ブックタイトル国士舘史研究年報第8号

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概要

国士舘史研究年報第8号

国士舘史研究年報2016 楓?160つけてきていることの現れである。世界的に競技としての空手道が広まる中、この地では武術としての空手道が根強く息づいていることを強く感じた。巻き藁一〇〇〇本突きを始めたのもこの頃である。拳頭の皮が破れ、拳に手拭いを巻いて巻き藁を叩き続けたのも、地力を高める必要性を教えてくれた稽古仲間のカルロスがいたからである。銃社会ブラジルでは条件を満たせば国民は銃を携行所持できるということは聞いていたが、それがどのような社会を意味するかまでは全く実感としては捉えていなかった。ベレンに着任して間もない一九八二年八月頃、指導を終え剣道師範の山科守先生と日本食レストラン「博多」で夕食をともにしていた時のことである。店の奥にあるカウンター席で山科先生とビールを飲んで雑談をしていると、入口近くのテーブル席にいたグループが口論を始めた。大きな声を出していたので注目していたところ、一人の男が店の外に出て暫くすると何かを振りかざして戻ってきたのである。そのグループから悲鳴が聞こえると同時に店内にいた客の殆どはテーブルの下や調理場へ姿を隠し、山科先生と私だけがカウンターに腰掛けていた。私は何か考えがあって逃げなかったのではなく、入口のほうで何が起こっているのか理解出来ていなかったのである。しかし、一緒にいた山科先生は何が起きているか理解しており、私に男が銃を持っていると教えてくれた。それでも私は動こうとしなかった。横にいた山科先生がまったく落ち着いた様子で椅子に座っていたからである。男は銃を持ち怒鳴り続けていたが、おもむろに山科先生は立ち上がって平然とその男の前へ進み出た。何か話している様子であったが、暫くすると男は銃を下に向け入口から出て行った。ただ唖然として眺めていた私は戻ってきた先生に「大丈夫ですか?」と尋ねると、「ん、本気で撃とうとする者はあんなに銃を振りかざしたりしないものだよ、脅しで振り回していただけだ」と事も無げに言われたのだった。先生のとった行動の是非はともかく、銃をもった相手に素手で向かい合い、事を片付けてしまった先生のその胆力には驚かされた。この後、いろいろなところで銃社会の現実と向き合うこととなる。ベレンからサンパウロへ勤務が異動した後に、サンパウロ支部武道体育館で合宿を行った際、食堂