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クリスマスが近づいてきましたが、にわかに自作のケーキへの挑戦に目覚めた人もおられるのではないでしょうか。また2月になれば、バレンタインデーが来ますので、年末・年始はお菓子の手作り修行のシーズンといえるかもしれません。
ところで、チョコレートのテンパリング(tempering)という言葉を聞いたことはありますか?

チョコレートは脂肪分(ココアバター)を大量に含んでいますが、ココアバターには5ないし6種類の結晶構造があります(1) (2)。このように同一の化学組成であるにもかかわらず異なる結晶構造を持つことを「多形(polymorphic)である」といいます。ここでは簡単に説明するためにココアバターがγ型、α型、β” 型、 β’型、 β型の5つの多形であるとした説明をします(1)。この多形のうち、最も融点が高く安定しているのがβ型(融点約30~35℃)ですが、溶けたチョコレートを固める冷却条件によってβ型以外の結晶も析出します。これらの相は、融点がより低く、気温にも近いためチョコレートのおかれた温度環境の変化により再融解し、表面に湧出して粗大に再結晶しやすい性質があります。そしてその際にチョコレートの艶が失われざらざらした食感になってしまいます。この現象は、粉を吹いたようなその様子からブルーム(fat bloom)と呼ばれています(写真2)。

そこで、滑らかで舌触りの良いチョコレート菓子を作るためには、最初から大部分がβ相となるように高めの温度で温度制御してかつなるべく素早く固めるか、あるいはそれより少し低めの温度で固めた後に少し再加熱して安定なβ相に相転移させるような処理を行ったり、冷却に際しβ型の種結晶(β型のココアバターもしくはそれを含むチョコレートの粉やフレーク)を投入してβ相の析出を促進したりします。このようにチョコレートを使ったお菓子を作るには、面倒でもこのテンパリングをうまくやらないとおいしくできません。
さて、大学の機械工学系で金属加工を勉強している学生も、テンパリングについて勉強します。日本語で「焼き戻し」といいます。これはチョコレートのテンパリングと似た、「熱処理(heat treatment)」と呼ばれる処理のひとつです(写真3)。鍛冶屋さんが、熱して真っ赤になった鋼を水に浸し、「ジュッ」と音を立てて冷やしている光景をテレビなどで見たことはありませんか?

鋼とは炭素を約2~0.02重量%ほど溶かし込んだ鉄、「炭素鋼」のことをいいますが、ココアバターの場合と同様に、とりうる結晶構造が複数あります。約900~1400度で赤熱しているときの構造はγ鉄(オーステナイト)と呼ばれます(写真4)。これを急激に冷却するとマルテンサイトという非常に硬い組織が現れます(写真5)。

この処理を「焼き入れ(quenching)」といいます。刀、工具や金型、機械部品、古くは蹄鉄の製造など、硬さや耐摩耗性が要求される「ものづくり」に昔からこの「焼き入れ」は使われてきました。しかし、この状態の鋼は、大変硬いのですが、非常に脆く、衝撃で簡単に割れてしまい実用できません。そこで焼入れをした後に、γ相を生じない程度の低い適度な温度に鋼を少し再加熱してやると、マルテンサイトがより安定なフェライト(α相)やセメンタイト(Fe3C)に相転移し、硬さを多少犠牲にする代わりに、粘り強く強靭な実用的組織が得られます(写真6)。これが金属加工の「焼き戻し(tempering)」という処理です。

お菓子作りとものづくり、一見あまり関係がなさそうに見えますが、同じような調質技術を使っていることに驚かれた方もおられるのではないでしょうか。お菓子作りが好きな方は、意外なところに応用分野があるかもしれませんよ。
参考文献
(1)J. C Hoskin:Sensory properties of chocolate and their development, American Journal of Clinical Nutrition, 60(1994), 1068S-1070S.
(2) R. L. Wille, E. S. Lutton: Polymorphism of cocoa butter, Journal of the American Oil Chemists' Society, 43(1966), 491–496.
文:理工学部機械工学系 大橋隆弘准教授
写真:西原公教授、大橋隆弘准教授、服部慎一郎技術職員
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