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概要

国士舘史研究年報第9号

国士舘史研究年報2017 楓?84路の抱く理想の下、自由な個々人たちによる農本主義的な共同生活の場を立ち上げることを目的とする。組織としては、実際の共同生活を営む村内会員と、生活外から支援する村外会員とに分かれる。村内会員として入村した人々は、地元の篤農家に指導を受けながら水田稲作や耕地の開発などを行うほか、村外会員の中には池袋の郊外に出版社(「新しき村出版部曠野社」)を設立し、村と連携しながら雑誌や叢書、詩集などの出版事業に従事する者も現れた。また、村内では絵画、演劇、音楽、演説、朗読会などの表現活動が広く行われていたという。勿論、新しい生活の立ち上げは順風満帆ではなかったものの) 11 (、農本的な生活のなかで営まれる文化的な表現活動や学びの機会は、大部分が初等・中等教育修了者であった入村青年たちにとっては「“私の大学”であった) 11 (」と指摘される。この新しき村で注目したいコンセプトは、「村の精神及会則」の次の点にある。一 全世界の人間が天命を全ふし、各個人の内にすむ自我を完全に生長させることを理想とする) 11 (。さらに戦後の発言ではあるが武者小路自身の言葉を借りれば、「新しき村の理想は簡単明瞭である。すべての人が天命を完うし、個性を生かすことが出来る世界」であり、それは「自分の生命を肯定する運動だ」とか、「新しき村の仕事にとつて一番大事なことは、自然の意志に従い、自己の生命を肯定できる道を歩くこと」、「ただ物質的に生きることではない。生命全体が素直に生きられることだ) 1( (」など、個々人が自らの「生命」を肯定し、自然と調和して生きる理想が繰り返し述べられる。そのため、鈴木貞美は新しき村を「国家や権力との葛藤を考えに入れないところに成り立つ。そういう意味でアナキスティックな農本主義共同体だった) 11 (」と指摘するが、ここで繰り返し登場する生命の言葉こそ、そのアナキスティックな農本主義共同体を支える根幹の理念でもあった。鈴木自身も位置づけるように、武者小路の理想ひいては新しき村の共同体的な生活を支える思想には、「大正生命主義」(以下、生命主義)と呼ばれる時代の思潮が控えている) 11 (。ここで挙げる生命主義とは、「思想一般において、「生命」という概念を世界観の根本原理とするもので、一九世紀の実証主義に立つ目的論・機械論による自然征服観に対立する思想傾向) 11 (」をさしあたりは指すものとする。時間軸としては「日露戦争後から関東大震災に至る時代」、つまり大正という時代をほぼ含み、社会的には