政経学部の進取"

編集部: 国士舘大学の政経学部で、国際経済を学ぶ意味はどこにあるのでしょうか?

 学びの話に入る前に、まず、我々の身のまわりの暮らしを眺めてみましょう。自分が住んでいる家で使っている道具、食べている食品、すべて国内だけで調達・自給出来ていると思いますか? 家の柱や床を作る建材、晩のおかずになる肉類、コンピュータやスマートフォンなど、よくよく見れば純粋に日本で生産されたものはほとんどありません。日本の有名企業ブランドのテレビや冷蔵庫、洗濯機なども、それら企業が海外に進出して、現地の工場でアジアの人達と一緒に作っているものがほとんどです。日本は貿易立国と昔から言われていますが、もはや海外との経済的つながりがなければ、いまの生活は成り立ちません。海外と関わることは避けて通れない、そういう時代に私たちは生きているのです。
 国内指向の学生であっても、大学を卒業して社会に出れば、否が応でも海外との関わりが出てきます。日本企業の生産高の約4分の1は海外での生産です。中小企業も生き残りをかけ、市場を海外に求める時代です。海外事情や国際ルール、世界情勢に関する知識を身に付けることはその人の強味になります。
 よく「いまの学生は内向きで海外には関心がない」という話を聞きます。でも、逆にそこに社会の強いニーズがあり、また我々にとってチャンスがあると思います。学生に刺激を与え、海外に興味を持ってもらい、国際的素養を兼ね備えた競争力のある人間になってもらいたい。それを実現するために、私はこの大学に来ているのです。

編集部: 先生はどのような専門分野のご研究をなさっているのですか?

 私の専門は国際経済で、地域でいえば「東南アジア」ですね。その中でも主に、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)、ASEAN経済共同体(AEC)について研究しています。というのも、本学に来る前に私は25年間、JETRO(日本貿易振興機構)で働いていました。そのうち20年は東南アジアを専門に業務に従事していました。うち10年間はタイに駐在していました。
 JETROは経済産業省傘下の通商政策実行機関で、日本からの農産品の輸出促進や中小企業の国際展開支援、海外から日本への直接投資を増やす活動などをやっています。私の場合は海外の調査・研究に長年従事し、市場に影響を及ぼす経済や市場情報をいち早く入手し、日本企業に情報提供する役割を担っていました。たとえば制度の変更などがその一つです。通商や投資の制度がどう変わりそうかといった最新の情報を様々な機関、情報源から入手し、ビジネス戦略策定に役立ててもらえるよういち早く日本企業にお知らせするわけです。それによって企業は海外進出を決断したり、事業戦略を再構築するなどを判断できます。
 新聞などメディアも海外に支局を持ち、特派員を置いて国際情報を配信していますが、紙面で制度情報など細かいところまですべてを伝えきれるわけではありません。また、テロなどの大きなニュースが入れば、報道すらされないこともあります。どこよりも早く、正確に、海外展開を目指す企業に役立つ詳しい情報を分析して提供するのが、私たちの役目でした。そういう現場で得た知見や人脈を、大学での国際経済の研究や人材育成に活かしていきます。

編集部: 他にタイではどのようなお仕事をされていたのですか?

 そうですね。タイでは「ビジネスサポートセンター」という、日本の中小企業向けの海外進出準備・支援センターを発案し、実際に立ち上げました。海外進出を検討している企業と話しているうちに、いちばん困っているのが「文化や慣習、歴史を背景にした考え方や制度の違い」だということが分かってきたのです。言葉の壁はもちろんですが、法律も違えば仕組みも違うし、労働に対する考え方も違います。そんな中で、日本企業による失敗のない投資を後押しすべく、タイに設立するサポートセンターには会社設立準備を行う事務スペースや共有秘書機能に加え、会社設立、雇用・労務管理、外資規制、税関事情等企業が会社をタイに設立するにあたって必要となる情報を盛り込んださまざまなセミナーを考案、講師選定からプログラム策定まで一から立ち上げました。タイで私たちがやったのが第一号だったのですが、進出企業のみならずタイ政府からも感謝されるなど反響が大きかったことから、後にシンガポールやフィリピン、ベトナム、インドなどでも同様のセンターがタイをモデルとして次々と設立されました。「ビジネスサポートセンター」を使ってタイに進出した企業は200社を優に超えています。

編集部: 海外赴任していたときに、何か印象に残るような出来事はありましたか?

 やはり2011年にタイで起きた大洪水でしょう。ある日、大企業の社長さん達が着の身着のままの姿で、ジェトロに駆け込んで来ました。ある社長さんは、靴の片方を洪水で流され、片方しか履いてませんでした。その事態に我々は、とんでもない事態が起こっていると思い、被災企業の相談窓口を即座に設け、それら企業が今、復旧のために何を必要としているのか、何に困っているのかを一つ一つ聴取し、要望として取りまとめ、タイ政府首脳に直に陳情するなど、日本企業とタイ政府の間に入って、一刻も早い復旧のために奔走したことを昨日のことのように覚えています。あのときは進出日本企業の少なくとも500社以上が直接被災した前代未聞の事態でした。外国企業が単独で陳情しても、政府は特定企業のためには動きにくい側面があります。またタイ政府自身もこの事態にどこから手を付けていいのかわからない状態でもありました。その中で我々は多くの被災企業の声をもとに、すぐに実施すべき政策などの意見具申を行いました。企業と外国政府の間に私たちが入り、その声を届けることで、日本企業の一刻も早い復旧を後押ししました。

編集部: 国士舘大学ではどのような授業を担当なさっているのですか?

 一つは「国際経済論」という授業で、経済の理論から国際経済が抱えている諸問題までを幅広く取りあげて教えています。もう一つは一般教養科目の「経済学」で、いわば経済の入門編ですね。こちらは政経学部だけではなく、他学部の学生も受けています。
 講義するうえで工夫しているのは、世界でまさに今発生している問題や課題などを題材に取りあげることです。学生にとって理論だけではどうしても難しく感じてしまうので、いま世界で起きているタイムリーな話題を取り上げ、理論を含め、今学んでいる事が直に我々の世界に起きていることと深く関係していることを丁寧にわかり易く説明し、机上の空論にならないように注意しています。たとえば「ウルグアイラウンド」について講義するとき、「1986年にウルグアイで交渉開始が宣言されたGATT(関税貿易一般協定)の多角的貿易交渉」なんて字面だけ説明していても関心はあまり持たれません。私の場合はまず直近に起こりかつ自身の周りにも少なからず影響する「日本政府が牛肉の輸入制限を発動」「牛肉の値段が上昇」という新聞記事を持ってきて、そこから話を始めるようにしています。なるべく身近な話題を出して、まず関心を持ってもらいたい。そのために日々複数紙の新聞に目を通し、面白そうな経済記事を切り抜いて、授業で国際経済学の側面を踏まえながら解説しています。

編集部: ゼミでは学生たちはどのようなことを学んでいるのですか?

 私は2年生と3年生のゼミを担当しています。2年生は基礎ゼミといって、これから専門科目を学ぶにあたって基礎となるスキルを学んでもらっています。授業の中でプレゼンをしたり、文章を書いたりですね。
 具体的には、東南アジアの国を取りあげて、「その国の経済に関して日本との関わりを中心に報告せよ」といったこととか、ここ1週間で自分が関心を持った新聞記事を取りあげて、その内容を要約し背景を調べて発表してもらっています。課題を与えて、学生に調べてもらい、まとめて発表してもらう、その繰りかえしですね。来年はゼミ生は4年生になります。4年生になって卒業論文が書ける力を、2・3年生のうちに養ってもらいたいと思っています。

編集部: 3年生のゼミで「国際交流」があるとうかがいましたが、どのようなことをするのですか?

 それは「インドネシア人看護師候補生」との交流ですね。「日本インドネシア経済連携協定(JIEPA)」のもとに、いま、日本に来て学んでいる看護師の候補生たちがいます。インドネシアで看護師を2年以上経験した方が来日して、半年間日本語を勉強し、その後は各地の医療機関に配属されます。配属された医療の現場では更なる研さんを積んだ上で日本の看護士国家資格を取得し、日本で就労するという制度です。その候補生の方々とうちのゼミ生を引き合わせて、直に触れて交流してもらおうというプログラムです。交流する期間は、候補生が日本語を学んでいる半年間で、できれば月1回ぐらいのペースでやりたいと思っています。
 看護師候補生の方々は、言葉や慣習、文化、特にイスラム教徒にとって「ハラル」対応が十分でない異国の日本で看護士資格取得を目指し奮闘している姿を見て、学生には何かを感じてもらいたいのです。また、交流を通じてEPA(経済連携協定)って何だろう、なぜ外国人看護士が必要なんだろう、外国人の暮らしやすい街づくりには何が足りないのだろうなど様々な角度から問題意識を持ち、直に学べます。これは私のJETRO時代からのつながりを活かして実施しているプログラムなので、他大学ではやっていない国士舘だけの取組みです。とにかく学生に日々刺激を与え、海外に興味を持ってもらいたい。そのために、私は自分の持っているリソースをどんどん使っていきたいと考えています。

編集部: そもそも先生はなぜ国際経済に興味を持ち、学ぼうと思われたのですか?

 実はですね、二十歳前まではまったく海外に興味がなく、行くことも考えていなかったんですよ。むしろ「海外は危ない、恐い」といった先入観があって、外国では水も飲めないんじゃないかって(笑)。それがガラッと変わったのは、海外留学の体験でした。大学時代の夏休みに1カ月間でしたけど、少しは安全だと思えた先進国のニュージーランドに行ったんです。それでもそのとき見るもの全てが自分にとって新鮮で、考え方も見方も日本と異なり、「こんな世界があったのか」と思うぐらい面白かった。それ以降、休みのたびに海外に出かけるようになりました。そして、その延長で海外に関われる仕事に就きたいと思い、JETROに入ったわけです。
 JETROでは始めに申しましたように、合計10年間タイに駐在しました。前半6年、後半4年ですね。1回目は通常の人事異動の一環で行ったのですが、2回目は私の方から希望して行きました。なぜかというと、プロフェッショナルを目指したかったんです。他の国の選択もありましたが、社会でより求められているのは、ジェネラリストではなく、特定の分野に精通した専門性を持った人材です。特定の国や分野に特化することで得られる情報はまったく深さが違ってきます。再びタイに駐在し、タイそしてASEANを現場で深く研究・調査することで自分の競争力が生まれてくる。それを自分の「強味」にしようと思ったのです。

編集部: 新聞などのメディアからコメントを求められるのも、そういう強味があるからでしょうか。

 そうですね、JETROのバンコク事務所で合計10年間ほど現地情勢を見てきたというキャリアもありますが、国内勤務でも「東南アジアならこの人に聞け」と言われるようになるべく、専門性を磨くのに腐心しました。それがあるので、メディアからよくコメントを求められます。特にタイ情勢に加えて、FTA、ASEANなどの関連で話しを聞かれることが多いですね。また、新聞などで東南アジア経済に関するコラムを連載し、自ら情報発信にも努めています。常に新しい情報を得たいので、今年も4回ぐらいタイを中心とした東南アジアに行きました。いろんなことを幅広く手がけるのもいいと思いますが、私の場合はタイと深く関わることで専門性や、自分の競争力を高められるよう努めてきました。それがいまの私の強味になっていると思います。

編集部: 最後におうかがいしますが、
国際経済学の学びを通して、どんな人材を育成したいと思いますか?

 冒頭でも言いましたが、これからは日本でどんな仕事に就いても、必ず海外との関わりが生じてきます。国際的なつながりがない状態はもはや考えられません。貿易もそうだし、投資もそう。日本だけで完結することはより難しくなってきています。そのため、学生にはいまのうちから海外に強い関心を持ち、多角的な見方、考え方を養った上で社会に巣立っていってほしいと考えています。多くの学生が「内向き」といわれている一方、都市・地方問わず進む国際化の中で、社会はグローバル対応人材を求めています。その需給ギャップこそが我々にとって社会でより活躍出来るチャンスだと考えています。
 私自身、海外留学の経験で自分の生き方が変わったので、学生にもぜひ海外に行ってほしいと思います。
 いまの世の中が求めている人材は、内向きではなく、外向きの人。海外に出て貪欲に知識を吸収する人です。学生たちには国際経済の学びを通して、海外に興味を持ち、専門性を高めて、それを自分の強味にしてほしいと思います。一歩でも二歩でも人の先をゆく、時代が求める人材として、社会に送り出してあげたいと私は思っています。

助川 成也(すけがわ せいや)准教授プロフィール

●九州大学 経済学研究科 経済システム専攻 博士課程 在学中
●専門/国際経済学