から会計の分野だけを研究するよりも深く掘れると思ったからです。実際に博士論文も、経済学の視点を入れて書いたことでオリジナリティが評価され、よかったと思っています。

編集部: 先生は経営学以外の分野でも、さまざまな資格をお持ちですね。

 はい、まぁ、研究とは関係ない勉強をしてきましたね。専門学校でケーキづくりの勉強をしたこともあるし、結婚するときにはウェディングプランナーの認定試験に合格しました。「あ、面白い仕事だな」と思ったので、単純な好奇心から勉強したくなったんですね。それから子どもが生まれるときに、産前産後ヘルパーの技能認定審査に合格し、子育てに役立てようと思い、ベビーシッターの資格を取りました。専門分野の仕事に打ち込むことも大切ですが、狭い視野で掘り続けると大きな岩にぶつかって進めないこともあります。いろんなことに興味を持って、視野を広げておくと、何かしらアイディアを考えるときに役立つと思います。深く掘るためにも、幅広い視野で掘っていくことが大切かなと考えています。

編集部: 「シミュレーション研究会」という同好会の顧問もされていますね。
これはどういう活動なのですか?

 「シミュレーション研究会」は、もともと主将であった経営学科の学生から顧問を頼まれたことがきっかけでかかわった同好会で、私は11年前から顧問をやっています。この同好会の活動には2つあって、1つは「ボードゲーム」をやることですね。簡単にいえば、人生ゲームや戦争ゲームみたいなものです。学生がドイツから語学力を駆使して交渉して、直接輸入したゲームもあります。かつて購入したものの中には、価値が出て100万円以上の値が付くものもあるそうですよ。それをみんなでプレーして楽しんでいます。
 もう1つは、自分たちでそういうゲームを作ることです。TRPG(Table Talk Roll Playing Game)というものがあって、たとえば私の従妹が得意な「人狼」などはその1つですね。ある学生がオリジナルのゲームを作って、それを学生同士で楽しむということをやっています。メンバーは経営学部だけでなく、全学部から集まってきています。私もボードゲームをやりますが、学生にはかなわないことの方が多いですね。こてんぱんにやられています(笑)。

編集部: ゼミ合宿の一環で、東京ディズニーシーに行ったそうですが、

 今の4年生が3年生のときにゼミ学外研修の一環で、東京ディズニーシーに行きました。経営学部としてのゼミ研修なので、ただ遊びに行くだけではなく、何かしら経営的観点からテーマパークを見てほしいという狙いがありました。たとえば、東京ディズニーシーにウミガメが話すアトラクションがあるのですが、ショー開始前の説明の最後にスポンサー企業の名前が出てきたのですね。パンフレットにも必ず企業名が出ています。普通に遊びに行くだけでは、たぶん気づかないことだと思います。そういうところに着目して、企業と企業が提携して巨大テーマパークができあがっているんだということを見てほしいと思います。
 経営の勉強は、数字や用語も出てくるので、学生にとってとっつきにくい部分があります。だから、できるだけ身近な題材を取り上げて、遊びの要素を織り交ぜながら、勉強していけるように工夫をしています。そうすることで、学生も自ら進んで勉強するようになっていきます。

編集部: 最後になりますが、経営学の学びを通して、
どのような人材を育成しようとお考えですか?

 ひとつ、私がキーワードとして掲げているのは「才覚」という言葉です。勉強することでいろんな知識は身に付くけれど、そこに留まらず、学んだことを自分の知恵として活かせる人になってほしいと思っています。
 たとえば、会計基準がどうなっているのかを大学では学びます。でも、それで満足するのではなく、その知識を活かして、どうやって会社を経営していくのか、どうやれば事業がうまくいくのか、そういうことを自分なりに考えられる人になってほしいですね。
 ただ、先にも述べましたように、それだけでは足りません。渋沢先生の「論語と算盤」の話に戻りますが、国士舘の原点にある「国を思い、世のため、人のために尽くせる人」になってほしいという願いがあります。利益をしっかり計算しながらも、何が正しくて何が悪いかという倫理観をしっかり持ち、世のため人のために、自らの「経営的な才覚」を発揮できる人。そういう人材を育成して、世に送り出していきたいと思っています。

宮原 裕一(みやはら ゆういち)准教授プロフィール

●博士(経済学)/九州大学大学院 経済学府 経済システム専攻 博士課程修了
●専門/財務会計論