経営学部の胆力

編集部: 先生は専門分野の国際経営論で、どのような研究をなさっているのですか?

 私が研究しているのは、企業が事業の国際化に際して、どのような戦略を立て、また、組織を構築しているかといったことです。たとえば、自動車メーカーを例にとってみますと、日本国内で販売している車の比率は、いまはもう18%ぐらいなんですね。あとの8割以上は海外で売っている。生産台数も、2007年以降は逆転して、国内より海外で生産している台数の方が多いんです。従業員も海外の方が多い。そうなってくると、いかにして海外で働いている人の能力を引きだしていくかということが大切になってきます。そのためにはどうすればいいか。現地に合った製品開発とか、チャネルの開発とか、人材マネジメントとか。こういった、グローバル化する時代の中での企業の動きなどを幅広く研究しています。

編集部: そのようなご研究ですと、海外にはよく行かれるのでしょうね。

 そうですね。調査のために海外にはよく出かけます。今年の2月にもインドネシアに一週間行ってきました。そして、翌月はフィリピンですね。フィリピンには、ある造船会社の海外戦略をヒアリングに行きました。この会社は中堅企業なんですが、日本の造船会社の中で最も高い利益率を叩き出しているんですよ。その秘密は、海外での巧みな事業マネジメントにあるんです。この企業では、設計とか技術を要するコアな仕事を日本でやり、労働集約的な仕事を海外でやっています。徹底した分業体制を敷いているんですね。これからは大企業だけでなく、中堅企業や中小企業も、どんどん海外へ出ていく時代です。日本国内だけで加工をやっている会社は、厳しくなってくるでしょう。

編集部: 国際経営論の授業では、どのようなことを学生に教えてらっしゃるのですか?

 国際経営論を教える「多国籍企業論」「グローバルビジネス論」の授業では、現在の日本企業のビジネスが、どれだけ国際化しているかといったことをやります。たとえば、日本本国での従業員数よりも海外での従業員数のほうが多い企業が増えてきましたから、当然のことながら異文化の問題が発生します。生活様式や文化、価値観が違う人をまとめていくのはたいへんですからね。外国人の持っている能力を最大限に引き出すためには、どんなマネジメントが必要なのか、といったことを授業でやります。
 その例として、私がよく引き合いにだすのが、サッカーチームのマンチェスターユナイテッドです。このチームは英国のプレミアリーグに属していますが、世界各国から優秀な選手を集めてきています。南米とかアフリカとか、文化も価値観も違うさまざまな国から、トッププレーヤーが集っているんです。しかも、俺が俺がという個性の強い人が多く、一筋縄ではいかない。そんな彼らに最高のプレーをさせるために、ファーガソン監督はどのようなマネジメントを行っているか。いかにリーダーシップが大切かといったことを話しています。こういう具体的な事例を使って説明すると、学生は興味を持って聞いてくれますね。

編集部: 文部科学省から助成を受けて進めている研究があるとうかがいましたが、どのようなものですか?

 それは「日系企業のBOP戦略とビジネス生態系モデルに関する研究」のことですね。文部科学省から科学研究費助成事業として認められ、補助金を受けて研究を進めています。BOPというのは「Base Of The Pyramid」の略称です。世界の所得構造を人口構成で見ると、見事なピラミッド型を形成しています。そして、その底辺にいる低所得者層のことをBOP層と呼んでいます。近年、発展途上国の経済発展にともなって、世界人口の約4割を占めるBOP層の所得が底上げしてきました。そこに企業がどう入り込んでいくのかということが、いま注目されています。
 私は実際にインドネシアやフィリピンに行って、日系企業が行っているBOP層ビジネスの実態を調査してきました。たとえば、男性化粧品を扱う某メーカーは、1960年代からインドネシアに進出し、BOP層向けの製品を開発しています。このメーカーは、日本ではボトルに入って売られている商品を、少量の袋に小分けして、必要なときだけ使えるようにして販売しています。その分、価格が抑えられ、低所得の人でも購入しやすくなっています。彼らは土日に彼女とデートするときだけ、この男性化粧品を使うんですね。このように少量に小分けして販売すれば、低所得の人でも高品質な製品が使えるし、日本企業としても利益が出せます。つまり、win-winの関係を構築することができるんです。このBOPビジネスに関する研究は、後期のグローバルビジネスという授業で、学生たちに紹介する予定です。

編集部: 「現代の産業と企業」という注目の授業もご担当されているそうですね。

 はい、私がコーディネーターをしている授業です。大手企業で活躍している現役やOBの方に来ていただいて、学生の前で具体的な話をしていただいています。講義は1名の方につき2回あって、1回目でその企業が関係している業界全体の動向について話していただきます。そして、2回目の講義でご自身が所属されていた企業の戦略や組織について話していただきます。実際に現場で指揮をとっていた人の話ですから、学生たちはみんな興味深く聞いています。
 経営学部には、この「現代の産業と企業」の他にも、優良中堅中小企業のトップの方をお招きしてお話しいただく授業もやっています。世界的にトップシェアを持つような優れた企業を中心にピックアップしています。「現代の産業と企業」「優良中堅・中小企業研究」、この2つの授業の目的は、学生達に今後の職業選択の参考にしてもらうことです。企業の現場で働いている人や、社長さんをお招きし、リアルな話をしていただくことで、学生に具体的な就職のイメージを持ってもらおうと考えています。同じ曜日の2限目と3限目で続けてやりますから、ほとんどの学生が両方の授業を取っているようです。

編集部: 先生は、日本の大学のゼミナール制度を高く評価されていますね。

 日本のゼミナール制度は、本当によくできていると思いますよ。もともとゼミナールの制度というのは、ドイツから来ているんですね。きちんと論文を読んだ上で、互いにディスカッションをして、専門性を高めながらコミュニケーション能力を高めていく学びです。日本の学生は、国士舘大学の学生も含めて、ゼミナール制度で外国の学生に負けない力を身につけていると思います。
 たとえば、私はゼミの学生を外国に連れていって、向こうの大学の学生と討論させるということをやっています。去年は3年生のゼミ生を、中国の上海対外貿易学院という大学に連れていき、「日中共生のビジネス・エコシステム」というテーマでディスカッションをやりました。英語で資料を作って、討論も英語でやるわけですから、それなりに学生はたいへんだと思います。でも、日本の学生はゼミでしっかり準備しているので、討論に余裕をもって臨めました。態度が堂々としているので、あちらの先生から、「大学院生なのか」と間違えられたぐらいでした。それだけ優秀に見えたということでしょう。
 このように、海外に行って、外国の方と交流するのは、学生にとって本当にいい経験になります。向こうでは英語で討論しますから、行くと決まった学生は、テレビやラジオの英会話講座で一所懸命勉強するようになります。また、度胸が付くのでしょうか、この討論会を経験すると、就職活動でも堂々と言葉が出るようになるみたいです。2013年は11月にモナシュ大学(オーストラリア)のマレーシア・キャンパスに行って討論会をやる予定です。

編集部: アジア経営学会に所属されていますね。これはどのような学会ですか?

 アジア経営学会というのは、アジアの人たちと連携して、学術的な相互交流を行い、親睦を深めることを目的として活動しています。日本にいらっしゃる中国や韓国の教員の方や、大学院生、留学生などが所属されています。私はここで理事を務めていますが、2012年の9月、アジア経営学会第19回全国大会を国士舘大学で開催しました。私が実行委員長を兼務して、男性化粧品を扱うメーカーの方をお呼びして、アジア戦略などについて発表していただきました。2013年の全国大会は、9月に京都大学で開催します。

編集部: 先生ご自身は、なぜ、この研究分野に進もうと思われたのですか?

 私ですか。私はもともと公認会計士になろうと思っていたんです。ところが、大学で簿記や原価計算をやっているうちに、自分には合わないなと感じて、どうせ勉強するなら研究者になりたいと思うようになりました。それで大学院に進み、発展途上国の開発経済論を学ぶことになりました。
 転機は、私の指導教授がドイツに行くことになったときに訪れました。私も教授と一緒に、ドイツに付いていってしまったんですね。ところが、あちらの大学院に入ったのはいいのですが、ドイツ語の授業をまったく取っていなかったので、まるでドイツ語ができない。言葉はできないし、お金もなかったので、新聞配達のアルバイトをやっていました。
 ドイツには一年半ほどいて、帰国するときに、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどを、ぐるっと回って帰ってきました。そのときの体験がきっかけとなって、発展途上国の貧困の問題に着目するようになり、企業の海外進出と現地の貧困との関係などを研究するようになりました。
 ただ、ドイツから帰ってすぐ大学の教員になれたわけではなく、ポストがない時期は生活のために肉体労働もやりました。三カ月ぐらいですかね、地下鉄有楽町線の池袋駅の工事をやりました。住むところがなかったので、寮に入って、働きに来ていたベトナムの人やタイの人たちと一緒に寝泊まりしました。私にとっては、いい経験になりましたね。そこで一緒に働いていた仲間が、のちにベトナムに帰って、タンロン大学の総長になりました。そのつながりで、前の大学にいたとき、2回ほど学生をタンロン大学に連れていって討論会をやりました。同じ釜の飯を食った仲なので、お互いに信頼関係ができあがっているんですね。そのときの寮生活で経験したことは、いまの研究に非常に役立っています。

編集部: 最後になりますが、グローバルビジネスの学びを通じて、どのような人材を育てようとお考えですか?

学生には、自分の生きていく道を、自分の力でどんどん開拓してほしいと思っています。将来、何になってもいいんです。私の知らない道もいっぱいあるでしょう。ただ、何をやるにしても、自分で納得できる人生を歩んでほしいなと思っています。
 そのためには、まず目標を持つことが大切ですね。なりたい自分を思い描き、その自分と今の自分とのギャップをどうやって埋めていけばいいかを考える。もちろん、これからの時代、語学は必要です。旅行でも留学でも、何でもいいから、外国にはどんどん行った方がいいと勧めています。海外に行って一人で生活すると、人間として自立できますから。私もそうでした。ドイツに行ったとき、ずいぶん苦労しましたが、でも、それがいまの自分にとって、とてもいい経験になっています。
 これから大学に進む高校生にとっても、同じことがいえると思います。とにかく、やる気があって、意欲に満ちた学生に来てほしいと思います。能力は問いません。そもそも人の能力なんて、そんなに違いはないんですよ。大学に来てから勉強を始めても、決して遅くない。意欲があれば十分に伸びます。目標を持ち、それに向かって全力で生きていける人間。そういう人に学びに来てもらいたいし、また、そういう人を育てていきたいと考えています。

林 倬史(はやし たかぶみ)教授プロフィール

●経済学博士(立教大学)/慶應義塾大学大学院商学研究科修了
●専門/イノベーションと異文化マネジメント、
知識創造とダイバーシティ・マネジメント、ダイナミック・ケイパビリティと組織能力、
グローバル競争優位性、標準化とオープン・イノベーション

掲載情報は、
2013年のものです。


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