法学部の自立"

編集部: 国士舘大学の法学部で、学生はどのようなことを学ぶのでしょうか?

 国士舘大学法学部の特徴は、少人数で対話しながら、じっくりと法学の素養が学べることです。学部は大きく2つの学科に分かれていて、1つは伝統的な法学教育を行う「法律学科」、もう1つはビジネスと生活に関連した法律を実践的に学ぶ「現代ビジネス法学科」です。両学科とも法の精神を体得し、新しい法律知識も備えた「個」の強い人材育成をめざしています。各種の資格取得等も全力で支援し、学生の学びをサポートしていきます。
 この学びを強化するために、現在、平成31年度に向けて大きなカリキュラム改革を行っています。詳細の詰めはこれからですが、最大の改革点は「コース制」を導入すること。たとえば「法科大学院に行きたい」とか「警察官になりたい」とか、具体的な夢がある場合は、少しでも早く専門的な学びを始めた方が有利になります。ですから2年生の時点でコース分けをして、より将来の進路に合致した法律が学べる環境を整えてくことを考えています。私たちの目標は、学生に漠然と法律を学ばせることではありません。一人ひとりの進路を見すえ、彼らの夢を実現するために何が必要かを第一に考え、最善のカリキュラム設計をしていきます。

編集部: 国士舘大学に来る前は、検事をしていたとうかがいました。
検事とはどのような仕事ですか?

 はい、私は17年間、検察庁で検事の仕事をやっていました。検事になるにはまず司法試験に合格する必要があります。その後、裁判官志望、検察官志望、弁護士志望の者が集まって「司法修習」という研修を行います。それが終了した後に、私は検察官志望だったので、東京地検(東京地方検察庁)に入って検事になりました。なお、検事は国家公務員ですので、検事をやっている間は公務員として生活してきました。
 検事の仕事は大きく2つに分かれています。1つは、捜査をします。普通、捜査というと警察の仕事のように思われていますが、実は検事も警察官と一緒に捜査をします。警察の事件はすべて検察庁に送られ、検事が全部チェックすることになっているのです。最終的に事件を裁判にかけるかどうかを決めるのは検事の役目で、警察が決めることはできません。
 もう1つは、裁判に立ち会うことです。テレビドラマなどでご存じと思いますが、裁判官を前にして法廷で被告人が有罪であることの主張、立証をします。この「捜査」と「公判」が、検事の担当する大きな仕事です。
 私は検事生活のほぼ全てを現場で過ごし、東京・大阪の特捜部(特別捜査部)にも通算で7年間在籍しました。こういう経歴の大学教員は珍しいかもしれません。しかし、現場経験者だからこそ次世代に伝えられることもあるのではないかと考え、教育の現場に身を置くことにしたのです。

編集部: 担当した事件で、印象に残っているものはありますか?

 そうですね、皆さんがご存じのような、世の中を騒がせた事件もいくつか担当しました。ただ、印象に残っているというと、司法修習生のときに担当した事件でしょうか。
 被疑者は窃盗の容疑で捕まったのですが、何度も同じ罪を犯して、人生の半分以上を少年院か刑務所で過ごしている人でした。私が取調べをしたのですが、「検事さん、私はもう二度と盗みはやりません」というのです。どうしてかと理由を聞きました。彼は警察の取調べに対し、「どこどこで盗みをしました」と全部自白していたので、警察官が彼と一緒に現場まで行って、その家の人に「泥棒に入られたことがありますか」と確認する「引き当たり捜査」というのやっていたんです。そのとき、被害者の方が、「泥棒さんもいろいろ事情があったんでしょう」といって、みかんとジュースを彼に渡してくれたんだそうです。それで彼は、はっと気づいたようで、「自分は、自分のことしか考えずに泥棒したけれど、こんな自分を被害者の方は気づかってくれた」と深く反省したんですね。小さな事件でしたが、どんなに罪を繰り返した人でも周囲からの支えで立ち直るチャンスがあるんだなと思い、あの事件のことは今でも覚えています。

編集部: 先生は国士舘大学で、どのような授業を担当されているのですか?

 私が担当しているのは、1年生から4年生までのゼミと、2年生向けの「刑事手続法」、3・4年生向けの「刑事訴訟法」という授業です。
 先日は1年生のゼミ生を法廷に連れていき、詐欺の事件と大麻の事件の公判を傍聴してきました。私は現場の経験が長かったので、学生にはできるだけ早い時期に、法律が現実にどのように使われているのかを見てもらいたいと思っています。法学部の1年生全員を対象に「刑事司法機関見学会」を開催しているのもそのためです。
 この見学会では、裁判所以外にも、警察本部、検察庁、刑務所などをバスでまわります。私も学生時代に思っていましたが、法律の議論はどうしても抽象的になりがちで、実感をもって伝わりにくい。でも、百聞は一見にしかずで、現場を見ると「あ、こんなことだったんだ」と分かることがたくさんあります。それがその後の大学での学びに結びついてくるのです。特に国士舘大学は警察官志望者が多いので、早くから現場を見て、警察の仕事についてしっかりと理解し、夢に向かって学んでいってほしいと思っています。

編集部: 授業のために「事件記録」を作られたとうかがいましたが、
どのようなものを作られたのですか?

 それは3・4年生が対象の「刑事訴訟法」という授業のために作ったものですね。授業では一応教科書も使いますが、教科書の言葉って抽象的で、現実にどういうものなのかイメージしにくい面があります。それで、たとえば「警察官になったら法律に基づいてこんな書類を作るんだよ」ということをリアルに理解するために、架空の事件を想定してシナリオを考え、オリジナルの「事件記録」を作りました。被害者は私で、研究室を出てコピーを取りに行った隙に、学外の者が研究室に侵入して財布を盗まれるという設定です。被害届や証拠品である私の財布の写真撮影、現場検証もちゃんとやって、そのときに作る書類も作成しました。捜査の過程から裁判をやるところまで、読めば全ての流れが分かるようになっています。国士舘大学には本物の裁判所を模して作った「模擬法廷教室」がありますので、授業では模擬法廷教室でこの教材を使い、学生に「模擬裁判」をやってもらっています。裁判官、検察官、弁護人、被告人、証人など、学生がそれぞれの役割を実際に経験することで、リアルに法律が学べるようになっています。

編集部: ゼミでは、どのような学びが行われているのでしょうか?

 2年生のゼミでは、ゼミ生全員が「法学検定」という試験に挑戦することになっています。目指すのは「スタンダード」というレベルですが、法律系の大学の3年生程度の基礎知識を求めている試験なので、そうやすやすとは受かりません。
 ゼミの授業は90分間ですが、授業内で過去問を全部解くことを目標にしているので、しばしば時間オーバーします。でも、そのくらい熱心にやらないと、検定にはパスできません。結構厳しくて、大変な授業ですが、少人数で対話しながら、じっくりと法学の素養が学べる絶好の機会ですので、この厳しさを楽しむぐらいのやる気がほしいと思います。そして、こういう試験にトライして合格すると、3・4年生での学びが全然違ってきます。学生の力がぐんと伸びてくるのですね。警察官をはじめ、将来法律に携わる仕事を目指すなら、学び始める時期は早ければ早いほどいい。2年からギアを入れれば、それだけ自分の夢が近づいてきます。

編集部: 3年生のゼミで福島県警を訪ねたそうですが、これはどのような目的があったのですか?

 福島県警には東日本大震災のときに殉職された警察官がおられ、また、自分の家族のことを後回しにして救助活動に従事された警察官もたくさんいらっしゃいます。私のゼミは警察官志望の学生が多く、私が以前に福島地検で仕事をしていて知り合いが多いこともあり、福島県警を訪問させていただきました。
 震災発生の直後はほとんど音信不通になり、警察でも何が起きているのか、事態を把握するのに苦労したそうです。また、私が今でも仲良くしている警察官は、海岸で津波にさらわれた方の捜索に当たっていました。そうしたら、目の前でいきなり原発が爆発し、本気で死を覚悟したそうです。そういう話を聞くことで、学生には警察官の仕事のなんたるかを感じ取ってほしいと思います。有事には命を賭ける仕事であることを理解してほしいのです。福島では警察本部の他にも、科学捜査研究所(科捜研)、検察庁、男子・女子の刑務所、そして刑務所からの出所者がしばらく生活する自立更生促進センターという全国に2箇所しかない施設を見学しました。ここまで充実した施設見学ができるのは、福島県の皆さんのご協力によるものなので、学生にはその気持ちに応えて、ぜひ将来に活かしてほしいと思っています。

編集部: ボランティア活動に参加できるサークルがあるとうかがいました。
ここではどのような活動をされているのですか?

 それは「刑事学研究会」というサークルですね。2年生が中心となって動いている組織ですが、ここは法学部以外の他学部からも自由に参加できます。
 このサークルでやっていることは大きく2つです。1つは見学ツアーで、メンバーの希望を募り、警視庁や小菅にある東京拘置所、少年院などを見に行きます。ゼミでもいろんなところに行きますが、もっと見たいという学生の声に応えるとともに、法学部以外の警察官志望の学生にも見学のチャンスを与えることが目的です。
 もう1つは、ボランティア活動です。法務省が所管している「BBS」という活動に参加しています。BBSはBig Brothers and Sisters Movementの略で、少年少女たちに、同世代の「兄や姉」のような存在として、一緒に悩み、一緒に学び、一緒に楽しむボランティア活動で、100年前のアメリカで始まりました。日本では戦後間もない頃に、京都の学生たちが非行少年を助けるために自主的に組織して始めたと聞いています。
 具体的な活動としては、たとえば「世田谷ボランティア協会」の活動に参加して、障がいのある子どもたちとクリスマス会をやったりします。また、社会的にハンディのある子ども、たとえば父親のDVにあって一時的に母子支援施設に避難している子どもたちに、勉強を教えたりしています。あとは渋谷区のゴミ拾い活動に参加したり、刑務所から出てきた人たちの更生保護施設で餅つき大会のお手伝いをしたりと、いろいろですね。

編集部: 本当に学生たちはいろいろな経験を積めるのですね。
なぜここまでの経験が必要なのですか?

 まず、警察官に限らず、公務員を志望するのであれば、公共に奉仕するという仕事の本質をきちんと理解しておいてほしいのです。自分のことしか考えられない人は、公務員には向いていません。学生のうちから公共に奉仕する経験をしておくことは、公務員志望者にとって非常に重要だと思います。
 また、社会人になると、いろんな人とコミュニケーションができなければいけません。警察官や公務員であれば、なおさらです。コミュニケーションの力をつけるには、学生のうちからいろんな現場に行って、いろんな人の話を聞くしかないと思います。「場数を踏む」ということですね。そのためにも、いろんな経験を積んでおかないといけません。
 最近の学生は、自分から外に出ようとしない傾向があるともいわれますが、ただ機会をつかみ損ねているだけかもしれません。そこで、いろんな経験を積める機会を提供してあげたいと考えたのです。地域の皆さんのご協力も得ているので、学生には、ぜひこうした機会を活かしてほしいと思っています。

編集部: 最後になりますが、学生たちにはどのような人間になって
社会に出て行ってほしいとお考えですか?

 国士舘大学の法学部には警察官志望の学生が多いので、まずは彼らの学びのサポートを全力でしたいと思っています。実は先日警察学校に行って、担当者に「警察官になるためには何が必要ですか」と尋ねてきたんですね。そうしたら、個人的な見解ということでしたが、こんな答えが返ってきました。「まずは自律、自分で自分を律することができること」、次に「協調性があること」、そして最後に「それでいながら自発性のあること」。自分で自分のことを律し、集団で行動するときには集団に合わせて協調し、でも集団に流されることなく自発的に行動できる人。「こういう人がほしい」と警察学校の人に言われました。
 でも、よく考えると、上記の資質は警察官に限らず、社会人全般に要求されるものではないでしょうか。警察官などの公務員になるにしろ、民間の会社で働くにしろ、法科大学院に行ってさらに勉強するにしろ、「自律」「協調」「自発」の3つの資質は欠かせません。私は法学部のさまざまな学びを通して、この3つの力を身に付けさせ、どこに行ってもやっていける「個」の強い人材として、社会に送り出してあげたいと思っています。

吉開 多一(よしかい たいち)教授プロフィール

●修士(法学)/早稲田大学 大学院法学研究科 公法学(犯罪者処遇法)専攻 修士課程修了
●専門/刑事訴訟法、刑事政策