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理工学部 学びのコラム

焼酎と鍾乳洞(と石灰岩台地と日本)-vol.1-

2009年01月21日

新しい年も明けたばかり。おめでたいところで、お酒から話題を提供したいと思います。昨年末、北九州は平尾台から、研究室に焼酎の一升瓶が届きました。平尾台は、日本有数の石灰岩台地のひとつですが、そのような場所がお酒とどう関係があるのでしょうか。

石灰岩台地といえば、草原の中に岩の柱が点々と残り、まるで羊の群れのように見える景観が特徴です(写真1)。これは石灰岩が雨水にわずかずつ溶けるからです。台地の地下では、やはり石灰岩が雨水に溶かされ、長い年月の間に大きな空洞ができることがよくあります。これが鍾乳洞と呼ばれる洞窟です。石灰岩地帯に形成されるこのような特徴的な地形はまとめて「カルスト地形」などと呼ばれます。

日本には石灰岩地帯が多いので、観光客でも入れる鍾乳洞が各地にありますね。一度は鍾乳洞の中を歩いたことがある方も多いでしょう。ところで、鍾乳洞の中はひんやりしていましたか?それとも暖かいと感じましたか?この問への答えは、季節によって変わります。夏に鍾乳洞に入った人は涼しいと感じ、冬に入れば暖かかったはずです。地中の温度は1年を通じてほとんど変わらないからです。

温度差のないこの洞内環境は、お酒を熟成させるのに大変適しているそうです(おそらくお酒に限らないのでしょう)。冒頭に紹介したお酒は、平尾台の石灰岩台地中に穿たれた鍾乳洞のひとつに約3年の間保存され、じっくり熟成した麦焼酎だったのです。おいしいはずです。麦の香ばしさがはっきり感じられて、アルコール度数は高いのにまろやかでツンとしなくて・・・いえ、今はそういう話ではなくて。

実は、平尾台の鍾乳洞は、昔からお酒の熟成に利用されていたわけではありません。それどころか、今回がなんと初蔵出し。ほんの数年前からの新しい試みなのです。なぜこのようなことが行われるようになったのでしょうか。

石灰岩というのは主に炭酸カルシウム(CaCO3)からなり、セメントの原料になったり製鉄に使われたりします。地下資源が少ない日本において、珍しく国内で豊富に調達できる産業資源です。ですから、日本で産業が発達するにつれて、平尾台をはじめとする全国の石灰岩地帯では激しく産業的採掘が行われ、言葉は悪いのですが「ハゲ山」にされてきた歴史があるのです。それは今でも続いています。もちろん、それによって日本の産業が支えられているわけです。

それでも、この独特の美しい景観を大切にしようとする動きも起こりました。国や地元北九州の自治体が、一部地域を天然記念物に指定するなどして産業的採掘を制限し、石灰岩台地の景観を保護しようとしてきました。現在、平尾台は台地として天然記念物に指定されているほか、平尾台にある鍾乳洞のうち2つが天然記念物です。また、北九州国定公園の一部でもあります。

ただ、悲しいことに、人は生活しなければなりません。一方的に採掘が禁止されたと感じた産業側が反発し、保護したい立場との間で軋轢が生じたそうです。平尾台は、その独特な美しい景観を愛でられてきただけではないのです。しかし、地球環境問題への関心が高まるなどの追い風を得て、近年、産業的採掘地域と保護地域との間に「平尾台 自然の郷」という公園施設が設けられ(写真2)、産業的採掘以外の方法で平尾台の自然を地域の役に立てる方法を模索しています。その企画のひとつが、焼酎を熟成させる、というものだったのです。

この焼酎は、過去数十年間の人間達の行いを背負っているのです。

産業資源であることのほかに、平尾台の岩石にはもうひとつの利用価値がありました。それは建材、石材としての価値です(今では採掘されていません)。ここまで「石灰岩」と書いてきましたが、平尾台の石はただの石灰岩ではなく、結晶が大きく、磨けば光沢を持つ美しい「大理石」なのです。代表的なものは、青みがかった白い色です(写真3、平尾台 自然の郷 にて)。切断面で見ると、白地に青みがかった灰色の縞模様が入ります。国会議事堂の内装にも用いられました(一般見学でも「御休所」の暖炉で見ることができます。ただし、近づけません)。

となると当然ですが、平尾台では鍾乳洞内の壁もやはり青白いのです。鍾乳洞の壁といえば普通は灰色~ベージュ系の地味な色合いの岩石を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。しかし、平尾台の一画にある千仏鍾乳洞(天然記念物)の壁はこのように青白い岩石です(写真4)。ちなみにこの千仏鍾乳洞は照明設備が設置された観光洞ですが、一般観光客が入れるにしてはワイルドで、途中からは地下河川の中をジャバジャバ歩くことになります(写真5)。ご心配なく。濡れてもいいように、洞の入り口でサンダルを貸してくれます。

ところで大理石とは何でしょう?ふつうの石灰岩と何が違うのでしょう?


→「焼酎と鍾乳洞(と石灰岩台地と日本)vol.2」へ続きます。

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