国士舘大学理工学部の機械工学系で教鞭を執る富樫盛典教授は、流体力学を専門に研究をなさっています。ドローンを飛ばしてその気流で太陽光パネルを掃除したり、ホースを積んだ有線型の連続放水ドローンを開発したりするなど、さまざまな社会課題の解決に貢献するユニークな研究で注目を集めています。今回は富樫先生の研究室での活動を中心に、機械工学系の学びの魅力について伺いました。
機械工学系の学び
- 編集部
- 理工学部理工学科とは、どのようなことを学ぶ学科ですか?
- 富樫
- 理工学部は名前の通り、理学部と工学部が一緒になった学部です。国士舘大学の理工学部では「1学科7学系」を用意して、理系の広大な教育分野を有機的に結びつけた教育を行っています。
- 編集部
- 先生は機械工学系で教えてらっしゃいますよね。機械工学系ではどんなことを学ぶのですか?
- 富樫
- 機械工学系では、自動車とか、ロボットとか、ドローンとか、さまざまな機械についてのものづくりを専門的に学びます。うちの研究室を志望する学生も、自動車やドローンなどに興味を持っている人が多いですね。実践型の教育に重点を置いて、「人の役に立つ技術」を身に付けたエンジニアの育成に力を注いでいます。
- 編集部
- 先生ご自身は、どのような研究をなさっているのですか?
- 富樫
- 私自身は大学院を卒業してから、ずっと流体工学の研究をやっています。流体とは、空気や水など、流れる性質をもった物質のことです。たとえば自動車をデザインするとき、燃費が問題になりますよね。どんなにカッコいい車でも、空力抵抗が大きいと燃費が悪くなります。美しいデザインで、かつ、どれだけ燃費がよくなるかを、走行時の空気の流れをシミュレーションしながら設計していきます。新幹線なども同じですね。最新の新幹線はペリカンの口みたいな形をしています。高速で走るとどうしても車体から空気が剥がれて渦を巻いてしまいます。その渦を抑えるために、ああいう形になっています。
- 編集部
- なるほど。流体の研究は、いろいろなものづくりに結び付きますね。
- 富樫
- ものづくりだけでなく、たとえばスキーなどでも流体力学の研究は役立っています。アルペンスキーは前傾姿勢になって滑りますが、どんな姿勢で滑れば背後にできる空気の渦を抑えられるかで、スピードが変わってきます。スケートのパシュートも同じで、あれは3人が一列になって走りますが、先頭を走る人が風よけになって後方を走る選手の流体抵抗を減らしています。実際にパソコンでシミュレーションしてみるとよく分かります。
- 編集部
- 大学ではどのような授業を受け持っているのですか?
- 富樫
- 一つは流体力学の授業です。そもそも流体とは何か、水や空気がどのような方程式に従って流れるかという基本的なことを教えています。機械工学系の2年生の必修授業ですが、流体の知識はさまざまな分野に応用できるので、他学系の学生も選択できるようになっています。もう一つは、プロジェクトの授業ですね。プロジェクトでは、学生に課題を与えて、グループワークをしながら目的を達成してもらっています。
- 編集部
- どんなプロジェクトをやるのですか?
- 富樫
- たとえば、プログラミングの制御でドローンを飛ばすといったことをやっています。地上から5m、10mという高さまで飛ばして、そこから降りてきて着地するという一連の動作をプログラミング制御でやっています。プログラミングの勉強にもなるし、ドローンの原理の理解にもつながります。先日、授業でドローンを飛ばしていたら、室内の高いところにハトが止まっていたのでびっくりしました(笑)。人の目が届かないところに行けるのも、ドローンの特長の一つですね。
- 編集部
- 先生は、そもそもなぜ流体の研究をしようと思われたのですか?
- 富樫
- 実は中学生のときに天気図を付けていまして、気象予報に興味があったので。ラジオの放送を聞いて、気圧や風向・風速を書き込んで、そこから等圧線を引いたりしていました。それが流体力学に興味を持った最初ですね。ただ、天気って予報はできるけど、制御はできないじゃないですか。自分で天気は変えられない。でも、流体の世界は、フラップの角度を変えるだけで飛行機の飛び方が変わります。大きな世界の気流は自分では制御できないけれど、身のまわりのものであれば工夫すれば制御できるので、そちらの方に興味関心が移っていきました。

ドローンを活用した社会貢献
- 編集部
- 先生は現在ドローンの研究をなさっていると伺いました。これはどのような研究ですか。
- 富樫
- 流体の研究の一環として、私の研究室ではドローンを使った研究を行っています。普通ドローンの分野を手がけるのはロボットなどの研究者で、私みたいに流体力学の観点から研究している人間は少ないと思います。そういう意味では、新しい観点からドローンの研究ができているのかなと思っています。
- 編集部
- 新しい観点とは、どういうことですか?
- 富樫
- たとえば、ドローンはプロペラが回転して飛ぶため、下向きの気流が発生します。その気流の力を利用できないかということです。奈良の大仏って毎年12月の中旬に大掃除をやりますね。巨大な大仏の上に人が登って掃除するのですが、あれ、けっこうたいへんだと思うんですよ。あの掃除をドローンでやれないかと(笑)。
- 編集部
- どうやって?
- 富樫
- ドローンから出る下向きの気流を利用して、埃を飛ばしてやるんです。まずはドローンで本当に掃除ができるのかを、コンピューターでシミュレーションしてみました。実験に使ったのは小型のドローンで、地上から30㎝ぐらいの高さに飛ばすと、風速4m/sほどの下降気流が発生します。風速4m/sといえばそこそこの風なので、シミュレーション上では埃を払えることが分かりました。で、実際に模型でやってみたら、みごとに埃を吹き飛ばすことができました。いつかは大仏の掃除ができるんじゃないかと思っています(笑)。
- 編集部
- なるほど。これを応用すれば、いろんなものが掃除できそうですね。
- 富樫
- そうなんです。さっきのハトの話もそうですが、ドローンは人の手の届かないところに飛んでいくことができます。たとえば、いま考えているのが、ソーラーパネルの掃除です。ソーラーパネルは汚れが付着すると発電効率が下がります。この掃除にドローンが活用できるんじゃないかと思って研究しています。
- 編集部
- ソーラーパネルの上にドローンを飛ばして、埃を吹き飛ばすのですか?
- 富樫
- 吹き飛ばすだけじゃなくて、放水して汚れを洗い流します。
- 編集部
- 水もかけるんですか。どうやって?
- 富樫
- ドローンに電線と放水用のホースをつないで、飛ばしてあげます。通常ドローンはバッテリーで飛ぶため、電池切れになったら戻らなきゃなりませんが、有線にしてホースをつなげば、戻ってくる必要がありません。ずっと上空に留まって、放水し続けることができます。「有線給電給水方式による連続放水ドローン」という研究ですが、2025年に幕張メッセで開催された「Japan Drone 2025」のポスターセッションで、ベストポスター賞を受賞しました。
- 編集部
- なるほど。それはすごいですね。
- 富樫
- しかも、サーモカメラを搭載して、ソーラーパネルの温度分布を図ることもできます。サーモカメラで温度が低い場所は、汚れで発電効率が下がっています。汚れている場所にドローンを移動させ、放水してあげれば、発電効率を高めることができます。すでにシミュレーションと模型による実験が終わっていて、今年の8月には熊本に行って、実物のソーラーパネルを使って実証実験をする予定になっています。
- 編集部
- 連続放水ができると、火災の消火などにも役立ちそうですね。
- 富樫
- そう、ドローンを飛ばしていろんなところの掃除ができるし、人が近づけない火災現場で消火活動もできます。まさにドローンの活用によって社会課題を解決するというのが、私のゼミのテーマです。
- 編集部
- 他にも活用方法はあるのですか?
- 富樫
- いま考えているのは、ドローンを使った熊の撮影ですね。4年生の卒業研究のテーマなんですが、ドローンの上に小型のドローンを搭載して、熊がいる場所の近くまで飛んでいきます。大きいドローンは森の中に入れないので、そこから小型のドローンを飛ばして、自動追跡機能で熊を追跡しながら撮影を行います。いまはいたるところで熊が出没するので、これは役立つと思いますね。他にも、ドローンにハンディーワイパーを装着して、人の手の届かない高所を掃除するという研究もやっています。
- 編集部
- こういう研究は、学生と一緒に行っているのですか?
- 富樫
- 学生が卒業研究でやる場合もあるし、大学院生と一緒に研究することもあります。うちは優秀な学生が多いので、おかげさまで、いろんな学会で賞をいただいています。
ゼミでの学び
- 編集部
- ゼミで学生は、どのようにして学んでいくのですか?
- 富樫
- 機械工学系では、3年生になった時点で、学生はどこかの研究室に所属することになります。半年間は研究のための準備期間で、卒業研究に本格的に取り組むのは、3年生の後半からです。ただし、準備期間中に研究室が合わないと思ったら、他の研究室に移ることも可能です。できるだけ自分のやりたい研究に従事してもらいたいので、そのへんは柔軟に対応しています。
- 編集部
- 卒業研究のテーマは、どうやって決めるのですか?
- 富樫
- 卒業研究のテーマは、私の方でいくつか考えたものを提示して、学生に選んでもらっています。プロジェクトの授業をやっていると、だいたい学生の興味関心がどこにあるのかが分かりますから。また、就職するか、大学院に進学するかでも、テーマは違ってくると思います。それぞれの学生の希望を聞きながら、研究テーマを決めていきます。
- 編集部
- ドローンの研究を選ぶ学生が多いのですか?
- 富樫
- 基本的にはドローンの研究が多いですけれど、たとえば鉄道会社に就職した学生は、新幹線の巻き起こす気流の研究をやりました。新幹線が高速でトンネルに突入すると、中にある空気を圧縮して、出口のところで爆発音が発生してしまうんです。それを低減するために、「トンネル緩衝口」という装置の研究を彼はやりました。空気の逃げ道を作って、衝撃を緩和してあげるのですね。最近は鉄道に興味のある学生が多くて、3年生と4年生に一人ずついます。
- 編集部
- ゼミ合宿などには行かれるのですか?
- 富樫
- 行きますよ。6月に「Japan Drone 」というイベントが今年も幕張メッセで開催されるので、そこに学生を連れていき、日帰り合宿をやります。今年は卒業生も来てくれて、総勢14名で参加します。世界中の最新のドローンが集結する展示会なので、見るだけでも楽しいのですが、それだけじゃもったいないので、学生にはポスターセッションで発表してもらいます。
- 編集部
- どんな発表をするのですか?
- 富樫
- 一つは、ドローンが巻き上げる気流を活用して、空気よりも重いガスを計測するという研究です。これができれば、危なくて人が降りて行けないような場所でも、ドローンを使ってガス濃度が測定できます。硫化水素が地表に溜まりやすい温泉地などで活用できますね。この発表は、2026年のベストポスター賞に選出されています。もう一つは、温度センサーでソーラーパネルの温度分布を図り、汚れ具合を調べるという研究です。こちらはドローンにスピーカーを搭載して、鷹の鳴き声を出してカラスを追い払うという効果も狙っています。
- 編集部
- なかなかユニークな研究ですね。
- 富樫
- 他にも、物流倉庫内で在庫管理するドローンの交通整理ができるシステムの研究も発表します。庫内の通路に信号を設置して、ドローンのカメラでそれを認識し、赤のときは止まって空中で静止し、青になったら発進するという仕組みです。倉庫内でのドローンの衝突を回避するシステムですね。
卒業後の進路
- 編集部
- 卒業後に、学生はどのような道に進むのですか?
- 富樫
- エンジニアを目指す学生が多いですが、基本的にやりたいことを目指してもらうというのが私の方針なので、必ずしも全員がエンジニアになるとは限りません。ちょっと前だと、吉本興業に入った学生もいました。
- 編集部
- 吉本興業ですか。また何で?
- 富樫
- 本人いわく、芸人を目指しているんだそうです。有名になったら、私も呼んでねと言ってあるんですが(笑)。あとは、料理人になった学生もいましたね。浜松町にある和食の有名な店に弟子入りしました。
- 編集部
- 理工学部を出て料理人ですか。なかなかユニークですね。
- 富樫
- 彼は大学にいたときから、アルバイトで料理店に勤めていました。4年間学んでみて、自分がエンジニアより料理人に向いていることに気づいたんでしょうね。機械工学系では熱力学のことも学ぶので、どれだけエネルギーをかければどれだけ料理が熱せられるかみたいな知識も活かせると思います(笑)。
- 編集部
- なるほど。大学で学んだことは無駄にはならないと。
- 富樫
- たとえば、プロジェクトの授業では人前で発表をしてもらいます。すると、そういうのが得意な学生がいるんですよね。人に何かを伝えるとか、笑わせるとか。やたらプレゼンうまいなみたいな。吉本興業に行った学生も、そういうところで自分の才能に目覚め、エンターテイメントの道を志すようになったのでしょう。
- 編集部
- エンジニアを目指す学生は、どんな仕事に就くのですか?
- 富樫
- ものづくりの設計に従事する人が多いですね。授業でもCADを使って作りたいものを設計し、3Dプリンターで必要な部品を作り、組み立てるということをやります。新しいものを作って形にすることに喜びをおぼえるような学生には、機械工学系の学びは向いていると思います。
- 編集部
- でも、なかには料理人や、お笑いを目指す人もいる……。
- 富樫
- そうですね。私は一人ひとりの学生が、4年間の学びを通して自分のやりたいことを見つけてくれればいいと思っています。それが大学教育の意味なのかなと。理工学部で勉強して、それが自分に向いていると思えばエンジニアになればいい。向いてないと思えば、別の道に進めばいい。大学の4年間で、自分の進路が決められたというのはとてもいいことだと思います。
- 編集部
- なるほど。大学は、自分が何に向いているかを探す場所であると。
- 富樫
- そうです。高校生のときは、まだ自分が何に向いているのか分からないことが多いと思います。何が好きか、将来何になりたいか、あらかじめ分かっている人は少ない。だから、大学で4年間学び、自分が何になりたいかをゆっくり考えてもらえばいいと思っています。大学に来る価値は、そこにあるのではないでしょうか。4年間、自分なりに一所懸命学んでみて、その上で将来の進路を決めればいいと思います。私も初めから大学の教員を目指したわけではないですから。
- 編集部
- そういえば、先生は民間企業に勤めていらしたのですよね。
- 富樫
- そうです。博士課程を修了した後に、日立製作所という会社に勤務して、流体工学を活かした製品の開発に携わりました。液晶ディスプレイの開発とか、半導体の製造プロセスの研究をやったり、自動車エンジンの燃料噴射に関する仕事とか、いろいろやりましたね。水や空気の流れは、どんな製品にも関わってくるので。25年間会社に勤めて、27件の特許を取得しました。そういう経験を経て、いまは大学の教員をやっています。
- 編集部
- 自分が何に向いているかは、大学に来てから考えればいいということですね。これから進学を考える高校生にとって、勇気をもらえるメッセージだと思います。今日は貴重なお話を、ありがとうございました。
富樫 盛典(TOGASHI Shigenori)
国士舘大学 理工学部 教授
●博士(工学)/東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 博士課程修了
掲載情報は、2026年5月のものです。








