21世紀アジア学部の勇躍"

編集部: 21世紀アジア学部では、どんなことが学べるのでしょうか?

 私は21世紀アジア学部に、2002年の創設の段階から関わってきました。この学部は非常にユニークな学びの特長を備えています。その一つは極めて学際的であるということです。従来の大学の学びと違って、ここではアジア・グローバルをテーマに、ジャンルを超えて横断的に学ぶことができます。そのためにこの学部の講師陣には、政治、経済、社会科学、文化人類学、歴史学、地域文化など、さまざまな分野の知見を持つ専門家が幅広く揃っています。
 もう一つは、卒業後の進路のことを考えて、ビジネスに直結する科目が多く入っていることでしょうか。語学も重要な要素の一つです。語学を習得し、幅広い知識と教養を身につけ、アジアを中心とする世界で活躍できる人材を育てていく学部です。まさに、グローバル化が進行している現代にぴったりの学びを提供していると思います。

編集部: 先生は、主にどのような分野の研究をなさっているのですか?

 私の専門は、社会人類学ですね。社会と政治と経済が重なっている領域を専門的に研究しています。たとえば、パレスチナ問題。私はかつて、ヨルダン川の西岸にあるパレスチナの山村に入ったことがあります。その山村には、イスラム教徒のほかにも異なる宗教の人たちがいて、パレスチナであるにもかかわらずイスラエルで働いている人もいました。このエリアでは宗教の問題が政治と絡んできますし、経済的な影響も無視できません。まさに政治と経済と宗教のお互いの影響が重なりあう地域に入って研究をしました。
 海外だけでなく、日本でも同様の研究に私は携わってきました。たとえば、福島の奥会津に「三島町」という町があります。ここは日本の歴史上重要な町で、“村おこし”が始まったところです。私はこの町に行って、過疎問題について研究をしました。過疎問題もまた、政治と経済と社会が重なるところに発生します。人口問題は社会的なものですが、そこには経済の影響があるし、対策を講じるとなると政治が関わってくるからです。このように、社会、政治、経済などが重なるところに興味を持ち、主に研究しているわけです。

編集部: いつ頃から国際的な分野に興味を持たれたのですか?

 若いうち、そう、中学生の頃からですかね。新聞を読んで世界中のニュースに興味を持つようになりました。アジア、南米、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、全世界のことですね。高校時代は日本史を勉強しました。侍のことなどが面白くて、我々の心にある騎士道に通じるものがあると感じていました。多くの人は「日本は違う」「他の国と違って特別だ」などと言いますが、私はそうは思いません。私が日本について勉強して感じたことは、確かに異なる点もあるけれど、他の国との共通点も多いということです。違う点ばかり強調するのはおかしいというのが、私の見解です。
 そして、日本の次には、中近東に目を向けました。社会人類学と歴史学の両方を勉強したくて、大学院に進むときに、社会人類学と歴史学が重なるところはどこかと考えました。そして、先ほど述べたように中近東に興味を持ったわけです。パレスチナ問題は、まさに歴史と社会が重なるところで起きているからです。

編集部: 先生は日本語がお上手ですね。どうやって日本語を学ばれたのですか?

 私の語学が上達した理由は、たぶん二つあると思います。一つは、日本に来てホームステイをしながら語学の集中コースを受けたことです。大切なのは、朝から晩まで日本語漬けになること。音楽も聴かず、テレビも見ないことで日本語以外のことばをシャットアウトしました。集中コースのクラスに西洋人は私一人だけで、そこでも日本語でしかコミュニケーションがとれません。子どもは別にして、大人になってから外国語を学ぶなら、絶対に集中コースに入るのがいい。徹底的に外国語の環境に浸るのが、上達の近道だと思います。
 もう一つの理由は、日本に来る前にアラビア語を勉強したことですね。アラビア語は本当に難しい言語です。アラビア語には同じ意味を持つ言葉がたくさんあります。私は「お金」という意味のアラビア語を5つ知っていましたが、あるときバスに乗ると、運転手が何か私の知らない単語を言うんです。で、「何?」って聞き返すと、「お金」という意味の言葉でした。そこで私は6つめの「お金」という言葉があることを知りました。ヨルダン大学でアラビア語を勉強しましたが、日本語を学ぶ上で、複雑なアラビア語を学んだことは役に立ったと思います。

編集部: 21世紀アジア学部では、どのようなことを教えておられるのですか?

 授業ではグローバル化とアジアの貿易を教えています。アジアにおける地域協力というと、最も大きいのは経済協力です。二番目がODA、三番目が安全保障です。グローバル化、貿易、安全保障などを学生に教えています。
 授業を進めるときは、学生はまだ知識が乏しいので、まず私が概略を説明します。ビデオがあればビデオを見せ、それから物を読んでもらう。新聞などよりもう少し専門的な書物や論文の一部ですね。学生の力を伸ばすために、彼らのレベルよりちょっと上の物を与えます。ちょっと努力すれば理解できるもの。ちょっと努力して、自分の力が伸びれば理解できるもの。理解できるようになると、学生も面白くなって、次のステップへ進みたくなってくる。そうしたら、もう一段階上の“ちょっと努力してできるもの”を与えます。そうやって私は学生の力を伸ばしていこうと考えています。

編集部: ゼミではどのようなことを学んでいるのですか?

 私は3年生と4年生の国際関係のゼミを受け持っています。4年生のゼミは卒論作りがメインです。国際関係というと軽く考える人がいますが、4年生が扱っているテーマを見れば分かりますが、かなり深い研究をしています。たとえば「北朝鮮の核問題と国際社会に与える影響」「日本の集団的自衛権」「国際石油市場と日本」「日本における移民政策と受け入れ」などです。
 3年生のゼミでは、こういった卒論が書けるようになるための基本スキルを学びます。学生はまだ知識が浅いので、テーマを見つけられるように私の方から情報を与えます。南シナ海の問題や北朝鮮、インドの貧困問題など。アイディアを得た学生は、4年になると何を研究したいか自分で分かってきます。
 そして、3年生には情報の扱い方を教えます。今はインターネットの時代ですが、ネットの情報は玉石混淆で、確実でないものが多い。それを考えずに受け入れるのはよくないことです。ネットからのコピーペーストは厳禁。私は学生に、図書館の上手な使い方を教えます。きちんとした書物から情報を得る方法を身につけることが大切です。

編集部: 学生に教える上で、何か工夫されていることはありますか?

 そうですね。特に必要がない限り、専門用語はあまり使わないことにしています。できるだけ普通の言葉に置きかえて説明するということです。それと、学生が身近に感じられる例を出して説明しています。たとえば、グローバル化というと抽象的な概念のように聞こえます。でも、教室に入ったら、教室の中にいくらでもグローバル化の例はあるんです。たとえば留学生です。100年前の日本に、こんなに留学生がいましたか? そして、天井には電球があるでしょう。電球はどこで発明されましたか? 西洋です。教室にあるような椅子と机も西洋から来たものです。洋服だって、洋服の洋は西洋の洋です。勘のいい学生は「あっ」と気づきますね。すでに私たちの日常はグローバル化しているんだって。こうやって話すと、いままで抽象的なことだと思っていたグローバル化が、日常生活に密接したものなんだということが分かります。

編集部: 世界各国の学生を見てきた先生の目に、日本の学生はどのように映りますか?

 日本の学生に望むのは、もっと挑戦してほしいということです。失敗を恐れている人が多い。人は失敗から学ぶことが多いんです。挑戦しないと失敗しない。挑戦しないと進歩しない。もちろん、ただ失敗しただけではだめで、なぜ失敗したのか、失敗しないためにはどうすればいいか、反省することが必要です。私は学生にいつも言っています。「大学にいる4年間は、いろいろ挑戦しなさい。今なら挑戦した結果失敗しても人生に影響することはない。失敗から学ぶことができれば、大学を卒業するまでに強くなれるよ」と。
 それともう一つ学生に言っているのは、短期でも長期でもいいので海外に行きなさいということです。海外から帰ってきた学生は、人間が熟している気がする。明らかに成長して帰ってきます。語学も一所懸命学ぶようになる。人と交流するためには語学が必要だということを痛感するからでしょう。この学部には、海外にいくチャンスがたくさんあります。ぜひ、そのチャンスをとらえて、日本を飛び出してほしい。海外留学はいい経験になるし、自分の将来に必ずやいい影響を与えます。
 そして、幸いにも21世紀アジア学部には留学生がたくさんいます。「異文化とはこうだ」なんて教えなくても、友だちを作って自然に交流すれば、異文化を肌で感じることができる。授業も大切だけれど、外国人の友だちを作ることも大切で、これこそが真のグローバル化だと思います。

編集部: 21世紀アジア学部の学びを通して、先生はどのような人材を世に送り出そうとお考えですか?

 私が学生に望むのは、正しい道を正しく歩める人になってほしいということです。大学を卒業して社会に出ると、いろんな問題にぶつかります。その中には、その場で解決しなければならないこともある。そこで答えを出すためには、いろんな知識と確固たる価値観が必要になってきます。価値観がしっかりあって、知識があれば、どんな問題にぶつかっても正しく対応することができます。大学を卒業して5年、10年したら、大学で何を学んだか、卒論で何を書いたかなんて、聞かれることはほとんどなくなります。でも、あなたのやり方、考え方、モラル、性格にはみんなが興味を持ちます。「何を学んだか」よりも「どんな人間になっているか」が実社会では問われるわけです。
 それともう一つ。私は自分の専門以外に、脳科学にも興味がありますが、最先端の脳研究で分かってきたのは、人の脳は何歳になっても成長し続けるということです。語学でも、楽器でも、料理でも、何でもいいのですが、新しいことを学べば、何歳になってもシナプスは新しいネットワークを形成します。人生は小さなことの積み重ねです。努力する人と努力しない人の差は、初めは小さくても、10年20年と続いていくうちに大きく広がっていく。だからこそ大切なのは、努力をし、学び続けることです。社会人になってからも、挑戦し、成長し続ける人間になってほしいと思います。

R.カイム教授プロフィール

●人類学・社会学博士/ロンドン大学東洋アフリカ研究所 人類学・社会学科博士課程修了
●専門/国際関係論、社会科学、地域研究

掲載情報は、
2014年のものです。