大学ホームページ 入試情報 サイトマップお問い合わせ

ここから本文です

身の回りの出来事をテーマにコラムを掲載!学部の学びがより身近なものになる

法学部 学びのコラム

「人を殴るのは犯罪行為ではないのか?
ボクシングで相手を叩いても逮捕されないのはなぜでしょうか?」-Vol.2-

2009年02月16日

第2回 ボクシングの試合中の殴打行為はなぜ処罰されないのでしょうか?

 第1回からずいぶん間が空いてしまいましたが、今回はボクシングの殴打行為がなぜ処罰されないかと言うことについて具体的に考えてみたいと思います。

 例としてあしたのジョーの名場面を使って説明していこうと思います。主人公矢吹丈(以下、「ジョー」とします)のライバル力石徹(以下、「力石」とします)は、ジョーのパンチが原因で死に至ってしまいます。しかし、作中でジョーが法的に責任を問われるシーンはありません。実際のボクシングの試合でも「リング禍」がしばしば生じていますが、対戦相手を死なせたボクサーが法的に責任を問われることはありません。しかし、ケンカ等で相手を殴る行為、その殴打により相手に怪我を負わせる行為、さらには死に至らせてしまった場合には、通常は法的に処罰されます。両者の違いはどこにあるのでしょうか?

Q.犯罪って何?-ある犯罪が成立するための条件

 確かに、殴る、殴り倒す、という行為だけをみた場合、皆さんは「この行為は犯罪である」という印象を抱くことでしょう。そして、道徳的にみてもこの行為は許されそうな行為ではなさそうです。皆さんも、よく、小さいころから「人に手をあげるな」と言い聞かされてきたのではないでしょうか?法的に見た場合も、刑法は208条で暴行罪を規定しています。殴るという行為は一般的理解においても暴行に当たりますから、殴打行為は刑法208条の禁止する行為ということになります。しかし、刑法が禁じている行為を行ったというだけでは、犯罪は成立しません。もしそうだとすると、警察官が容疑者を逮捕する行為は、逮捕・監禁罪(刑法220条)に当たるでしょうし、死刑の執行は殺人罪(刑法199条)に当たることになってしまい、なんだかおかしなことになってしまいます。
 もちろん、死刑の執行で殺人罪が成立することはありません。つまり、刑法は様々な行為を犯罪行為であるとして禁止していますが、その行為を行ったことだけで(例えば、人を殺すという行為があっただけで)直ちに犯罪が成立することにはならないのです。犯罪が成立するためには、これから説明する3つの要件が存在しなければなりません。すなわち、「(1)構成要件に該当する、(2)違法で、(3)責任のある行為」がある場合に、犯罪が成立するのです。逆に言うと、これら3要件のいずれが1つでも欠けていれば犯罪は成立しないことになります。

(1)構成要件該当性
 まず、問題となる行為が構成要件に該当するかどうかが問題となります。
 ちょっと脇道にそれる話ですが、2月中に富士山が数百年ぶりの大噴火をするのではないかと科学者の間では騒がれていますよね。知ってましたか?
 と嘘をついたとします。この嘘をつくという行為自体、犯罪になるのでしょうか?答えは、ノーですね。なぜならば、構成要件に該当する行為ではないからです。構成要件とは、「刑罰法規によって設定された犯罪の類型」と説明されます。簡単に言うと、刑法が禁じている行為をすること、場合によっては命令している行為をしないこと、です。もちろん、一般的には嘘をつくことは悪いことと考えられるでしょう。でも、嘘をついてお金をだまし取る行為(詐欺罪・刑法246条)や裁判で意識的に嘘の証言をする行為(偽証罪)などを除いては、ただ嘘をつくという行為だけであれば刑法は禁じていません。あしたのジョーとの関連でいうと、例えば、刑法199条の構成要件は人を殺す行為ですし、同様に204条の場合は、人の身体を傷害する行為です、さらに刑法208条では人に暴行を加える行為が構成要件ということになります。先に挙げた生まれてくる胎児の殺害の事例では、その行為が殺人の構成要件にあたるか、堕胎の構成要件に当たるかが問題となるわけですね。ただし、犯罪というのは、先に挙げた3要件のすべてが揃った場合に成立するため、構成要件に該当する行為であっても、それだけで自動的に犯罪が成立するわけではありません。

(2)違法性(違法性阻却事由の不存在)
 そこで、次に構成要件に該当する行為が違法なものだったかどうかが問題となります。ここでいう違法とは、一般に「法規範に反すること」という説明がなされますが、構成要件に該当する行為は、違法性を否定する理由(違法性阻却事由/いほうせいそきゃくじゆう)がない限り、原則として違法となります。したがって、問題は、違法性を否定する理由が存在するかどうかということになります。わが国の刑法は、違法性阻却事由として、刑法35条の正当行為(正当業務行為/法令行為)、刑法36条の正当防衛、刑法37条の緊急避難を規定しております。正当行為のうち、法令行為の典型は、死刑の執行や容疑者の逮捕であり、法が命じている行為をいいます。これらの行為は構成要件に該当する行為ですが、違法性が否定され犯罪行為となりません。そして、正当業務行為は、まさに今回取り上げるスポーツ行為や、医療行為などです。正当防衛については皆さんも馴染みがあるでしょう。緊急避難の典型例としては、以下で説明するカルネアデスの板の事例が挙げられます。例えば、AとBが沈没した船から投げ出され、そこに1人ならば浮いていることができ、2人ならば沈んでしまう板が流れてきます。AとBは2人でこれにしがみつこうとしますが、2人が捕まれば2人とも溺死してしまうと悟ったAはBを蹴っ飛ばして溺死させてしまいます。なぜなら、そうするほかに助かる道がなかったからです。このような場合に適用されるのが、緊急避難の規定であり、この場合、違法性が否定されて犯罪の成立(殺人罪)はありません。

(3)責任(責任阻却事由の不存在)
 刑法が禁じている行為を行い、その行為が正当化されない違法なものであったとしても、この行為を行った者に責任を問うことができなければ、犯罪は成立しません。このように、「責任なければ刑罰なし」という原則を責任主義といいます。責任が存在しない事情を「責任阻却事由/せきにんそきゃくじゆう」といいます。責任阻却事由には、刑法39条の定める「心神喪失」と刑法40条の定める「刑事未成年」とがあります。例えば、刑法40条は14歳に満たない者の行為には責任がないと規定していますが、12歳の少年が正当防衛などの違法性阻却事由がないのに他人を殺害したような場合であっても、責任という犯罪成立条件の1つが欠けるため犯罪は成立しないことになります。

正当行為-どこまでが正当行為として許されるか?

 以上みてきたように、犯罪の成立には、「構成要件該当性」、「違法性」、「責任」という3つの要件が必要となります。このうち、ボクシングの試合における殴打行為は、正当業務行為として正当化され、違法性を否定されるため、暴行罪等の犯罪は成立しないことになるのです。ただ、刑法35条においては何が「正当な業務による行為」といえるのかは、解釈に委ねられています。そこで、最後に、どのような行為が、どこまで正当業務行為として許されるのか?そして、それはなぜなのかという点について、皆さんに考えてもらいたいと思います。
 刑法35条にいう「正当な業務による行為」とは何を指すのでしょうか?典型例としては、先に述べた手術などの医療行為やスポーツ行為などが挙げられますし、皆さんも「感覚的に」これらの行為に違法性がないと思われるかもしれません。しかし、感覚で良い悪いを判断してしまうと、微妙なケースがいくつかあった時に人それぞれの判断が行われ、同じような事案なのに被告人に有利になったり不利になったりと不公平が生じるおそれが出てきます。したがって、説明のつく一定の基準に従って判断を導く必要があります。

 ひとまず、2つの可能性を呈示してみました。1つは、刑法35条の「正当な業務による行為」とは、(1)正当な業務であるボクシングの試合におけるすべての行為を指すというもの、でもう1つは、(2)正当な業務であるボクシングの試合における正当な行為をさすというものです。この(1)と(2)では、正当業務行為に含まれる行為に違いが出てきます。理解できますか?
 (1)のように、ボクシングの試合におけるすべての行為が正当行為であると理解すると、クリンチ中に耳を噛みちぎるとか、サミングをするといった反則行為まで正当業務行為として違法性を否定されてしまいます。(2)のように理解した場合は、これら反則行為は当然「正当な行為」とはいえないわけですから、あくまで正当に行われた行為に限定して(具体的にはルール内の行為に限定して)違法性を否定されることになります。どちらが正しいのでしょうか?
 もちろん、答えは、分かりますね?ただし、この場合もその答えに対する説明が重要です。むしろ、説明の方が大事であるといっても過言ではないでしょう。妥当な答えは、(2)ですね。では、(2)がなぜ妥当なのか、説明を考えてみましょう。
 そもそも、正当業務行為(*ここでいう「業務」とは、「職業的な」という意味に限定されません)はどうして違法性を否定する理由となるのかが、ここでの説明のカギとなります。正当業務行為が違法性を否定する理由となるのは、社会的に確立した業務行為であるから、あるいは、優越的利益があるから、そして、多くの場合、被害者の同意があるからなどと説明されます。
 ボクシングというスポーツは社会的に確立した業務行為でありますし、殴られる被害者にも同意があります。しかし、スポーツとして社会的に確立している背景には、ボクシングがスポーツたる所以でもあるルールが確立しているからでしょう。そして、被害者はボクシングのルール内において殴られる危険を引き受けているのであり、ルール外の行為、すなわち反則行為による被害については同意をしていないのです。そう考えると、刑法35条が正当業務行為として違法性を否定するのは、あくまで正当な業務行為であるボクシングの試合において、ルール内において行われる正当な行為ということになります。


 いかがだったでしょうか?ボクシングの殴打行為と正当業務行為の説明を用いて、法律解釈学とはどのような学問なのかをできる限り簡単に説明してみました。法律学とは条文暗記ではなく、法律に基づいて説明を付ける、理屈を付ける学問だということを感じ取っていただければ幸いです。

法学部の学びについてもっと知りたい方はこちら

法学部ホームページでは、講義やゼミの様子をリアルタイムで配信する「クラスレポート」や、学びのコラムの著者である教員を紹介する「教員紹介」などの学部に関する学びの情報が盛りだくさんです。


アクセスの多いコラム

コラム:法
違法複製物のダウンロードについて
2010年04月05日
違法複製物のダウンロードについて
 インターネット上には、音楽、画像、映像、ゲームソフト、プログラムなどさまざまなデジタル・コンテンツが流れていますが、GoogleやYou-Tubeのようなプロバイダーを経由するものもあれば、WinMXやWinnyなど匿名性の高いファイル共有ソフトを通じて利用される場合もあります。しかし、これらのコンテンツは、著作物として一定の要件のもとで著作権法によって保護されています。
著作権法上問題とならない適法なものもありますが、違法なものがほとんどであるといってよいでしょう。

〒154-8515 東京都世田谷区世田谷4-28-1 電話:03-5481-3111
Copyright(C)2008-2009 Kokushikan University, All Rights Reserved.