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2021年11月17日

防災まちづくり―「事前復興」で命守る【理工学部・橋本隆雄教授】

今年7月に発生した、静岡県熱海市の伊豆山土砂災害では多くの被害がもたらされました。温暖化により年々激しさを増す水害、また南海トラフや首都直下型といった地震への懸念も高まる中、私たちは改めて「防災」と向き合う必要があります。国内外で多くの被災地へ足を運び調査・研究を続けてきた理工学部まちづくり学系の橋本隆雄教授に、近年の災害の脅威、大学が担う役割について聞きました。(国士舘大学新聞編集部)

<令和3年10月5日取材>
  • 本学防災・救急救助総合研究所の研究員でもある橋本教授本学防災・救急救助総合研究所の研究員でもある橋本教授
土砂災害の現場から 復興への道のり

熱海・伊豆山土砂災害では、土石流で20人以上の方が亡くなりました。
私は発生直後から現場に入り、10月には静岡県と熱海市の依頼で現地を視察しました。今回の土石流は、排水対策、砂防えん堤のない盛り土が大量の水を含み崩壊した「人災」です。宅地以外の盛り土に対する規制がなく、国が早急に法整備をする必要があります。今後は静岡県と熱海市のアドバイザーとして、砂防えん堤の再構築と河川整備、そして街の復興計画を住民とともに作成しながら復興のお役に立ちたいと思っています。

  • 伊豆山土砂災害現場。土砂のほとんどが地区外に運搬され、元の状態に整地されていた(令和3年10月4日橋本教授撮影)伊豆山土砂災害現場。土砂のほとんどが地区外に運搬され、元の状態に整地されていた(令和3年10月4日橋本教授撮影)
近年の災害から見える「事前復興」の重要性

1時間あたりの降水量50ミリ以上の豪雨の発生回数は、40年前の1.4倍に増加しています。温暖化による海水面の上昇や線状降水帯の頻発など、洪水や土砂災害、液状化の発生リスクは確実に高まっています。
また、今後30年以内に、首都直下型地震が70%、南海トラフ巨大地震が80%の確率で発生すると予測されています。平成28年の熊本地震では熊本城の巨大な石垣が崩れました。文化庁の調査団に同行した私は、城内の石垣崩壊のすごさに圧倒されました。もし地震発生が日中なら観光客に多くの犠牲者が出たでしょう。
こうした災害に備えるには「事前復興」が急務です。事前復興とは、災害時の被害を最小限に抑えるまちづくりです。
私は昨年「文化財石垣補修・補強技術協会」を発足させました。築城から何百年も経過し、変状が発生している城の石垣を文化財として守りながら補強・耐震を進める活動です。さらに液状化、地すべり対策の「レジェンドパイプ工法」を開発し、この地下水位低下工法技術が北海道胆振東部地震の復興対策などに役立てられています。
多くの現場を見てきた者として、国や自治体、住民へ働きかけ、一人でも多くの人命を守るために、事前復興の動きを加速させたいと考えています。

  • 熊本城復興のための技術協力として防災科学技術研究所で行った石垣の大型振動台実験について説明する橋本教授。これにより石垣の耐震補強の必要性が認められた(令和元年9月撮影)熊本城復興のための技術協力として防災科学技術研究所で行った石垣の大型振動台実験について説明する橋本教授。これにより石垣の耐震補強の必要性が認められた(令和元年9月撮影)
  • レジェンドパイプ工法協会として北海道災害リスク対策推進展2021に出展レジェンドパイプ工法協会として北海道災害リスク対策推進展2021に出展
  • 事前復興の一つとして、静岡県焼津市花沢地区の石垣修復に学生とともに携わる。文化庁・文化財保存協会・自治体に対し、石垣修復の施工方法を説明する橋本教授(令和2年10月撮影)事前復興の一つとして、静岡県焼津市花沢地区の石垣修復に学生とともに携わる。文化庁・文化財保存協会・自治体に対し、石垣修復の施工方法を説明する橋本教授(令和2年10月撮影)
地域防災の実現に向け大学ができること

皆さんは、居住地域がどんな地盤の上で、どんなリスクがあるか考えたことはあるでしょうか。地盤は目に見えませんが災害に直結します。また、倒壊、火災、洪水など、地域によって対策も変わります。
ハード面での対策が重要ですが、迫りくる災害に間に合わない。それには、行政と住民と小中学校が連携しながら、通学路や斜面の危険度などを事前に把握し、避難ルート確認も含め平時から対策を行うなど、ソフト面で自助・共助・公助の体制を整えていく必要があります。このような「地域防災」の総合拠点として機能しうるのが、大学ではないでしょうか。

防災わかる国士を

本学は防災教育に力を入れており、学生の多くが災害時に対応できる知識と技術を学んでいます。また私の研究室では「防災まちづくり」の観点で耐震補強の研究も進めています。大学が行政と住民のパイプ役になり、防災を学んだ学生が地域防災を誘導できれば、被害を最小限に抑えることにつながります。
学生には、人命をいかに守るか、微力でもいいから考えなさいと伝えています。本当の意味での防災がわかる人間、防災で世に貢献できる国士を育てたいですね。

  • ゼミでは学生の発表に丁寧に助言するゼミでは学生の発表に丁寧に助言する
プロフィール

橋本 隆雄(はしもと・たかお)教授

専門分野:地盤・防災

理工学部まちづくり学系/工学研究科建設工学専攻および応用システム工学専攻

 

国士舘大学工学部卒業

金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程(地震工学・地盤工学・防災工学)修了。博士(工学)

本職のかたわら平成16年から約13年間本学理工学部の非常勤講師を務め、平成29年に現職。

土木のコンサルティング会社時代に、全国の宅地防災マニュアルの作成などに携わった。現職でもその知見を生かし、全国各地で地震・豪雨による宅地被害調査や城壁の耐震調査を行うほか、液状化対策の技術開発を行うなど、多方面で活躍。

 

文化財石垣補修・補強技術協会会長

弾性波診断技術協会(EITAC)副理事長
レジェンドパイプ工法理事

 

 

 

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2024年03月05日更新

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