学びのそのさきへ。ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
21世紀アジア学部 准教授  ムハッマー・ジャクファル・イドルス × 2024年度 21世紀アジア学部卒業生 細田 晃靖 21世紀アジア学部の調和 多様な民族・宗教が調和するインドネシアの政治と文化を学び、日本と東南アジアを結ぶ架け橋になっている。

国士舘大学21世紀アジア学部を卒業した細田さんは、現在、日本と東南アジアを結ぶ人材支援コンサルティングの会社で働いています。細田さんが東南アジアに魅せられたきっかけは、家族旅行で行ったベトナムでした。より深くアジアを知りたいとの思いから21世紀アジア学部に入学し、ムハッマー・ジャクファル・イドルス先生の指導のもとに多様な民族・宗教が調和する東南アジアの政治・文化を学びます。インドネシアへの研修旅行など、現地での経験が今の仕事に役立っているという細田さん。恩師とともに21世紀アジア学部の学びの魅力を振り返ります。

多様性の中の調和

編集部
先生は、国士舘大学でどんなことを研究されているのですか?
ジャクファル・イドルス
私の専門は東南アジアの地域研究で、主にインドネシアと日本について研究してきました。なかでも“博覧会の政治学”ということをテーマに、東南アジア、日本、ヨーロッパを比較して見てきました。
編集部
博覧会の政治学とは、どういうものでしょうか。
ジャクファル・イドルス
万国博覧会はヨーロッパにルーツを持つもので、東南アジアで開催されたことはまだありませんが、でも、東南アジアの国や地域は西欧世界で開催された万博の会場で展示されました。戦前のパリ万博や米・フィラデルフィア万博などでは「ジャワ村」や「フィリピン村」が人気を博しました。たとえば昨年の大阪万博でも、インドネシアやフィリピン、ベトナムなどの国がパビリオンを出していました。万博が文明の進歩や技術の発展を見せる場のなか、それがどのような意味を持つのかということが一つ。もう一つは、博覧会が東南アジアの国民国家の形成にどのように活用されてきたかということを研究しています。
編集部
国民国家の形成とは、どういうことでしょうか。
ジャクファル・イドルス
東南アジアの多くの国は、長い植民地時代を経て第二次世界大戦後に独立し、新しい国家として誕生しました。まだ国として若いということもありますし、そのうえ多民族という現状を抱えています。民族や宗教が異なる中で、どのように国家を統合するのか、国民という意識を醸成するのか、そこに博覧会が利用されてきたという経緯があります。博物館やモニュメント等も含めて、国民国家の形成にいかにして博覧会が機能してきたのかということを私は調べています。
編集部
確かに、宗教も民族も違う人々を、一つの国にまとめていくのは大変ですね。
ジャクファル・イドルス
そうなんです。東南アジアがこれまで苦心して培ってきた“多様性の中の調和”は、これからの世界でとても大切になると思っています。
編集部
先生はインドネシアでトップと言われるガジャマダ大学を卒業されています。その後、なぜ日本にいらしたのですか?
ジャクファル・イドルス
私が大学に進学したのが1998年で、当時は日系の企業に勢いがあって、就職するなら日本の会社だという雰囲気がありました。私は高校時代から言語に興味があり、英語とフランス語が話せるのですが、大学では日本語科で日本語を学んでいました。そんなとき、国士舘大学の先生がガジャマダ大学にいらして、「日本に来てくれる優秀な学生を探している」と話されたんですね。そのような経緯で大学を卒業後、2006年に日本に来て、国士舘大学で修士号と博士号を取得しました。
編集部
21世紀アジア学部では、どんな授業を担当されていますか?
ジャクファル・イドルス
私の研究は政治的な面から地域と文化を見ていくことなので、「アジアの政治」とか「現代東南アジアの社会と文化」などの授業を担当しています。それと「21世紀アジア学演習」という専門ゼミナールですね。細田さんも私のゼミで学んでくれました。
編集部
大学のゼミでは、どのようなことを学ぶのでしょうか。
ジャクファル・イドルス
ゼミでは、学生には基本的に自由に研究してもらっています。東南アジアに関連することであれば、テーマは何でもOKです。宗教に興味のある人もいれば、細田さんのようにインドネシアの政治について調べる人もいます。また、今は日本で働く東南アジアの技能実習生が増えています。技能実習の制度や、来日した人たちが形成するコミュニティの現状や問題について研究している学生もいますね。

ゼミでの学び

編集部
細田さんは、ずっとジャクファル・イドルス先生のゼミで学ばれたのですか?
細田
はい、1年生のときにフレッシュマンセミナーとして「総合演習」というのがあって、そこで先生に教わりました。2年生は違う先生でしたが、3年、4年とジャクファル・イドルス先生のゼミに所属しました。
編集部
専門ゼミではどんなことを研究したのですか。
細田
私は主にインドネシアの政治について研究しました。ちょうど2024年の2月にインドネシアで大統領選挙がありまして、その選挙がどのように行われるかを見たくて、インドネシアに行って調査をしました。
編集部
実際にインドネシアに行ったのですか?
細田
はい、行ってきました(笑)。
ジャクファル・イドルス
細田さんは、インドネシア語がかなり上手です。インドネシア大使館がバックアップしているスピーチコンテストが毎年開かれますが、そこでみごとに準優勝を獲得しました。1位になると航空券がもらえたので、そこはちょっと残念だったよね(笑)。
編集部
いや、でも、すごいじゃないですか。
ジャクファル・イドルス
すごいですよ。参加者はほとんどが外語大学で学んでいる学生ですからね。それを相手に準優勝できたのは素晴らしいと思います。
編集部
細田さんは、なぜ国士舘大学の21世紀アジア学部に入ろうと思ったのですか? 何かきっかけがあったのですか?
細田
もともと海外に興味がありましたが、高校生のときにベトナムに家族旅行で行って、それから東南アジアについて学んでみたくなりました。国士舘大学の21世紀アジア学部は、東南アジアについて幅広く学べる学部なので、ここに進学を決めました。
編集部
東南アジアの中でも、インドネシアを選んだのはなぜですか?
細田
大学に入ったときに、インドネシア語が簡単だよという話を聞いたからです(笑)。
ジャクファル・イドルス
インドネシア語は、本当に簡単ですよ。発音はローマ字をそのまま読めば通じます。たとえば、インドネシア語の「kira-kira」という言葉は日本語では”だいたい”という意味ですが、そのまま「キラキラ」と発音すれば通じます。比較的、日本語に似ている単語や発音が多いんですね。
編集部
専門ゼミではどんなふうにして学ぶのですか?
細田
ゼミでは自分で好きなテーマを選んで、いろいろ調べて発表します。私の場合、3年生の前半はインドネシアとはどんな国なのかということを調べて発表しました。後半はインドネシアのスラウェシ島にある伝統市場のことを調べました。4年生のゼミでは、自分で好きなテーマを決めて卒業論文を書きます。
編集部
卒業論文は、どんなテーマで書きましたか?
細田
先ほどもちょっと触れましたが、大統領選挙を通じて、「インドネシアにおける民主主義の現状」を調べて、論文にまとめました。民主主義の立場から見て、2024年の大統領選挙にどのような問題があったのかということですね。
編集部
何か選挙に問題があったのですか?
細田
そうですね。当時、副大統領の選挙も同時にありました。副大統領に立候補できる条件はいくつかあるんですが、そのうちの一つに年齢があります。ただ、今回の選挙で副大統領に選ばれた人は、その年齢制限を満たしていませんでした。当選した人は、前大統領の息子さんだったのです。そういう点で、憲法に照らし合わせて違憲か合憲かを判断する機関がしっかり働いていなかったり、3権分立があまり機能していなかったり、そういうところを調べて問題提起しました。
ジャクファル・イドルス 
そこがまさに問題なんです。80年代以降に東南アジアの国々では民主化が勃発して、86年にフィリピン、98年にインドネシアで民主化が起きて、非民主主義的な政権から民主主義を目指す体制になりました。しかし、実際に民主主義が定着しているかというと、そうではない国もあるし、むしろ民主化から逆行している国もあります。細田さんが見てきたケースも、手続きとしては選挙を行っているけれど、その選挙の質に問題がありました。
編集部
民主主義がうまく機能していないということですか?
ジャクファル・イドルス
そうですね。民主主義が健全に機能していない、この現象は東南アジアだけではなく、アジアやヨーロッパ、今はアメリカでもそうなんですけれど、一つの共通的な現象でもあります。私から言えるのは、このゼミでは東南アジアという地域を見ていますが、実験場ではないけれど、東南アジアで起きていることを見ることによって、アジアの本質的な部分が見えてくると思います。それがゼミを運営する一つの目的にもなっています。

キャンパスを飛びだして

編集部
先生の目で見て、細田さんはどのような学生でしたか?
ジャクファル・イドルス
細田さんは真面目な人ですが、自分がこうしたいとか、自分から行動するとか、主体性と積極性があって、私はそこを高く評価しています。熱心に研究室を訪ねて、先生、これどう思いますかと、質問や議論もしてくるし。それに社交的な一面もあって、インドネシアの人と交流したり、海外研修のときも班長を務めてくれたりして、いろいろな面で私も助かりました。
編集部
海外研修があるのですね。
ジャクファル・イドルス
はい。海外研修は私が担当する必修科目の一つです。インドネシア語の授業を取っている学生は、必ず現地に行って集中的に言語を学ぶことになっています。研修期間は1カ月ぐらいですね。
編集部
海外研修には何年生から行けるのですか?
ジャクファル・イドルス
研修には1年生から参加できますが、1年生の場合はまだ言葉がうまく話せないので、語学をしっかり学んでから行く方がいいよと説明会のときには言っています。1年生の内に海外研修で様々な経験を受けて、それをきっかけに勉強により熱心な学生もいます。
編集部
インドネシアではどのようなところに泊まるのですか?
細田
私はガジャマダ大学に研修に行きましたが、2人1組に別れて、それぞれ大学教授のお宅に泊めていただきました。ご飯も食べさせてもらって、いろんなところに連れていってくださいました。
ジャクファル・イドルス
ガジャマダ大学はホームステイさせてもらいましたが、人数が増えると同じ条件のホームステイ先を探すのが難しくなりますね。スブラス・マレット大学の場合は、ホームステイではなく、大学が経営するホテルに泊まらせていただきました。
編集部
研修ではどのようなことをするのですか?
細田
基本的には語学の勉強がメインになりますが、たとえばバティックという伝統的な織物があって、その布の模様を描く授業などもありました。あと、こちらの学生1人につき1人、向こうの学生が付いてくれて、会話を学べたり、一緒に街に行って博物館を回ったりしました。世界遺産になっているボルブドゥール寺院やプランバナン寺院群なども案内してもらい、とても楽しかったです。
編集部
東南アジアに興味をもったきっかけが、家族旅行で行ったベトナムだとおっしゃいましたよね。ベトナムのどこがよったのですか?
細田
ベトナムの雰囲気ですね。バイクがたくさん走っていたり、みなさんゆったりしていて道ばたで寝ていたり。日本じゃ考えられないことなので、それが逆に新鮮で、自由でいいなぁと思いました。
編集部
あ、でも、あのバイクの走り方ってすごいじゃないですか。川みたいに途切れることなく流れていて。ちゃんと道を渡れましたか?
細田
渡れました(笑)。向こうの人は運転がうまいので、こっちのタイミングで道を渡っていくと、向こうから避けてくれるんです。
ジャクファル・イドルス
そこは手を挙げて渡るんですよ。進んだり引いたり、迷ったりするとかえって危ないです。渡るときは決心して、手を上げて進む。そうすると向こうは「あ、こいつ渡るんだな」と思ってスピードを緩めてくれます。私は毎年、海外研修とは別に希望するゼミ生を何人かインドネシアに連れていきますが、まずは現地で道の渡り方を教えてあげます(笑)。
編集部
信号や横断歩道がなくても、ちゃんと渡れるんですね。
ジャクファル・イドルス
そう、このバイクの話はまさに東南アジアの象徴でもあると思います。さきほど「多様性の中の調和」と言いましたが、まさに道路にもこれが反映されているんですね。一見秩序がなくてごちゃごちゃに見えますが、ちゃんと互いに譲り合って道を渡ることができます。この寛容性みたいなものは、東南アジアに共通しているものだと思います。

仕事に活きる海外での経験

編集部
細田さんは昨年の3月卒業ですよね。今はどんな会社に勤めていますか?
細田
私が勤めているのは、東南アジアの人と外国人を受け入れたい日本の企業の間に入って、マッチングするような人材事業を行っている会社です。具体的には、技能実習生とか、特定技能外国人材とか、そういう人を企業にご紹介させていただいています。
編集部
仕事で海外に行くことはあるのですか?
細田
採用する企業が現地で面接をしたいという場合には同行しますが、基本的には日本にいて、企業に制度の説明をしたり、国々の特徴などをご説明して、安心して受け入れていただける体制を整えるお手伝いをしています。
編集部
どのような企業に外国人の方を紹介しているのですか?
細田
私どもがターゲットとしているのは製造業の企業さんで、食品製造とか機械金属加工とかですね。あとはビルクリーニングという商業施設やオフィスビルの清掃をしている会社もあります。
編集部
日本の社会にとって、今や外国人の労働者は不可欠ですよね。
ジャクファル・イドルス
実際に日本は高齢化社会に突入していますし、それによって労働不足が深刻な問題となりました。それらは解決しない限りは、たぶんこれからも増えると思いますね。バスの運転手なども外国人を雇うところが増えてきています。そういう意味では、細田さんのように外国人のことを理解できる日本人が必要になってくると思います。
編集部
大学で学んだことで、今の仕事に役立っていると思うことはありますか?
細田
そうですね。お客さんの中には、やはり外国人受け入れに不安を抱いている企業さんもいらっしゃいます。たとえばインドネシアでいえば、イスラム教への不安ですね。そういう場合は、私が留学したときの経験をお話して、全然問題ありませんよということをお伝えしています。大学で海外に行った経験が直接仕事に役立っていますね。
編集部
今の仕事で、どんなことにやりがいを感じますか?
細田
同じことになりますが、自分の経験からこの国がどんな国かということをお客さんに具体的に説明できることにやりがいを感じます。今いちばん勢いを感じる国がインドネシアなので、そこは自分の経験がすごく役立っていると感じます。
編集部
インドネシアのどこに勢いを感じますか?
細田
ここ10年ぐらいずっとベトナムの人が多かったのですが、最近増加率でいうとインドネシアが一番ですね。人口自体も2.8億人と世界で4番目に多い国ですし、若年人口も多く、また親日の国でもあるので、日本に来る人はどんどん増えています。
編集部
日本になじめない方もいらっしゃいますか?
細田
それはやはりありますね。まったく違う文化には、なじむまでに時間がかかります。実習生は入国前に半年ほど日本語や日本の文化について学び、来日してからも入国後講習施設で一月ほど学び、それから企業に配属されます。企業の中にも生活指導員がいて、私たちも窓口になり、何かあったらすぐに相談してくださいと言って、サポートしています。
編集部
最後におうかがいしますが、細田さんにとってジャクファル・イドルス先生は、どんな先生でしたか。
細田
すごく話しやすい先生で、研究室によく行って質問させていただきました。この部屋がすごく入りやすいんですよ。いつでもフレンドリーに迎えてくださり、なんでも相談できて、ありがたかったです。
ジャクファル・イドルス
私としては、学生には自由に学び、いろんな体験をしてほしいと思っています。そのために研究室の扉はいつでも開けてあるし、ここにある書物も自由に読めます。また、学校の授業とは別にインドネシアに連れていって、いろんな体験をしてもらっています。せっかく若いのだから、もっと海外に行って、いろんな国を見てほしい。そして、新しい気持ちやドキドキ感を持ってほしい。それがこれからの人生を高めることにつながっていくと思っています。
編集部
実際に海外に行く学生は多いのですか。
ジャクファル・イドルス
今も大学を休学して、オーストラリアやインドネシアに行っている学生が何人かいます。留学するには3つの方法があって、一つ目は交換留学です。学内選考を経て、国士舘大学が派遣するかたちです。二つ目は、認定留学というもので、本学に申請すれば海外の大学で学んだ分が単位として認められます。また、別に単位は要らない、大学生のうちに海外を経験したいという学生には、私たち教員が行き先を紹介し、安心安全な環境で留学をサポートします。私はガジャマダ大学卒なので、向こうに同世代の先生がたくさんいます。学生を送りたいと言うと、「ぜひ来てください」と言ってくれます。学生にはキャンパスを飛びだして、どんどん外国に行ってほしいと思っています。
編集部
今日はありがとうございました。東南アジアへの熱い想いが伝わってきました。

ムハッマー・ジャクファル・イドルス(JAKFAR Idrus)

国士舘大学 21世紀アジア学部 准教授
●博士(政治学・アジア地域研究)/国士舘大学 政治学研究科 博士課程修了

細田 晃靖(HOSODA Kosei)

2024年度 21世紀アジア学部卒業
株式会社メック勤務

掲載情報は、2026年1月のものです。