ビジネスの厳しさや楽しさ、そしてチームワークの大切さを私たちは起業を通して学んだ。

 21世紀アジア学部には、キャンパスの中に学生のための“オフィス”がある。狭いながらも、そこには会議テーブルや、電話、FAX、パソコンなどが揃っている。大学が学生起業家のために用意してくれたこの“オフィス”を拠点に、私たちNPO法人「グリーンプロジェクト」は活動を展開している。
 21世紀アジア学部には、「ソーシャル・ベンチャー・ラボラトリー」というものがある。形のうえでは部活動となっているが、実際は学生の起業を支援するために用意された組織だ。部長となる先生は、国士舘大学の学長。つまり、私たちは大学のお墨付きで、学内にいながらにして起業し、ビジネスを行うことができるのだ。“ソーシャル・ベンチャー”というのは、社会貢献と起業を結びつけた新しい事業スタイルで、社会に貢献する有益な活動を、ビジネスという形で継続的に展開していこうというもの。私たち「グリーンプロジェクト」もこの考えに立って、新しいビジネスの可能性を模索している。

 

 「グリーンプロジェクト」が目指すもの、それは環境と広告の新たなる融合だ。地球温暖化の主な原因は、空気中の二酸化炭素の増加だといわれている。その要因の一つが、森林の樹木伐採などによる緑の減少だ。社会貢献活動として植林に取り組んでいる企業はあるが、もっと身近なところで私たちにできることはないか、と探した結果、緑を植えたプランターに企業の広告を掲載してさまざまな場所に設置するという発想が生まれた。プランターに企業名を印刷して、まずは国士舘のキャンパスや地元「鶴川団地センター商店会」などに置かせてもらい、今後は徐々に設置場所を増やしていく。企業からは広告費をいただき、その収入で樹木のメンテナンスやNPOの運営費をまかなおうという計画だ。企業にとっては広告を通して社会貢献ができるし、街にも緑が増える。みんなにとってメリットのある事業なので、ビジネスとしての継続性も期待できる。この新しい企画の立案から営業活動、組織の運営まで、すべてを私たち学生だけで行っている。


 とはいうものの、実際にこの企画をビジネスにつなげていくのは容易ではなかった。立ち上がったばかりの「グリーンプロジェクト」のメンバーは現在のところ、21世紀アジア学部の中山雅之先生のゼミ生9人。営業時間は午前10時から午後5時までで、この時間帯に誰か必ず一人が“出社”して、電話を受けるようにしている。もちろんスポンサー獲得のための営業もする。「CSRリスト」という社会貢献関連部署のある企業をリストアップした資料をもとに、片っぱしから飛び込みの電話をかけるのだ。残念ながら、反応はあまりよくない。企画の概要を話して、訪問のアポイントを取ろうとするのだが、たいていは電話口で断られる。それでもいくつか訪問を許可してくれた企業があった。そんなときは喜びが込みあげてくる。ビジネスの厳しさを思い知りつつも、やりがいを感じられる瞬間だ。
 いまのところ、「マイナビ」という求人情報の企業と、地元のヘアサロンが契約を結んでくれた。契約を取れた瞬間は、ガッツポーズが出るほど嬉しかった。また「フジテレビ」や「呉工業」など、訪問を許可していただいた企業からは、貴重なご意見やアドバイスを頂戴した。ビジネスの上では、学生だからという甘えは許されない。社会に出て仕事をすることが、いかにたいへんかということを、この活動を通して私たちは、苦楽を共にしたよき仲間と一緒に実感することができた。


 今後、自分が社会に出て起業をするかどうかは分からない。しかし、「ソーシャル・ベンチャー・ラボラトリー」での経験は、実社会を知るうえでたいへん役に立った。社会に出れば、誰もが自分の力で生きていかなければならない。そしてまた、多くの仲間と力を合わせ、チームで動かなければならない。その経験を人より早く積めたことは幸運だった。
 私たちが卒業した後、この活動は後輩たちによって受け継がれていく。もっともっと多くの仲間が集い、賛同してくださる企業や人が増え、プランターの緑と一緒に、「グリーンプロジェクト」が大きく育っていくことを心から願っている。

4年生 内山 俊英 Green Project 事務局長 (新潟県/県立十日町高等学校)
国際関係の学部に興味があって、それで21世紀アジア学部に入りました。中山先生のゼミには、先生の人柄に引かれて入りました。メンバーからの推薦で事務局長になったんですが、チームをまとめるのは大変でしたね。先生との板挟みになるし。営業をやったのも初めてだったので、人への対応の仕方とか、相手を納得させるために必要なことが分かり、たいへん勉強になりました。既に就職が決まっていますが、営業職に就く予定なので、今後に役立ついい経験になったと思います。
4年生 堀田 麻里絵 Green Project 営業 (神奈川県/県立市ヶ尾高等学校)
21世紀アジア学部は留学生が多くて、いちいち外国人だなんて驚いていられないくらいたくさんいます。もともと海外の文化や語学を学んでみたかったので、ここで学べてよかったと思います。中山先生のゼミは、募集の要項を見て面白そうだったので入りました。3年の夏休みにギリシアで植林地清掃のボランティアをやって、それで環境に興味があったので、グリーンプロジェクトに入りました。NPO法人の申請を担当しましたが、事業計画書とか予算とかを作らなきゃならなくて、本当にたいへんな思いをしました。
4年生 脇谷 ありさ Green Project 監事 (神奈川県/横浜女学院高等学校)
中国に興味があったので、AO入試で21世紀アジア学部に入りました。2年生のときに授業で中山先生と出会って、その人望に引かれてゼミを選択しました。経営を学びたいというより、この先生に付いていきたいという感じでしたね。グリーンプロジェクトの活動は、想像していたより面白かったです。とっても活気があって、ここに入って人と関わることの楽しさを知りました。信用金庫への就職が決まっていますが、地域と密着して、お客様と一生お付き合いしていきたいと思っています。
3年生 古賀 斐也 Green Project 営業 (岩手県/県立盛岡南高等学校)
高校でサッカーをやっていて、それで国士舘大学を志望しました。実は昔からビジネスに興味があって、高校のときからインターネットで商売をやっていました。服や靴などを仕入れてネットで販売するんですが、そのための資格もちゃんと取りました。そんなことでビジネスに興味があって中山先生のゼミに入りました。この仕事はやってみておもしろいですね。スポーツと一緒で、戦略を立てて攻略していくところに醍醐味を感じます。将来は自分で起業してビジネスをやってみたいなと思っています。
(学年は2009年2月時点 学年・名前50音順)