経営学部の実践"

編集部: 経営学部の経営学科は、何を学ぶところなのでしょうか?

 国士舘大学の経営学部は、もとは政経学部の中にあったものが、2011年(平成23年)に学部として独立し、スタートしました。21世紀の「知識社会」において絶えず変化する環境の中で、仮説と検証を繰り返し行う実践的な科目によって「ビジネス人基礎力」の修得を目指すとともに、失われがちになってきた日本人の勤勉・利他の精神(=「公徳心」)を涵養するための経営学教育を行っています。
 もともと経営学という学問は学際的な性質があって、さまざまなことを幅広く学び、考える力を身につけていくものです。私どもの経営学部では、入学時の「フレッシュマンゼミナール」「ゼミナール入門」をはじめ、3年次、4年次の「専門ゼミナール」までの一貫した少人数制教育によって、企業社会が求めるコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力などの向上を目指し、多様な学びを通して実社会で活躍できる人材を育成しています。

編集部: 先生はどのような分野を専門にご研究なさっているのでしょうか?

 私が専門に研究しているのは、いわゆる「起業」「起業家精神」と呼ばれる分野です。英語でいう「アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)」ですね。日本は欧米に比べて起業する割合が少ないといわれています。「起業」が多いのは、アメリカやイギリスなどですが、調べてみると、こういう国でもまんべんなく新規の事業創造が起きているわけではありません。ごく限られた地域の中で、集中的に新しいビジネスが誕生しています。「なぜ、ある地域では新規事業が起こり、その他の地域では起きないのか」私はそこに関心を持って研究するようになりました。
 たとえばアメリカの場合だと、有名なのはシリコンバレーです。シリコンバレーにはIT関連の技術があります。その技術が地域の中で拡散し、そこに外から新しい人が参入してきます。するとそこで人と人との「創発」が起こり、その相乗効果で新しいビジネスが次々と生まれてくるのです。
 そういう仕組みは分かっているのですが、では、新しいシリコンバレーが意図的に作り出せるかというと、そううまくはいきません。こういう産業の集積を「産業クラスター」と呼びます。日本も、このような自然発生的にビジネスが生まれる「産業クラスター」を作ろうと試みてはいますが、あまり成功しているとはいえません。渋谷のビットバレーとか、札幌にもそうした動きはありましたが、長続きしないんですね。政策的にやろうとしても、なかなか難しいところがあります。

編集部: では、「産業クラスター」はどのようにして誕生するのですか?

 そうですね、それには研究機関としての大学の果たしている役割が大きいと思います。アメリカのIT系の「産業クラスター」には、いま言ったシリコンバレーやボストン近郊などの地域がありますが、シリコンバレーにはスタンフォード大学があり、ボストンにはハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)があります。こうした最先端の大学で革新的な技術が生まれ、その技術が中核となって産業の集積につながり、創発的にビジネスが起きて、「産業クラスター」が形成されていきます。
 ただし、この仕組みは、アメリカが日本から学んだ成果であるという面も指摘できます。1980年代の日本は経済的に強く、たとえば半導体の分野では世界をリードしていました。実際、世界で作られる半導体の半数、特にコンピュター用メモリ(DRAM)では8割近くが日本製でした。その強い日本をアメリカは研究しました。そして、日本の強さの秘密が、「日本株式会社」といわれるような産官学(産業界・政府・大学などの研究機関)の密接な関係にあるということを知り、それを積極的に取り入れていきました。日本から学んだシステムを取り入れ、アメリカは伸びていったともいえるのです。いまではすっかり逆転して、日本の半導体の会社の多くが、事業を撤退したり、外資になってしまいました。謙虚に学ぶ姿勢は、いつでも、どこでも、大切なことですね。

編集部: 経営学部で、先生は学生にどのようなことを教えてらっしゃるのですか?

 私が講義として担当しているのは、「ベンチャービジネス論」と「中小企業論」で、この2つは座学の授業です。講義のやり方として工夫しているのは、常に新しい話題を取り入れて、学生に提供することです。ベンチャービジネスの世界は変化が速いので、たとえば2年前のことを教えてもまったく意味がありません。2年前に良かった会社が、いまもいいとは限らないからです。2年前によかった会社が、なぜいま駄目になったのか。あるいは2年前に悪かった会社が、なぜいま好調なのか。「いま」、そして「これから」を中心に考えることが大切だと思っています。基本的にはシラバスに沿って教えていますが、時系列で変化していくものなので、新聞や雑誌に載っている最新の情報を織り交ぜながら、話すようにしています。常に最新のトピックスを探し、学生に提供し、身近な現実の問題として考えてもらえるように工夫しています。

編集部: ゼミではどのようなことを学生は学んでいますか?

 経営学部のゼミのいいところは少人数制であることですね。学生たちは時間をかけて、じっくりと実践的な学びに取り組んでいます。
 私のゼミでは、初めに企業活動を見る基本的な「ものさし」となる知識の修得を図り、その上でグループに分かれて、実際のビジネスの現場で活用できるような「ビジネスプラン」を創りあげたり、注目する企業の事例を掘り下げて完成度の高い「ビジネスケース」をまとめあげたりすることをやっています。そして、この活動に合わせて、外部に向けたさまざまな活動を積極的に進めていきます。たとえば企業訪問や企業家講演会、地元世田谷区の活性化活動への参加、「ビジネスプラン・コンテスト」への応募などです。
 「ビジネスプラン」を創るグループは、新しいビジネスのアイディアを考え、構築して、国や自治体などが開催する「ビジネスプラン・コンテスト」に応募します。これまでに当ゼミの学生は、学生起業家賞、奨励賞、アイディア賞、努力賞など、さまざまな賞を受賞しています。「ビジネスプラン」の作成は、社会で役立つ実践的な学びに直結するとともに、賞が取れれば大きな自信につながります。
 また、「ビジネスケース」をまとめるグループは、研究対象となる会社を選び、その会社が創業して成長していく過程を調べ、まとめあげていきます。特に貴重な体験となるのは、会社を訪問し、経営者にお会いできること。これまでの経営で、どういうところが大変で、どういうことによって会社が成長してきたかなどをお話しいただきます。学生にとっては、座学では得られない、貴重な学びとなっています。

編集部: 世田谷区の地域活性化活動にも参加されていますね。
これはどういうものですか?

 これは「せたまち研究」というもので、商店街など地域産業の活性化をお手伝いするという取り組みです。私が、中小企業診断士として世田谷区の中小企業の経営支援に携わったことから始まりました。具体的には、東急世田谷線の「若林」駅の近くにある「若林中央商店会」の方と打ち合わせをして、年に数回、学生が主体となって物産展を開いています。
 物産展で販売する品は、学生自身が選んで調達してきたものです。自身の出身地の商品や、ゼミの研修旅行で訪問した先の企業の商品を仕入れてきて販売します。今年度は、11月5日の土曜日に2回目の物産展を開催し、2月18日(土)には3回目を開催する予定です。
 この活動で大切なのは、物産展を開いてそれで終わりにしないこと。活動の経緯や結果は、ブログやプレゼンテーション・シートなどにまとめて外部に発信するようにしてもらっています。ただ単に活動するだけでなく、「発信」することに意味があると私は思っています。情報発信は最終的に自分を評価してくれる基盤になります。

編集部: 毎年9月に研修旅行に行かれているそうですが、これはどのようなものですか?

 毎年地域を決めて、その地域にあるいくつかの企業を訪問して、見学したり、社長の話をうかがったりする活動を行っています。今年は沖縄を選び、ビール会社、塩を作っている会社、泡盛のメーカーなどを訪問しました。
 特に印象に残ったのが、「ぬちまーす」という塩を作っている会社です。ここは社長さんが発明家で、特許を取った独自の製法で塩を作っていました。遠心力を使って海水を細かい水滴にして飛ばし、それを蒸発させ、まるで雪を降らせるようにして塩を作っているのです。この製法だと、海水に含まれるミネラル分が失われずに、そのまま含有できるそうです。「人間の中に海をつくる」というのが社長さんの考えだとか。生命はもともと海で誕生したので、陸に上がった動物はストレスがある。「ぬちまーす」を使えば、体の中に海ができるので、ストレスもなくなり、健康になれるという経営者の哲学を直接聞ける機会はめったにありません。学生にとっては、非常にいい学びになっていると思います。

編集部: 先生はなぜ経営学の道に進もうと思われたのですか?

 私はもともと松下幸之助さんや阪急東宝グループの小林一三さんなど、高名な経営者に興味があり、いつかは自分でも起業したいという思いがありました。それで大学は経済学部を選び、経営学科に進学したのです。
 大学を卒業して、一度は就職をしました。12年間ほどサラリーマンをやって、その間に転職も経験しています。ただ、勤め人をやっているうちに、少しずつ経営に対する問題意識が出てきて、地域活性化などにも興味があったので、いつしか専門的に研究してみたいと思うようになりました。そうして会社を辞め、経営コンサルタントや勉強に差し障りのない会社に勤めながら、大学院に通いました。結果的に起業はせず、研究の道に進んだわけですが、勤め人時代に経験したことは、転職を含めて、学生を教える上で役立っているように思います。

編集部: 最後におうかがいしますが、経営学の学びを通して、
どのような人材を育成しようとお考えですか?

 そうですね、ひとことでいうと「できる人」を育成したいと考えています。会社に入って働くと、なぜか仕事を任される人と、任されない人が出てきます。なぜそのような違いが生まれるかというと、それは普段の行いによってそうなるのだと私は考えています。日頃の心がけというか、毎日の行いによって「彼は信頼できるね」「彼女は任せられるね」といった評価が生まれ、将来の大きな差につながっていきます。
 そこで私は〈「できる人」の五箇条〉というものを作り、それを学生に身につけてほしいと考えています。社会人になるにあたって心がけてほしいことです。
1.「ロマン」と「ビジョン」
2.「上」を向いて歩こう
3.ともだちのともだちは、みな「ともだち」
4.ねうちは「世間」が決めるもの
5.事件は「現場」で起こっている
 ここに挙げた五つのことは、どれも特別なものではありません。しかし、日々こういうことを心がけ、仕事に取り組むことによって、「できる人」に近づいていくことができると信じています。
 一度きりの人生、どうせ生きるなら、人に信頼され、仕事を任される人になった方がいい。経営学の実践的な学びを通して「やぁ、あの人できるな」と思われる人を育て、社会で活躍できる人材として、世に送り出していきたいと思っています。

田中 史人(たなか ふみと)准教授プロフィール

●博士(経営学)/中央大学大学院 商学研究科博士後期課程修了
●専門/事業創造、ベンチャービジネス、アントレプレナーシップ