クラブ&サークルガイド2019
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「国士舘スポーツアスリー卜憲章」は、20世紀初頭に不文律、慣習法としてのスポーツマンシップを成文化し、倫理綱領化をしようとした試みと類似のものである。本憲章は、肉体的、精神的な闘争をともなうゲームやスポーツにおいて求められる技能や知識、人間的な精神的資質、礼儀作法などの態度等の行動規範を意昧し、一種のコモンロ一的な性格を有するものである。その時代やその帰属する社会の規範、倫理、慣習を反映するものであり、この意昧において本学建学の精神から導きだされる道徳規範、倫理、慣習を反映し、わが国の社会規範等に規定されるものである。このことは単にスポーツ・武道等における倫理としてとどまらず、一般化・普遍化された市民的・人間的な道徳と倫理を象徴するものである。「国士舘スポーツアスリート憲章」における『スポーツ』とは、オリンピックに代表される欧米で誕生し発展した近代スポーツだけを指すものではなく、わが国固有の運動文化である武道をはじめ、アジアはもとより世界各地で行なわれているマージナルスポーツ、勝敗を競うことよりも参加することに楽しみを見いだす生涯スポーツ、あるいは近年盛んに開発されてきたニュースポーツなどすべてのスポーツ文化を意味するものである。『アスリート』とは、一般には競技者あるいは選手と訳されるのが通例である。しかしながら、現代のスポーツは、一人の競技者は監督及び複数の役割を担ったコーチ、トレーナ一、ドクタ一等からのサポートによって、最高のパフォーマンスを発揮することが保障されている。もはや競技者一人をスポーツ主体としてのアスリートとして位置付けるのには困難な状況にある。また、サッカーのフーリガンに見られるような、観衆のスポーツへの関与の姿勢までをスポーツ行為として吟味されるに至っている。すなわち『アスリート』とは、パフォーマンス主体である競技者を中心に、それを支援する者及び競技場及びメディアを通じてスポーツ観戦という形態をもってスポーツ行為に関与するものすべてを意昧するものである。●スポーツアスリートは、スポーツが個人の尊厳の上に立脚していることを知る。スポーツの起源は、闘争であり、優劣判別の装置として機能していた。しかし、スポーツが闘争文化からスポーツ文化として形成される背景には、個人の尊厳に立脚したスポーツルールの制定があった。スポーツにおけるルールは、平等(フェアー)の保障であり、その前提としての生命観は不文律であり、精神文化として形成されてきたものであった。その意味でスポーツが文化として形成されるには、社会における文化成熟が背景として存在していたといえる。スポーツが文化として存在することは、個人の尊厳という前提なしには成立し得ないものである。● スポーツアスリートの最上の報酬は、たゆまぬ努力から生まれる喜びと充実している自己の存在である。スポーツは自己目的的活動であり、自己存在の証明過程でもある。スポーツにおけるパフォーマンスには優劣が伴うのが通例である。しかし、そのスポーツ行為のプロセスは自己論証にのみ評価される。自己の努力、充実に対して自己がどのように評価を与え得るのかが、スポーツアスリートの喜びであり、最上の報酬でもあり、スポーツ継続の原動力ともなる。● スポーツアスリートは、ルールとその精神に従い、スポーツに忠誠を誓う。スポーツにおけるルールは、個人の尊厳を背景とし、平等(フェアー)を保障するものとして制定されている。スポーツ行為においては、地位、家柄、国籍等社会的属性が意味をもたない世界(場面)である。唯一、スポーツ文化を形成している不文律としての精神と平等を保障するルールのみに規定される。スポーツアスリートはこのスポーツを形成しているルールと精神を理解し、忠誠を誓うことにより存在が可能となる。また、このスポーツの精神とルールは、社会から規定されているともいえる。その意味で「スポーツは子どもを大人にし、大人を子どもにする」といわれるように、優れた社会装置であるといえる。● スポーツアスリートは、常に自制を心がけ、自己への尊厳と他者への尊敬を保つ。スポーツ文化は、身体の文化であり、鍛えぬかれた肉体を高度な精神で統一するところに最大の特徴がある。自己統制はスポーツアスリートの育成過程で形成されるものであり、スポーツアスリートの自己尊厳とチームメイト、対戦相手への尊敬という意識をも伴う。スポーツアスリートの自己存在証明の一つとして、自己への尊厳と他者への尊敬があげられる。● スポーツアスリートは、スポーツ美の創造者であり、スポーツ文化の継承・変革者である。スポーツは芸術であり、美的活動である。最高のパフォーマンスは美しい。そこには無駄のない、合理的な動きと、充実した内面のみが表現される。パフォーマンスの終末には、スポーツアスリートが充実したスポーツ美の創造者として存在する。スポーツ美の創造者はスポーツ文化の主体であり、先人が築き上げてきたスポーツ文化の継承者である。しかし、スポーツ文化は動的存在であり、その時代その時代を背景とし、成長、変化をしている。スポーツアスリー卜はスポーツ文化の継承者であるとともに、次代のスポーツ文化を形成する変革者でもある。● スポーツアスリートは、スポーツが「人を生かし、国を活かし、世界に貢献する」ことを知る。スポーツは自己目的的活動であり、自己証明の活動でもある。個人の尊厳の上に立脚するスポーツ文化は、スポーツアスリートを生かすことにより成立する。社会により規定されたスポーツによりスポーツアスリートが形成されることにより、人を生かすスポーツは国を活かし、世界に貢献することとなる。「国士舘スポーツアスリート憲章」の解説55CLUB・CIRCLE GUIDE 2019

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