グローバルナビゲーション
ここから本文です
授業ルポ

労働問題を経済学の視点で分析する労働経済学。この授業では、労働経済学Aで学んだ経済学的手法を用いて、政府の施策や企業内の制度などが個人の行動にどのような影響を及ぼすのかを検討する。

「労働経済学B」は教科書の内容をまとめたスライドを表示し、その内容について熊迫真一講師が詳しく解説していくというスタイルの授業だ。
この日の授業テーマは、『高齢者雇用の経済分析』。前回からの2回構成になっており、今回は年金制度の概要と、年金給付に関するルールが高齢者の行動に与える影響について学んでいく。
「まず、年金とはどういうものでしょう?」
熊迫講師はそう言うと、年金制度の説明を始めた。

「年金制度とは、老齢や障害、生計維持者の死亡などによる長期にわたる所得の喪失を補填するために、一定額の金銭を定期的に支給する制度のことです。この年金制度は、公的年金と私的年金に区分されます」
公的年金とは、政府や公共団体が運営する年金で、基礎年金とも言われる国民年金と、働いている人を対象とする厚生年金・共済年金を指す。私的年金は、民間機関が任意で設立しているもののことだ。
熊迫講師はスライドを切り替え、さらに公的年金の特徴を説明する。
「公的年金には3つの特徴があります。それは、国民全員が国民年金に加入し、基礎年金給付を受ける『国民皆年金』であること、加入者が保険料を出し合って、その額に応じた年金給付を受ける『社会保険方式』であること、そして最後のひとつは、『世代間扶養』であるということです」
世代間扶養とは、自分たちが働いて積み立てた保険料を自分たちが老後に受給するのではなく、自分たちが拠出した保険料を、高齢者世代の年金給付に充てるということ。
「しかし、年金受給者である高齢者が増加する一方で、積み立てる側の人口が減っているので、現役世代ひとり当たりの負担が重くなっています。そのため、政府は年金支給時期を遅らせたり、高齢になっても現役として働いている人の年金給付を見直したりとさまざまな工夫をしてきたのです。」
熊迫講師は、現在の年金制度の状況をそう説明した。

「公的年金である国民年金・厚生年金・共済年金の給付には、それぞれ、老齢になったら支給される『老齢年金』、病気や怪我で障害を持つことになった場合に支給される『障害年金』、年金受給者や被保険者が死亡した場合に遺族へ支給される『遺族年金』の3種類があります。このうち厚生年金の『老齢年金』は2つに区分されています。このひとつが、今日の問題となる『在職老齢年金』です」
在職老齢年金とは、60歳以上で会社に在職している厚生年金加入者に対して支給される年金のこと。この在職老齢年金には大きな特徴がある。月々の給料と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると、在職老齢年金の一部または全部が支給停止となるのだ。なぜそんな制度があるのか? その理由を熊迫講師が説明する。
「先ほど少子高齢化の影響で、年金の収支が厳しいという話をしましたね。ですから、生活に余裕がある人への年金給付額を減らし、その分を生活が厳しい人に支給することで全体のバランスをとろうとしているからです」

熊迫講師は次に、ある直線と曲線が描かれたスライドを表示した。
「では、次は所得・余暇平面上に所得制約線と無差別曲線を描き、最も効用(※)が高くなる点を見つけてみましょう」
所得・余暇平面とは、縦軸に所得、横軸にひとりが1か月に使える時間(総可処分時間)を表した平面で、横軸は左の原点から見ると余暇時間、右の原点から見ると労働時間を示す。そして、そこに描かれている直線が所得制約線(ある人がある余暇・所得時間で達成できる所得を示す線)、曲線が無差別曲線(余暇・労働時間と所得のバランスによって同じ効用を得られる点をつないだ曲線)である。
所得・余暇平面に所得制約線を描き、そこに無差別曲線をいくつか描き込んでいくと、所得制約線と無差別曲線が接するところがある。この接点が、余暇・労働時間と所得のバランスにいちばん満足感を得られる点、つまり最も効用が高くなる点なのだ。
※ 効用…ミクロ経済学の専門用語で、人が商品やサービスを消費することから得られる幸福や満足の水準を表わす。

所得・余暇平面と、所得制約線・無差別曲線の説明が終わると、学生たちに具体的な問題を出し、①年金が支給される前、②年金支給時、③所得が10万円未満の場合のみ、年金が支給される場合(※在職老齢年金に相当)について、所得制約線を描くように指示した。
5分ほどたった後、熊迫講師が「描けた人は?」と聞くと、学生の間からちらほら手が上がった。
「では、在職老齢年金が導入されると所得制約線がどう変化するのか見てみましょう」
③での所得制約線の違いをスライドで示し、労働状況にどう影響を与えるのかを、無差別曲線と合わせて解説していく。そして③のとき、ある労働時間を超えて年金が支給されなくなると、所得がぐっと減少することを示し、勤労所得によって年金支給停止という制約があると、勤労所得を抑えるために労働時間が短くなってしまう傾向があると説明した。
※但し、説明を容易にするため、給付の条件を単純化してある。

最後に、高齢者の雇用・賃金制度に対して企業や政府はどんな対応をすべきかなどについての説明が加えられ、授業は終了した。
この授業で学ぶ「労働経済学」とは、応用経済学とよばれる分野に属する学問で、経済学の基本的なツールを使って、労働に関する諸問題に応用していこう、というものである。
熊迫講師は、この授業のねらいを次のように語ってくれた。
「経済学を学んだことのない学生も受講していますので、できるだけ分かりやすく説明するように心がけています。この授業を通じて、学生たちには普段疑問に思ったことを問題として捉え、自分の力で考えて、何らかの答えを導き出せるようになってほしいと思っています。」