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授業ルポ

2008年度に新設された授業で、文学部日本文学・文化専攻を担当する教員6名が交代しながら、自分の専門の分野をオムニバス形式で講義する。今年度のテーマは、中古、中世、近世、近代の文学、書道と、ここで紹介する日本語学だ。

同じ語でも意味が東西で違うというパターンがある一方、東西に分かれない方言もある。中村准教授は、カタツムリを例にして説明を始めた。「北海道では“でんでんむし”、東京では“かたつむり”、大阪は“でんでんむし”など、各地でバラバラなんですが、よく観察すると、関西を中心に左右対称に同じ言葉が使われていることが分かります。池に石を投げ入れると、外に向かって波紋が広がりますが、言葉も同じで、当時、文化の中心であった関西からいろいろな新しい言葉が生まれ、ゆっくりと東西に広がり、それまで使っていた古い言葉と置き替えられていきました。こうした分布に気づいた民俗学者の柳田国男は『方言周圏論』を唱え、後に実証されました。以降、方言研究では、東西分布とともに、この周圏分布が定説となっています」。
このほか、こわい(疲れたの意味)、おどろく(目を覚ますの意味)など、周圏分布をしている言葉が紹介された。

一般的に言葉は、分かりやすさを優先して変化していく傾向にあり、一度消えると再び現れることは滅多にない。しかし、それにも例外があり、その一つが、“昨日の前の日”を表す「一昨日」である。現在、関東以北と九州では「おととい」、関西や中国、四国では「おとつい」と読むこの言葉。その歴史をさかのぼってみると、奈良時代では「をとつひ」だったものが、平安、鎌倉時代には「をととひ」となり、江戸時代には再び「おとつひ」が使われていたらしい。ちなみに江戸後期の『浪速聞書』に「江戸でおとといとなまる」という表現があり、この頃から、関西では「おとつい」、関東では「おととい」と読むようになったことが分かる。

江戸時代になぜ、奈良時代の言葉を再び使うようになったのか。それは、「おととい」と読む、もうひとつ別の言葉があったからである。それの言葉とは、「兄弟」。現在は関東でも関西でも「きょうだい」と読むが、鎌倉から江戸時代初期にかけては、「おととい」と読まれていた。「おととい」と読む言葉に、「一昨日」と「兄弟」という2種類の意味があるのは紛らわしいので、一昨日を「おとつい」、兄弟を「おととい」と読むことになったことが調査(小林隆)により分かったそうだ。ちなみに、現代でも兄弟を「おととい」と読む地域は中国・四国地方に残っているが、この地域では、一昨日のことを「おとつい」と読み、同音衝突を避けていることが分かる。

このような興味深い事例を挙げながら、軽妙なテンポで展開していく中村准教授の講義。このあとも、「新方言」や「ネオ方言」と呼ばれる、いま広がりつつある言葉についての解説が続けられ、90分間の講義はあっという間に終了した。