体育学部の躍動"

編集部: この春誕生した「スポーツトレーナーコース」とは、どんなものでしょうか?

 「スポーツトレーナーコース」は、国士舘大学体育学部体育学科に新設された新しい学びのコースです。体育学科にはこれまで、保健体育の教員を目指す「学校体育コース」と、競技選手を目指す「アスリートコース」がありましたが、ここに新たにパーソナルトレーナーやストレングス&コンディショニングコーチ(以下S&Cコーチ)といったスポーツトレーニングの専門的な指導者を目指す「スポーツトレーナーコース」が新設されました。
 このコースの目的を一言でいうと、子どもからお年寄りまで、一般の人からトップアスリートまで、幅広い層の人々へ傷害予防、健康保持増進やスポーツの競技力向上のためのトレーニング指導ができる人材を育成していくことです。2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2020年東京オリンピックの開催が決まり、日本ではスポーツ熱が高まってきています。そんな中、トレーニング理論の進化により、トップアスリートやプロの競技選手を支える専門職の役割も高まってきました。また、一般の人の間でも、Quality Of Life(生活の質)の向上や生活習慣病予防などの観点から健康づくりのためにスポーツをする人が増えてきて、日常生活におけるスポーツの重要性が高まっています。少子高齢化が進む社会において、ケガの予防をしながら、効果的な運動指導ができる優れた人材が求められています。「スポーツトレーナーコース」では、これからの時代に求められる優秀なスポーツトレーニングの専門家を輩出していきます。

編集部: このコースのいちばんの特徴は、どこにあるのでしょう。

 このコースの最大の特徴は、NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)と、CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)という国際的に最も信頼性の高い2つの認定資格の受験資格が得られることです。NSCAは「ストレングストレーニングとコンディショニング」の世界的な権威として、一般の人々や多くのプロスポーツ選手、大学スポーツ選手に対して研究に裏付けられた専門的な知識と現場への実践応用を普及し、パーソナルトレーナーやS&Cコーチの育成を担っています。
 NSCA-CPT(パーソナルトレーナー)は傷害予防と健康保持増進を、CSCS(S&Cコーチ)は傷害予防と競技力向上を目的に、安全で効果的なトレーニングプログラムを計画し、実践する知識と技能を認定する資格です。この2つの資格を取得することよって、ケガを未然に防ぎながら、一般の人の健康保持や増進をサポートしたり、スポーツ競技者のパフォーマンスを高めたりすることができる指導者になれます(2015年4月、両資格の認定校として認可されました)。これに加えて、中学校・高等学校の保健体育の教員も目指すことができます。「スポーツトレーナーコース」のカリキュラムには、これらに必要な学びのすべてが組み込まれています。
 国士舘大学には、さまざまなアスリートが在籍しています。資格取得に必要な現場実習は、学内の運動部と連携して、競技シーズンに合わせたトレーニング計画の作成や実践に携わることができます。優れたスポーツトレーニングの専門家を育成するのにこれほど恵まれた環境はないと思っています。

編集部: トレーナーというのは、何をする職業なのですか?

 一般的に“トレーナー”というと、スポーツ選手の身体のケアやマッサージをする人のように思われがちです。日本にトレーナーという言葉が紹介されたときに、テーピングの技術とともに伝えられたので、このようなイメージが生じたのでしょう。ケガをした後の処置やテープを巻く人(メディカルトレーナーやアスレティックトレーナー)みたいな思われ方をしているんですね。
 私たちが考えるトレーナーは、これとはちょっと違います。ケガを未然に防ぎながら、最適なトレーニングプログラムの計画を立て、実践できる人をS&C専門職と呼びます。先に紹介したNSCA-CPTとCSCSは、まさにそのための資格なんですね。職種でいうと、フィットネスクラブなどで活動するパーソナルトレーナーやスポーツチームなどで活動するS&Cコーチというもので、近年少しずつ耳にする機会が増えてきています。ケガをしないようにするためのウォーミングアップやクーリングダウンの方法、身体の使い方、選手の長所短所を見極めて、全身のバランスを評価して、それに基づいた形でプログラムを立案、実践していく。世界で活躍するトップアスリートは、たいてい競技スキルのコーチとは別にトレーニング専用のコーチを雇っています。

編集部: 一般の人が通うスポーツジムにも、トレーナーがいますね。

 そうなんです。パーソナルトレーナーは、トップアスリートだけのものではありません。一般の人もスポーツ選手も、根本的には体の仕組みは同じで、ただ目的が違うだけです。何のためにスポーツをするのか。何のために身体を動かしたいのか。健康を保持してイキイキと生きるためなのか。あるいはプロ選手として活躍するためなのか、オリンピックに出場してメダルを取るためなのか。その目的を明確に理解し、目標(ゴール)に向かって最適なトレーニングプログラムを立案し、実践できる人、それがプロのパーソナルトレーナーでありS&Cコーチです。
 そのためには、トレーニングする人がどういう心身の状態にあるのかを知る必要があります。私自身、パーソナルトレーナーやS&Cコーチとして長い間活動して来ましたが、その中には生活習慣病を抱えている方、糖尿病の治療中の方、心臓の手術をされた方、妊婦の方など、いろんな方がいらっしゃいました。そういう方々がどういうトレーニングを行えば良いのかは、実はお医者さんもあまりご存じないのです。私たちはNSCAのガイドライン(アメリカスポーツ医学会や国連機関のWHOが定めたガイドラインも含む)に従って、トレーニングのプログラムを組んでいきます。「スポーツトレーナーコース」の学びには、そういう専門的な知識がぎっしり詰まっています。

編集部: 先生は国士舘大学のご出身ですよね。なぜトレーナーになろうと思われたのですか?

 おっしゃる通り、私は国士舘大学体育学部体育学科の卒業生です。大学在学中は専門競技としてバスケットボールを行っていました。ところが2年生のときに足首のケガをして、それがきっかけで膝と腰も傷めたのです。それで主務という形で運営サイドに回り、マネジメントのサポートなどをやりました。
 スポーツをやっている人は、私のようにケガをしなくても、いつかは競技の第一線から離れます。そして、そこには第二の人生(セカンドキャリア)があります。スポーツを辞めて別の世界に進む人もいますが、ケガをしたときに私は思いました。スポーツにはいろいろな関わり方があるのではないかと。競技をするスポーツもあれば、観るスポーツもあり、支えるスポーツもある。スポーツを中心に、そのまわりには大きな世界が広がっている。そこで仕事ができればいいのではないかと。
 プロやオリンピック選手になれるのはほんの一握りです。でも、その回りには豊かなスポーツの世界が広がっている。競技者として生きていけなくても、どこかできちんと方向転換をすれば、大好きなスポーツの世界で第二の人生を送ることができる。それに気がついたんですね。私の場合はたまたまケガをして、主務をやり、方向転換をするのが早かったというわけです。

編集部: 大学卒業後に、国立競技場の指導員になられたと伺いました。

 はい、卒業後は国士舘大学の先生のご紹介で、国立霞ヶ丘競技場トレーニングセンターの指導員になりました。ちょうど聖火台の下あたりにトレーニングルームがありました。この施設は、日本のトレーニングルームの第一号で、現在全国にある地方公共団体の体育施設や民間のフィットネスクラブの原型になったものです。
 ここで私は、一般の方からトップアスリートまで、いろいろな方へのトレーニング指導をさせていただきました。その中で人の体に携わる仕事をするならもう少し勉強する必要があると思い、働きながら講座に通って、NSCA-CPTとCSCSの認定資格を取得しました。その後は、さまざまな競技の指導に関わらせていただきました。企業のバスケットボールチームをはじめ、大学ラグビーや2輪のレーサーまで、いろいろです。また、平成13年に誕生した「国立スポーツ科学センター(JISS)」では、創立時から日本代表候補選手へのトレーニング指導のお手伝いをさせていただきました。サッカー、野球、柔道、卓球、大相撲の関取、陸上のマラソン、投てき選手などなど、皆さんが名前を聞けば「あ、この人」という有名な選手のトレーニング指導も担当することができました。
 アスリートから病後の人まで、さまざまな人との出会いが、いまの私の指導者としての貴重な経験となっています。

国立スポーツ科学センター(JISS)

編集部: それで今回国士舘大学の「スポーツトレーナーコース」の立ち上げに関わられたのですね。

 そうですね。現場の指導者から、今度は指導者を育成する立場に回りたいと考え、36才のときに1年間大学院の社会人修士課程に通いました。私はずっとパーソナルトレーナーやS&Cコーチとして実践してきたので、研究的な側面と実践的な側面の両方を身につけ、優秀な人材の育成に関わりたいと考えたわけです。新設された「スポーツトレーナーコース」では、私が仕事をしながら苦労して取った資格の学びが、4年間のカリキュラムの中で消化できるようになっています。加えて中学校・高等学校の保健体育の教員も目指すことができる。まさにスポーツ立国を目指す日本にふさわしい人材を育成するコースです。私は現在「トレーニング論・実習」という授業を担当していますが、求められるパーソナルトレーナーやS&Cコーチになるためには、知識や情報に加えて、それを継続的に実践していくことが必要になります。理論と実践がしっかり両立するような学びのプログラムを組んでいます。
 これから少子高齢化社会がますます本格化します。医療費削減の問題も含めて、健康保持はすでに大きな人生のテーマになっています。学校教育の現場でも優秀な指導者は求められていますが、他にも地方公共団体、民間のフィットネスクラブなどを合わせて、全国で2万カ所以上の活動拠点があります。
 2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2020年東京オリンピックに向けてスポーツ熱が高まる日本において、スポーツトレーニングの専門家として活躍する場はいくらでもあるのです。そういう拠点に優秀な人材をどんどん送り出していきたいと考えています。

編集部: 最後になりますが、学生にはどんな人間に成長して欲しいとお考えですか?

 我々パーソナルトレーナーやS&Cコーチは人の体に携わる仕事です。だからまず、その人の体の状態をよく知る必要があります。そして、その人が何のために、どこをゴールにトレーニングしようとしているのか、それも知る必要があります。そのためには当然ながら、人とのコミュニケーションが大切になってきます。一人ひとり違う人間、その対象となる方と情報交換を密にし、その人のことを理解し、喜びや悲しみを共有して、思いやりを持ってその方の人生と関わっていけるような優れたスポーツトレーニングの専門家になってもらいたいと思っています。人に好かれ、人から求められる人材ですね。
 体育学科に進学してくる学生の多くは、スポーツ経験者です。私は、彼らが現役選手として第一線から退いた後、大好きなスポーツの世界でもう一度これまでとは違った立場で活躍して欲しいと願っています。私自身がそうでしたから。ただ漠然と学ぶだけではもったいない。目的意識をしっかり持ち、できるだけ早い段階で将来設計を立て、準備して欲しいと思います。
 大切なのは目標を定め、そのためには何を身につけるべきかを知ること。知識は何が必要? 実践は何が必要? それを身につけることがやがて生き甲斐になり、喜びになり、報酬になり、S&C専門職として成功していくことにつながります。私はいま、スポーツに関わる仕事ができて、本当に幸せだと思っています。スポーツの世界の中で社会に貢献できる、この幸せを一人でも多くの学生と共有していきたい。そういう思いで、今後、「スポーツトレーナーコース」の学びをさらに充実させていきたいと考えています。

増本 達哉(ますもと たつや)講師プロフィール

●国士舘大学体育学部体育学科卒業
 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了
●専門/スポーツ科学

掲載情報は、
2014年のものです。