21世紀アジア学部の多様

編集部: 国士舘大学の21世紀アジア学部で、学生はどのようなことを学ぶのですか?

 いま、アジア諸国はめざましい成長を遂げています。国士舘大学の21世紀アジア学部は、躍進するアジアを舞台に活躍できる新しい人材を育成すること目的として誕生しました。
 本学部の特徴としてまず挙げられるのは、幅広い学びがあるということでしょう。「政治、経済、社会、文化、言語」の5つを柱にした多様な科目を用意し、学生は横断的に学ぶことができます。そして、この学びの根底にあるのは「アウト・オブ・キャンパス」という考え方。狭いキャンパスに閉じこもるのではなく、広く世界に視野を向け、キャンパスの外に出て学んでほしいと願っています。
 そのためにあるのが、海外への留学プログラムです。海外研修では在学期間中にすべての学生が最低1カ月間、海外での留学生活を経験することになります。また、さまざまな海外の大学と協定を結んでいるので、学生が希望すれば1年まで、長期留学も可能です。
 さらに、より幅広い学びを実現するために、2019年度より新カリキュラムを実施します。学生は2年次から「アジア文化コース」「アジア社会コース」「アジアビジネスコース」の3コースから選択。どのコースでも、アジアを軸足に多面的・多角的なものの見方・考え方を学び、21世紀をたくましく生き抜くための資質・能力を磨くことができます。

編集部: 21世紀アジア学部は、語学教育に力を入れていますね。
これも「アウト・オブ・キャンパス」の一環ですか?

 その通りです。学生には本学部でしっかり語学を学んだ上で、海外に出ていって貴重な経験をしていただきたいと思っています。英語の他にアジアの言語(中国、韓国、ベトナム、タイ、インドネシア、ビルマ)を1つ、2か国語をみっちり学んでもらうことになります。
 ただし、語学はあくまでも海外に出るための手段であって、目的ではありません。私たちが目指すのは、学生に日本を飛び出して、海外の地でさまざまな体験をしてもらうことです。多くの場合、学生たちは見違えるほどたくましく成長して帰ってきます。「百聞は一見にしかず」という言葉があるように、体験こそがなによりの学びになるのです。さらに知見を深めるために休学の制度※を利用してゆっくり世界を旅する学生もいます。
(※新学年開始後1か月以内に年間休学を許可された者は休学費20,000円を納入。2018年10月現在抜粋)

編集部: 21世紀アジア学部では、どのような種類の資格が取れるのですか?

 本学部で取得できるのは、中学校の社会と英語、高等学校の地理歴史・公民と英語の教員免許状です。さらに、博物館学芸員や学校図書館司書教諭の免許状、日本語教員養成課程修了証なども取得することができます。
 また、本学部にはスポーツをやっている学生が多数在学していますが、ここで体育の教員免許を取ることはできませんが、2019年のカリキュラムによりアジア文化コースでは、「スポーツマネジメント」「アジアのスポーツ交流」「スポーツビジネス」「スポーツ心理学」「ボディデザイナー」「アスリート実習Ⅰ~Ⅳ」など幅広いカリキュラムが用意されています。

編集部: 先生はこの学部で、どのようなことを教えてらっしゃるのですか?

 私が担当しているのは「スポーツ実習」という授業ですね。ここではテニスとスキーを教えています。総合教育科目の授業ですから、競技スポーツのようなことはやりません。競技の基本的なルールや歴史などを教えて、実際に体を動かしてプレーしてもらっています。学生の健康と体づくりを目的とした授業ですね。
 これとは別に3年生と4年生のゼミを受け持っています。先ほども申しましたが、21世紀アジア学部はスポーツ関係の施設が充実しているので、柔道やサッカー、野球などのスポーツをやっている学生が多いんですね。私のゼミでは、各自が専門でやっているスポーツ分野の研究を行っています。自分の興味があることをテーマにして、調べて発表してもらっています。

編集部: ゼミの学生は、どのようなテーマで研究をしているんですか?

 たとえば、野球をやっている学生がいるとしますね。野球をやる上で必要なものは何かという観点から、筋力や体力のことを調べたり、体づくりに必要となる栄養学の研究をしたりしています。ラグビーで、ドローンを飛ばしてフォーメーションを上から見て研究するということをやっている学生もいますね。
 それから、自分のやっているスポーツだけではなく、他のスポーツを調べて自分の専門分野の研究に活かす人もいます。バレーの学生が野球のことを聞いたり、野球の学生がラグビーのことを聞いたり。私のゼミには、いろんなスポーツの選手がいるので、お互いに情報交換しやすいというメリットがあります。最近では、東京オリンピックが近づいてきているので、オリンピックをテーマに卒論を書く学生も増えています。

編集部: 21世紀アジア学部の学びは、どのような形でスポーツと結びつくのでしょうか?

 スポーツ選手には年齢的な限界があります。プロの選手になれたとしても、何歳までもやっていられるわけではありません。また、途中でケガをして断念せざるをえない人や、そもそもプロでは食べて行けない人もいます。そうなると、その後の人生で何をやるかが大切になってきます。
 野球でも、サッカーでも、柔道でも、どんなスポーツでも、若いうちは全力で打ち込むべきだと思います。でも同時に、やめた後にどうやって生きていくか、先を見通した学びもあわせて必要になってくると思います。
 この学部で4年間、スポーツをやりながら、語学やITを学んだり、経営を学んだりしていれば、就職は有利になると思います。自分で会社を作ったり、商売を始めたりする道も開けてくるでしょう。もちろんコーチや監督などの指導者になる道もあります。たとえば、外国語ができれば、海外のチームの監督やコーチになることだってできるかもしれません。将来に備え、スポーツにプラスして何を学ぶか、それを現役のうちに考えておく必要があると私は思います。
 「将来の人生設計を考えながら、自分に必要な学びは何かを考えなさい」と私は学生によく言います。競技人生が終わった後には、いろんな生き方がある。だから、この学部ではいろんな学びが幅広く受けられるようになっているのです。

編集部: 先生ご自身がバレーボールの選手でいらしたとおうかがいしました。

 はい、私は中学校時代からずっとバレーボールの選手をやってきました。ちょうど10歳の頃に、1964年の東京オリンピックが開催されて、日本の女子バレーボールが金メダルを取ったのです。子ども心に興奮しましてね、「東洋の魔女」への憧れと、母親がママさんバレーをやっていたこともあって、中学・高校とバレーボールに打ち込みました。
 その後国士舘大学の体育学部に入って、4年間、バレーボールをはじめ、あらゆるスポーツを体験しました。卒業後はいったん地元の山形に帰って就職をし、そこでもバレーを続けましたが、後に声がかかって、研究助手という形で大学に戻りました。そこを出た後は、国士舘大学の短期大学の方で体育を教えていましたが、21世紀アジア学部の創設とともに、総合教育科目の教員としてこちらに就任いたしました。
 現在は国士舘大学21世紀アジア学部の学部長を務めておりますが、学外の活動として「全日本大学バレーボール連盟」の常任理事を務め、大学バレーボールやビーチバレーボールの運営にも関わっています。また、「日本バレーボール協会」の強化委員もやっていて、JOCから強化スタッフとして委嘱されています。

編集部: スポーツは文化というお考えがあるようですが、これはどういう意味でしょうか。

 来年度から始まる新カリキュラムの中で、「アジア文化コース」の学びの中にスポーツ関連の科目がいくつか入ってきます。たとえば「スポーツマスコミュニケーション論」「スポーツ心理学」「生活スポーツ論」「スポーツマネジメント」などの科目です。
 いままでの日本では、スポーツといえば「体育」の色合いが強く、そのベースは学校時代の部活にありました。心身を鍛え、健康で文化的な生活を営むために必要な運動という考えです。そのために体育学部は保健体育の教員養成に主眼が置かれていました。
私たち21世紀アジア学部は、体育学部とは少し違った角度からスポーツを捉えています。そのベースにあるのは「スポーツを楽しむ」という考え方です。スポーツを通していい汗をかき、人と人が交流し、友だちが増え、人生がより豊かなものになっていく。そういう「生涯スポーツ」の視点から、競技の周辺にあるすべてを含めて、幅広く「文化」としてスポーツを捉えています。
 2020年「東京オリンピック・パラリンピック」開催によって、日本は大きく変わろうとしています。世界中から多くの人々が集まり、スポーツの意義とアスリートの役割も再認識されることでしょう。スポーツを通しての人間交流や文化交流も今後は盛んになってくると思います。新しい時代のスポーツを通して活躍できる人間を、21世紀アジア学部では育てたいと思っています。

編集部: 最後になりますが、21世紀アジア学部の学びを通して、
どのような人材を育成しようとお考えですか?

 これは実際にあった話ですが、野球の選手をやっていた学生がおりまして、いい選手でしたが肩を壊して野球ができなくなりました。「僕はもう学校をやめる」と言っていたんですが、その彼がインドネシアに留学したんですね。そうしたらそこで勉強に開眼して、たった一年でインドネシア語がペラペラになって帰国しました。野球に多くの時間を費やした子が、経済や経営の勉強をして、最後は立派な企業に就職していきました。このように、ちょっと視点を変えれば、生きてくる人生があるのです。
 私は学生たちに、世界に開かれたこの学部で、いろんなことを学んでほしいと考えています。そして、海外に出て、いろんなことを体験してほしいと願っています。その上でゆっくりと自分自身と向き合い、本当に何がしたいのかを考えるといいでしょう。
 今の学生は、勉強ができても、挑戦するということが苦手ですね。与えたことをマニュアル通りにしかできない子が増えています。だからこそ、マニュアルを越えてチャレンジできる人間は貴重だし、社会もそれを求めていると思います。
 たとえば海外に出たら、日本のマニュアルなんか何の役にも立ちません。いくら座学でベトナムのことを学んでも、現地に行ってみないと分からないことはいくらでもあります。本学部で基礎をみっちり学び、それから「アウト・オブ・キャンパス」の精神で、日本を飛びだして体験を積んでほしいと思います。自分のやりたいことを見つけ、何事にも臆せずにチャレンジできる、そんな人間を輩出していきたいと思っています。

横沢 民男(YOKOZAWA Tamio)教授プロフィール

●学士/国士舘大学 体育学部 体育学科卒業
●専門/スポーツ方法学