MRI診断のために頭部を固定

MRIの中に飲み込まれてゆく


磁力の影響を防ぐため撮影中は立ち入り禁止

 国士舘大学のハイテクリサーチセンター。この建物の一室は、年間を通して気温が24℃に保たれている。強力な磁場を発生する磁気共鳴画像診断装置、MRIの性能を安定させるためにだ。医学部ならいざ知らず、理工系の学部でMRIを所有しているのは珍しい。2007年度よりスタートした「健康医工学系」という、医療と工学を結びつけた新しい学びのために導入されたものだ。
 健康医工学系は、いままでにない発想から生まれた新しい学びの分野だ。現代の医療は、もはや工学系の知識を抜きには考えられない。MRIやCTスキャンの画像をはじめ、血液や尿、唾液など、全身の情報がデータ化され、治療や健康管理の土台となっている。カルテの電子化も急速に進んでいる。いま医療の最前線で、新しい工学機器を開発できる人材や、医療データを読み取り、医師と患者の間に入って健康管理の架け橋となれる人材が求められている。健康医工学系は、まさに時代の要請に応えるために生まれた新分野だ。


 ここに学ぶ私たちは、まず1年次の基礎演習の時間に、全員がMRIを使って自分の体をスキャンするという経験をする。測定室に入ると強い磁場があるため、携帯電話、時計、ネックレスなど、金属製のものはすべて体から外される。そしてベッドに仰向けになったまま頭部を固定され、MRIの磁場の中に飲み込まれていく。隣室に置かれたパソコンのモニター画面に、頭部の断層図がクッキリと現れる。他の誰のものでもない、自分自身の頭の中身、この画像データをプリントアウトしたものが、そのまま授業の教材として使われる。人々の健康を守るための学び、その第一歩を、私たちは自らの体をつぶさに知ることから始めるのだ。

隣室でMRI画像を見守る学生たち


断層図の確認を行う


錯視について学ぶ


血流の測定を体験する


ジャンプや屈伸の回数と片足立ち時間の相関関係を調べる


 測定するのは頭だけではない。血液や唾液、尿検査など、さまざまな検査方法を私たちは身をもって体験する。自分の体が教材になるのだから、他人事ではいられない。それだけ興味が湧くし、真剣になれる。医療と工学の両方の分野を学ぶのは、正直いって楽ではない。しかし、それも人命を救う大切な仕事を下支えするための知識と思えば、おのずと勉強に身が入る。
 そしてまた、若い自分自身のデータを見ていると、ふと父や母、年老いた祖父母の体はどうなっているのだろうと、周囲の人の健康が気にかかる。世界有数の長寿国となった日本では、これからの時代、「健康」が人々の幸福を左右するキーワードになる。医療機関はもちろんのこと、スポーツ、エステ、ダイエットなど、美容や健康の分野で幅広く、検査データを読める人材が活躍することになるだろう。みんなの健康づくりに役立つ人となるために、私たちは医療と工学の垣根を越えた、新しい分野の学びに励んでいる。


2年生 石橋 亮(茨城県/県立勝田工業高等学校)
理工学部って堅いイメージがあったんですが、入ってみると全然違いました。
いろんな知識を広く学べて楽しいです。将来は医療機器の開発に携わる職業に就きたいと思っています。
2年生 岡本 康宏(東京都/国士舘高等学校)
医療系の学びに興味があって、健康医工学系に入りました。僕らが1期生なんですよ。
いまは医学の基礎を学んでいます。将来は診療情報管理士の方を目指すつもりです。
2年生 小林 一美(茨城県/大成女子高等学校)
おじいちゃんがリハビリしている姿を見て、医療に携わる仕事をしたくなりました。
将来は診療情報管理士となって、健康づくりを通して人の役に立ちたいと思っています。
2年生 佐藤 美紗(東京都/国士舘高等学校)
医療系に進みたかったので、ここを選びました。進路はまだ決まっていませんが、機器のこととか、
情報カルテとか、いろいろ幅広く学んでからじっくり考えようと思っています。
(学年は2008年5月時点)