政経学部の基点

編集部: 政経学部の政治行政学科は、どのようなことを学ぶところですか?

 国士舘大学政経学部の「政治行政学科」は、学生の夢や将来の進路に合わせて3つのコースに分かれています。マスコミや企業への就職を目指す人の「政治と人間コース」、公務員を目指す人の「公務員養成コース」、そして国際的な仕事に就きたい人の「国際関係・地域研究コース」です。3つのコースとも、それぞれの角度から政治学や行政学の基礎から専門的なことまでを学び、社会人として活躍できる人材を育成します。
 「政治行政学」をひとことで言うと、「社会の問題を見つけ、解決方法を探る学問」ということになります。国士舘大学には「世のため、人のため」になる人間を育成するという高い理想があります。政治行政学の学びを踏まえながら、自分自身何ができるかを考えて、社会に貢献できる人になってもらいたいと思います。

編集部: 先生は、国士舘大学の政経学部で、どんな研究をなさっているのですか?

 私が専門にしているのは政治学や行政学、政策研究などですが、その中でも政治学分野の政策ネットワーク論やガバナンス論に関心を持って研究しています。ネットワーク論というと漠然としていますが、たとえば人と人のつながりもネットワークですよね。インターネットやSNSもそうです。「ネットワーク論」は、ネットワークを分析して、価値の複雑に絡み合う問題をどうマネージメントしていくかを考える学問です。人間のつながりから情報分野まで、非常に幅広い研究分野といえます。

編集部: なぜこの分野の研究に進まれたのですか?

 私がネットワーク論を研究しようと思ったきっかけは、「三内丸山遺跡」にあります。私は青森県の出身で、もともと遺跡や考古学に興味がありました。平成4年に青森市の三内で縄文時代の遺跡が見つかって、さらに平成6年、ちょうど私が高校生のときに大きな「栗柱」の跡が見つかりました。考古学の世界ではとても貴重な発見で、メディアにも大きく取りあげられました。
 その中で私が注目したのは、その土地です。そこは県が作ろうとしていた野球場の予定地だったのです。事前に発掘調査をしていたら、とんでもない遺跡が出てきて工事がストップしてしまいました。工事の中止は地方経済にとって大打撃です。このまま中止するのか、調査を終えたら埋め戻して野球場にするのか、大きな議論になりました。そして、平成6年8月に、青森県は遺跡の重要性を考慮して野球場建設を中止し、遺跡を保存することにしたのです。その一部始終を私は発掘調査の現地説明会に参加しながら、「なんなんだこれは、すごいことが起きてるぞ」という思いで見ていました。そこから政治や行政への関心が高まっていったのです。

編集部: その後、国士舘大学の政経学部で学ばれたのですね。

 はい、当時は夜間があったので、早朝のバイトをしながら4年間、政経学部のⅡ部に通いました。一応政治学を学んでいたのですが、政党や選挙などにはあまり興味がなく、都市政策を専門にしているゼミに入りました。ただ、頭の中にはずっと「三内丸山」で起きたことがあって、あのような価値の対立が起きたとき、解決するにはどんな方法があるのだろうかという問題意識がありました。するとある日、ゼミの先生が「ネットワーク論というのがあるよ」と教えくれました。紹介していただいた本を読んでみたら、まさにネットワークを解析して、価値の絡み合う複雑な問題をいかに解決するかということが書かれていました。「これこそ青森で感じた難しい問題を見る視点だ!」と、目が覚めるような思いがしました。以来、政治学の中でもネットワーク論を専門に研究するようになりました。

編集部: 学生たちは、ゼミではどのようなことを学ぶのですか?

 国士舘大学の政経学部は、1年次のフレッシュマンゼミに始まり、2年次の基礎ゼミ、3・4年次の専門ゼミと、4年間通してゼミがあり、基礎から専門領域までしっかり学ぶことができます。フレッシュマンゼミは、大学に慣れてもらうことが目的で、お互いに自己紹介をしたり、仲間ができる環境を整えたり、また就職や進路の相談に乗ったりして学生の不安を取り除きます。また、2年次の基礎ゼミでは、レポートを作成したり、論文を書いたりしながら、研究の基礎的な力を身に付けていきます。
 3年次からは専門ゼミが始まります。私の「専門ゼミナールⅠ」では去年、「マニフェスト」という政党の公約を調べました。政党や候補者ごとのマニフェストの違いを見たうえで、次のステップとして自分でマニフェストを作ることをしてました。たとえば「煙草のポイ捨てをなくす」という公約を作ったとします。その公約に対して自分で何ができるか。たとえば学内にポスターを貼ってマナーを徹底するなど、身近にできることから考えて、大学だけで無理なら区役所へ行くとか、条例を作るなら区議会に働きかけるとか、また、健康問題を考えて国として対処するなら国会に働きかけて法律を作らなきゃならないとか。身近なところから少しずつ広げていき、政治や行政に関心を持ってもらえるような学びをしています。

編集部: 政治や行政の現場で、インターンシップが体験できるとうかがいました。

 はい、政治や行政の現場をより具体的に体験してもらおうという目的で、「議員インターンシップ」や「行政インターンシップ」の制度を設けています。政治の場合は週に1度、半年間ぐらい議員会館に通って、国会議員の秘書の仕事を手伝ってもらいます。また、国士舘大学は八潮市と「包括的連携協定」を結んでいて、行政の現場に行って仕事を体験するという仕組みもあります。すべての学生がインターンシップに参加できるわけではありませんが、やる気のある学生には積極的に参加してもらっています。

編集部: 「政策提言プレゼンテーション大会」というものがあるそうですね。
これはどのようなものですか?

 「政策提言プレゼンテーション大会」は、八潮市との「包括的連携協定」をより発展させるために初めて実施した取り組みで、学生目線で八潮市を見て、その魅力を発掘し、政策提言としてまとめて発表してもらいます。学生にとっては、社会的な課題に関心を持ち、企画力や提言力を高めるいい機会になります。一方、市にとっても、若い人の目線で政策を考えてもらえるというメリットがあります。政経学部全体で、今年は8つのゼミがこの大会に参加しました。
 私のゼミでは「今、行きたくなる街『やしおづくり』について」をテーマに選び、学生たちは他大学の事例を調査したり、八潮市を訪れて住民アンケ―トを取ったり、八潮市で活躍している方にインタビュー取材をしたりしながら、政策提言書をまとめていきました。平成30年11月28日、政策提言プレゼンテーション大会を盛況裡に終えることができました。大会では、八潮市市長、本学政経学部長、政経学会長が審査員を務めてくださいました。審査員を前にして、また、本学政経学部の教員や学生ら約70人、八潮市職員、八潮市議会議員、報道記者、一般住民の方々など計100人以上が見守る大変な緊張感があるなかで、学生たちは真剣にプレゼンテーションをしていました。学生たちはこれまで準備してきた全てのことを思う存分発揮していて、その自信に満ちた姿は輝いていました。
 これは、学生たちにとってすごくいい学びになったと思います。彼らは、ゼミの時間だけでは足りずに、自主的に集まってミーティングをやっていました。プロジェクトを共有することで人間関係が深まるし、ときには亀裂も生じるようですが、それもまたいい学びになったはずです。苦楽を共にすることで「戦友」じゃないですけど、卒業後の太い付き合いにつながっていくと思います。いつの日か、社会人になって振り返って、「あの経験があったから!」と思えるような、いいプロジェクトになったと思っています。

編集部: 先生は「公務員相談室」も担当なさっていますね。
ここではどのようなアドバイスをなさっているのですか?

 「公務員相談室」は、文字通り公務員志望の学生が気軽に相談に来られるところで、平成28年には221件、平成29年には190件の相談を受け付けました。毎週月曜、水曜、木曜日の3日間、朝10時から夕方5時まで、政治行政学科の3人の教員で対応しています。
 1・2年生に対しては、たとえば警察官になるにしても今は語学ができた方がいいから、英語を勉強してTOEICのスコアを取ってみたらとか、韓国語や中国語の検定を受けてみたらといった基礎的なアドバイスをします。3・4年生になるともっと実践的に、面接の練習をしたり、小論文の書き方を指導したりしています。学年によって、また志望先によって、それぞれの事情に応じたアドバイスを行っています。
 この相談室の他にも、政治行政学科では「公務員試験対策入門講座」というものを開き、公務員予備校の講師を招いて試験対策を行っています。他にも、合格した先輩の体験談が聞ける「キャリアガイダンス」や「自主勉強会」など、「公務員相談室」を中心に、さまざまな角度から公務員志望の学生をサポートする体制が整っています。

編集部: 公務員試験は難しいと聞いていますが、
合格するにはどのような資質が求められるのでしょうか。

 実は3カ月に1回ほど、国士舘大学大学院の「政治学研究科」が主催して、自治体の職員やNPOの方々などを交えて研究交流会を開いています。「21世紀システム研究交流講座」というものですが、私も前回そこで「防災ソング」を取り入れた防災活動の研究発表をさせていただきました。
 この研究交流会には自治体の職員も参加されるので、「どんな人が公務員に向いているのか」を聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。「チャレンジ精神旺盛な人」や「自分の守備範囲以外のゴロでも取りに行ける人」。今はどの自治体も財政状況が厳しく、公務員の数が減らされる中で、逆に社会課題は増えています。今まで5人でやっていた仕事を、3人でやらねばならないかもしれない。だから、「魂のある人、ハートのある人」が求められているそうです。また、NPOや大学、住民などとも協力関係を持つ必要があるので、コミュニケーション能力も問われてくるとのこと。つまり、やる気があって、人間らしい感情を持って、恩を感じたらそれをちゃんと返せる人、そんな人間像が求められているようです。冒頭で私が言った「世のため、人のため」に尽くせる人ですね。ですので、本学の建学精神にあるような“国士舘スピリット”のある人は、公務員の人間像にぴったりマッチしているんです。

編集部: そういう「魂のある人」を育成するためには、
やはり現場での体験が必要なのですね。

 そうですね。大学の4年間、みんなと力を合わせて、失敗したり恥をかいたりしながら一所懸命学んでほしいと思っています。いろんな人に支えられ、その恩を感じて感謝できる人になってほしい。心の底から気持ちを注いでやったことが、学生時代に一つでもあれば、その経験を自分なりの言葉にして表現できれば、きっと公務員試験にも合格できるだろうと思います。いや、万一試験に落ちたとしても、それだけ頑張った結果は決して無駄になりません。民間企業でも大いに役立つと思います。だから、私のゼミでは現場をリアルに体験する「社会連携型」の学習に力を注いでいます。一人でも多くの学生に、公安職はもちろんのこと、行政職の試験にもパスしてもらいたいと思い、学部をあげて全面的にバックアップしています。

編集部: 今年はゼミ合宿の行き先が急きょ変更になったとうかがいました。
何があったのでしょうか。

 昨年、3年生の専門ゼミでは北海道に合宿に行き、札幌市民防災センターで防災体験をしたり、小樽市で地域再生についてのフィールドワークを実施したりしました。自治体の防災行政や観光政策を定点観測するために、今年も北海道へ行く予定だったのですが、9月6日に「北海道胆振(いぶり)東部地震」が発生してしまいました。最大震度7という、北海道で観測史上初めての強い地震です。
 地震発生を知って、学生の間で議論が起きました。「余震があるかもしれないので、合宿先を変更すべきだ」とか、一方、「今こそ防災教育で学んだことを実践すべく、災害ボランティアに行くべきだ」「直前のキャンセルは北海道の経済損失になる」など、さまざまな意見を出し合いました。LINEの投票機能を使って多数決を取った結果、変更が13票、継続が4票となり、その結果をもとに執行部が議論を交わし、最終的には「まだ災害リスクが高いので、落ち着いた頃に北海道を訪れて復興支援をしよう」という意見にまとまりました。ゼミ生たちは「自分ごと」として自然災害を捉え、社会課題として認識し、議論を何度も重ねて多数決の原理と少数意見の尊重というルールのもとに、ゼミ合宿先の変更を決定したのです。これこそが、政治学の実践的な学びとして、たいへん貴重な経験になったと私は考えています。

編集部: 最後になりますが、政治行政学科の学びを通して、
学生にはどんな人間になってほしいとお考えですか?

 学生自身、これからいろんな人と関わって、手を差し伸べられ、社会という活躍の舞台に引き上げてもらっていくのだと思います。恩を受けて自分が育ったら、やってもらったことをちゃんと理解して、それを次の人に返していける人間になってもらいたいと思います。
 私はネットワークの研究をしていますが、ネットワーク論は、基本的には「数」で物事を考えていきます。数が多ければそれだけ力があると。でも、人間のネットワークは違うと思います。数が少なくても、一本一本の結び付きが太く、そこに豊かな感情が流れていれば、強いネットワークになるのだと。恩を感じて、それを次の人に返していける人、ネットワークの基点となれるような魂のある人間に育ってほしいと思います。そういう人物が増えていけば、社会はおのずとよい方向に向かっていくのではないでしょうか。

古坂 正人(こさか まさひと)講師プロフィール

●修士(政治学)/早稲田大学大学院 政治学研究科 行政学専攻 修士課程修了
東京大学大学院 人文社会系研究科 社会文化研究専攻 社会情報学専門分野 博士課程単位取得満期退学
●専門/政治学、行政学