ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

国士舘史研究年報第7号

国士舘史研究年報2015 楓?14徒は通いなれた校舎を離れて続々と軍需工場へ動員された。しかしながら、全く学校に行かなくなったわけではなく、前章で述べたように、学生を集めての講話等は日常的に行われており、また、その日その日の勤務についても学校の方から指示が出ていたことがうかがえる。また、「日記」一九四五年四月二一日には「中学生百名の多人数の作業監督を命ぜられ、五挺のシヤベルで処置なかりし所、小川先生から長短一如(味)大勢を使ふも小人数も同じであると云ふ暗示を与えられ大いに眉び宇うの開いた感が致した。(生徒を遊さぬ使役法)」とあり、中学生を指導しての作業も行っている。かくして、日々勤労動員による作業が続いたのであるが、その心情は複雑なものであったようである。「日記」一九四五年二月一一日には思いのたけが記されている。銃後勤労生産戦の怠惰を憤激し、田中先生に贈るを悪筆の為中止するの文。謹啓 長い間御無沙汰致しました、時局柄とは申すものゝ、勤労奉仕で何にも成す事なく徒に年ばかり喰ひ誠にお恥しき次第であります。勤労も仕事甲斐の有る事であればよいのですが、だらしない会社で自分の修業迄打ち捨てゝ来る程の事もないと思へば仕事も嫌に成ります。戦局愈いよ々いよ急を告げる時、現今の様な事をやつてをつて好いのであらうかと疑ざるを得ないのであります。口に道義を唱えながら、其を行ひ得ない今日正に社会秩序の怠乱今に勝る時はありません、一見秩序正しくなつた様に見えますが裏面に於ては覆ふべからざる者が多数あります。これ等のものは戦前のものより、悪質なものであると云ふ事が覘うかがへるのであります。亦勤労学徒の熱意敵慨心たるや一般に於て零であると申しても過言ではありません。社会の中堅層たる青年が斯の如きでありますから、日本国の者の敵慨心の程度が凡およそ想像されます。但し農民及び軍部又は自分の父兄を戦死させた家の者は別であります。日本国中残らず農民の精神に依らねば戦争貫遂はむつかしいのではないかと思ひます。今日を置いて日本国の危急存亡の時はありません、正に国家興亡の岐路に立つてをるの感が致します。今年の始め頃京都に行き先生に拝顔致したく思ひましたが切符が買えず思ふ通にならず誠に残念に思つております。其の節はよろしくお願ひ致します。厳寒に向ひます折から増々御自愛下さい