国士舘大学経営学部の経営学科で学んだ小山さんは、卒業後にOA機器関連の会社に就職し、現在は営業職に就いています。在学時に専攻した経営戦略のゼミでは、小林崇秀先生の徹底した教えのもとに、論理的な思考を身に付けました。その経験がインターシップや就職活動をするときの強みになったと言います。3年次のゼミ合宿のときに世話役を引き受けたことも、人間としての成長につながったという小山さん。指導教員の小林先生とともに、充実した専門ゼミの学びを振り返りました。
経営戦略の学び
- 編集部
- 小林先生は、経営学部でどんな研究をなさっているのですか?
- 小林
- 私の専門分野は、企業における経営戦略です。中でも携帯電話産業の競争優位について研究をしてきました。日本のメーカーが海外を席巻したり、逆に競争に敗れて撤退していったりする過程を、日本で業界が立ちあがったのを1987年とするならば、そこからずっと一連の流れを見てきました。いまでこそ、携帯電話といえばiPhoneやGoogleなど海外勢の高性能スマホが目立ちますが、携帯電話でインターネット接続やカメラ撮影、動画・音楽再生、電子マネー決済までできる端末を最初に実用化したのは日本でした。「なぜ日本だけがここまでできたのか」が研究の出発点です。鍵は、メーカー単独ではなく、NTTドコモに代表される通信事業者がサービス全体を構想し、メーカーと一緒に端末や仕組みを作り込んだ点にありました。ただ面白いのは、日本企業が苦戦するようになった理由も、実は同じ構造にあることです。成功したときも失速したときも、「顧客であるキャリアの要望をよく聞く」ことで最適化が進み、環境が変わったスマートフォン時代には世界標準やエコシステムの波に乗り遅れてしまった。私はこの歴史から、顧客志向の功罪や、変化の中での意思決定の難しさを研究しています。
- 編集部
- 今でも携帯電話業界の研究をされているのですか?
- 小林
- 今は日本酒の業界に軸足を置いて研究しています。去年の春には広島に行って現地調査を行ってきました。
- 編集部
- 日本酒の業界で、どのような研究をされているのですか?
- 小林
- 企業が栄えたり衰退したりする過程の背景に何があるのか、それを企業の戦略面から捉えていくのが私の研究です。広島は日本の三大酒蔵の1つで、今回は6〜7カ所の酒蔵と行政を回って現地調査を行い、伝統産業の国際化という流れの中で、日本酒メーカーがどのような動きをしているのかを見てきました。その現地調査を通じて感じたのは、日本酒の海外展開もまた、「昔ながらのやり方を丁寧に磨けばいい」という話だけではない、ということです。携帯電話の研究で見てきたように、既存の成功パターンは強みになる一方で、環境が変わったときには足かせにもなり得ます。日本酒も同じで、品質や造りへのこだわり、地域の物語といった“変えてはいけない核”がある一方で、それを海外の市場や流通、飲まれ方に合わせてどう翻訳し、どう届けるかという“変えるべき部分”も確実に存在します。つまり、伝統を守るだけでも、逆に流行に寄せるだけでもなく、守るべきものと革新すべきものの線引きをしながら戦略を組み立てる必要がある。私は、その判断がどのように行われ、どんな組織や連携の仕組みがそれを支えているのかを、企業と行政の動きの両方から明らかにしていきたいと考えています。
- 編集部
- 経営学部では、どんな授業を受け持たれているのですか?
- 小林
- 学部では私の専門分野である「経営戦略」と「事業戦略」の授業を受け持っています。学部での教育では、何よりも「論理的に考えること」を大切にしています。「経営戦略」とは、長期的な目標を達成するために何をどう考えるべきか、その“考え方”を学ぶ学問分野です。授業では答えを覚えるのではなく、状況を整理し、根拠を積み上げて結論に至るプロセスを重視しています。また戦略には、環境や競争を起点にポジションを定める考え方もあれば、資源や能力といった内側の強みに立脚する考え方もあります。複数の視点を行き来しながら、筋の通った判断ができる力を養ってほしいと思います。「事業戦略」ではさらに実践的に、価値を誰にどう届けるかを考え、アイディアを発想し、仕組みとして形にする方法を学びます。ただ、他にも面白い授業がありまして、「優良中堅中小企業研究」と「起業家教育講座」というものですが、こちらも担当しています。
- 編集部
- どんなふうに面白いのですか?
- 小林
- この授業では、世界的なニッチトップである中小企業の経営者さんや、起業家の方に来ていただき、現場のリアルを学生に話してもらっています。私も一学生として教室のいちばん前に陣取って、毎回面白いなぁと思って聞いています。
- 編集部
- 経営者の方から、直接リアルな話が聞けるのですね。
- 小林
- そうです。大学の近くにカレー屋さんがあって、そこの経営者の方が話しに来てくださることもあります。将来飲食店をやりたいという学生もいるので、しんどい事も含めてリアルな話をしてくださるので、本当にありがたいです。中には講師として来てくださった社長さんの会社に、そのまま就職してしまう学生もいます。他の大学にはあまりないユニークな授業だと思っています。

論理的思考をゼミで培う
- 編集部
- ゼミではどのようなことを学生に教えているのですか?
- 小林
- ゼミで教えることは、大きく分けて2つあります。1つは論理的思考と問題解決という部分で、企業からの要請も多いので、ここの能力を徹底的に鍛えます。それを踏まえたうえで、今度は経営戦略論などで実際に用いられているフレームワークを使って、論理的思考や問題解決に取り組んでもらいます。まずは基礎となる能力を固め、その後に専門の学びで論理的な思考力を培っていきます。
- 編集部
- どのような学びで、論理的な思考が身に付くのですか?
- 小林
- 基本的には、論理的な思考をするための「型」があります。型に寄りすぎても困りますが、一旦は問題解決のための型を知っておこうということで、学生にはまず基本的な思考の型を教えます。たとえば「ロジックツリー※」というものがありますが、あれも一回覚えるだけでは使えません。何度も繰り返してやり、足りない部分はレポートを提出してもらって添削しています。基本的な型を教え、実際に使ってみる。それを何度も繰り返すうちに、論理的な思考が身に付いていきます。
※ロジックツリー:ある問題やテーマを幹から枝が分かれるように論理的に要素分解し、階層的に整理するフレームワーク(思考法、可視化ツール) - 編集部
- 具体的には、どんな題材を授業で取り上げるのですか?
- 小林
- 小山さん、ゼミで何をやったか覚えている?
- 小山
- え、あの、カフェの話とかですか?
- 小林
- いや、あれは違うやつだな。カラスのことを覚えている? 東京都でカラスが出て住民が困っている、カラスを減らすためにはどうすればいいんだろうという話。
- 小山
- あ、やりました。覚えています。
- 小林
- 「カラスを減らすにはどうすればいい?」という課題を出すと、学生はすぐ解決策を出そうとするんです。でも、それじゃ論理的な思考にはならない。まず、そもそもどこでカラスが出ているのか、原因はカラスが捕まえられないからなのか、あるいは異常に増えているからなのか。このように、まずは問題を小さく分解して、さらにそれを掘り下げていくことが大切です。こういう訓練を週に2回あるゼミで繰り返しやっていきます。
- 編集部
- ゼミが週に2回あるんですか?
- 小林
- はい。3年次ゼミが週2回あります。これも国士舘大学の経営学部の特長ですね。週2回のゼミは、学生にしてみると大変かもしれませんが、着実に実力が身に付いていきます。3年次の前半でこうした練習を繰り返し、後半は実際に企業の問題解決をテーマに、グループに分かれて研究発表してもらいます。そして、4年生になったら、今度は一人で研究をし、卒業論文を書いてもらいます。
- 編集部
- なるほど。まずは基礎をしっかり身に付けて、グループで研究をし、最後は一人で卒論を書く。段階を経てしっかり論理的思考を身に付けていくわけですね。ところで、小山さんは何をテーマに卒業論文を書いたのですか?
- 小山
- 卒業論文は、読売ジャイアンツの観客動員数の推移を調べて書きました。ジャイアンツは昔から人気のあるチームだと思いますが、今でも観客数が伸びていて、その背景にどんな経営戦略があるのかというところを研究しました。
- 小林
- ちょっと補足すると、野球人気が落ちてきたにもかかわらず、なぜジャイアンツが高い集客力を維持できているのか、それを他球団も含めて調べていったんですね。最初は単に強いから人気なのではないかということで、過去10年ぐらいの全球団の順位と観客動員数を調べてみたけれど、そこには相関関係が見られなかった。ということで、さまざまな要因について仮説を立てて検証した結果、ここが重要なんじゃないかという結論に行きついたんだよね。
- 小山
- わ、すごい。よく覚えていますね。
- 小林
- よく覚えているでしょう。でも、これを書いたのは私じゃなくて、あなただからね(笑)。
- 小山
- 私より詳しく覚えてらっしゃるので、びっくりしました(笑)。
- 編集部
- で、どんな結論に達したのですか?
- 小山
- はい。結論は、親世代からうまくファンを引き継ぐというような、家族の中における仕組みが割と重要だったんじゃないかなということでした。テレビ中継もそうですし、漫画やアニメでもジャイアンツを題材にしたものがあったりして、それが他球団には真似のできない強みになっているということで書きました。
- 編集部
- なるほど、家族の中でうまくファンを継承できる戦略がジャイアンツにはあったということですね。
- 編集部
- 小山さんは、そもそもなぜ国士舘大学の経営学部に入ろうと思ったのですか?
- 小山
- 先ほど小林先生の話にもありましたが、国士舘大学の経営学部はとにかくゼミが充実しているんですね。1年次にはフレッシュマンゼミナールがあって、2年次にも基礎ゼミがあります。3年になると専門ゼミが週2回あるなど、豊富なゼミがあることに魅力を感じました。それでここを志望しました。
- 編集部
- 小林先生のゼミを選んだのはなぜですか?
- 小山
- 1年次に経営学総論という授業があって、いろんな経営学部の先生方が教壇に立って教えてくださります。自分はその中で小林先生の授業にいちばん響くものを感じたので、そのときから3年生になったら小林先生のゼミに入りたいと思っていました。あと、2年次に専門ゼミの公開授業があって、それを見てやっぱり小林ゼミにしようと思いました。
- 小林
- 今の話は、彼の志望動機書にも書いてあったので、本当だと思います(笑)。
- 編集部
- 小林先生のゼミに入って、実際どうでしたか?
- 小山
- 就職活動に対しての学びに力を入れているという話でしたが、実際に就活してみてそれは実感できましたね。あとは小林先生のお人柄であったり、授業の内容も非常に面白かったので、小林ゼミに入れてよかったと思っています。
- 小林
- ゼミ生を募集するときに、私はけっこう厳しめのことを書いているので、それでも志望してくる学生は割とまじめな人が多いんですよ。小山さんも成績優秀で、卒業したときの成績は学年で13番ぐらいでしたね。
厳しくもやさしい先生
- 編集部
- 先生のゼミは厳しかったですか?
- 小山
- そうですね。先生がおっしゃるように、募集要項に「ゼミは厳しいから」みたいなことが書いてあって。でも、自分は小林ゼミで学びたいという思いがあったので、そこは曲げずに入りましたが、確かに内容的にも難しく、他ゼミより課題も多かったという気がします。
- 小林
- そう? でも、思っていたよりは課題、出なかったでしょう(笑)。
- 小山
- ええ、まあ、思っていたよりは(笑)……。
- 編集部
- 小山さんは、高校生のときから経営を学びたいと思っていたのですか?
- 小山
- いえ、明確な進路の目標みたいなものはなく、大学の4年間でいろんな先生と出会って固めていければいいかなと思っていました。ただ、なんとなく学校の先生になりたいという思いはありましたけど。
- 編集部
- 何の先生になりたかったのですか?
- 小山
- 社会科の先生です。中学校のときの先生の授業が面白くて、自分も社会科が好きというのもあって、こんな先生になれたらいいなと漠然と思っていました。
- 編集部
- 大学時代の小山さんは、どんな学生でしたか?
- 小林
- 小山さんは教職課程の授業も取っていて、その勉強もしながら毎日埼玉から通っていたので大変だったと思います。そのうえで優秀な成績を残していることに、私は純粋に感心していました。あとは学力うんぬんとは別に、彼の人間的な成長を感じられた瞬間があって、それが印象に残っています。「ああ、人って変わるんだな」と思ったことを覚えていますね。
- 編集部
- どういう成長が見られたのでしょうか?
- 小林
- 彼はゼミに入ってきたとき、知り合いも少なく、物静かな感じの学生でした。ただ、3年生のときにゼミ合宿で世話係を担当してから、急に人が変わったみたいに社交的になりました。遊ぶときは遊ぶけど、やるときはきっちりやるみたいな感じで、いい大学生活を送ったのではないでしょうか。みんなと楽しそうにやっているのを見て、うちのゼミに来てくれてよかったなと思いました。
- 編集部
- ゼミ合宿がきっかけだったんですね。合宿はどこへ行ったのですか?
- 小山
- 3年生のときは金沢で、4年生のときは軽井沢に行きました。合宿は毎年9月に3年生と4年生が合同で行きます。3年生のときに自分は同学年のゼミ生をまとめる役を務め、4年生のときにはゼミ合宿のリーダーを務めました。
- 小林
- 合宿の企画の段階から関わって、学生をまとめる役目を担っていましたね。なぜそれで彼が変わったのかは分からないですが、明からに人間的な成長を感じました。
- 小山
- 自分では変わった瞬間というのは分からないんですけど、ゼミ合宿に全員で来てもらうにはどうしたらいいかとか、いろいろ考えることがあって。3年生の仲間や先輩と話すことができて、自然とゼミの中でもふっきれて、話せるシーンが増えたのかなと思っています。
- 編集部
- 今度は小山さんに伺いますが、小林先生はどんな先生でしたか?
- 小山
- 小林先生は、とにかく授業が面白くて、引き込まれるんですよね。同期のゼミでも、小林先生の授業がいちばんよかったという学生が多かったです。あとは、とにかく話しやすい先生でした。用事もないのに研究室に立ち寄って世間話をしたり、教員になるか一般企業に入るかで迷っていたときにも、親身になって相談に乗ってくださいました。
- 小林
- みんなよく研究室に来ていたよね。きのうのサザンのライブどうだったみたいな雑談をして(笑)。
- 編集部
- 小山さんは、卒業後はどのような道に進まれましたか?
- 小山
- 私は卒業後に、OA機器関連の会社に就職して、現在は営業職に就いています。人と話すのが好きというのが自分の中にあったので、営業ならいろんな人と会って交流する機会があるかなと思い、今の会社に入りました。
- 編集部
- 実際に会社に勤めてみてどうですか? 学生時代と違うところはありますか?
- 小山
- 入社して最初の2ヶ月はまるまる研修でした。入社前はコピー機やパソコンなどのOA機器の営業がメインかと思っていましたが、実はITの商材やセキュリティなどもあって、今は多岐にわたる営業活動を行っています。大学時代と違うのは、月曜から金曜まで同じ時間に起きて会社に行くことですかね。やっと慣れてきましたが、やっぱり大変です(笑)。
- 編集部
- 仕事は楽しいですか?
- 小山
- はい、もともと人と話すのが好きなので。これまでは学生としか繋がっていませんでしたが、会社に入ると同世代だけじゃなく、上司や先輩など、いろんな人とお話ができるので、それが楽しいです。
- 編集部
- 大学の学びで、今の仕事に活きているなと思うことはありますか?
社会で役立つ論理的思考
- 小山
- 仕事ではないのですが、就職活動をするときに大学の学びが役に立ったと思います。経営戦略のゼミでいろんなフレームワークを学びましたが、インターンシップに行って他大学の学生と話すと、やっぱり自分は経営学部なんだな、ゼミでやってきたことには意味があったんだなと気づかされました。
- 小林
- 小山さんが覚えているかどうか分からないけれど、私がふだん学生にしつこく言っているのは、たとえばグループディスカッションのときもそうですが、必ず「結論から先に言え」ということです。これを口酸っぱく教えています。覚えている?
- 小山
- はい、それは覚えています。
- 小林
- 小山さんの1つ上の卒業生で、希望通りの会社に就職できた人がいました。で、会社に行ってみたら、採用されたのは理系の学生ばかりで、彼が唯一の文系だった。それで会社の人に合格の理由を聞いてみたら、君はちゃんと結論から論理的に話していたからと言われたそうです。論理的な思考を身に付けるというゼミの狙いが、ある程度浸透しているなと思いました。
- 編集部
- 論理的な思考は、社会のさまざまな場面で役立ちますよね。
- 小林
- 私はそれが一番大事だと思っています。うちのゼミのキーワードは「論理的」で、学生に聞いてもかなりの確率でそう答えると思います。私は常に何に対して学費を払っているのかを、学生に意識してもらっています。世の中には自分が何を学んでいるのかが明確でない学生が多いですから。だから私は毎回、「今日はこれをやるよ。これを覚えたらあなたの勝ちですよ」という意識付けをしながら教えています。論理的にものごとを考える能力は、これからの時代を生きていくうえで、必ず役に立つと思っています。
- 編集部
- 今日は貴重なお話をお聞かせくださいまして、ありがとうございました。
小林 崇秀(KOBAYASHI Takahide)
国士舘大学 経営学部 経営学科 教授
●修士(経営学)/神戸大学 大学院経営学研究科 博士課程後期課程修了
小山 卓真(KOYAMA Takuma)
掲載情報は、2025年12月のものです。









