学びのそのさきへ。ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
体育学部 スポーツ医科学科  藤井 嵩子 × 3年生  荒井 隆佑 体育学部の大志 ラグビー選手として体を大きくするために学んだ栄養学の知識を、体育の先生になって子どもたちに教えたい。

国士舘大学体育学部体育学科3年生の荒井隆佑さんは、現在、ラグビー部に所属しています。荒井さんが栄養学に興味を持ったきっかけは、1年生のときに受けた藤井嵩子先生の授業でした。ラグビー選手として小柄な体を大きくするために、藤井先生の研究室を訪ね、栄養学についてのアドバイスを求めました。将来は体育の先生になってラグビーを教えたいという荒井さん。恩師藤井先生とともに、栄養学の学びの大切さについて語っていただきました。

健康に役立つ栄養学の知識

編集部
藤井先生は、どのようなことをご専門に研究されているのですか?
藤井
私の専門は栄養学です。その中でもミネラル、特に鉄分についての研究を行っています。貧血と鉄分摂取の関係などですね。
編集部
先生はどうして栄養学の研究をしようと思われたのですか?
藤井
実は小学校から高校時代まで、私はずっと陸上競技の短距離走の選手をやっていました。その間に1~2カ月、食事を取れなくなった時期が続いたんですね。でも、それで私は貧血にはなりませんでした。一方、長距離走の選手たちは、毎年競技シーズンになるとヘモグロビンを増やすために血液注射を打ちにいきます。貧血かどうかの判断もせずに、なぜ血液注射を打ちにいくんだろうと、そのことに違和感を覚えました。それがきっかけで、スポーツ栄養学に興味を持ち、大学で学んでみようと思うようになりました。
編集部
ご自身の経験から、研究の道に進まれたのですね。
藤井
そうですね。長距離走の選手たちは血液注射を打つことに優越感を覚えるようなところがあって、その点にも疑問を感じました。私は実験するのが好きだったので、修士課程では主に血液の流れ方などの研究を行っていました。しかし、途中からスポーツ栄養学をきちんと学びたくなり、スポーツの強い大学の博士課程に進んで、ミネラルと運動を組みあわせた研究を行うようになりました。
編集部
それは栄養面からトップアスリートをサポートするということですか?
藤井
いえ、私の場合は違います。もっと基本的な食と運動の部分ですね。普段の食事にちょっと運動を加えるだけで、摂取した栄養の効果が高まるんです。トップアスリートを育てるということではなく、日常的な健康維持に役立てるという面からスポーツ栄養学を研究しています。
編集部
国士舘大学の体育学部では、どんなことを学生に教えているのですか?
藤井
体育学部には将来体育の教員を目指す学生が多いので、子どもに教えるようなバランスの取れた食事を授業では教えています。それともう一つ、最近始めたことですが、部活動に励む学生に向けて実践しやすい栄養指導をしています。アスリートを目指していた学生が、将来学校の先生になったときに、部活をやっている生徒たちに正しい栄養の知識を教えてほしいという思いがあります。その子たちが正しい食の習慣を身に付ければ、部活をやめた後でも健康づくりに役立つし、ひいてはそれが日本人の健康寿命を延ばすことにつながっていくと考えています。
編集部
荒井さんは今、大学3年生ですよね。荒井さんが栄養学に興味を持ったきっかけは何ですか?
荒井
直接のきっかけは、私が1年生のときに受けた藤井先生の栄養学の授業です。自分は中学と高校でラグビーをやっていたのですが、ご覧の通り、ラグビー選手としては体が小さい方です。それで食事を改善して、体重を増やしたいなと思い、藤井先生の研究室を訪ねていろいろ教えていただくようになりました。

ラグビー部に入って

編集部
荒井さんは1年生のときからラグビーをやっているのですか。
荒井
いえ、ラグビーを始めたのは2年からです。中学と高等学校でラグビーをやっていたんですけれど、高校卒業後は地元にある短期大学に進学して、一旦ラグビーをやめました。でも、短大に通いながら「自分がやりたいことは何だろう」と考えた結果、やっぱり4年制の大学に行きたくなったんです。それで受験勉強をして、一般入試を受けて国士舘大学に入りました。
編集部
なぜ地元の短期大学に進学したのですか?
荒井
父親が製造業の会社で働いていて、はじめは私も短大を出てそこに就職するつもりでした。でも同時に、将来は体育の先生になりたいという夢もあって、迷っていたんです。それで一旦は短期大学に入ったんですが、やっぱり体育の先生になりたいという思いが強くなり、国士舘大学を受験しました。
編集部
荒井さんがラグビー部に入ったのは2年生のときですよね。なぜ1年生で入部しなかったのですか?
荒井
せっかく大学に入ったんだから遊びたいじゃないですか(笑)。だから1年生のときはアルバイトしたり、友だちと遊んだりしていたんですね。でも、この大学はすごいスポーツ選手がたくさんいて、身近にハンドボールの日本代表選手とかがいるんですよ。彼らがスポーツに打ち込んでいる姿を見て、自分は何をしているんだろうと思い始めて、遊んでいるだけじゃだめだなと思ったんです。それで1年間考えて、2年生からラグビー部に入部させていただきました。
編集部
なるほど、じっくり考えた上での決断ということですね。荒井さんのポジションはどこですか?
荒井
バックスで、ウィングをやっています。ボールを受け取って走るポジションですね。
編集部
今、体重は何㎏ぐらいなんですか?
荒井
私は身長が165センチで、体重が60㎏台です。普通に考えて、ラグビー選手としては高校生レベルでも難しいですよね。なので部活をやるって決めてから、どうやったら筋肉や脂肪の量を増やせるのかを教えていただこうと思い、藤井先生の研究室に通い始めました。
藤井
今、60㎏台って言いましたけど、私のところに来たときは52~53㎏ぐらいでした。めっちゃ細かったんですよ(笑)。それから何をどれくらい食べたら体重が増やせますかみたいな話になって、毎日、食べた食事を写真に撮って見せてくれるようになりました。そこから頑張って、今ようやく60㎏台なんですね。
荒井
そうですね。必死になって食べていたんですが、体重は3~4㎏ぐらいしか変わりませんでした。でも、自分からしたらこの3~4㎏が大きくて、今、試合に出させていただいて、けっこう活躍できてるなっていう実感はあります。
編集部
荒井さんは、先生の研究室によく来ていたのですか?
藤井
けっこう来ていましたね。授業も熱心に聞いて、ちゃんと勉強していました。テスト前にも私のところに来て、確認しながら勉強していました。
編集部
体重を増やすために、先生からはどんなことを教わったのですか?
荒井
ご飯を食べることはもちろんですが、主に栄養素のことですね。日本人は特にカルシウムが不足しがちなので、自分はそれを知らなかったので、カルシウムを多めに取るように心がけました。食事の他に果物もちゃんと食べて、栄養素を体に取り入れたという感じです。
藤井
オレンジジュースをよく飲んでいたよね。
荒井
はい、100%オレンジジュースを先生の部屋の冷蔵庫に置かせてもらって、飲んでいました。
編集部
え、先生の研究室の冷蔵庫にですか?
藤井
そうなんです。オレンジジュースはビタミンCが入っていて抗酸化作用があるので、疲労回復にいいんですね。ただ、最近物価が高くなって、200mlの紙パックとかだと割高なので、大きいのを買って先生の部屋の冷蔵庫に入れていいですかってお願いされました(笑)。

体育の先生を目指して

編集部
将来は体育の先生になるのですか?
荒井
はい。私は体育教師を目指しています。中学か高等学校の教員になって、部活でラグビーの指導をしたいなと思っています。
編集部
それはまさに藤井先生が思い描いている人材ですよね。
藤井
そうですね。彼なら楽しく指導ができる先生になれそうですね。
編集部
荒井さんは、大学で栄養学を学んで、何か得るものはありましたか?
荒井
はい。私は高校のときもご飯をいっぱい食べていたのに、大きくなれませんでした。なので正直、食べても体重は増えないんじゃないかと思っていたんです。でも、先生のところで専門的な知識を身に付けて、3カ月ぐらいの長期で食事を変えていったら、ちゃんと体重が増えたんですね。将来体育の先生になったら、自分みたいに体づくりに苦戦している子に指導してあげたいなと思っています。
編集部
今、ラグビーをやっていてどんな感じですか?
荒井
最初の1年間はやっぱり体重も伸び悩んで、まわりの人たちに置いていかれる場面もあったのですが、今、3年生になってスタメンで出させてもらっていて、けっこういい感じで戦えているなと思っています。この前、7人制のラグビーの大会があって、そのときも自分の持ち味であるスピードを活かして試合に挑んで、3部リーグなんですけど優勝できました。
藤井
優勝したんだ。よかったね。
荒井
はい、最優秀賞もいただきました。
編集部
ラグビーをやっていて楽しいことは何ですか?
荒井
いちばん楽しいのは、自分はこの体なんですけど、自分より大きい相手と当たって、体格差のある相手に勝てたときに達成感を感じます。
編集部
恐くないですか?
荒井
私は恐くないです。タックルに入るときに、相手の膝が目の前にあるんですけど、気づいたら相手が倒れてたって感じで(笑)。
編集部
逆に、たいへんなことはありますか?
荒井
やっぱりアタックなんですけど、相手がどこに何人いて、どこをどうやったら抜けるかみたいな戦略的なことが難しいですね。ボールを持っていないときも、常にまわりを見て、頭を使わなきゃいけないんで。
編集部
先生から見て、荒井さんはどんな学生さんですか?
藤井
熱心な学生ですよね。授業の後に質問しにくる学生はいるんですけど、研究室まで来てくれたのは荒井さんが初めてでした。「自分は勉強が得意じゃないから何を覚えたらいいですか」とか。初めのうちは勉強のことがメインでしたが、そのうちに将来のことなども相談されるようになって。こういう学生は珍しいですね(笑)。
荒井
親に言われたんですよ。せっかく大学に行くんだから、何でも吸収してこいって。学費を払ってもらっているので、どうやって恩返しするかを考えたとき、やっぱり栄養学の知識とか、ラグビー部の友人関係とか、今後の人生の財産になるものをしっかり身に付けなくてはと思っています。
編集部
体育の先生になった場合、栄養学の知識はどんなふうに役立つのですか?
藤井
そうですね。たとえば筋肉を付けるためにプロテインを飲む人がいますよね。でも、海外の研究も含めて、プロテインを長期間飲んで筋肉の重量が増えたというデータは一つもありません。なのにみんな高価なプロテインを一所懸命買って飲んでいる。本来は炭水化物をたくさん摂取した上でプロテインを飲まないと、筋肉にならないんです。今は小学生でもプロテインを飲んでいる子がいますが、食事からでもタンパク質は十分取れるので、教員として正しい知識を伝えてほしいと思います。

先輩の思いを背負って

編集部
荒井さんはなぜ体育の先生になりたいと思ったのですか?
荒井
高校3年生のときに後輩が入部してくるじゃないですか。中には初心者の子もいて、どうやって勝つかみたいなことを1から教えるんですが、それがめちゃくちゃ楽しくて、卒業したら体育の先生になろうと思ったんです。一度は短大に行くことを自分で決めましたが、途中でやっぱり先生になりたいという思いが強くなり、大学に入り直しました。
編集部
目的をしっかり持って大学に来ているのですね。
藤井
でも、1年生のときはずいぶん将来のことで悩んでいたよね。
編集部
どんなことで悩んでいたのですか?
藤井
このままバイトしながら遊んでいていいのかとか、何か資格を取った方がいいのかとか、いろんな将来の選択肢がある中でどうしようかなみたいな。
編集部
先生はどのようにアドバイスをされましたか?
藤井
私はアルバイトなんかは、どうせ卒業したら何十年も働かなきゃならないんだから、今はしなくていいんじゃないのって言いました。学生時代はとにかく自分がやりたいことをやった方がいいよと。
編集部
先生に教えてもらったのは、栄養学だけじゃないんですね。
荒井
はい、藤井先生にはいろんなことで相談に乗ってもらいました。ありがとうございます(笑)。
編集部
荒井さんは今、大学の3年生ですが、これまでの3年間で自分がどういうふうに変わったと思いますか?
荒井
どう変わったか? 難しいですね。
藤井
あれじゃない。やっぱり先輩のことが大きかったでしょう。
荒井
ああ、そうですね。実は私が1年生のときに、中学時代の先輩が突然亡くなってしまったんです。ラグビー部に入る前のことです。ものすごく仲よくさせていただいていただけに、ショックを受けました。その人の分までというわけではないのですが、頑張らなくちゃと思いました。
藤井
そのとき荒井さんが言っていたのは「人って簡単に死ぬんだな」っていうことでした。相当ショックだったんでしょうね。
荒井
先輩は高校のOBとして学校に来てくださって、私にラグビーを教えてくださいました。練習を終わった後にはご飯に連れていってくれたりして。会ったらいつも笑顔で接してくれる人だったのですが、大学1年のときに突然、先輩の家族から連絡が来て……。
藤井
その時期と、彼が将来の進路で悩んでいた時期が重なっているんですね。先輩が亡くなったことで落ち込みながらも、前に進まないといけないと思ったんじゃないでしょうか。それでラクビー部に入ることを決断したみたいです。
荒井
はい、先輩の思いも背負って、精一杯がんばりたいと思っています。
藤井
今の学生は何を学ぶかではなく、大学に入ることが目的になってしまっている人が多い気がします。そんな中で荒井さんは、きっちり目的を持って学び、わざわざ私の研究室まで来てくれるので、学びに対する意欲が高くとても印象的な学生だと思います。自分でいろいろ悩んだ分、強くなりましたね。
荒井
はい。いろいろ相談に乗ってくださり、ありがとうございました。
編集部
今日は貴重なお話をお聞かせくださいまして、ありがとうございました。

藤井 嵩子(FUJII Takako)

国士舘大学 体育学部 スポーツ医科学科 講師
●博士(スポーツ科学)/大阪体育大学 スポーツ科学研究科 スポーツ科学専攻 博士課程修了

荒井 隆佑(ARAI Ryusuke)

体育学部 体育学科3年生

掲載情報は、2025年7月のものです。