国士舘大学経営学部で教鞭を執る堀口朋亨教授は、経営経済学の専門分野で、主に海外企業の活動や戦略などを研究なさっています。堀口先生はドイツの大学院に留学し、13年間、海外で生活されていました。その異国での経験を活かして、ゼミでは学生の自主性を最大限に尊重する教育を行っています。「企業経営に一つの正解はない」とおっしゃる堀口先生に、経営学の学びの魅力についてうかがいました。
実践的な経営学の学び
- 編集部
- 国士舘大学の経営学部で、学生はどんなことを学ぶのですか?
- 堀口
- 一般的に経営学というのは、企業を上手に運営していくために、企業に関するさまざまなことを学ぶ学問です。ただし、国士舘大学の経営学部は、他大学とちょっと違う特徴があると思っています。
- 編集部
- それはどのような特徴でしょうか?
- 堀口
- 日本の場合、規模の大きな大学の多くが経営学科と会計学科を分けて設置しています。マーケティングも別に設置しているところがありますね。普通なら2学科体制になるところを、国士舘大学では、経営学部経営学科の1学部1学科体制で教育を行っています。
- 編集部
- 1学部1学科体制にするメリットは、どこにあるのでしょうか?
- 堀口
- 大学に入った時点で、最初から学びたいことが決まっている学生は少ないですよね。多くは、やりたいこと、学びたいことが決まっていない。だから本学では1学部1学科体制を採用して、学びの自由度を高め、幅広く学べる環境を整えています。経営か、会計か、マーケティングか、大学で学びながら自分の深めたい学問分野を決めていくことができるのです。
- 編集部
- なるほど、大学で学びながら、進みたい専門分野を絞り込んでいけるわけですね。
- 堀口
- もちろん、各分野の基本的な科目はしっかり配置しているので、どの分野でも充実した学びを修められます。例えば、マーケティングだと最近はデータをよく扱うので、本学ではAI・データサイエンス副専攻があり、専門科目が履修できるようになっています。経営学部にデータサイエンスの専門家がいて、その先生に直接指導していただけます。
- 編集部
- 学びたいことがはっきり決まっていない学生にはいいですね。
- 堀口
- もう一つ、本学の経営学部には特徴があります。それは、実務家の先生が教えてくださる科目がたくさんあるということです。大手や中小企業の現場で活躍されている経営者や従業員の方が本学にいらして、講義してくださいます。
- 編集部
- たとえば、どんな講義がありますか?
- 堀口
- たとえば、「優良中堅・中小企業講座」という科目ですね。この授業では、中小企業を経営する社長をお招きして、苦労話なども含めて、経営についての貴重なお話を学生にしていただいています。社長から直接話を聞ける機会なんて、そう滅多にありませんよ。過去には授業に出た学生が、社長に気に入られ、そのまま就職したというケースもありました。経営者の方にとっても優秀な学生と出会えるチャンスのようで、評判がいいですね。
- 編集部
- 授業に出たら、それが就職につながってしまったのですね(笑)。
- 堀口
- 他にも、いまは「日本ショッピングセンター協会」様から寄付講座もいただいています。
- 編集部
- 寄付講座? それはどういうものですか?
- 堀口
- 寄付講座は、企業側が費用をすべて負担して実施してくださる持ち込み講座のことです。全部で14回講義がありますが、毎回、ショッピングセンターを経営する名だたる企業の現場の責任者の方がいらして、実践的なお話をしてくださいます。国士舘は気力と体力の充実した現場力のある学生が多いので、内定を頂くなど企業からも好評をいただいています。
- 編集部
- なるほど、いろんな現場の話が聞けるのですね。学生にとっては、生きた学びになりますね。

ドイツでの学びと経験
- 編集部
- 先生は、どのようなことを専門に研究なさっているのですか?
- 堀口
- 私は国際経営が専門で、企業の多国籍化とか、国際的な活動などを研究してきました。特にドイツに居た期間が長かったので、ドイツ企業の専門家ということになっています。具体的には、企業のコーポレートガバナンスや企業戦略、あとヨーロッパは同族企業が多いので、同族企業研究などもやっています。ドイツ企業がメインですが、教員になってからは学生に教えるために、いろんな国の企業をリサーチしています。
- 編集部
- 先生はドイツに留学されていますよね。なぜドイツに行こうと思われたのですか?
- 堀口
- 私はもともと大学で経済学を学んでいました。昔から外国に行きたいという思いはあって、経済学を学ぶなら、アメリカ、イギリス、ドイツの3カ国だと思っていました。その中でドイツを選んだのは、学費が安かったからです。ドイツは大学の学費が無料です。私のような外国人でも無料になるのだから、すごいですよね。
- 編集部
- ドイツでは、どんなことを学ばれたのですか?
- 堀口
- ドイツではゲッティンゲン大学の大学院に在籍して、経営学を学びました。ドイツの有名な経営学者にグーテンベルクという人がいて、その弟子でご自身も非常に著名な経営学者であるリュッケ先生という方に私は師事しました。ドイツの大学は、昔ながらの講座制を採用しています。「講座」は日本でいうゼミのようなもので、講座を持っている先生が全権を握っているんですね。リュッケ先生はとっても優しく親切な方で、先生について学んでいるうちに経営学が面白くなってきました。
- 編集部
- ドイツには何年ぐらい住んでいましたか?
- 堀口
- トータルで13年間ですね。ゲッティンゲン大学で6年間研究をして、その後はミュンヘン大学に移って助手を務めました。ミュンヘン大学は日本語を学んでる学生が多かったので、研究の仕事の他に、留学前の学生に日本語を教えたり、日本での注意事項を伝えたりしていました。あとは翻訳の仕事ですね。
- 編集部
- 日本語の本を、ドイツ語に翻訳したのですか?
- 堀口
- はい。鈴木光司さんの「らせん」という本のドイツ語訳をやりました。
- 編集部
- 鈴木光司さんといえば、貞子が出てくる「リング」で有名ですよね。
- 堀口
- そうなんです。実は「リング」がハリウッドで映画化されたときに、ドイツ語版がドイツで出版されました。でも、なぜか売れなかったんですね。で、出版社の人が、英訳した本をドイツ語へ又訳したのがダメだったんじゃないかと考え、「らせん」の翻訳では日本の原本から訳せる人を探していたんです。ミュンヘン大学には有名な日本センターがあり、編集者が連絡をしてきて、依頼されることになりました。
- 編集部
- 当然ですが、すべてドイツ語で書かれたんでよね。翻訳するのは大変でしたか?
- 堀口
- けっこう大変でしたね。最後の方は徹夜、徹夜の連続でした(笑)。
- 編集部
- 長年ドイツで暮らして、何か思ったことはありますか?
- 堀口
- そうですね。日本の当たり前が、必ずしもドイツでは当たり前じゃない。日本の常識はドイツの非常識、みたいなことを思いましたね。それで異なった価値観に対する許容度みたいなものが、自分の中で広がったように感じます。自分の考えが100%正しいと思わなくなった。いろんな考え方がある中で、では、どうやったら答を見つけられるか。何事に対しても、決めつけなくなった気がします。この経験が、いまの自分の教員としての教育観にも影響しているなと思います。
自主性を尊重する学び
- 編集部
- ゼミでは、学生はどのようにして学んでいるのですか?
- 堀口
- うちのゼミはグループワークが中心です。20名ほどいるゼミ生が3つのグループに分かれて、グループ単位でやりたいことを研究しています。
- 編集部
- 研究のテーマは、学生自身が決めるのですか?
- 堀口
- はい。まずはゼミ生が、それぞれ自分が何を研究したいかをホワイトボードに書き出します。それをみんなで見ながら、話し合って、研究のテーマを3つに絞り込みます。それで各自がやってみたいテーマのグループに参加するという形でやっています。
- 編集部
- たとえば、どんな研究テーマがあるのですか?
- 堀口
- 今年やっているのは、新しいショッピングセンターのプランニングです。国士舘大学の隣に公園があって、その公園にショッピングセンターを作るとしたらどんなものにすればいいかということをテーマにしています。いま、ちょうど寄付講座で日本ショッピングセンター協会とつながりがあるので、講師の先生方にアドバイスを仰ぎながらやっています。
- 編集部
- 企業の方から直接アドバイスを受けられるのですね。
- 堀口
- 京王線の聖蹟桜ヶ丘にあるショッピングセンターの支配人の方が、個人的に協力してくださっています。学生は実際にショッピングセンターに行き、見学させていただき、現地でインタビューもやっています。実践的ないい学びになっていると思います。
- 編集部
- アポイントを取ることなども、学生が自らやるのですか?
- 堀口
- もちろん学生に任せています。自分でメールを書いてお願いしてみる、これが大事だと思うからです。真心を込めて、相手のことをしっかり勉強してアプローチすれば、たいていは受けていただけます。中には断られるケースもありますが、断られることもまた大事な学びですよね。教員の私がやれば引き受けて頂ける確率は上がりますが、そこはあえて学生に任せるようにしています。
- 編集部
- 他には、どんなテーマがありますか?
- 堀口
- 野球のスタジアムを作るなら、どんなスタジアムにするかというテーマでやっているグループがあります。彼らも実際にスタジアムに出向いて、現地調査をしています。もう一つは、サッカーのクラブチームですね。どんなクラブチームにすれば経営がうまくいくかというテーマで研究をしています。このグループもスタジアムに足を運んでいますね。うちのゼミでは、全員が参加するフィールドワークはやりません。学生たちが自ら日程を合わせて現地に調査に行くので、結果的にそれがフィールドワークになっています。みんな自分たちの研究を楽しんでいるようですよ。
- 編集部
- こういう実践的な学びは、座学よりも力が付きそうですね。
- 堀口
- いや、座学は座学で専門的な知識が深められるので、いい点がいっぱいあります。徹底的に座学をやるゼミがある一方で、私のようなグルーワーク中心のゼミがある、その広がりを持っているのも本学の経営学部の強みだと思っています。学生には自分に合ったゼミを選んでもらえばいいと考えています。
- 編集部
- ゼミ合宿などには行くのですか?
- 堀口
- ゼミ合宿は、やる年とやらない年がありますね。それも学生に決めてもらっています。なぜなら、合宿に行くとそれなりの費用がかかるからです。家庭の事情で行けない人が出るとかわいそうって、学生は考えるんですね。いまの学生は優しいんですよ。だから、みんなで話し合って、行けそうな年は行きますね。以前は沖縄に行きました。旅行に行かない年は、ディズニーランドに日帰りで行っています。それはそれで楽しいですから。
- 編集部
- すべてを学生の自主性に委ねるということですね。
- 堀口
- 私は、社会で生きていく上で最も大切なのは「自律性」だと思っています。自分自身で考え、動いていける力です。人の指示に従うだけの人にはなってもらいたくない。だから、私のゼミでは、たとえサボっている人がいてもすぐには何も言いません。「そろそろまずいんじゃないの」ということに自ら気づいてほしいからです。人に言われて動くのではなく、自分で反省して動いてもらう必要があります。国士舘大学の教育指針にも「反省」という言葉ありますね。個人的に、私はそこがいちばん大事だと思っています。
大切なのは気力と体力
- 編集部
- 先生は、4年間の大学教育を通して、学生にどんな力を付けてあげたいとお考えですか?
- 堀口
- それはもう、「自分で考えて生き抜いていく力」を付けてあげたいですね。4年間の教育で、長い人生のすべてを保証することはできないけれど、でも、最初のスタートのところで、自分自身でよく考えて、状況を見ながら決めていける力を身に付けられれば、社会の中で自然と生きていくことができます。そういう意味で、経営学は人間形成にも役立つ学問ではないかと思っています。
- 編集部
- 経営学のどこが人間形成に役立つのですか?
- 堀口
- 経営学を学んでみると分かりますが、経営の答は一つではないんですね。人生に一つの答がないように、企業経営にもこれと決まった正解はありません。だから、いろんな事例を見て、いろんな正解のあり方を見ていくということを学びます。そういう多面的な思考が身に付くと、社会に出て壁にぶつかったり、何かで悩んだりしたときに、「こういうやり方もある」「ああいうやり方もある」と、いくつかの事例を比較しつつ自分で決められるようになります。「正解は一つではない」ということを知る上でも、経営学の学びは人生に役立つと思います。
- 編集部
- 日頃、学生に教える上で、心がけていることはありますか?
- 堀口
- 私の場合、とにかく「けなさない、怒らない、否定しない」ということをモットーにしています。学生にいつも言っているのは、短所を改善するより、長所を伸ばした方がいいよということ。人は自分が好きなことなら頑張れるけれど、苦手なことはそこまで頑張れません。まずは好きなこと、得意な分野を伸ばして、その強みを活かした形で人生を動かしていくといいと思っています。だから短所を否定することはせずに、長所を見つけて徹底的に伸ばしていく、それが私の教育方針です。
- 編集部
- そのために、学生の自主性を大切にしているのですね。
- 堀口
- 大学教員として、学生を適切な方向に導くように指導するやり方も確かにあると思います。教員は学生よりも長く生きていて、経験も知識も豊富だからです。でも同時に私は、このように社会が大きく変化している時代においては、自分自身の知識や経験は必ずしも正しくないかもしれないという思いがあります。「日本の常識がドイツの非常識」であると同じように、私の常識は必ずしも学生の常識ではないということですね。そこを私はドイツでの留学経験で学びました。だからまず、自分の考えを押しつけるのではなく、学生の自主性を尊重すべきだと考えています。
- 編集部
- 大切なのは、自分で考え、動いていく力なのですね。
- 堀口
- 国士舘大学の創立者である柴田德次郎先生は、学生みずから「読書・体験・反省」の三つを実践し、「誠意・勤労・見識・気魄」を養いなさいとおっしゃいました。私は最近、この「気魄」というものがつくづく大事だなと思っています。昔は頑張るために体力が必要だと思っていたのですが、体力があっても気力がなければ力は出ません。体力に加えて必要なのは、「気力」とか「やる気」なんです。モチベーション。それを引きだすために、学生には自主的に好きなことに取り組んでもらっています。
- 編集部
- 体力と気力があれば、人生、何があっても乗り切れますからね。
- 堀口
- 国士舘大学は、もともとスポーツをやっていた学生が多いんですよ。部活で頑張ってきた人は、基本的に「体力」と「気力」があります。私は学生が社会人になったときにその能力を応用出来るように、経営学の学びからさらに伸ばしてあげたいと考えています。自分で考え、自分で動く、そういう自律性をゼミの学びを通して身に付けて、社会に出て頑張ってもらいたい。それが自分の教育方針になっています。創立者の柴田德次郎先生のお考えに大いに共感しています。
- 編集部
- 経営学というと座学のイメージがありましたが、お話をうかがってイメージがだいぶ変わりました。
- 堀口
- 私は大学で教員をやっていますが、指導者とは思わないようにしています。なぜなら、教員にはできることもあるし、できないこともあるから。何でも指導できるというのは傲慢な考えです。その人が伸びるかどうかは、結局本人しだいなんですね。その人の生き方や家族、友人との関わり、経験などが大きく影響してきます。私はその中の一部として、しっかり機能する教育を行いたい。とにかく心を尽くして、学生の気持ちになり、信頼関係を築いて、よき相談相手になれる教員を目指しています。大学で学んだ4年間をのちのち振り返ったときに、その時間や私との関係が有益なものだったと思ってもらえるように頑張ることが、教員として大事だと思っています。
- 編集部
- 今日はありがとうございました。
堀口 朋亨(HORIGUCHI Tomonaga)
国士舘大学 経営学部 教授
●博士(経営経済学)/ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン 大学院経営経済系 経営経済学博士課程修了
掲載情報は、2026年8月のものです。








