「勇気と決断」をもって新たな挑戦を

学校法人国士舘 理事長　大澤 英雄

　皆さん、ご卒業おめでとうございます。学園を代表して、お祝いを申し上げます。

　本来ならば、一堂に会して皆さんに直接、お伝えするはずでしたが、それを叶えることができず、残念でなりません。

　皆さんが、国士舘で過ごした青春の一時期はどのようなものだったでしょうか。充実した日々を送ることができたでしょうか。苦い思い出も含め、皆さんが経験した全ては人生の貴重な体験として位置付けられることと思います。

　大学教育が一般化している状況の我が国ではありますが、皆さんが大学に学ぶ機会を得たことは、非常に貴重な体験であったはずです。まず皆さんは、ご両親をはじめ、支えて下さった方々にお礼と、本日を迎えるまでの支援や励ましに対する感謝の気持ちを心から申し上げることを忘れないでください。

　さて、本日を一つの節目として、新たな人生を始める皆さんですが、大学で学んだというかけがえのないこの体験も今後、社会人として目標を定め、自身の資質、能力を十分に発揮していかなければ意味がありません。そのためには、能力を開発し、それを最大限に活用していく必要があります。自分の能力を開発するとは、本学で培われた教養と基本的な考え方を基に、社会人として、何らかの形で世の中の役に立つ、或いは力になるための努力をすることです。そして、このことが今後、皆さんには最も重要なのです。自分の資質や能力を十分に発揮してこそ、大学卒業の意味があるのですから、学校における教育が終わっても、形を変えた学びと努力の日々が始まることを意識してください。

　また、皆さんにはさまざまなことにチャレンジしてほしいと思います。

　事の大きさに関わらず、新たなことに挑戦する際には、勇気と決断が必要です。いつでも成功するとは限りませんから、しっかりとした準備が必要です。しかし、生きていく上で失敗するのは仕方ないことですし、失敗を恐れて何もしない人に成功はありません。失敗しても再チャレンジや軌道修正が可能なことは若者の特権ですから、皆さんには安定を求めるあまり、新たなことに取り組むことを敬遠しないでほしいと思います。重要なのは失敗をどのように受け止め、自分の中で活用していくのかです。失敗や挫折には学びのチャンスが詰まっています。それは貴重な体験となって将来、役に立つからです。失敗してもそれを乗り越えて最終的に成功まで漕ぎつけたなら、結果的にはそれも成功への道のりと言えます。失敗を次に続くステップにするのか、単なるしくじりで終わらせるのか、受け止め方次第です。是非、多くの挑戦を通して自分を磨いてください。

　もう一つお伝えしておきたいことがあります。

　現代社会は先の見通しのきかない、難しい時代であることは皆さんご存知の通りですが、ここ数年の予期せぬ自然災害に加えて、新型コロナウイルスの猛威は、人間の微力さを痛感せずにはいられません。今、新型コロナウイルスの影響により、物理的にも精神的にも人と人との距離が遠くなり、これまでの価値観や生き方が大きく問い直されようとしています。

　そんな時だからこそ、自分を見失わずに自分らしく日々を送る努力をしなければなりません。皆さんは、この未曽有の状況でも、卒業に向け、努力をして本日を迎えられました。このことを自分の力にしてください。予期せぬことは、生きていく上にはたくさんあります。悲観せず、投げ出さず、現状をしっかり見据え、その中で精一杯、自分らしく生きてください。苦難を乗り越えることで、人は大きくなります。

　人と人との関係で成り立っているこの社会の中で、まわりの人と円滑な関係を築くことは重要であり、それによって救われることもたくさんあります。皆さんが一人で乗り切ったと思っていることも、気付かないところで人の助けを受けているのです。皆さんは、支えてもらうことに感謝するとともに、自分でも人に尽くすことで感謝の気持ちを繋げていくことを心掛けてください。

　この度のオリンピック・パラリンピックでもそんな場面を多く目にしました。未曽有の状況下での開催に感謝の言葉を述べる選手や自分を支えてきてくれた関係者にまず感謝の言葉を口にする競技後の多くの選手たち、そのような選手たちを迎え、大会運営をサポートしたキャストや多くのボランティアの方々です。私たちは、互いに支え合い、授け合って成長していくことをつくづく感じさせられました。

　もう、皆さんお分かりかと思いますが、誰かの役に立つことを喜ぶ気持ちこそが、国士舘精神の原点です。人の幸せを自分の幸せとして生きるということですが、国士舘の四徳目「誠意・勤労・見識・気魄」の最初に「誠意」を掲げているのもそのためです。

　時代が変わり、どんなに技術が進歩しても人間的な触れ合いや温かさは機械では作り出せません。卒業される皆さんに今一度、国士舘精神の原点をお伝えしておきたかったのです。　　　　　　　　　　　　　　　　　

　一歩一歩、確かな足取りで努力を続け、豊かな人生を送っていただくことを願ってやみません。

　本日はコロナ禍のためにおいでいただくことが出来なかった、ご家族の方々にこの場をお借りして申し上げます。国士舘の教育理念にご理解をいただき、大切なお子様を本学に託していただきましたことに、国士舘関係者を代表して、心から御礼を申し上げます。

　最後に、卒業生の皆さん、自分の人生はもとより、日本の未来を切り開いていく気魄と勇気をもって生きることを心から願って、私の餞の言葉といたします。