経営学部の信頼

編集部: ご専門の経営情報論というのは、どのような分野の学問ですか?

 経営情報論というのは、ひとことでいえば企業と情報の関わりを研究する学問ですね。コンピューターを中心として、企業でどのようなシステムを作るかということです。企業には担当からマネージャー、経営者まで、いろいろな階層の人がいます。そういう人たちに対応したシステムの作り方、つまり、どんなふうに情報を集め、加工して、アウトプットすればいいかといったことを研究します。まぁ、一般的にはそういうことなのですが、私の場合はちょっと違った角度から研究していまして、「暗黙知」というものに注目しています。
 暗黙知というのは、コンピューターでは表せない情報のことです。たとえば企業にはベテランの社員がいますが、その人の頭の中には長年の勤務で培った膨大な知識や経験が詰まっています。これが暗黙知です。一般にコンピューターで表せる情報というのは文字情報ですが、暗黙知というのは意味情報で、長年の経験とか勘とかいったものは、数値や言葉で表すのが難しい。こういったものは文章化してマニュアルにしても、なかなか伝わらないんですよ。でも、情報ということで考えれば、このような暗黙知は、企業の中ではたいへん大きな割合を占めているわけで、それが団塊の世代の定年退職によってごっそり失われているという現状があります。先輩から後輩へ、どうすれば人の頭の中にある暗黙知を伝承できるのか。これは結構難しくて正解は出ていないんですが、それを正解に近づけるためにはどうすればいいのかといったことを研究テーマにしています。

編集部: このような研究ですと、企業の方に会って取材されることも多いのではないですか?

 そうですね。企業はだいぶまわりました。研究を始めるにあたって、まず株式市場の上場企業の何百社かを対象にアンケートを行いました。それで回答をいただいた企業を中心にインタビューに行ったんですね。経営者の方と直接お会いして、いろいろ話をうかがうことができました。それがとてもためになったと思います。やっぱり大切なのは現場ですね。実際に現場に行って、見て、話を聞かないと分からないですよ。学生たちに教えるときにも、いつもそこは強調しているんです。本なんかいつでも読めるのだから、実際にその目で見て、人に会って話を聞くことが大切だよと。足を運んで、調査してきなさいってね。それがやっぱり最も生きた情報を得られるんじゃないですか。若い人はすぐネットに頼りますからね。コピー・ペースト、あれは最悪ですよ。

編集部: 先生はそもそも、なぜコンピューターの分野に進もうと思われたのですか?

 私ですか? 私は大学で機械科だったんですよ。これはちょっとおもしろい話なんですが、機械科には3つの学問領域がありまして、熱と水と材料、この3つを学ぶわけです。それで卒業して、大学が同志社だったもので地元京都の繊維関係の会社に就職したんです。入社すると人事の人が、田村君は大学で何を学んだのかと聞くもので、熱と水と材料を学びましたと言ったんですね。そうしたら、そうか、熱力学を学んだのか、じゃあ君にはボイラー制御をやってもらいましょうと言うんですよ。そこで私は、ちょっと待てよと考えたんですね。当時ボイラーは石炭ですよ。せっかく大学を出て就職をして、ボイラー制御はないんじゃないかなと。そこで、私は勇気を出して人事の人に言ったんです。私は大学で機械科でしたけど、実は卒論でアナログコンピューターというものを取り上げたんです。これからはコンピューターの時代が来る。将来絶対に必要になるから、コンピューターの仕事をやらせてくださいと。そうしたら、分かったと言って、会計に配置転換してくれたんですね。それがこの道に入ったきっかけというわけです。その会社では、約5年間ぐらいかけて、どんなコンピューターを導入するべきかといったベースの部分から携わり、会社全体の業務を順次コンピューター化していくことができました。結局その会社は辞めてしまうんですが、最後は私のところに三十人ぐらいのスタッフがいましたね。今思えば、あのときが人生の岐路だったんですね。本当に、あのとき人事の人に思い切って言ってよかったと思いますよ。あそこで何も言わなかったら、今の私はありませんから。人間、ここだと思うときには、やはり自己を貫かねばなりませんね。

編集部: その後、カナダの大学院に留学されたわけですね。

 はい。日本の企業にはジョブローテーションというのがあって、ひととおり会社の中のすべての仕事をやらせて、人材を育てていくんです。でも、私はコンピューターの仕事をやりたかったから、別の部署に異動になることをきっかけに、会社を辞めました。それでカナダに留学しようと思ったんです。ところが留学するとなると学費だ、生活費だと、いろいろかかるじゃないですか。それでカナダ大使館に行って調べたら、あの国はありがたい国でして、永住権を持っている人間は大学院の授業料が免除になるんです。それで、永住権を得るにはどうすればいいかを調べたら、カナダで求めている技術を持っている人間は受け入れるとのことでした。私は5年間コンピューターのことをやっていたので、そのキャリアで応募したら、2年目に永住権が取れたんです。当時はカナダでコンピューターの技術者が不足していたんですね。それでカナダの大学院で修士過程を修了して、あとの2年は別の大学のスタッフとしてコンピューターセンターで働きました。そうしているうちに、日本のコンピュータメーカから声がかかり、システムエンジニアとして採用していただきました。そこには都合18年間いたのですが、最初の9年はSE(システムエンジニア)を、後の9年はシンクタンクで調査研究及びコンサルティングをやりました。

編集部: 経営情報論ということですと、授業ではどのようなことを教えてらっしゃるのですか?

 私の専門は確かに経営情報論ですが、しかし、授業では、とくにゼミの授業では、学生自身が興味のある分野を選んで、自由に研究できるようにしています。私はもっぱら彼らの研究のサポート役ですね。ゼミのガイダンスにも書いたのですが、私のゼミの目的は、社会に出て役立つ社会人基礎力を身につけることです。仲間や先輩から信頼され、仕事の成果をあげる。自主的に生き甲斐をもって働けるために何が必要かを、ゼミを通し学んでほしいと思っています。
 うちのゼミは原則として3年次、4年次の2年間学び、卒論を書いてもらうようにしています。研究テーマは自由なんですが、ただ一つ私が学生に要求しているのは、2年間のゼミ活動と研究を通して、就職するときに職場に持って行ける「おみやげ」を創りあげることです。職場のトップや上司が「これは大変有益だ。すぐに組織として参考にしよう。さすが国士舘経営学部の学生だ」と思えるような内容の研究にしてほしいんです。卒論も長さは問いません。短い文章でもいいんです。ただ、就職先の会社のトップが、「こいつなかなかやるな」と思うようなレベルのものに仕上げろと言ってあります。

編集部: 他にゼミの授業で大切になさっていることはありますか?

 そうですね。ゼミでは学生が調べてきたことを、みんなの前で発表してもらうようにしています。発表に際しては質問者をあらかじめ決めておいて、どんなことでもいいから必ず質問させるようにしています。とにかく人前に出て発表したり、意見を述べる機会を増やそうと思っています。社会に出ると、人前でものを言う、これが大切なんですよ。いまの3年生もだいぶよくなってきましたが、4年生はすごいですね。もう人前で堂々と臆することなく喋れるようになりましたから。
 それからゼミの運営も、すべて学生にまかせています。ゼミ長、会計、広報、書記などの職責を定めて、ゼミ旅行や飲み会の企画など、すべて自分たちでやるようにしています。うちの連中はとにかく仲がいいんですよ。先日も今度ゼミ生になる2年生と、今の3年生、4年生が一堂に集まって、総勢100名ほどの大コンパをやりました。なぜこんなことを企画したかというと、みんな卒業してからも年に一回はOB会をやりましょうということで、今回の大コンパがその第一回目になったわけです。

編集部: この春から経営学部で、新たな目玉授業がスタートするとうかがいましたが……。

 それは「優良中堅中小企業研究」という授業のことだと思います。これは経営学部が総力をあげて取り組んでいる新しい試みで、まさに国士舘大学経営学部の目玉授業になるんじゃないでしょうか。国士舘大学では数年前から、全国にある優良な中小企業を調査していて、その中で特にトップシェアの製品を持っている企業をピックアップし、それを「優良中堅中小企業」と定義しました。規模は小さいけれど、世界に誇れるような技術や製品を持った企業が日本にはたくさんあるんです。で、千社ほど選んだ中小企業の中から、順次アポイントを取って、どうしてそのような技術や製品が生まれたのかといったことを、経営者にお会いしてヒアリングしています。そして、この四月から「優良中堅中小企業研究」という授業の中で、経営学部の先生方が持ち回りで、各回3社ぐらいの企業を学生に紹介していきます。この授業の目的は、大企業志向の強い今の学生に、素晴らしい中小企業があることを知ってもらうことです。中小企業のトップにお会いして、「授業でお宅の企業の素晴らしさを紹介したい」というと、ほとんどの経営者の方が感激されますね。そして、全面的に協力していただけます。日本は今就職難といわれていますが、こういった優良な中小企業の中には、新卒者の確保に苦労しているところもあります。これからの時代は大手に行ったからといって、必ずしもいいとは限らない。こういった優れた中小企業に行った方が、学生にとってもチャンスがあると思うんです。企業と学生の間に入ってお見合いをさせる仲人のような役割を果たしていきたいと考えています。こんなことをやっているのは、たぶん国士舘大学だけじゃないかと思いますね。

編集部: 経営学部の学びを通して、学生にはどんな人間になってほしいとお考えですか?

 そうですね。やはり人から信頼され、頼られ、尊敬されるような人間になってほしいですね。社会で生きていく上で大切なのは、知識だけではないと思うんです。あれ知っている、これできるという以前に、「あいつにまかせておけば大丈夫」と思われることが大事じゃないでしょうか。だから、ゼミの授業でも、私は知識の習得よりもむしろ現場にどんどん足を運んで、取材することを勧めています。いろんなものを見聞きして、経験を積み、場数を踏んでほしいと思うからです。世の中に仕事の分野はいろいろあるけれど、どこに進んでも善し悪しはないと思うんですね。その子にとっての向き不向きもありますから。何でもいいから、とにかくトライして、いろんなことを経験して、幅広くやってくれと私は言っています。
 うちのゼミの今の4年生なんかを見ていると、もう何の心配もいらないと思います。十分に社会を生き抜いていく力を獲得していますから。彼らは面白いんですよ。今度が最後の授業になるんですが、授業が終わってしまうのが嫌だというんです。卒業式まで、みんなや先生に会えなくなるのが寂しいって。ありがたい話ですよね。そして、コンパの予定や、卒業式の後のイベント、余ったゼミ費の使い道なんかを自分たちで話し合ってどんどん決めていきます。こういう元気な子たちと付き合えるのは、本当に楽しいですね。OB会で年に一度、田村に会いたいと言って来てくれることを、今から楽しみにしています。

田村泰彦(たむら やすひこ)教授プロフィール

●メモリアル大学大学院(カナダ)経営学科研究科修士課程修了
●専門/経営情報学、社会情報学

掲載情報は、
2012年のものです。